続、余計なお世話
「はぁ……テスト、赤点ないと良いんだけどなぁ……あぁ……甘い、美味い……」
カスタードを追加したパンケーキを頬張りながら、森下がだらけきった声を出す。そんな状態でもテストの結果は気になるようだった。
「今さら悩んだって結果は変わらんだろ」
「分かってるけどさぁ……今度三者面談あるじゃん?父さん来るんだよね。赤点あったら普通に気まずいって」
三者面談か。そういえばそんなのもあったな、くらいの認識だった。母にも今度言っておくか。
「琴音のお父さん、厳しそうだもんね」
「厳しそう、じゃなくて厳しいの。はい詰み」
「ご愁傷さまだな」
「なんか軽くない?可哀想とか思ったりしないの?」
「赤点なければ良いだけだろ」
「それが心配なんじゃん!」
そんなやり取りをしながらも、三者面談、という内容に少し引っかかりを感じる。
(……まぁ、俺が気にすることでもないか)
聞くタイミングがあったら聞けば良い。そう思い、考え事を頭の隅に追いやる。
「こうやってお母さんからも連絡も来てます、ってね。学校は午前中で終わってる筈なのにどこで油売ってるの?ってさ」
「そうか、連絡してないお前が悪いなお疲れさん」
「いやまぁそうなんだけどさ!」
森下が頬を膨らませる。
「少しは引き留めてくれても良くない?」
なんだ?まだ帰りたくない、とでも言うつもりか?
「残りたきゃ残れ。洗い物済んだら俺は帰る」
「あ、私手伝うよ」
「そうか?助かる」
「というか、脇阪くんは洗い物しなくて良いよ。私達が使わせてもらったんだし」
いや、その言い方だと、この部屋の所有者俺みたいじゃないか?あくまでも学校の物だからな?
「んじゃ、任せるわ」
だが、それを否定するのも面倒だし、洗い物をやってくれるというのならお言葉に甘えておく事にする。
「⋯⋯あーはいはい!分かりました帰りますよ!夏希、私も手伝うよ」
「そう?ありがと」
家に戻る事に諦めがついたのか、森下も夏希と同じように洗い物を始める。仲が良い事は喜ばしいことだな。
―――
「んじゃ、私帰るから!今回は送ってくれなくて良いからね!夏希の事送ってあげてね!」
「琴音?余計な事言わないの」
「おおっと怖い怖い!」
夏希が圧を効かせても、森下は飄々とした態度は崩れなかった。
「そんじゃ、お二人ともまた来週ね」
そう言いながら、自転車で駅まで走る森下を見送ったが、流石にすぐに見えなくなった。
森下が先に帰った、ということは必然的に二人だけになる。
「⋯⋯んじゃ、帰るか」
「うん」
会話も程々に、並んで歩き出す。謎の緊張感を感じているのは多分俺だけだろう。
「前田さんとしては、テストどうだったんだ?」
「手応えはあったよ、脇阪くんのおかげだね」
とりあえず、当たり障りのなさそうな話をしておく。
「へぇ、一番手応えあったのは?」
「うーん⋯⋯古文?」
「古文か、なんでだ?」
他愛のない質問をしたつもりだったんだが。
「⋯⋯⋯電話で教えてもらったから、かな」
夏希の返答に、思い出してしまうのは長い会話と彼女の寝顔。
「そ、そういや、三者面談だな!」
それを掻き消すために、話題を無理矢理変える。
「え、あ、そうだね」
それに、三者面談については、一応は聞いておきたい事でもあったのだ。
「前田さんはどうするんだ?」
そう、彼女は保護者をどうするつもりなのかという、純粋な疑問だ。
「⋯別に大丈夫だよ」
すぐに返答が返ってきた。いつも通りといえば、いつも通りとも感じる。
「それ、本当か?」
だが少しだけ、歩く足が、放つ言葉が、遅れたように感じた。
「嘘は言ってないよ?もしお父さんに来てもらっても、話す内容変わらないだろうし」
「へぇ」
夏希から漏れる言葉から、父親との折り合いは未だについていない事は理解出来る。
「先生にも言ってるし、一人で話す予定かな」
「……そうか」
父が来たとしても、何も変わらない。その言葉が、父親に対しての諦めのように感じた。
(⋯⋯まぁ、そんなもんなのかもな)
納得するのは難しいが、一般的な家庭ではないのだから仕方ない部分もあるだろう。それに、俺がここで深く関わるのは、夏希にとっても迷惑だろう。
「こういうのってさ」
「ん?」
「二者面談っていうのかな?」
「⋯⋯ただの面談っていうんじゃないか?」
「確かに」
軽い調子で夏希が笑う。いつも通りといえば、いつも通りのやり取りだ。
「⋯⋯悪い、やっぱ気になる」
だけど、夏希が無理をしているように感じてしまった。そうだ、ただ俺が心配性というか、気になっているだけだ。
「え?何が」
「三者面談だよ。誰かいないのか?叔父叔母とか、そういう人達でも良いだろ」
夏希にとっては母親以外に頼れる大人がいない。それは生きづらい事のように感じたのだ。
「うーん⋯⋯いるのはいるんだけど、県外に住んでるし、これだけのために来てもらうのは申し訳ないよ」
⋯⋯申し訳ないってなんだ?遠慮してるのか?
「子供が大人を頼るのに、遠慮なんていらないだろ」
「脇阪くんだって、私の立場なら同じ事すると思うよ?⋯⋯いや、本当に必要ないんじゃないかな?だって脇阪くんは強いから」
⋯⋯それは、分からない。俺が夏希と同じ立場だったら、確かに誰にも頼らないかもしれない。必要ないと突っぱねるかもしれない。
だが、今はたらればの話をするつもりはない。
「それ、お前は誰かに頼りたいって思ってるって事だよな?」
そして、話している中で彼女は墓穴を掘った。本当は、夏希だって誰かを頼りたいと思っているのだ。
「⋯⋯気づいても、気付かないふりするのも優しさだよ?」
「悪いな、優しさが足りなかったわ」
「⋯⋯優しすぎるんだよ、脇阪くんは」
優しいなんてもんじゃない。ただ、自分が気になっただけ、自己満足以外の何ものでもない。
「違うな、こういうのは余計なお世話とか、お節介焼きって言うんだよ」
「そうかもね、じゃあ世話好きの脇阪くんに、お節介焼かせて上げようかな?」
そう言ってくすりと笑う彼女の表情は、先ほどよりも自然な笑顔に見えた。




