親の気持ちと反抗期
『一瞬千撃!』
暗転、連撃。一瞬にして半分程あった体力が消し飛ぶ。前ステップから瞬時に繰り出されたその技はとても難しい入力難度を誇る。
「ふう⋯⋯やってやったぜ⋯⋯」
「何に満足してんのお前」
勿論私にそんな高難度のコマンドが出来る筈がない。吹き飛んだのは私のキャラの方だ。
「サブキャラ選んでって言ったじゃん!なんでそんな難しい事出来るの!?」
「そう言われても、昔の練習の賜物ってやつだな」
話を聞いていると、脇阪くんは前作からプレイしているらしい。昔の知識がそのまま使えるのズルい!
「勝てないから違うキャラ!」
それからも、キャラクターを変えてもらって戦ってもらったんだけど⋯⋯
「あー!一瞬で画面端持っていくのやめて!」
「これがないとこのキャラ使う意味ないしなぁ」
一方的な戦いにはならないにしても、
「ちょ!?火力高すぎ!」
「無敵技適当に打つのが悪いからなぁ」
どのキャラを使われても、基本的には負け越しだった。圧倒的な実力差を感じる。
「負けた⋯⋯完敗だ⋯⋯」
「残念だったな。でも結構強いとは思うぞ」
あんだけボコボコにしておいてそのフォローは無理があると思う。
「コンボはしっかりしてたしな」
「先生、じゃあ悪いとこはどこですか!?」
「暴れが単調、投げが少ない。無敵技が多い」
「結構厳しい!」
まあでも、これはこれで勉強になった。普通の勉強以外でも脇阪くんに教えを受ける事になるとは思わなかったな。
「そういや時間は大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、まだそんなに経ってないでしょ」
そう話しながら、何気なく携帯を見ると、想像よりも一時間程多く時間が過ぎている。
「⋯⋯楽しい時間ってあっという間に過ぎてくよねぇ⋯⋯」
通知欄には、お母さんからの鬼電の履歴が残っていた。
「⋯⋯うん、はいごめんなさい。⋯⋯え!?迎えは良いよ自分で⋯⋯いや分かりましたごめんなさい」
お母さんからの電話に出ると、まず最初にお叱りの言葉。テスト期間だというのにゲーセンで遊んでいるという事で更に追撃。今は半ギレ状態でこちらに向かっているらしい。
「ごめん脇阪くん、お母さんここまで来るから、送ってもらう必要なくなった」
さっきまで楽しかったというのに、今はとても億劫だ。
「そうか、優しい親なんだな」
あれだけ怒られている姿を見せたのに、彼からしてみたら優しい親に見えるの?やっぱり脇阪くんってちょっと感性ズレてない?
「優しいかなぁ⋯⋯?いつも怒られてばっかだよ私」
「怒ってもらえるのは愛されてる証拠だろ?」
なるほど、それは前向きな考え方だ。見習う事が出来たらしてみよう。
「脇阪くんは先に帰っても良いんだよ?」
「ここまできたら最後まで付き合うよ」
⋯⋯優しいっていうのはこういうのを言うんじゃないかなぁ?時間を見る。今から向かっているので、親が来るのにはまだ少し時間はあるだろう。
「脇阪くん、ダンスゲーム出来る?」
「いや、やった事ないな」
そうか、なら一緒にやるのは難しいか。
「じゃあちょっと見ててよ」
男の子の前でやるのは初めてで緊張するけど、なんだか彼に見てもらいたいと思った。
「スカートでやるのはちょっと不味くないか?」
「えー?もしかしてエッチな事考えてる?大丈夫!スカートの下に短パン履いてるから!」
そうして百円を入れて、音に合わせてステップを踏む。流石に最高難易度はクリアできないけど、通常難易度なら何の問題もなくクリア出来る。
「上手いな、よく踊れるな」
「よっと⋯⋯そうでしょ?私にとっては、これが昔からの練習の賜物だね」
話しながらだって、足が勝手に動く。今までの人生で手に入れたリズムに乗る力だ。
「私の名前ってさ、琴音って言うじゃん?」
そうして踊りながらの家の話をする。そうでもしないと、変に重く捉えられそうだと思ったから。
「お父さんが付けた名前なんだけどさ、音楽の道に進んでほしかったからって付けたんだって」
それ以外の理由もあるとは言ってたけど、本音としては、自分がやりたくてもいけなかった道を、選んでほしいらしい。
「だから、子供の頃から音楽系については色々やらされた。ピアノにギターにダンス。勿論名前の通りお琴もしたよ!」
でもそれは、お父さんの夢を私に押し付けているだけだ。私がやりたいと思ってやった事じゃない。
「子供の頃はそれも楽しかったんだけど、今はなんか親に振り回されてる気分になっちゃって、ちょっと喧嘩中」
親の言う事なんて聞かずに、私はもっと自由に生きたい。だけど私はまだまだ子供だから、大人になるまでは頼るしかないんだ。
「だから現在反抗期の琴音ちゃんなのでした!」
ダンスゲームが丁度終わり、笑いながら振り返る。これが私、人にはあまり話した事ないけれど、脇阪くんになら、話しても良いと思ってしまった。
「森下も色々大変なんだな」
「脇阪くんは反抗期とかある?家で親と喧嘩とかしない?」
彼があまりにも優しいから、縋ってしまったのかもしれない。私の悩みを、受け止めてくれると思ってしまった。
「いや⋯⋯」
だけど、私の質問に対して、脇阪くんにしては随分と歯切れが悪く感じた。
「なぁ、一つ聞きたいんだけど」
それもそうだろう。と、次の言葉を聞いて思った。
「親がいつも家にいるのって、どんな感覚なんだ?」
そして同時に、私がどれだけ空気を読めない人間なのかも、分かってしまった。




