お疲れ様会
「⋯⋯⋯終わった。何もかも」
「お疲れ様、どうだったの?」
期末テストが終わり、項垂れている琴音に声をかける。反応を見る感じ、感触としてはあまり良く無かったのだろうか。
「いや、手応えはあったけど、シンプルに疲れた。夏希ー、癒してー」
琴音がそう言いながら急に抱きついてきた。驚いたけれど、案外人肌が暖かく感じて心地良い。暑い時にされたら嫌だろうけど、冬だから許してあげよう。
「そうだね、せっかくお昼で終わったんだし、甘い物でも食べに行こっか?」
時刻は丁度十一時を過ぎた所だ。テストは終わったので部活に行くことも出来るけれど、今日の所は友達に付き合おう。
「ごめん夏希、私、金欠」
「あ、いつものね」
「いつものって何さ!私だって持ってる時は持ってるからね?」
だけど、琴音の方はお金がないようで、私もそこまで持っているわけじゃないから、外食という選択肢は難しそうだ。
「そっか、それなら⋯⋯」
そこで、脇阪くんからもらったギフト券の事を思い出す。千円分と、少しお金を使えば二人でも飲み物くらいなら飲めるだろうか?
(⋯⋯でも、ここで使うのはなんか違う気もする)
これは私へのプレゼントなんだから、私個人で使うべきな気がする。琴音に奢るために使うのは流石に違うだろう。
「……あ、そうだ」
脇阪くんの事を考えたからだろうか。ふと妙案が思いつく。
「ん?何かいい案ある?」
「自分達で作ろうよ、家庭科室使って」
それは、いつも彼がやっている事。今日は脇阪くんのお母さんは休みの日だし、彼も家で食事をするだろう。家庭科室は問題なく使える筈だ。
「……ほう?続けて?」
「材料はそんなに高いのじゃなくていいし、簡単な甘い物くらいなら作れると思う。テストも終わったし、先生に言えば多分許可もらえるよ」
お菓子作りの事は良く分からないけれど、流石に買ってくるよりは安いだろうと思う。
「なーるほど!つまりそれって……」
「お疲れ様会。手作りで」
一瞬の沈黙のあと、琴音の顔がぱっと明るくなる。
「なにそれ楽しそう!!」
さっきまでのぐったりした様子はどこへやら、勢いよく私の肩を掴んできた。
「思いつきだよ、脇阪くんがいつもやってたから⋯⋯」
「いやー、なるほど!私には思いつかなかったよ。誰かに作ってもらうって発想はあったけど、自分で作るなんて考えなかったわ!」
「大げさだなぁ⋯⋯」
少し大げさな反応に苦笑しながら、琴音と一緒に家庭科室の使用許可をもらいにいくのだった。
『家庭科室使いたい?ふーむ、まぁ前田は良く知ってるから構わんだろ。火には注意しろよー』
そんな軽い流れで、担任の先生からは簡単に許可を貰えた。そんなノリで火を使わせて大丈夫なのだろうか?
「夏希ー、冷蔵庫にお肉とか、何か色々あるんだけど」
現在は冷蔵庫の中を物色中だ。すると冷蔵室には肉と野菜が整頓されて置かれており、ほとんど彼の私物入れになっている現状に苦笑してしまう。
「ほとんど脇阪くんのだと思うよ?お菓子作りに関係なさそうな物は触らないようにね」
「は~い」
ちなみに、家庭科室にあるものは使って良いのか聞いたら「別に構わないぞ、後で請求するわ」というありがたい言葉を脇阪くんから貰っている。
という事で、料理する状況としては充分だということは分かったけれど⋯⋯
「それで、何作ろっか?」
「分からん!私が料理すると思うかね?夏希は何か作れるの?」
女子二人集まって、何も成果が得られそうにないとは思わなかった。作れる物、かぁ。目の前にあるのは小麦粉、卵、牛乳⋯⋯
「うーん⋯⋯パンケーキくらいなら作れるかな」
目の前にある材料で、私程度でも作れそうな物を提案してみる。
「え、ホットケーキミックスないじゃん。どうやって作るの?」
「え?小麦粉とベーキングパウダー」
「マジで!?夏希料理出来たんだ!?」
⋯⋯まさかこの程度の事で驚かれるとは思わなかったけれど。
「それじゃ作ろっか。琴音、小麦粉の重さ測って」
「おっけー!美味しく作ってやろうじゃないの!」
琴音みたいに本当に料理しない人からすれば、凄い事なんだろう。案外気分が良いな。脇阪くんもこういう気持ちで私に料理作ってるんだろうか?
「琴音!?弱火!弱火で焼かなきゃ生焼けになるから!」
「えー?面倒臭いなぁ。強火で一気にやっちゃ駄目なの?」
それからは、料理をしない人がやりがちなミスを繰り返しながらも、楽しむ。
「うっわ焦げた!いや、これは焦げが美味しいんだよ!」
「ちゃんと食べなよ?」
「⋯⋯一緒に食べようね!夏希!」
「調子良いんだから、もう⋯⋯」
友達とお菓子を作るなんて、きっと今だけしか出来ない事だから。
「おお!夏希上手いじゃん!全然焦げてない!」
「これくらい普通だよ。脇阪くんならもっと上手く焼くんじゃないかな?」
だからこそ、この時間を大事にしていこう。
「ふーーん?別に脇阪くんの話なんて一切話してないのに、名前が出てきちゃうんだぁ?」
「りょ、料理してるんだから自然と出るでしょ!」
⋯⋯いじられるのは正直面倒だけど、今のは私が隙を晒したのが悪いということにしておこう。




