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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
近いようで、遠い距離

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脇阪悠人のクラス事情

脇阪悠人はクラスの人気者、というわけではない。


「ワッキー、今日の一限目ってなんだっけ?」

「数学。それよりもお前髪ボサボサだぞ、ちょっと直しなさい」

「しゃあねぇじゃんギリギリまで寝てたんだから」

「それは理由にならんだろ⋯⋯」


 友人と呼べるような相手も少ないが、だからといって一人ぼっちというわけでもない位置づけだ。

「悠人、じゃんけんしようぜ!負けたら昼休み飲み物買ってきてくれよ!」

「お前誰とでもそれやってんな。勝てたとこあんま見た事ないんだけど」


 一例を上げるとしたら、複数人のグループが出来た時、三人くらいで話が盛り上がってしまって、話に入りづらい状況になった時。

「⋯⋯あ、脇阪くん。今日の体育女子はバスケだってさ。男子はバドミントンだって、私もバドが良かったなー」

「そうかぁ?俺はバスケの方が羨ましいけどな、人間がラケットみたいな道具に、あんな小さいシャトルを当てれるわけないんだよ」


 なんか近くに脇阪いるし話しかけとこ、くらいの便利な立ち位置だ。そして誰に対しても変わらない。同じくらいのスタンスで会話をする。

「委員長。これ配れば良いの?」

「え、手伝ってくれるの?いつもありがとね」

 だからこそ誰とでも話すし、誰ともそこまで深く関わらない。


「脇阪くんが委員長の方がまとまったかもね」

「俺がそんな真面目なタイプに見えるか?流石にごめんだね」

 後は、面倒事は少し嫌うタイプだが、それを面倒臭がって更に面倒な事になるのを避けるため、やれる事はやる。という心情を持っている。


 ――と、いうのが脇阪くんの自己評価なんだけど、その認識はあくまで脇阪くんがそう思っているだけだったりする。


「あれ?脇阪はいねぇの?」

「飲み物買いに行ってる。いやぁ良い友人をもったよ俺は!」

 まず友達が少ないっていう所から間違っている気もする。


「お前また負けたのにパシらせてんの?」

「金は払ってるから良いんだよ!俺から言い出したわけじゃないし!悠人が言い出した事だし!」

 あの男子は、自分が友達だと思った相手は下の名前で呼ぶ事に拘りを持っている。つまり彼の中では、脇阪くんは既に友達なのだ。


「脇阪くんってやっぱ話しやすいよねー。誰相手でもおんなじ感じっていうかさ」

「まぁ鼻の下伸び切ってる感じはしないよね」

 女子からの評価はこんな感じだ。高校生の女子が近くにいるから、という理由だけで男子に話しかけるというのは中々ない事だと私は思う。ある程度の好意は必要だ。


「告ってみたりすんの?」

「え!?いやぁそんなんじゃないって!⋯⋯そりゃちょっと良いな、とは思うけどさぁ」

 ⋯⋯本当にこんな感じだ。前までは流石にここまででは無かった気がするけど、文化祭で目立った事もあってか、最近では結構な人気者だ。


「いやぁ、ワッキーは人気者ですなぁ夏希さん。どう思いますかこの状況」

 琴音がいつも通りニヤつきながらこっちに話を振ってくる。


「別に何とも思わないけど?」

 購買で買ったパンを食べながらも、琴音の言葉を聞き流す。

「お?余裕ですなぁ」

 そう言われても、正直、こんな感じの状態は中学生の時にも何度かあった。聞いた事はないけど、誰かが告白する事があってもおかしく無かったと思う。


「ほらよ、これで良かったか?」

「お、サンキュー!⋯⋯そういやさぁ悠人。俺らイブにクリパやるんだけど来る?」

 流石に目の前で、パーティーの誘いを見た事はなかったけど。


「クリパ?」

「クリスマスパーティーだよ。分かんねぇの?男子だけじゃ味気ないから女子も来るぞ」

 女子もいる、という言葉に謎の緊張が走る。琴音に茶化されないように顔には出さないように努める。


「はーい!この子も脇阪くん居たほうが面白いって言ってまーす!」

「ちょっと!?そういうの良いから!」

 何とも困惑している表情をしている脇阪くんを他所に、随分と盛り上がっている感じだ。


「いや、それは分かったけど。⋯⋯俺が?なんで?」

「なんでって⋯⋯せっかくだから誘ってるだけだけど?」

 ――その言い方だと、多分⋯⋯

 

