母親公認?
「母さん、変な事言うの辞めてくれよ」
面談の教室から退出してから、母に釘を刺しておく。普段は悪い教師じゃないんだが、ああいう話になると暴走しやすいのだ。
「そんな事言っても、気になる事は聞いておきたいじゃない?おかげで先生とも仲良くお話出来たわー」
⋯⋯確かに、俺の交友関係の話になった途端、少し険悪にも感じられた面談の雰囲気は和らいだように見えたが。
「俺の味方はどこにもいないのか⋯⋯」
二人が意気投合する代わりに、随分と辱めを受けた気がする。
「何言ってるの?私も先生も、いつだって悠人の味方よ?」
「どの口が言ってんだか」
というか、今思うと俺の周りこういう奴ばっかりじゃないか?面倒くさいんだが。
「⋯⋯良い先生ね。悠人の事、ちゃんと見てくれてるのが伝わってきたわ」
それは⋯⋯確かに思った。一人だけしかいない料理部が部活動としてを認められているのも、担任のおかげなのだろう。
「多分、今回の件の事もあって、余計に気にしてるのよ。普通に考えたら、同級生が頼む内容じゃないもの」
茶化すような様子もなく、母はそう語る。
「それは、悪かったと思ってるよ」
「謝って欲しいわけじゃないし、悠人が間違った事をしてるとは思ってないわ。それでも、今回の事は少し思う所があるのよ」
⋯⋯俺だって、まさか自分がここまで踏み込むとは思ってなかったんだよ。
「まぁでも、夏希ちゃんを支えてあげなさいって言ったのは私なんだから、悠人はそれを実行に移しただけではあるのよねぇ」
「私のせいかしら⋯⋯」なんて母は呟いているが、正直母から言われた言葉なんてすっかり忘れていた。
「あーあ、ゆうくんがなっちゃんの事が好きすぎて、手を差し伸べているって認めてくれたら、私の心配も減るのになぁ」
「⋯⋯うるせぇ」
「あらあら?強気に否定しないのかしら?」
面倒くさいな。騒いだら騒いだで、「ムキになっちゃってー」みたいな反応をするだろうが。
「もうこの話は終わりにしてくれ、着いたから」
溜め息を吐きながら、目的地である家庭科室の前に立つ。通常の面談での待機場所では、誰かに見られると面倒だと、待機場所は家庭科室に変更してもらっている。
家庭科室の扉を開けると、夏希が綺麗な姿勢で座っていた。
「あ、お久しぶりです。おばさん」
⋯⋯その姿勢でずっと待ってたのか?相変わらず真面目な奴だな。
「久しぶりねぇ夏希ちゃん!元気かしら?」
「あ、はい。⋯⋯おかげさまで」
⋯⋯その返答の仕方でこっちの方を見るな、面倒な事になるだろ。
「⋯⋯ふーーん、なるほど、ね」
母が俺と夏希を交互に見て、何とも微笑ましい物を見たような、にこやかな表情を浮かべている。嫌な予感しかしないんだが。
「おばさんなんて言わずに、お義母さんって呼んでも良いのよ」
「おいやめろ」
何言ってんだこの母親。それ、同じ読みで別の漢字使ってるだろ。
「え?あ、はぁ⋯⋯悠人くんのお母さんって呼ぶべきですか?」
夏希には伝わっていないようだ。内心ほっとする。
「前田さん、母さんの戯言は気にしないでくれ」
「結構本気なんだけど?」
「本当に辞めてくださいお母さん」
面談に入る前に、これ以上悩みの種を増やさないでくれ。
「仕方ないわねぇ、じゃあ今は止めとくわ。⋯⋯さて、行きましょうか、夏希ちゃん」
「は、はい!お願いします」
面談の時間は決まっている事もあり、話をすぐに切り上げて、母には再び担任の元に向かってもらう。
「あんまり硬くならずにね、自分の母親とは思えないでしょうけど、今は貴女の保護者なんですから」
「あ、自分の母親だと思った方が良いってことですよね。えっと⋯⋯じゃあ、お母さんって呼んでも」
おいやめろ。この人がそんな深い事考えてるわけがないだろうが。
「前田さん本当やめ⋯⋯」「完璧よ夏希ちゃん!何度でもお義母さんって呼んで良いからね!」
やめさせようと口を開いた所で、興奮気味に母が言葉を被せてくる。もう駄目だこいつ。
「じゃあ行ってくるわね。悠人。夏希ちゃんとの面談終わるまで待ってなさい」
「⋯⋯はいはい、分かりましたよ」
だが頼んだ側の俺に、母を止める力はない。せめて夏希が、母の思惑に気づかない事を祈るしかない。
「ここまでやったんだから⋯⋯ちゃんと役に立ってくれよ?母さん」
二人が部屋から出ていき、一人になった家庭科室で一人呟く。俺が母に頼んだのは――
夏希との三者面談、その“保護者役”だった。




