表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
変えれぬ関係、変わる想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/108

切り方も距離感も難しい

「これ、どれくらい焼けば良いの?」


 フライパンの上で、肉の表面が焼かれていく。強火で焼かれる肉からジュウ、と音が立つたびに、夏希が不安そうにこちらを見てくる。


「焼き目さえつけば完成だ。適当にひっくり返して良いぞ」

「⋯⋯ちょっと難しいね」

 塊肉をトングで挟みながら、焼き目を一面ずつつけていく。その工程に対して夏希は真剣そのものだ。もっと適当にやっても良さそうなもんだけどな。


「どうせ火は通ってるんだ。そこまで気を張らなくても問題ないぞ?」

「でも、味は変わるでしょ?ちゃんと焼けてた方が美味しそうだし」

 ほう、良い考え方だな。まぁせっかくここまで作ったんだし、料理が成功で終わるというのも良い経験だろう。一面一面、しっかりと丁寧に焼いていく姿には好感が持てる。


「⋯⋯よし、そんなもんで良いだろ。始めてにしては上手く出来てると思うぞ?」

 しっかりと全面が焼き上がった塊肉は、見るからに旨味が詰まっていそうの見える。成功と言って良いだろう。

 

「んじゃ切り分けてくれ。薄めが良いと思う」

 少しだけ肉を休ませてから、夏希に切ってもらう事にする。初心者には案外この工程が難しいだろう。


「こ、こんな感じ?」

 夏希が少しもたつきながらも、包丁でローストビーフをカットしていく。悪くはないんだが、少し厚みがありすぎる。


「どうかな?」

「あー⋯⋯どう説明するか。ちょっと貸してみてくれ」

 夏希から包丁を借りて、一旦目の前で薄めにカットしてみる。目算で三ミリくらいの厚みだろう。


「これくらいだ」

「いや、そんな簡単に薄く切れないんだけど⋯⋯」

 そうだろうな。分かっていた事だが、最後の最後で少しだけ躓いた。薄切りにするコツがあまり分からないようだ。


「まぁ、別に多少分厚くても問題ないだろ」

「でも、ここまでやったんだから、ちゃんと切りたい」

「そうか?じゃあ切り方としては⋯⋯」

 やる気のある人間を止める理由もないので、口頭である程度説明しながら、何度かローストビーフをカットしていくが⋯⋯


「ふむ、中々上手くいかないな」

 失敗という程でもないレベルで、肉の塊が切られていく。目の前の塊肉は何度も切っていかれるせいで、少しずつだが、確実に量が減ってきていた。試せる回数は残り少ないだろう。


「うーん⋯⋯なんか良い方法ないかな?」

 良い方法と言われてもな。これ以上は口で説明するのは難しい。


「あんまり気乗りしない方法でなら、教えられんこともない」

「それって、脇阪くんが大変って事?」

 いや、俺が大変ってわけではないんだけど。


「後で色々と怒られそうだ」

「怒らないよ。私が大変なだけなら、一回やってみてもらっても良い?」

 ⋯⋯やってみて、ねぇ⋯⋯


「後で後悔するなよ?」

「? どういう⋯⋯!?」

 やってみろ、と言われたのならやってやろう。夏希の背後に回り込んで、包丁を持っている夏希の手をそっと掴む。簡単に言ってしまえば二人羽織の状況だ。


「!!?!?」

 急展開に頭が追いついていないのか、掴んだ手は明らかに震えている。なんか包丁振り回されそうで怖いな。


「前田さん、刃物持ってるから変に動かれると危ない」

 後ろから少し強めに手を掴みながら、注意だけはしておく。怪我をさせるのだけは阻止したい。

「ひゃっ⋯⋯!」

 どういう反応だよ。⋯⋯いや、こんな事されて落ち着けるわけないか。


「悪い、やっぱ辞めとくか?」

「だ、だだ大丈夫!続けて!」

「そうか?じゃあやってみるぞ。感覚覚えとけ」

 夏希の事も考えて早めに済ませなければならない。手を軽く握り、ローストビーフに包丁を当てて前後に動かす。流石に自分一人でやるのとは勝手が違うが、それでも夏希が一人でやるよりは上手く切れているだろう。


「⋯⋯⋯っ!」

 当の本人はプルプルと震えながらも、肉が切れる様を凝視している。切り方を見るのに集中しているのだろうか。


(⋯⋯手、案外小さいんだな)

 そんな勉強熱心な夏希を他所に、俺は余計な事を考えている。

 前にどこかで手を掴んだ覚えもあるが、その時は何か別の事に必死で、こんな事を考える余裕が無かった。


「こんな感じだな。どうだ?出来そうか?」

 しかし、これはただの調理実習なのだ。これ以上の余計な感情は出さないように努める。


「み、耳元で話さないで!?」

 耳を真っ赤にしながら夏希が今日一の声を出す。なるほど確かに。耳元で話されるのは集中出来ないか。


「悪かった。ちょっと近すぎたな」

 ある程度の枚数も切ったことだし、手を離して夏希からある程度の距離をとる。


「⋯⋯別に、私がやってって言ったんだから、脇阪くんは悪くないよ」

「いや、反省はしてる。それでも、これで切り方は大体分かったんじゃないか?」

 軽率な判断で、夏希の体力を無駄に奪ってしまった。明らかに力が抜けた表情をしている。


「や、やってみる⋯⋯」

 そのせいか、次に切られたローストビーフは。


「⋯⋯前田さん、切るの下手になってる気がするんだけど」

 最初に切られた物よりも、歪な形に切断されていた。


「感覚覚えとけって言ったけど、あんまり覚えられなかったか?」

 疲れさせたのは申し訳ないが、俺も苦肉の策で教えたというのに、この結果は少し残念だ。


「⋯⋯そこには集中出来なかったかも」

 そこにはってなんだよ、他に集中する場所なんてないだろ。


「そうか。悪かったな変な事して」

 だが、今回の一件は俺にも非があるだろう。昔より少しは話せるようになったからと、距離感を間違えたような気がする。


「べ、別にあれくらいなら、普通でしょ」

 いや、普通なわけがないだろ。女友達同士なら普通なのかもしれないが、男があそこまで近いのはアウトだろ。

 

「⋯⋯だって、今日は私、脇阪くんの彼女なんでしょ?」

「⋯⋯⋯は?」

 夏希が呟いた言葉は、そんな俺の思考を吹き飛ばすには充分な、爆弾発言だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ローストビーフの薄切り、料理不得手ですが10回も作れば何となくコツが掴めたように記憶してます。 前田さんも何回かチャレンジすればきっと大丈夫! クリスマスまであと何回作れるのかわかりませんが(;^_^…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