相談と提案
三者面談。教師・生徒・保護者の三者が面談を行う行事だ。話す内容は学校内での態度とかだろう。
因みに、教師と生徒だけの場合だと、夏希が言った通り二者面談と言うらしい。知らなかったな。
「さて、そんじゃどうするかね」
余計なお世話を焼くつもりはあるが、結局の所は俺が保護者になれるわけではない。
「結局、親戚の人達には確認したのか?」
出来ることなんて、夏希の現状と、相談を聞くくらいだろう。
「一応、聞きはしたんだけど⋯⋯仕事が忙しいとは言ってたかな」
「まぁ、平日だもんなぁ」
薄情にも聞こえるが、親戚の子に対して仕事を休んでまで対応するのは難しいんだろう。社会人は大変だな。
「あと、そんなに仲が良い訳じゃないから」
「そうなのか?」
「私が一方的に苦手ってだけ」
苦手か、夏希がそういう事を言うのは珍しい気がする。
「前田さん、苦手な相手とかいるんだな」
「うーん⋯⋯ほら、私って家庭環境がちょっと特殊でしょ?」
いや、ちょっとというか、かなり特殊だと思うが。
「だから、親戚の人達って私に同情してくれるんだけど、それがちょっと⋯⋯苦手なんだよね」
想像してみる。父親と別居中という状況に加えて、母親が入院してしまっているという現状の子供。
「なるほどな。まぁどっちも悪くない話だな」
親戚の人達の気持ちだって分かるし、それについて、夏希のような性格だと申し訳ない気持ちも出るんだろう。
「脇阪くんの家の人達は、昔から私の家の事、気にしないよね」
「気にしないっていうか、大雑把か、興味がなかっただけだ」
俺から見ても父と母はがさつな人間だというイメージだし、俺なんて昔から夏希の家庭環境に全く興味を示さなかった。
「それが楽だったんだよ。だからお母さんも、脇阪くんのお母さんと仲良いんだと思う」
「そりゃ良かった。仲良くしてもらえて助かるよ」
夏希の母親と俺の母親は、俺達が子供の頃から、今にかけても交流が続いているようだった。
「まぁ、話は大体分かった」
帰り道を歩きながら話し込んでいたため、そろそろ家についてしまう。話せるのは次の別れ道までだろう。
「⋯⋯もう一回叔父さん達に聞いてみようかな」
「それはあんまりおすすめしたくないな。苦手なんだろ?」
夏希の呟きに、無責任な言葉を口にしてしまう。助けになってやりたいと思っても、俺が出来ることなんてないのに。
俺はただのクラスメイトで、名乗れたとしても、ただの幼馴染だ。保護者でも、教師でもない。
この状況を変える事が出来るのは、大人だけ。それも夏希の事も、夏希の母親の事も良く知っていて、三者面談に出ても問題がない人。
(⋯⋯一人だけ、思いつくよなぁ)
今の夏希との会話で、残念ながら自然と、ある顔が浮かぶ。
昔から夏希の事を知っていて、家庭状況も知っている。夏希の母親のお見舞いにも定期的に行っていて、さっきの話から、夏希から見ても、ある程度信頼出来る人物。
(いや、でもどうなんだこれは?流石にじゃないか?)
夏希は最悪は一人で良い、と言っているんだし、ここまで手を出して良いのか?……そこまで踏み込む筋合い、俺にあるのか?
「前田さん」
「うん?何?」
だけど、本人に聞かない内に、やらない理由にはならないだろう。
「一つ、提案があるんだけど――」
それに、ここまで踏み込んでしまったんだから、今更だ。
「⋯⋯本当に良いの?そこまでしてもらって」
ある程度の説明を終えたが、夏希からは驚きの表情が消えない。
「いや、前田さんが少しでも迷惑だと思うなら、断ってくれ、本当に」
出来れば俺だってこの思いつきは使いたくはないのだ。
「迷惑なんて思ってないよ。そっか⋯⋯うん。出来そうなら。お願いしても良い?」
⋯⋯マジかー。いや、言いだしたのは俺のほうか。
「分かった。じゃあ一回話してみるわ」
「難しそうだったら、来てもらわなくて全然良いから」
「そんな事言うように見えるか?お人好しが服着て歩いてるような人間だぞ?」
そうして、夏希と別れて決意を固める。
家の玄関を開ける頃には、もう迷いはなかった。
「ただいま」
「おかえりー」
台所から聞こえる、聞き慣れた声。一呼吸だけ置いてから、声が聞こえた方へ向かう。
「母さん」
「んー?何よ改まって」
振り返る顔に、少しだけ視線を合わせる。⋯⋯こんな話をしたら、何故そうなったのか、どんな関係になってるのとか、面倒な事も色々と聞かれそうだ。後の事を考えると頭が痛くなる。
たけど、後の事なんて今考える必要はない。彼女の力になるのなら、多少の面倒事なんて今更だ。
「ちょっと、相談あるんだけど」
母親と話すトーンにしては、自分でも驚くくらい。真面目な声が出た。




