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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
近いようで、遠い距離

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77/80

雪起こしの夜

「⋯⋯⋯っ!」

 一瞬、稲妻が光った後に轟音が鳴り響く。

 夕方になってからは何度も落雷があったけれど、今回のはかなり近い場所に落ちたようだった。


(早めに帰っておいて良かった)

 雷なんて、家にいるのなら問題ないと分かっていても、昔からこの音には慣れない。この状況で停電なんて起きたら、さらにパニックになる自信がある。


 雪起こし、雪が多く降る前に起きる気象現象で、何度も雷を鳴らす。これがあった後に、本格的に雪が降るのだ。


(⋯⋯勉強しよう)

 ご飯も食べた方が良いのは間違いないんだろうけど、定期的に来る轟音のせいで食欲が出ない。頭を別の事に集中させた方が、外の音に意識を割かないと思えた。


(こんな事してると、脇阪くんに怒られそうだなぁ)

 机に座って勉強に打ち込もうとしても、余計な事ばかり考えてしまう。ちゃんとした食事を一人で食べれてこそ、自立していると言えるというのに、それが出来ていない事は素直に反省しなきゃいけない。


「⋯⋯よし!集中しよう!」

 何かあった時のバッテリーを気にして、携帯の電源は一旦切って充電しておく。音楽プレーヤーとイヤホンを付けて、外の音を出来るだけ遮断し、教科書と向き合う。今出来る事は、勉強する事だ。


(⋯⋯時間が過ぎないなぁ)

 だけど、時計の針は進まない。長い間集中して勉強しているつもりだったのに、まるで時間が経たない。いくら音楽を流しても、外の雷の音が気になる。集中出来ていない証拠だろう。何とも情けない話だ。


(ちょっと休憩しよう)

 イヤホンを外し、目を瞑る。余計な事を考えないようにしなければならないのに、外の轟音に意識がどうしても向いてしまう。⋯⋯今日は眠れるか分からない。


 昔から雷の音が苦手だった。

 父親がいなくなってからは、出来るだけ母に迷惑をかけたくないと、気丈に振る舞っていたと思う。

『ママ!頼まれてきたもの買ってきたよ!』

 私のせいで、母の努力を不意にしたくなかったから。

『そうね、夏希は偉いわねぇ』

 それに、頑張った分だけちゃんと褒めてくれる事が嬉しかった。


『ママ⋯⋯一緒に寝ても良い?』

 だけど母が家にいた頃は、雷が鳴る日だけは一緒に寝てもらっていた。


『遠慮しなくていいのよ?こっちいらっしゃい?』

 そうやって、どれだけ夜が遅くなっていたとしても、母は私の事を抱きとめてくれた。


『ごめんなさい、ママ⋯⋯』

 申し訳ない気持ちと同時に、髪を撫でてくれる感触と、優しい声が、耳に残っている。

『夏希は頑張りすぎね。お母さんの事、もっと頼ってくれなきゃ』

 逆に言えば、この日だけは、私が母に甘えられる日だった。


(そういえば、一回だけ脇阪くんの家に行った事あったっけ)

 どうしても母が仕事を休めない日、外からは今日と同じように轟音が響いていた。

 雪起こしの日ではなく、台風が来ていた日だったと思う。直撃ではなかったから、風についてはそこまでじゃなかったけれど、雨と雷が凄い日だった。


――怖い、怖い、怖い!

 小学校が終わった後、一人家にいるのがどうしても不安だった私は、泣きながら彼の家まで走った。頼れる相手が、彼のお母さんくらいしか思いつかなったから。


 もちろん雨で服はドボドボになった。その現実にまた悲しくなって泣いてしまって、外で座り込んでしまった事を覚えてる。


――こんな格好で行ったら、迷惑だ。玄関汚れちゃう。

 なんて、子供ながらに考えてしまって、結局彼の家に辿り着く事も出来ない。何もかも中途半端に考えてしまって、動けなくなった子供の頃の記憶。


『⋯⋯なっちゃん、なにやってんの?』

 そうしてどうする事も出来ず座り込んで泣いていると、声が聞こえた。雨音が響いていても、雷が鳴っていても聞こえた。ぶっきらぼうな声。

 顔を見あげると、学校で良く見ていた仏頂面がそこにはあった。


(⋯⋯懐かしい。あの頃は全然話さなかったのに、来てくれたんだっけ)

 思い出すと不思議と心が温かくなる。学校でもほとんど話さない、ただ家が近いだけ。それでも彼は来てくれた。お互いにずぶ濡れで、無言で手を引いてくれた。手首に手を当てると、彼の温もりを覚えている気がする。


(昔から変わらないんだな、私)

 小さい頃から彼を頼っていた事が情けなくて、笑ってしまうけれど、子供の頃の話なので許してほしい。


(⋯⋯琴音と脇阪くんは、まだ勉強してるのかな)

 なんとなく、携帯の電源を付けてみる。少しだけ息抜きをしても良いだろうと思ったから。


(⋯⋯?着信がある)

 別に、彼を頼ろうと思ってつけた訳じゃない。もう、雷なんかで怖がる歳なんかじゃないんだから。


「⋯⋯なのに、なんで⋯⋯」

 ――彼の名前を見るだけで、心配してくれると分かっただけで、こんなに安心するんだろう。


 着信履歴には、律儀にしっかり十分おきに電話をかけてきている彼の名前があった。無機質な画面に映る名前を見て、胸の奥が少しだけ軽くなった。


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