ゲーセンデート、フラグあり?
「今日はありがとね、付き合ってくれて」
少し気まずい話も、楽しい話も一区切りつき、親が来たらすぐに分かるように入り口の方で待つ事にする。なんだか一周回って随分と脇阪くんとの距離が近くなった気がする。
「いや、こっちこそ面白かった。こうやってゲーセンで遊んだのは初めてだったよ。新鮮だった」
うんうん、私も異性とゲーセンで遊ぶのなんて初めてで⋯⋯!?
(もしかして、私またやっちゃいましたか!?)
脇阪くんにとっての、一番最初の異性との連絡交換は私。そして、今回のゲーセンデート(?)イベントも私とが初めてときたもんだ。
「つ、つまり今回のゲーセンデートが、脇阪くんにとっての初デートだったという事でしょうか!?」
また夏希との初体験(?)を奪ってしまったのか私は!?
「え?これデートなのか?」
⋯⋯やっべぇ墓穴掘った。彼にとってはただ単に遊びに付き合っただけだったらしい。え?でもこれだけの事しといてデートじゃないとか言い出すのこの男、キレそう。
「なにさ!?悪い!?私のような人間にとってはこんなんでも充分デートなんだよ!」
というかぶっちゃけ放課後に異性と二人で歩いてる時点でデートみたいなもんでしょうがぁ!!え?流石に暴論だって?⋯⋯知るかそんなん!
「そうか、そりゃ悪かったな。⋯⋯親が来るまでまだ時間あるか?」
キレ散らかしている私とは打って変わって、余裕の表情の脇阪くん。何故だ。
「⋯⋯あとちょっとすれば来ると思うけど?」
まだ着いたって連絡はないけどね。それが何だというのか、面倒臭い私を置いて帰りたいとでも言う気ですか?泣いちゃうよ?
「じゃあちょっと挑戦してみるわ」
そう言いながら、近くにあったクレーンゲームにお金を入れる。クレーンの先にあるのは、ゲーセンに入った時に話していた。私のお目当てのフィギュア。
「お?箱は案外動くんだな、こういうの」
一度目にしては、そこそこの距離が動いた。⋯⋯急に何をしてるんだろうこの男。
「上手いこと動いた方だね、あと何回かやれば取れそうかも」
「そうか、じゃあ諦めずにやってみるか」
そうして何度もお金を入れては、少しずつ位置を動かしていく。
「あーおっしい!なんでそんな変なとこ引っかかるの!?」
「上手いことなってるよなぁ。でもこれを一発で取れる人達もいるんだろ?練習する価値はあるかもな」
二回、三回と繰り返しているうちに、コツコツとではあるけれど、落とし口に近づいていく。横目で見てみると、脇阪くんが普段より真剣な表情をしているのを見て⋯⋯違う違う!ドキッとなんてしないから!
「おお!取れたねおめでとう!」
余分な考えを吹き飛ばしながら野次を飛ばしていると、七度目の挑戦で景品はしっかりと落とし口に落ちていった。
「そうだな、千円以内に取れたんなら上手いこといった方だろ」
そうして景品を手に取る。脇阪くんもフィギュアを飾るような趣味があるのだろうか。
「ほら、やるよ」
そう言いながら、私に景品を渡す。⋯⋯半信半疑ではあったんだけど、やっぱり私のために取ってくれてたらしい。
「いや、なんとなくそんな気はしてたんだけどさ⋯⋯どういう意味なのこれ?」
プレゼントという事になるんだろうけど、誕生日でもないし、ゲームでも勝てなかった。貰える理由なんてない気がするんだけど。
「せっかくの初デートなんだろ?なら、記念の品くらいあった方が思い出になるだろ」
そんな風に考えていたのに、当たり前のように話す彼の言葉は、私の胸を高鳴らせるのには充分だった。
「⋯⋯貰っとく、ありがと」
心臓の音がうるさい。このタラシ男は一体どれだけの女の子をこうやって落としてきたんだろうか、許せん!という気持ちを強く持つ。⋯⋯そうしないと、駄目な気がした。
「お母さん来たみたいだから。じゃ、明日学校で」
嘘だ、まだ親からの連絡はない。でも、もうここにいるのは危険なのだ。
「そうか、またな。明日からはちゃんと勉強しろよ」
振り返る事なんて出来ない。こんなにも頬が熱くなった事なんて、今まで無かったから。
ゲームセンターから外に出ると、車から外に出て手招きしているお母さんの姿が目に入る。どうやら出るタイミングとしては完璧だったようだ。
「⋯⋯ごめんなさいお母さん。遅くなっちゃって」
熱くなっていた心が急に冷える。夢の時間から、現実に戻された気分だ。
「⋯⋯琴音?言いたい事はいくつもあるんだけど」
ああ、せっかく良い気分だったのに、ここからは説教タイムの始まりか⋯⋯
「あの男の子は誰!?琴音の彼ピ!?まさか琴音に春が来てたなんて知らなかったわ!!」
そう思っていたのに、全くもってそんな事はなかった。なんだこの恋愛脳⋯⋯あ、そういえばこの人私の母親だったわ。
「いや、そういう関係じゃなくてね?」
あくまで彼とはクラスメイトと言いますかぁ⋯⋯
「そういう関係じゃないのに、男の子と二人で遊んでプレゼントまでもらったの!?」
「どっから見てたのよババァ!?」
道理で来るの遅いと思ったわ!結構前から着いてたんじゃん!
「『せっかくの初デートなんだろ?』の当たりからだけど?」
「うっわ!一番良いところじゃん!聞いてよお母さん!あのタラシ男ったらさぁ⋯⋯」
そうして車の中で脇阪くんの話で盛り上がる。こんなにも親と話せたのは、とても久しぶりだった。
「こんな理由で遅くなったんだったら文句ないわ」なんて笑う親を見て、本当にちゃんと血が繋がっているんだなって実感できたよね。
「た、ただいまー⋯⋯」
だけど、それはお母さんの話だ。厳格な父親相手にはそんな事は通じない。
「⋯⋯遅かったじゃないか、何をしていた?」
家の中に入ると、腕を組みながら父親がソファーに座っており、明らかに怒っている雰囲気を纏っている。これから私はお父さんの説教を聞かなければならないのか⋯⋯嫌だなぁ。
「ただいま、お父さん聞いてよ!琴音ったら今までデートしてたのよ!話聞いたけどフラグは立ってるわ!」
後ろから部屋に入って来た母親にシリアスブレイクされた。この空気感でそんな事良く言えるねお母さん!?
「ちょっ!?お父さんにまで言う必要ないでしよ!?」
第一、厳格な父親にそんな事言ったって無駄でしょ!「何遊んでるんだ」と怒られて終わり⋯⋯
「⋯⋯どんな内容だったか詳しく」
⋯⋯自分の父親もラブコメ厨だったなんて知りたく無かったよちくしょう!!
「なんだ言えないのか?どうして遅くなったのか。ちゃんと内容を、しっかり話しなさい」
相変わらず重苦しい雰囲気は変わらないんだけど、その内容って私のデートの中身聞きたいだけじゃない?気の所為?
「キスはしたの?」
「するか!!そういうのじゃないって言ってるでしょ!?」
「なんだしてないのか⋯⋯つまんね」
「今つまんねって言った!?お父さんそんなキャラじゃないでしょ!?」
まさか親とのギクシャクとした空気を一変させる物が、自分の初デートの話になるとは、夢にも思わなかった。




