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●第一話 見つけたもの

「知ってる。でも、そんなことを言ってたら、いつまで経っても出てこないでしょ、陽奈は。私が出かける気分なんだから、今、つき合ってよ」


 女王様ですか、あなたは。


「悪いけど、花梨――」


 私が断ろうとすると、電話の向こうから、誰か別の男の声が交じって聞こえて来た。


「ねえ彼女、さっきも言ったけどさぁ、軽く稼げる美味しいバイトだよ。一回で一千万円も夢じゃないよ。話だけでも聞いてってよ」


 花梨は派手な格好で美人だから、ナンパもよくあるのだが……一千万円のバイトというだけで何だか不穏だ。


「って、さっきから何かの怪しいスカウトされてるんだけど、この話に乗ってみようか?」


「待ちなさい、花梨。今すぐ行くから、その話は断って、絶対相手にしちゃダメ」


「オッケー。じゃ、友達が絶対ダメって言ってるから無しで。この子の親戚に刑事さんがいるから、しつこくしてたら警察にしょっぴいてやるわよ?」


 花梨の気が変わらないうちにと、私は急いで渋谷へと向かった。


「おそーい」


 ふくれっ面をした花梨はカジュアルなミニスカートに、肩出しのピンクのセーターという出で立ちで、胸の谷間がこれでもかとばかりに強調されていた。そんな格好をしているから、変な虫が寄ってきたのだろう。私には逆立ちしたってできない大胆なファッションだ。


「ごめん。でも約束してなかったし、これでもかなり急いで来たんだけど」

「ならよし。許してあげる。あ、陽奈、クレープでも買って食べながら行く?」

「喫茶店かどこかに入ってなら食べるけど、その前に、花梨、何を見つけたか教えて」

「んー、大事なこと? 陽奈が私に感謝して崇め始めるのは間違いない! くらいの解決策ね」

「解決……?」


 話が見えない。だが、もしも……私が落ち込んでいることを解決しようとしてくれているのなら、それは友人としては嬉しいことだし、花梨もそれなりには気を遣ってくれているのだろうけど。


 だがそれは、はっきり言って迷惑だった。


「ま、いいからいいから、この花梨様に任せて、陽奈はついてくるだけでいいよ。別に合コンには連れて行かないからさあ」

「当たり前でしょ」


 去年の夏休みに一度、花梨から『街コン』などという不可解な場所に誘われ、一緒に行って辟易したことがあった。男女の出会いだけを求めて、見ず知らずの人間がグループで会うなど、私には正気の沙汰とは思えない。しかも相手は大学生ですらなかった。趣味も考え方も生き方も違うかもしれないのに、運命の出会いを信じられるほど私は無垢な少女ではない。


「あっ、見て、カガミコマチだ!」


 花梨が街頭の大画面テレビを指さす。そこには鏡心真知という少し変わった名前のアニメ風キャラが正面を向いて喋っていた。流行のヴァーチャルIチューバーのようだ。


「もー、聞いて、コマッチさー、実家に帰らなきゃいけなくなって。ちなみに、うちの実家はメイドさんがいるくらいチョー大金持ちなんだけどぉー」


「アハハ、絶対、話を盛ってるよね。メイドって」

「そうかも」


 アニメのお金持ちではよく見るメイドだが、実際に今時そんな家はあるのだろうか?


「そういえば、陽奈、昨日の心理学の講義、ノートは取ってある?」

「え? 取ってあるけど?」

「よし! 悪いけど、あとでコピーさせて」

「いいけど、花梨はサボりすぎじゃない? 何してたの?」

「ゲームしてました。あはー」

「大学生なのに、良いご身分ですね」

「うん。陽奈だって大学生なんだから、サボればいいよ。人間、誰だって調子の出ないときがあるんだし、そこで無理するより、楽に生きたいっしょ?」

「うーん、あとで困らなければね」

「はぁー、まあいいけど。陽奈はもうちょっと冒険しないと、レベルも経験値も上がらないよ?」

「ゲームより授業のほうが経験値が上がるんじゃない? リアルなら」

「ふふっ、なんか一本取られちゃったなぁ。あ、こっちこっち」


 スマホを片手で器用にいじりながら、花梨は雑居ビルの地下へと階段を降りていく。


「ねえ、ちょっと、花梨……待って。歩きスマホも危ないよ」


 どうもいかがわしい場所に連れていかれそうだったので、私は不安になった。


「大丈夫、大丈夫、ちょっとだけだし、タダの占い屋だから。お酒は無し」

「ならいいけど、占い……ねぇ」

「私がみてもらいたいから、付き合ってよ。いいでしょ、それくらい」

「はいはい」


 ここまで来て帰るのも馬鹿らしくなったので、私はその占いとやらに付き合ってやることにした。

 ――まさかそれで本当に運命が変わるとは、私も予想もしていなかったけれど。


 ドアを開けて入ると、そこは狭い待合室になっており、座り心地の良さそうなソファーが置かれていた。隣にはお洒落な観葉植物もあり、自然な色合いの室内はビルの外の殺伐とした雰囲気とはまるで違う。


「なんか、美容室みたいな感じねえ」


 花梨も中を見てそう言ったが、若い女性向けに合わせて考えられているのだろう。


「いらっしゃい。お二人様ですね。ここは予約制になっておりますが、よろしいでしょうか」


 ビジネススーツを着た青年が奥のドアから出てくるなり、爽やかな笑顔を見せた。随分と若く、私達とあまり年の変わらないように見える。とても占いをやっているような感じには見えないが、事務員の人だろうか?


「ああ、はい、予約してます。大河原花梨です」


「大河原様ですね、承っております。では、お二人ともどうぞ、中へ」


 案内されるまま、奥の部屋に入る。こちらはいかにもといったオカルト趣味の内装になっており、角の生えた動物の頭蓋骨や、不思議な紋様が描かれたタペストリーが壁のあちこちに飾られていた。


「では、そちらにお掛けください」


 奥側に彼がそのまま座り、漆黒のテーブルクロスが掛けられた机を挟んで向かい正面に私と花梨が座った。

 小さめの木の丸椅子だが、足の長さがそろっていないようで、少しグラグラする。私は転ばないよう、少し気をつけて腰掛けねばならなかった。


「では、今日は何を占いましょうか?」


 笑顔でそう言ってくるが、ビジネススーツの彼が占い師のようだ。ちょっと違和感を覚えてしまう。


「陽奈は何がいい?」


 花梨が聞いてくる。


「私は別に……」


 占いにはあまり興味が無い。


「もー、せっかく来たのにこれだもの、どうもすみません、じゃ、二人の恋愛運をお願いします」


「分かりました。ではこれからいくつか簡単な質問をしますから、適当にリラックスしてお答えください」


 彼は用箋ようせんばさみとシャーペンを取り出すと何かをそれに書き込んだ。

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