「いや、悪いけど遠慮しとくわ。そういうのは仲良い奴だけでやった方が面白いだろ」

 脇阪くんならそう言うだろうな、と思った。


「お、おう⋯⋯?」

「悪いな気遣わせて」

 悲しい程に、友達という線引きに厳しい人だから。⋯⋯正直、内心ほっとしたのだけれど、何故かは分からなかった。


 あっけなくクラスメイトの誘いを断り、昼休みも終わりに近づいて来た時に、脇阪くんが自分の席に戻ってきた。


「脇阪くん、話聞いてたけど、さっきのは普通に脇阪くんと遊びたかっただけだと思うよ?」

「いや、そんなわけないだろ。俺が行ったら空気悪くなるわ」

「うぇぇ⋯⋯こいつ本当に無自覚系なんだ⋯⋯」

 琴音から見ても、結構酷い断り方だったんだろう。顔が引きつっている。けれど、脇阪くんからすると、クラスメイトが気を遣って誘っているように見えているという悪循環だ。


「一応予定もあるしな」

「イブに予定あんのー?へぇーそうなんだー」

 ⋯⋯なんで琴音はこっちを見るのかな?本当に私は何も知らないんだけど。


「お前が想像してるような物はない」

「夏希とじゃなかったら誰と⋯⋯まさか!例の幼馴染とですか!?」

「二十四日に餃子チェーンで飯食うと、割引券が貰えるんだ」

 脇阪くんが放った言葉は、予定というには随分とお粗末な内容だった。クラスメイトのクリスマスパーティーの誘いは、餃子に負けたらしい。


「⋯⋯予定ってそれ?」

「なんだよ、せっかく食うならお得な時が良いだろ」

「夏希、こんな彼をどう思う?」

 だけど、そんな彼の言動がいつも通りすぎて、可笑しくて笑ってしまう。


「脇阪くんらしいなって思うけど」

「呆れないの凄いなって思うよ、本当⋯⋯」

 呆れてるのは私も一緒だよ。でも、それと同時に思ったのは⋯⋯


(もしも私が誘っても、断られるのかな)

 誘う予定なんてないけれど、彼と一緒にイブを過ごそうなんて思わないけど、何故かそこだけは不思議と気になってしまった。


 そうして迎えた放課後。朝から天気は変わらず曇天のままだった。そういえば天気予報を見ていなかったけれど、予報としては雨なんだろうか?


「この調子だと、今日の夜には初雪降りそうだな」

「だろうねぇ。雪起こしもあるんじゃない?」

 二人の会話を聞いて、失念していた事を思い出す。そういえばこの辺りでは、雪起こしなんて物があるのだ。


「そういや雪起こしって、地域によっては伝わらないらしいな」

「うっそぉ!?これ雪降る地域だけって事!?」

「東京で言ったら田舎者扱いされそうだな」

 琴音と脇阪くんが話しているけれど、内容が入ってこない。雪起こし⋯⋯雷⋯⋯想像するだけで気分が悪くなる。


「夏希ー。電車止まると嫌だし、私はちょっとだけ教えて貰ってから帰るけど、夏希も来るよね?」

 ⋯⋯二人だけにするのは、なんとなく嫌なんだけど、今帰らないと、一人で家まで帰れない気がする。


「⋯⋯ごめん、やっぱり今日は帰る。二人で勉強してて?」

 脇阪くんに頼る事は出来るだけ遠慮しようと、この選択をした。外から轟音が鳴り響く前に、私は急いで自宅に帰るのだった。


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