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14.オルタナの三百年


「ところで三百年もオルタナ様はどちらにいらっしゃったんですの?」


自由奔放を体現したかのようなルシールの言葉に他四人も食いついて来た。給仕として控えていたぺテリウスも興味があるのかこちらを凝視してくるし、元婚約者殿も見つめてくる。


「別に……。ちょっと魔界に行ってただけだよ」

「「「魔界!!?」」」


え? そんな驚く?


「驚きますわ!? 魔界だなんて……!」

「どうして魔界に?」


ああ。まぁ、そう用事もないからね。


「さっき言ったように私は魔女となった時悪魔を取り込んだんだ。で、その悪魔ってのは変わり者ではあるけど実力はあったみたいでね。魔王候補に名を連ねていたんだよ」


エリスは私が取り込んでいたけど消滅した訳ではない。ただ私の中で大人しくしていただけ。偶に魔法についての談義をしたり魔界の事を勝手にしゃべったりしてた事はあったけど、特に害はなく過ごして来た。


そんなエリスが突然魔界に帰ると言い出したので送り出そうとしたのだけど、コイツ。


『オルタナも一緒に来て! もう七百年の付き合いでしょ!? 僕の事捨てるの!?』


クレアの復讐対象であるエリスを喰い殺そうとし、実際エリスはクレアに取り込まれ魔女オルタナが生まれた。クレアの魂が気に入ったエリスは反撃する事なく大人しく取り込まれたのは大好きなクレアの魂を間近で見つめ続けられるからだ。魂を気に入っていたエリスがオルタナを気に入るのもすぐの事。永遠の存在となったオルタナと共に居られる事に喜び、いつでも抜け出せるのに傍を離れなかった。


そんなエリスがずーんっと沈んだ表情をしてオルタナの前に現れた際に口にしたのが『魔界に戻らなくちゃいけなくなった』という事。なら帰れば? と返事をしたら返ってきたのがその言葉だ。駄々をこねる子供のように『一緒に来て! 僕を捨てないで!』そう訴え続けるエリスに根負けし、向かった魔界で行われていたのは次期魔王の選抜だった。


優秀な変わり者のエリスは次期魔王に最も近いと言われていたにも関わらず、人間界に向かい矮小な人間に取り込まれたおバカ悪魔と揶揄されていた。次期魔王を決めるレースからとっくに脱落していたと思われていたエリスだったが強さは健在。エリス自身に魔王に対する尊敬の念はあれど、自分が魔王に成ろうとは思っていなかったが実力は魔界でも三本の指に入る実力者だ。


強い者こそが魔王であるべき。


実力至上主義の魔界で当然の考えである。なので次期魔王を狙う魔族達はエリスを負かして自分こそが最強であると証明した上で魔王となる事を求めた。そんな中で魔王に眠りの兆候が見られ、エリスに魔界帰還命令が下されたのだ。戦いは好きであるが魔王の地位に興味はなく、何よりオルタナの傍を離れたくなかったエリスはオルタナを魔界に連れて行こうとしてそれにオルタナが折れた。というのが始まりだった。


「まさか三百年も留まる事になるとは思わなかったけどね」


そう。本当は一週間位で帰ってくるつもりだったんだ。だけど意外と時間がかかったのには理由がある。


「私の実力が上級魔族に匹敵している事が判明してね。魔族は強い者が好きだから私も魔王候補になってしまったのだよ」

「「「はい!!?」」」

「ならないって何度も言ってるのに……。先代の魔王も面白がって強制的に魔王決定戦に参戦する事になって……」


面白いってどこがだよ。魔王になんざなれるはずないだろうが。


そう訴えても笑って躱す魔王は全魔界に私が魔王候補になった事を通達した上で魔界の門という人間界と魔界を繋ぐ門を閉鎖してしまった。しかもただ閉鎖した訳ではなく、次期魔王が決定しない限り開く事が無いように魔法を掛けたのだ。魔界で最強の魔王の魔法を突破出来るのはそれを上回る者だけ。


