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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
近いようで、遠い距離

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友人への告白

「夏希、今日はどこで勉強する?」

 両親に根掘り葉掘り聞かれた次の日の放課後、私は夏希にどこで勉強するかの相談をする。


「うーん⋯⋯教室でしようよ。少しくらいうるさくしても怒られないし」

 周りを見ると、教室には数人の自習生。それぞれバラバラに過ごしている。

 前の方では静かに問題集を解く音、後ろでは小さな笑い声。確かにこの距離なら、小声で話せば迷惑にはならないかな。


「分かった。じゃあこのままやろっか」

 そう思って夏希の提案に乗ったのに、

「⋯⋯え?それだけ?珍しいね」

 何故か怪訝な顔をされた。


「どういう意味さ!私だって自分がやかましい自覚はあるって!」

「いや、そうじゃなくて⋯⋯いつもなら、からかってくるから」

 ⋯⋯確かにそうだ。いつもの私なら「え?脇阪くんがいる家庭科室に行かなくて良いの?デュフフ」くらい言いそうだろう。


「その件について、夏希にはちょっと話しておかなきゃならない事があります」

「? どうしたの?」

 だけどごめん。もうそうやってからかう事は、出来ないんだよ夏希。⋯⋯よし、落ち着け私。順序立てて説明すれば大丈夫。脇阪くんも教室にはいないな?この話は彼がいるときには出来ないからね。


「夏希、ショックかもしれないけど、よく聞いて」

「⋯⋯うん」

 夏希の表情が、少しだけ強張る。……ごめん。でも現実は残酷なんだ。


「脇阪くんは、多分私の事が好きなんだ⋯⋯」

「⋯⋯うん?」

 私の渾身のカミングアウトに対し首を傾げる夏希。⋯⋯あれぇ?反応が薄いな。いや違う、理解が追いついてないんだなきっと。


「よし、順序だって話そうか。落ち着いて聞いて?根拠もちゃんとあるから」

「う、うん⋯⋯」

 説明をするために、指を一本立てる。


「まず、一緒に帰りました」

「うん、それは知ってる」

 あ、これは知ってるか。というか夏希が脇阪くんにお願いしたんだっけ。


「次に、ゲーセンに誘ったら付いてきてくれました」

「そうなんだ、楽しかった?」

 まだ余裕の表情だ。クッ、これが正妻の余裕ってやつか?


「次に、初デート認定されました!」

「⋯⋯え、本当に?それは凄いね」

「でしょ!?でしょ!?これはもう確定でしょ!?」

 ここまで来れば流石の夏希も理解したはずだ。彼が今まで夏希になびかなかったのは、実は私の事が好きだったからなのだ!

 因みにこの結論が出たのは深夜テンションでの家族会議の時である。何も問題ないね!

 さあどうする夏希、メインヒロインとしての意地を見せてみろ!


「……あの」

「うん?」

「それ、多分だけど」

 え、なにその落ち着いたトーン。私なんて敵じゃないみたいじゃないか。嫌な予感するんだけど。


「琴音が勝手にそう思ってるだけじゃない?」

「は?」

 は???????


「いやいやいやいや!?この流れでそれはないでしょ!?」

「だって脇阪くん、誘われたらそういう事しそうな人だし」

「それは否定できないけども!!」

 ぐぬぬ……!冷静すぎる、この女……!


「あと、“初デート”って言い出したの琴音じゃない?」

「なんで分かるの!?」

「脇阪くん、『これデートなのか?』って言ってなかった?」

「現場見てたの!?」

 的確に急所を突いてくるのやめてくれませんかね!?


「琴音、ちょっとうるさいよ?静かにね」

 夏希が的確に私を抉るからなんですけど!?


 しかし、まだだ。まだ私には手札が残されているんだよ夏希!

「フッ⋯⋯残念だったね夏希。彼が私の事が好きな証拠はまだ残っているんだよ」

「そうなんだ、聞いてみようかな」

 まだ余裕そうだけど、その表情が今から歪むのが楽しみだぜ!


「脇阪くんから、プレゼントを貰いました!」

「⋯⋯⋯へぇ」

 お?流石のちょっと困惑してる?これは効いてるみたいだぞ?


