時間こそが、一番の
(夏希は⋯⋯と、いるな)
職員室に鍵を返し玄関に着くと、夏希が自らの鞄の中を見ていた。
「⋯⋯やっぱり、ちょっと違うかもしれないよね」
後ろ姿しか見えないので、表情は読み取れないが、中にある物を確認して、何やら呟いている。
「何が違うんだ?」
話しかけると、鞄を閉じてからこちらを振り返る。⋯⋯何かを隠したようにも見える。
「お疲れ様。早かったね」
まぁ隠すような物なら、無理に聞く必要もないだろう。
「悪いな待たせて」
「大丈夫だよ。行こっか」
夏希は首元のマフラーを巻き直し、隣を歩き始める。⋯⋯いつもと同じ道を、いつもと同じように歩いているだけだというのに、少し落ち着かない。
「⋯⋯ゆうくんって、手袋とかしないよね」
「ん?ああ、まぁな」
⋯⋯こいつ、下校してもその呼び方続けるつもりか?本当に今日一日中やるつもりなんだろうか。
「別に必要だと感じないからな。ポケットにカイロ入ってるし」
寒空の下何も持っていないのは流石に厳しいが、ポケットにはまだ温もりが残っているカイロが入っている。それだけで冷えた手を暖めるのは充分だろう。
「そっか、じゃあ確かにいらないね」
⋯⋯?なんか含みのある言い方だな。冬に手袋しない奴なんていくらでもいるだろ。
「夏希は冬は重装備って感じだよな」
改めて夏希の方を見ると、制服の上にコートを羽織り、手袋とマフラーまで装備している。スカートなので足元は寒そうだが。
「女子の冬は大変だよなぁ。色々寒そうだ」
「お洒落は我慢、らしいよ?私はそこまで気にしてないけど」
「同調圧力もありそうだけどな⋯⋯と、もう着いたか」
特に中身のない話だが、未だに呼び方が違う事からも、むず痒い感覚は消えていなかった。
「んじゃ、俺こっちだから」
だが、そんな時間は直ぐに終わりを迎える。なぜなら校門まで着けば別れることになるのだから。夏希はいつものように自宅に。
「あ、カフェ行くんだよね」
俺は夏希から貰ったギフト券で、ケーキを買いに駅の方へと向かう。単純にカフェがあるような商業施設が、駅方面にしかないからだ。
「⋯⋯なんなら、一緒に行くか?前田さんから貰ったギフトだし、少しくらいなら奢るぞ?」
一応誘ってみることにする。少しくらい金を出せば、夏希の分も買うことは出来るだろうし、元々は彼女のお金だ。
「それは、悪いよ。私に使ったら、プレゼントの意味ないでしょ?」
「それもそうだな。⋯⋯じゃあ、また明日学校でな」
夏希の意見も理解出来たし、無理して引き止めるのも、女々しい感じがする。少し残念ではあるが、別れの挨拶を済ませて駅の方へと歩いていく。
(別に明日も会えるんだ。残念だなんて、思う必要ないだろ)
歩きながら、そう自分に言い聞かせる。だが、心の中では、この時間を手放した事を、勿体ないとも感じてしまっていた。
(⋯⋯今日買いに行くなんて、言わなきゃ良かったな)
そうすれば、いつものように、だけど、いつもとは違う夏希と帰れた。今日だけの、特別な関係だったのだ。こんな経験は、少なくとも彼女とは、もう二度とないかもしれないのだから。
「⋯⋯ゆうくん!」
そう思っていた矢先、後ろから夏希の声が聞こえてきた。振り返ると、駆け足でこちらに向かってくる夏希が見える。何かあったのだろうかと、俺も夏希の方へと向かう。
「どうした?なんか忘れ物か?」
「忘れ物、って言ったら、忘れ物かも」
少しだけ息を切らしながら、夏希が自分の携帯の画面を見せる。それは、俺がこの間送ったギフト券だ。まだ使用されていない。
「⋯⋯あの、私もゆうくんから貰ったギフト券、使ってないの、忘れてて⋯⋯その⋯⋯」
それだけの事実を伝えに、ここまで走ってきたわけじゃないのは分かる。ここまでされれば、流石に何が言いたいのか分かる。
「ごめん、やっぱりなんでも⋯⋯」「じゃあ付き合ってくれ」
夏希の言葉を遮り、今思っている事を伝えた。
「つ、つつ付き合う!?」
⋯⋯つもりだったんだが、何故か違う意味で捉えられていそうだ。今の流れで何を勘違いしてるんだこいつ。
「カフェに行くのをな。一人で食べても味気ないからな」
「あ、そっちだよね⋯⋯びっくりした」
「なんでだよ、そんなに節操ないように見えるか?」
本当に告白だったらどうしたのか?という問いは、聞かないようにする。そんな事を聞いたら、せっかくの今の状況が崩れてしまうだろう。
「んじゃ着いてきてくれますか?夏希さん?」
「⋯⋯ごめん、言わせちゃって」
「何の事だ?俺が着いて来て欲しかったんだよ」
そうして夕暮れ時、二人で赤く染まった道を歩く。
(なんとも、良いクリスマスだな)
可愛い彼女に美味い飯も作って貰えて、ケーキまでタダでありつけるのだ、これ以上ないクリスマスだろう。⋯⋯まぁ擬似だけど。
「なんか機嫌、良さそうだね」
「そりゃあな。ケーキも一人で食うより、綺麗な女性と一緒に食べた方が美味いからな」
「⋯⋯また、そうやってからかう」
「嘘は吐いてないけどな。前田さんは何頼む?」
「えっと⋯⋯お店で見て決めようかな」
――あまりにも鈍い彼が、彼女との時間がまだ続くという事こそが、何よりのプレゼントだということに気づくのは、あと少しだけ先の事だった。
100話ですね。本来ならもう少し話が進んでいる筈だったんですが、何故か話が進んでいるようで進まねぇ!もう少しお付き合いください