「おかげで魔物の流出もその期間、ほとんどなかっただろ?」

「まぁ! そのような絡繰りがあったのですね! 確かにオルタナ様がお留守にされている間、目立った被害はありませんでしたわ」


フィオナは元平民で聖職者だっただけあって魔獣がもたらす被害にはここにいる中で一番敏感だ。魔女となり恐れられる側になってからも力の弱い者や老いた者幼い者には定期的に施しを与えている。そんな彼女だからこそ、この三百年間は比較的魔物の被害が低かったという事に気づいていたのだ。


まぁそんな訳で魔王候補になってしまった私はどうにかして辞退して人間界に帰ろうと奮闘した。エリスの野郎は『一緒に頑張ろうね♡』なんて言い出しやがって……!


そこからざっくり説明するなら百年かけて選抜が行われ、百年かけて引継ぎが行われ、百年かけて現魔王の補佐として働いた。そうして漸く人間界に帰ろうとしたならば。


『オルタナ! もうその体は魔界に馴染んじゃって人間界に帰ったら現地の生態系に影響が出てしまうよ。だからここでずっと一緒にいようね♡』


そう笑顔で告げてきたのは私を魔界に連れてきた張本人、エリスだった。キレたのは言うまでもない。因みに魔王は私もエリスも嫌がったのでエリスの過去の部下が就いた。泣いて喜んでいた彼にはおめでとうと祝いの言葉を贈っておいたよ。


魔王就任の儀が終わって帰ろうとしたら『帰らないで! 置いて行かないで下さいぃぃぃ!!』と懇願され仕方なしに補佐としてしばらく働いていたら気づけば百年。流石にもう十分だろうと思い帰ろうと門前に行けば追いかけてきたエリスが笑顔で告げてきた時には本気ギレ。選抜の時よりも真面目に怒ったのは仕方ない事だった。そのおかげで魔王となったヒューバートが出動し、何故か彼が一番の大怪我を負う事になった。そして怪我が癒えるまで再び補佐として働く羽目に……。因みにエリスも補佐として働いているんだけど正直魔王より魔王っぽい。私といる時とは違って魔族同士だとどうにも威圧的なんだよね、アイツ。


で、このまま帰る事が出来ないと知った私が取ったのが『転生』だ。


魂の器に選ばれた者や家族には申し訳ないが転生する事で肉体を離脱し人間界に戻る事が出来る。そこで私はせめて魔女となった十六歳までは普通の人間として生き、その後は再びオルタナとして生きる為に記憶と魔力を十六歳になるその日まで封印するように設定して肉体を離脱。エリスに邪魔されないよう、ヒューバートには足止めをお願いした。この機を逃すまいとサクッと肉体を離脱し魂だけの状態となり人間界に放ってもらい、一度輪廻の輪に入る。そこでは多くの死者の魂が転生する為、順番待ちをしていたのだが私の魂は悪魔寄りに変質していた事もあり天界からは嫌われた。転生出来ずに魂のままでもいいかと考えていた所、


『流産し掛かっている母体がいる。子供の魂は既に離脱させているからそれならすぐに準備可能だ』


というのでそこに入らせてもらった。向こうは厄介者がいなくなるし私は肉体が手に入ったという事でWINWINの関係だ。


そうして私は術を発動。既に命の無い胎児の肉体に入り込み生命活動を再開させる。幸いこの子の命が消えてからまだそれほど時間が経っていない事もあり、生命活動も安定していった。母体側も危険な状態であったが私が体内から母体を保護する事で一命を取り留めたのだ。


そして生まれたのがクレア・ヘインズである。


彼女の髪色、目の色はオルタナと同じ色味であった事には驚いたが千年同じ色で生きてきたのだからそれなりに愛着があった。見慣れない色の髪であったなら違和感満載だったろう。