「これは流石に特別でしょ!好きでもない人に渡す事ないでしょ!」

「うーん……確かにそれはそうかも。何貰ったの?」

「私が欲しかったフィギュア取ってくれたんだよ。初デートの記念品だって!」


 少し考えてから、夏希はぽつりと呟く。

「……琴音が欲しがってた物だよね?」

「そうだけど?」

 中々ないですぜこんな事は!


「多分、本当にただの記念品のつもりだと思う」

「……⋯」

 ……あれ?

 それ、すごく納得できてしまうのは何故だろう。


「……そうかも?」

「でしょ?」

 ちょっと待って、私さっきまでの自信どこいった?


「……いやいやいや!でも!でもだよ!?」

 まだだ、まだ戦える!


「普通さ!好きでもない女の子と遊んだりする!?」

「頼まれたらするんじゃないかな、脇阪くんなら」

「するかぁ……あいつならするかぁ……」

 駄目だ、否定できない。

 なんだあの男、距離感バグってるのか?脇阪くんって実は軟派クソ野郎なんじゃないだろうか?


「うっわぁ⋯⋯私もしかしてめっちゃ恥ずかしい事言ってた?」

「そんな事ないと思うよ?もしかしたら本当に好きなのかもしれないし」

 今更そのフォローは遅くないですか?夏希さん?


「……でもさ」

「うん?」

 夏希が、少しだけ優しく笑う。


「琴音、楽しそうだね」

「え?」

「話してる時、ずっと嬉しそうだった」

 ⋯⋯不意打ちだ、やめてほしい。夏希はいつもこんな風に私に絡まれてたのか。いつも大変だね。ご苦労さん!


「……そりゃまぁ、楽しかったし」

「でしょ。楽しいよね」

 なんだか、全部見透かされてるみたいで落ち着かない。⋯⋯というか言い方的に、夏希も脇阪くんと遊んだ事ありそうじゃない?気の所為かな?


「……じゃあさー」

 そうしていつまでも余裕な表情をしている夏希に対して、少しだけ意地悪な気持ちが湧いてくる。私の妄想を論破した仕返しだ。


「もし本当に、脇阪くんが私の事好きだったらどうする?」

 それと、確認したかった。夏希の本当の気持ちを。


「……どうもしないよ」

 一瞬だけ、間を空けてから何でもないかのように夏希はそう答える。


「へぇー?」

「だって、脇阪くんが決める事だし」

「ほーん?」

 だけどその一瞬の間の表情が、全てを物語っていると。私は思った。


「……それに」

 その後も、夏希は少しだけ視線を逸らして、小さく呟く。


「琴音の事も、大事な友達だし」

(⋯⋯良い子すぎるなコイツ)

 夏希はやっぱり優しくて、凄く良い子だ。何かがあった時に、争わずに、一歩引くことが出来る。私の大事な友達。


「……なにそれ、ずるくない?」

「何が?」

 だからこそ、ちょっとだけムカつく。


「全部いい感じにまとめてさ」

 私を言い訳に使って、自分の気持ちを隠してない?


「まとめてないよ」

 夏希はいつも通りの顔で、でも少しだけ照れくさそうに笑った。


「言ってるでしょ?脇阪くんと私は、そんな関係じゃないって」

 ──ああ、なるほど。これだけ言ってもこの反応なら、これが夏希の本心なんだろう。


「……そっか」

 だけど、夏希は自分の本当の気持ちに気づいてないだけなんだとも思った。

 

「じゃあ安心した!」

「え?」

「遠慮なくからかえるって事だね!」

「なんでそうなるの?」

 だったら私は、この子の隣で好き勝手に騒ぐ役でいい。彼女が自分の気持ちに向き合えるまで、何度だって二人をからかおう。それが私の出来る精一杯だ。


 でも――

(……ほんとに、このままっていうのはどうなんだろうね)

 そう思いながら、思い出すのはあのフィギュア。誰隔てなく行われる優しさという名の暴力。

 

(いつまでも何でもないって言ってると、本当に誰かに取られちゃうかもよ?)

 私だって受け取った時の事を思い出すと、今でも少しだけ、胸がうるさくなるのだから。

琴音編終了。なんか随分濃いサブキャラになったな⋯⋯こんな予定ではなかったのだ本当に

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