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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
変えれぬ関係、変わる想い

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調子の悪い日

 パチパチと音を立てながら、火元が落ち着くのを待つ。寒空の下で温もりを感じつつも、手元にある食材に下味をつけていく。

 三者面談という面倒事も終わり、久しぶりに平凡な放課後が訪れた。グラウンドを見ると、そこにはある程度の雪が積もっており、運動部がトレーニングと称して雪どけをしている。雪が降る地域の風物詩みたいなものだろう。


 無論、そこには夏希も参加している。あちらからもこちらが見えるのでお互いに目が合った。一応、手を挙げて挨拶だけはしておく。

 その俺の手を見て、周りに気付かれないように、ほんの少しだけ手を挙げ返す彼女の姿が、ぎこちなくて笑ってしまう。


(最近は色々振り回されてきたんだ。これくらいはしても良いだろ)

 そう、この数日は色々と考えさせられる事が多かったのだ。

『ごめんなさい。クリスマス(その日)用事があるんです』

 夏希の面談が終わった時、廊下から聞こえた言葉に俺は固まってしまった。


『あらまそうなのね。友達とパーティーでもするのかしら?』

『いえ、そういうわけではないんですけど……実は』

 夏希のクリスマスの予定は、友達とのパーティーでもないらしい。家庭環境的に家族付き合いというわけでもない筈だ。なら、考えられるのは―――


(……これ以上の盗み聞きは駄目だろ)

 そう思ったのは、盗み聞きをしてしまっているという罪悪感からくるものなのか、彼女に"そういう相手がいる"という事を聞きたく無かったのか。どちらにせよ、俺は扉から離れてそれ以上の会話を聞く事はしなかった。


「ゆうくん、先に言っとくわね。ドンマイ!」

 まぁ帰り道で母がそのような事をぬかしたので、聞かない様にした意味はほとんど無かったのだが。


「どういう話だよ」

「私から言わなくても、そのうち分かるわよ」

 含みのある言い方で笑っている母は、俺が話を盗み聞いていた事を知らないんだろう。


「とりあえず、母さんが思ってるような事は何も起きない」

 誰が誘っても断られる事が分かっている相手を、クリスマスに誘うというのか。というか、もしも夏希に予定がある事を知らなくても、俺が誘う理由もないだろう。


「あら?私が思ってるような事って何かしら?」

「知らん。勝手に妄想しといてくれ」

 俺は夏希のただの幼馴染で、あいつの彼氏ってわけでもないんだから。


 そうして、夏希にはクリスマスに予定がある。という情報だけが未だに引きづられている。直接的に聞いたわけではないので分からない部分もあるのだが、夏希の弟の晴に聞いても、別に夏希とクリスマスに予定があるという事はなさそうだった。

 森下にも「クリスマスに予定あるのか?」と聞いたが、「バイトある。あと今度そういう風に聞いたら◯す」という物騒な返答が返ってきた。何故だ。


 家族でもなく、友達でもない。しかしクリスマスには用事がある。そうなると考えられる選択肢は一つしかないだろう。


(……それくらいあいつなら出来るだろ)

 ある程度時間をかけて自分の中で結論が出た時、最初に出た感情はそれだけだった。


(まぁ、そういう相手がいるって分かった方が、俺の方も色々と楽だな)

 考える時間が出来たおかげで、逆に自分の感情に整理がついた気がする。最近は変に夏希の事を意識する事も増えてきていたが、そんな感情を持つことも今後はなくなっていくだろう。良い事じゃないか。


「……脇阪?今度は何やってるんだ?」

 そんな事を考えながら、家庭科室の外で焼き物をしていると、野球部の顧問がわざわざ雪を掻き分けてこちらに向かってきていた。何をしているかと言われてもな。


「何って、炭火焼きですけど」

 旬は過ぎてしまったが、解凍品の秋刀魚が安かったので買ってしまったのだ。そうなればやる事は一つだと思わないか?


「そうかそうか、それは良い買い物をしたな」

 眉が引き攣っているのを見るに、燻製の時と同じように、俺が無許可で七輪を持ち出していると思っているのだろう。


「今回はちゃんと許可取りましたよ」

 だが、今回はちゃんと許可を取っているのだ、担任からは「私の分ちゃんと焼いとけ、すだちはマストな?」と言われている。


「そうか⋯⋯だが、匂いが気になるんだよぉ!雪どけに集中できん!」

 なんだ、結局はそういう事か。


「食べたいってことですか?」

 大人の方が、秋刀魚を含めて魚類を食べるイメージだからな。食の好みが変わるか、何か他の魅力があるのだろう。


「ほ、ほう?良いのか?」

 うわ揺らいでるよこの先生。賄賂とかに流されない?大丈夫か?


「まぁ良いんじゃないですか?部活動の確認って事にすれば」

「いやぁ、それは素晴らしい提案だな!だが⋯⋯」

 だが?他にも何か言いたい事があるのか?秋刀魚以外はやらんぞ。


「確かに秋刀魚は食いたいんだが……焦げすぎじゃないか?」

 顧問の先生が横目に見た先には、皮が黒く焦げた秋刀魚が二匹並んでいる。皮は裂け、脂は炭に落ちきっている。普段なら、まずやらない焼き方だった。

 顧問が言った事は確かで、多目に買ってきた秋刀魚を何匹か焦がしてしまっていた。


「………焦げが美味いんですよ。多分」

 言い訳にしか聞こえない言葉でその場を濁す。正直に言うと、最近料理で小さなミスが続いている。


(なんか、上手くいかないんだよなぁ⋯⋯)

 三者面談が終わった日から、何故か美味く料理が出来ない。その理由が何なのかは、考えないようにしていた。


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