生まれた時には既に普通の人間、クレア・ヘインズである。記憶も魔力も封印されている事から貴族令嬢としては母が亡くなる前までは普通の生活を送る事が出来た。母が亡くなったのは私が母体内にいる時に掛けた保護の効果が切れた事に関係するだろう。元からあの時、母となった女性は死んでいたはずだからだ。


そんなことは露知らず、奔放であったが母として認識していたクレアにとっては悲しい出来事だった。母には悪いが死んでいた筈が十年生き永らえたのだから、と今では思う。しかし当時のクレアには母の死は仕方なかったとは思えなかっただろう。


憐れなクレア。

肉体を乗っ取られ、母の愛情も父の愛情も受けられずに死んだクレアとなる筈だった魂よ。


憐れなクレア。

肉体を得る事は出来ても目の前の人間からは見向きもされなかった者よ。


オルタナ(わたし)がクレアを愛そう。オルタナ(わたし)がクレアを大切にするよ。


それが魂の器であるクレアへの贖罪。愛されるよう努力したであろうクレアから、愛されたいという欲求を無視して逃げたオルタナに出来る唯一の贖罪だから。


「記憶を封印していても本能と言うのかな。断片でも何でもないのにオルタナとしての感情が強く出てしまった。だから両親の不仲も気にも留めなかったし婚約者が出来てもあまり干渉しないようにしていたんだ。……別れる事がわかっている相手と深く関わろうと思わないから」


今なら分かる。ジェラルドにクレアは惹かれていたけど、封印された私が『こいつはダメだ』と訴えかけていた事を。妹がコイツに惚れた事を利用して無理矢理諦めた事を。クレアは全て諦め自分の力で生きる事を選んだ。クレア・シャーウッドが出来なかった事をクレア・ヘインズはしようとしたのだ。


「お前に対する気持ちも捨てた。ぺテリウスに帰してもらえ。そして二度とこの地に立ち入るな」


転がっているジェラルドを見下してそう告げると悲しそうな顔をしたが首を縦に振る事は無かった。


「それでも……私が愛しているのはクレアだけだ。魔女のオルタナになっても君が君である事に変わりはない。君が愛していなくても、私は君を愛している……!」

「思い続けるなら自由だとしても私がお前の気持ちに応える事は無い。時間の無駄だ。それより侯爵家の嫡男なら家の為に血を繋いだらどうだ。その方が実に有意義だろう」


私がこの先この男に心を許す事など出来ないだろう。千年経ったというのに、〝災禍の魔女〟と呼ばれようと、私は未だにあの時代に囚われている。


「まぁまぁ! それなら召使いとしておくのもいいのでは? 役に立たないのなら処分すればいいのですし、オルタナ様に仕えるというなら家も文句は言えないでしょう」

「あら! いいわねぇ! いらなくなったらわたくしが貰っても宜しくて?」

「おいおい、何を勝手な……」

「そうです。オルタナ様のお心は決まっておいでなのです。それよりオルタナ様。そのエリスという悪魔はどうなったのですか?」

「それ、わたしも気になってました。執着心が強そうですし、またオルタナ様のお近くにいらっしゃるのでしょうか?」

「……いたよ」


フィオナの問いに思わず鼻の上に皺が寄る。興味津々の魔女達には悪いが別にいい話でもないぞ。


「学園にいた。私は話した事、無かったけどね」


ちらりと横たわる元婚約者殿とセレストに繋がれた元聖女を見下ろす。二人は訳が分からないようで首を傾げている。まぁ、すぐ隣に悪魔がいたなんて思わないよなぁ……。


「司教の息子、名は忘れたがアイツが悪魔エリスだ。クソ女を諫める事をしなかったのも面白がっての事だろうよ」

「「「はい!!?」」」


どこの世界に教会関係者に憑依する悪魔がいるんだよ。


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