幼馴染の友人
(⋯⋯本当に大丈夫なのか?あいつ)
先に帰っていく夏希を見送りつつ、鍵を返しに行った森下の事を待つ。正直、森下の事は別に放って帰っても良かったんだが、
(まぁ、あいつがバラしたくないんだったら隠しておくか)
夏希が言った通り、同じ方向に帰る所を見られれば、俺と夏希が幼馴染である。という事実がバレるかもしれない。⋯⋯個人的には隠すのも面倒になってきてるんだけどな。
「お待たせー、⋯⋯って、夏希は?」
そうして一人考え事をしている所で森下が帰ってくる。
「先に帰った。用事があるんだとさ」
簡潔に報告する。それと、意味はないだろうが軽い嘘を付け足しておく。
「あー、やっぱり私が余計な事言ったからかなぁ⋯⋯」
用事がある、と言ってもあの空気だったのだ。夏希の様子から、森下も何かを感じ取ったんだろう。
「別にお前は変な事言ってないだろ。前田さんにも色々あるんじゃないか?」
そう、変な事は言っていないのだ。だが、俺に依存している。という言葉は、独り立ちしなければならないと思っている夏希にとっては、少し厳しい言葉だったんだろう。
「色々、ねぇ⋯⋯」
森下は少しだけ考える素振りを見せてから、
「色々ってさ、夏希が脇阪くんとご飯食べてる事と関係あるの?」
俺達の隠し事について、言及してきた。
「⋯⋯流石にバレるか」
当たり前のように食事をしようとする夏希の姿に、流石に疑問は持つだろうとは思ってたが。
「夏希って結構抜けてる所あるよねー。最初は本当に手伝おうとしてるのかと思ったけど、なんの迷いもなく食器出した所で確信したよね」
なるほどそっちか、確かに自分の家でもない場所の食器の位置まで把握しているのは可笑しい話だ。
「大丈夫!全部は聞かないよ。私は空気が読める人間なのだ!」
まるで自らが大人の対応をしているような言い方だな。本当に空気読めるならまずはカプ厨ムーブを辞めろ。
「でも一つだけ、聞いときたいかな」
そう話す森下の表情は、いつもよりも少しだけ硬い。多少は真面目な話なのか?
「夏希がここでご飯食べるようになったのって、文化祭くらいの時から?」
いつから食事するようになったか、と聞かれれば、文化祭よりも少し前ではあるが、まぁ誤差の範囲だろう。
「まぁそうだな、タイミングが合えばって感じだけどな」
タイミングが合う日の方が多い事は黙っておく。ギャーギャー騒がれるのは面倒だ。
「そっか、じゃあやっぱり、最近夏希が元気だったのって、脇阪くんのおかげなんだね」
⋯⋯そんな心配はしなくても良かったかもしれない。森下は、本当に夏希の事を気にかけてくれていただけのようだ。
「夏希、夏くらいまでは本当に元気なかったんだよ。私も大丈夫かなって気にしてた。なのに文化祭の頃くらいからちょっとずつ元気になってきてさ。これは何かあるなーって思ったのよ」
それは、なんとも嬉しい話ではある。やはり温かい食事というのは、心も安定させる事が出来るんだな。
「そんな時に、脇阪くんと夏希がイチャイチャしてるの見て確信を⋯⋯」
「そんな事してないだろボケ」
事実を捏造するなたわけが。
「いや、普段ほとんど会話とかしてなかったのに、急に話し始めたら気になるって!」
いや、会話レベルとしてはただの友人、くらいのイメージで話してたつもりなんだけどな。
「夏希の事、美人とか言って褒めるし」
「いや、本当の事言ったまでだろ」
あくまでも一般論としての評価だ。他意はなかった。
「夏希も満更じゃなさそうだったし」
「そりゃ褒められて嬉しくない事はないだろ」
「脇阪くんって乙女心分かってないねー」
普段カプ厨してる奴に言われるとなんか腹立つな。
「女の子ってのは、好意がない相手に『美人だ』なんて言われても警戒するだけで嬉しくないもんなんだよ!嬉しいってより相手の下心感じるよね!」
⋯⋯そういう物なのか?森下の言葉が本当なら、随分と軽率な発言をしたことになる。
「そりゃ悪かった。これからは発言に気をつけるわ」
「気をつけなくて良いよ!夏希の事は何回でも可愛いって言ってあげなよ!」
なんでだよ、言ってる事真逆すぎんだろ。
「美人って言われて、夏希は嫌がってなかったでしょ?そういう事ですよ!」
そういう事って言われてもな、まぁ嫌われていないのは間違いないだろうが。
「という事で、ここまでの話で大体分かったよ、夏希がどうして元気になれたのか!」
話を纏めようとしているが、こいつの中で夏希が元気になった理由は⋯⋯
「だから、夏希の友達としてお礼を言います。ありがとう。夏希の支えになってくれて」
何故か俺の力という事になってるらしい。その言葉は、友人としての真っ直ぐな感謝の言葉だった。
「⋯⋯真面目なの似合わないな」
俺だけの力じゃないだろう。森下のような友の存在が、夏希を支えてくれているのだ。
「お?照れ隠しですかワッキーさん」
そう思ったが、直接言うと調子に乗りそうなので黙っておく事にする。
「うるせぇ、無駄口叩いてないでとっとと帰るぞ」
長々と会話をしていたせいで、外は完全な夜に近づいてきている。
「はーい。じゃあまた明日学校でね。放課後は今日みたいに家庭科室行くかも」
そう言いながら手を振る森下。何言ってんだこいつ。
「別れの挨拶はまだ早いだろ」
「は?なんで?」
なんでって⋯⋯ああ、そういや言ってなかったか。
「送ってってやれって、前田さんから言われてるんだよ」
「え、いやいや!別にいいよそんなの。部活あったらこれくらいの時間になる事あるし」
「いつもは一人なのか?」
「⋯⋯部活の子と一緒に」
森下は随分と遠慮しているが、流石にこの暗闇の中を一人で帰らせるわけにはいかないだろう。
「じゃあ一人で帰すわけにはいかないだろ?森下は可愛い女の子らしいからな」
「そういうのは普通は下心感じるから駄目だって言ったでしょうが!」
「自分で言ってなかったか?」
「私が言うのはセーフなの!脇阪くんが!私に言うのはアウト!」
「面倒くさいなお前⋯⋯」
暗がりの中を騒ぎ立てながら歩く、幼馴染と歩く静かな夜道も嫌いじゃないが、たまにならこういう帰り道も悪くないだろう。




