ゲームセンターでの一時
音楽ゲームの音が鳴り響く、駅近くのゲームセンター。クレーンゲームやメダルゲーム等の人気エリアをすり抜けて、ビデオゲームコーナーの一角に向かう。
「ゲーセンには来たりするの?」
「いや、基本家でしかやらないな」
慣れている私と違い、脇阪くんの方はあまりこういう場所にはこないらしい。少しだけ勝った気分だ。
「私はたまに来るかな。好きなキャラのフィギュア取りに来たり、電車待ってる時の暇つぶしに来たりするね」
「なるほどな、実際取れんの?」
お?オタクだって引いたりしないのか。理解があって助かるね。
「あんまり得意じゃないから、取れない時もあるのさ、そういう時は涙を飲んで帰るのさ⋯⋯ほら、あれとか結構お金使ったのに取れなかったんだよね⋯⋯」
我が高校が基本バイト禁止じゃなければ、バイトでもして稼ぐというのに。融通が利かないよね!
「学業に支障がない範囲ならバイトは出来る筈だぞ」
⋯⋯それはそう。実は成績が一定値を超えていれば、バイトは出来るシステムである。
「それって、私にとっては実質の禁止じゃん?」
融通が利かないよね!私達のようなお馬鹿さんはバイト禁止でしょ!?
「勉強を頑張る選択肢はないのかよ⋯⋯」
脇阪くんが呆れた表情をしている。勉強は頑張りたくないけど、お金は欲しい!
「だから今回は頑張ろうと思ってね!成績上がれば先生からバイト許可も下りるでしょ!」
「動機が不純すぎないか?」
いやいや、こんな考えの子なんていくらでもいると思うけど?黙ってバイトしてないだけでも褒めてほしいレベル。
「バイト出来るようになったら、ゲーセンでバイトも良いかもね。その時は遊びに来てよ。一緒に格ゲーしよう」
「バイト中に遊ぼうとするな」
いやいや、女子高生の店員さんが対戦してくれるって需要ありそうじゃない?なんか儲かりそう!
「よし、対戦しよっか!脇阪くん、鞄返して」
話を一旦切り上げて、脇阪くんから鞄を渡してもらう。そこから取り出したるは、マイゲームパッドである。
「おいおい、コントローラー持ち歩いてんのか?」
今度は 少し驚いた表情をしているけど、パッドは軽いからね、持ってるとこういう時に便利なのだ。
「やる気あるでしょ?」
「褒めて良いのか分からんな⋯⋯」
「さあ!勝負と行こうか!私が勝ったら何してもらおっかなぁ?」
「戦う前から勝った気でいるのか?三流だな」
そうして対面の台に脇阪くんが座る。何を言われようが問題ない。私はこのゲームを自慢できるレベルではやり込んでいるのだ。最高ランクは一番上のランクから四番目のハイマスター!負ける訳には行かない!
小銭を入れ、画面に目を向ける。目の前にはチャレンジャーの文字。さぁ、ここから始まるのは一方的な蹂躙だ!!
『Are you OK?』
掛け声とともに残り少ないヒットポイントが吹き飛ぶ。左上を見ると、相手を無傷で倒したときに起きるパーフェクトKOの文字。つまり圧勝だった。
「フッ⋯⋯こんなもんですか」
「いや、負けてるのお前なんだけど」
⋯⋯言い方を変えねばならない。吹き飛んだのは私のキャラである。つまり惨敗という事である!まぁ始まる前の展開として、こうなるような気も多少していたけども!
「いやいや!おかしいってこれ!私結構このゲームやってるんだけど!?」
最初のうちは、ラウンドの取って取られての繰り返し、一方的な展開はなかったのに。
「そう言われても、俺もやってるからな」
五戦ほどやっていたら、もはやボコボコだ。甘えた行動は全て返され、暴れのタイミングは全て読まれ、最終的には処理である。
「嗜む程度だって言ってたじゃん!最高ランクは!?」
「アルマスだけど⋯⋯」
アルティメットマスター。私の最高ランクのハイマスターの更に二つ上のランク。上位5パーセントに入るレベルである。
「それで嗜んでるって言うのは嘘じゃん!詐欺師だ詐欺師!」
「そんな事言われてもな、これくらいやってれば⋯⋯」
そう話していたら、脇阪くんは何かハッとしたように口を紡ぐ。
「どうしたの?」
「いや、これくらい普通っていうのは、俺の感性だと思ってな。前にこれで注意されたんだよ。俺の普通は、ちょっとズレてるらしい」
「それはそう!アルマスって凄い事なのに、大した事ないって言われるとちょっと腹立つ!」
教えてくれた子に感謝しておこう。
「ちなみに教えてくれたその子が実は夏希だったりして?」
茶化すつもりで聞いたんだけど。
「⋯⋯⋯まぁ、そうだな」
「ふーーん?そうなんだぁ、へぇー」
それはそれは、なんとも素敵な展開ですなぁ。
「何が言いたいんだよ?」
「べっつにー?夏希は脇阪くんの事ちゃんと見てるなって思ってさ」
「それについては俺も思う。あいつの観察眼凄いよな」
いやぁ、私的には、脇阪くんにだけだと思うけどなぁ?
「ニヤつくな気持ち悪い。それと、もう辞めとくか?」
おっと表情に出てたか、カプ厨としてはこの展開だけでかなり満足だけど⋯⋯
「負けっぱなしじゃ終われないよね!もうちょっとやらせてよ!」
ゲーマーとしては、このままじゃ終われないよね!百円を筐体に入れて、今度は自分がチャレンジャーとして画面を見る。
「ほう、良い意気込みだな」
「あ、キャラは変えてね!メインキャラには勝てないから!」
「急にダサいなお前⋯⋯」
一時間だけ、そう考えていたけど、この時間はもう少し長くなりそうだった。




