15.強大な力
「本日の勝者が決まりましたぁぁぁー!!!激しい戦いを制したのは正体不明の戦士、Mr.B!!!」
「うぉぉぉぉぉ!!よくやったぞおっさぁぁぁぁん!!!」
翌日、ベリオットは再び闘技場で槍を振るっていた。
その光景を今日も上から眺め、グレコ達は笑みを浮かべる。
「あのジジイ本当ギャンブルの才能に溢れてやがるな。自分では上手いと思ってるんだろうが、昨日借金を返したってのに今日もまた闘技場にいるなんて相当の馬鹿だ。というか何なんだあの名前。」
「ランちゃんに賭場禁じられてるのもすぐ全財産無くすからだもんね♪それで?どうやって殺すの?」
「それはもう俺がこの手で叩き殺す以外ないだろ。お前はここで見とけ。これは俺の復讐だ。」
闘技場上の個室でそう語り、グレコは剣を握る。
復讐をするなら自分の手で。
それが世間の常識であろう。
グレコは一人階段を降り、闘技場へと向かった。
「ニューチャァァレンジャァァァ!!!ここでMr.Bに挑戦者です!」
「挑戦者ぁ?何だ俺は勝負に勝ったっていうのに何やらせるつもりだ!」
闘技場の真ん中に立つベリオットが酷く不満そうな顔で空に怒り散らす。
最もな話だ。
彼が戦うのはあくまで金の為。
ただ挑戦者と言われて沸き立つほど戦いたいわけではない。
だからさっさと前に出て、付加価値をつけてやろう。
グレコはそう思いつつ、前に出る。
「久しぶりだなベリオット。俺がその挑戦者だ。」
「グレコ……?お前さん何でこんなところに……。」
こちらと目を合わせ困惑するベリオット。
こうしてこの男と目を合わせるのは久々だ。
クエストに出ても前線にいるのはランベリーばかりで、ベリオットとは追放されて以来会っていない。
顔に刻まれた皺と、筋骨隆々とした肉体。
老いと強きが混在したこの男の顔を見ると、昂りが抑えきれない。
「俺は今この闘技場で支配人をしているんだ。そう、お前らに復讐するためにな。」
「復讐……。ランベリーから聞いてはいるがまさか奈落とはなぁ……。それで?俺を借金づけにして闘技場にぶち込んで、そこからどうする気だ?俺は無駄な戦いはしない主義だぞ。」
酷く冷静な口調。
ランベリーのように怒りに震えることもなく、ただ目の前の敵に立ち向かう姿勢を見せベリオットは槍を握る力を強くする。
この男が勇者パーティにいるのは金と名誉のため。
世界平和がどうの、正義がどうのという理想ははなから抱えていない。
金と名誉のために全てを捨て、思うがままに戦う老人。
それがベリオット・カイズナーだ。
「俺もお前とただの決闘なんてするつもりはないさ。俺とお前の大好きなギャンブルをしよう。それなら戦う意味があるだろ。」
「ギャンブルだぁ?一応ランベリーからお前さんには気をつけろって言われてんだ。金がいくら稼げても誘いにはのらねぇぞ。」
「そうだろうな。だから賭けるものは金じゃない、俺とお前のスキルだ。ルネ!」
グレコは大きく声をあげ、闘技場の入場口に手を振る。
しばらくして、そこから一人の老婆が杖をつきながら現れた。
「人を呼びつけておいて偉そうな男だねぇ……。わざわざ来てやったんだ、早く終わらせな。」
「うるせぇババアだな……。早く終わらせて欲しいならさっさとお前のスキルを発動させろ。」
不満げなルネを軽くあしらい、命令する。
この老婆とは明確な契約関係だ。
さっさと仕事をしてもらわねば。
ルネの方もグレコの命令に従い、以前持っていた天秤を地面に置く。
「あたしの能力は些か面倒でね。この天秤に二人が触れることでありとあらゆる【契約】を行うことが出来る。それが例えスキルの譲渡とかいう無茶苦茶な条件であってもね。」
「これで『一騎討ちに負けた方が自分のスキルを奪われる』という契約を結ぶんだ。俺からすればお前の【蓄積】を無効化できるし、お前からしても俺の【掌握】を無効化できれば御の字だろ。」
端的にルネのスキルと試合の内容を説明する。
【契約】
ルネの持つこのスキルは彼女がいう通りかなり特殊なものである。
自身の体に何らかの作用を及ぼすものが多いスキルにおいて、このスキルは自分に何一つ効果を及ぼさない。
揺るぐことがない契約を成立させ実現できる。
ルネが『魔女』だとか『奈落の管理人』だとか言われているのもこの力のお陰だ。
ここまでの説明を聞き、ベリオットは深く思案しているようだった。
いくら正義に燃えていないからといって、グレコを倒したいという気持ちはあるはず。
単にグレコ本人を殺すのもありだが、【掌握】を奪えるとなれば話は別。
この力はグレコが持っているから危険なのであって、勇者パーティの元で正当に行使されればこれ以上ないほど強力になる。
最もベリオット個人の性格を考えれば、違う使い方をするのだろうが。
「いいだろう、その条件で話に乗ってやる。【掌握】とお前の首をランベリーへの手土産にしてやらぁ。」
ベリオットが煙草で黄ばんだ歯を見せつつ、天秤に手を乗せる。
ついにやってきた復讐の時。
グレコも意気揚々と天秤へ手を乗せる。
「これで契約成立だね。公正なる秤の元に、契約を果たしな。」
ルネの台詞と共に二人の手首に透明な輪がかけられる。
さぁ、試合開始だ。
「そもそも俺に勝てると思っているのが間違いだ、グレコ!」
「そうかもなぁ!クソジジイ!」
「「うぉぉぉぉぉ!!!!殺せ!ボコボコにしろぉ!!!」」
湧き上がる観客に囲まれ、二人は剣と槍を交える。
ルネが出てきた間は少し困惑していたが、戦いが始まれば盛り上がるのが闘技場だ。
熱気は汗に変わり、グレコの額を伝う。
「こうして戦っていると思い出すなぁ、お前に剣を教えていた日々のことを。あの頃は弱かったが中々強くなったじゃねぇか!」
「あの頃からお前の上から目線にはうんざりだよ!とっととくたばれクソジジイ!」
グレコは魔王討伐に出向く前のことはほとんど覚えていない。
覚えているのはランベリーと共に村を後にしてからのこと。
訪れた大国、ベンディアの騎士であったベリオットと出会ったのもそれからのことだ。
ベリオットは、当時【掌握】を使うばかりでろくに戦えなかったグレコを鍛え上げてくれた。
グレコが剣術をある程度使えるのは、紛れもなく目の前の男のお陰である。
「俺はなぁ!ベンディアが滅んでから、この手に残っていたもの全てを捨てて魔王討伐に乗り出したんだ。
ただ全てを手に入れるためだけにな!お前ごときに負けるわけがないんだよ!」
「これから死ぬやつの昔話なんて知ったこっちゃねぇ!お前がこれまでに何をやってようと、お前は俺の地位を下げた!勝つとか負けるとかいう話じゃねぇ!俺はお前を殺すんだよ!」
目を血走らせながら、グレコは地面に手を触れる。
ベンディアが滅んだことも、ベリオットが家族を捨てて旅に出たことも。
そんなことはどうでもいい。
ただこいつを殺すだけ。
グレコはそんな覚悟を持って辺りを【掌握】する。
(闘技場の中に使えるものはない……。使うなら『外』だな。)
闘技場はできる限り公平な戦いを行うために無駄な要素を排除した作りになっている。
奈落のスラム街や高原のように使えるものはない。
グレコはベリオットの攻撃を寸前で交わしながら、口笛を吹く。
それを聞いてやってくる小鳥達。
こういう畜生を活用するのも【掌握】を使う上で重要なことである。
「相変わらず、姑息な野郎だな!だがこの程度、手数にすらならんぞ!」
「そんなことは知ってるんだよジジイ!こいつらは手数じゃねぇ、決定打だ。」
【掌握】で操作された小鳥達がベリオットを取り囲み、彼の巨槍によって貫かれていく。
ベリオットも学習能力のないやつだ。
グレコの本意に気づきもせず、こちらへ突撃してくる。
痺れを切らして突っ込んできたのだろうが、その体はグレコに辿り着くより早く地面に倒れてしまった。
「これは……また毒かっ!」
「鳥の良いところは直ぐに呼べて数が多いだけじゃない。そこらを飛んでる鳥なんて不衛生の塊なんだ、そんな奴らにたかられたら大体の人間はくたばるんだよ。まして俺の【掌握】にかかればな。」
【掌握】で操作した鳥は、自由に動かせるだけでない。
体に溜まった雑菌や汚れを自由に移動させ、嘴に集中させることすらも可能。
鳥のように知性が低い生物は、一度操作してしまえばありとあらゆることまで操作できる。
そこが最大の魅力なのだ。
体の汚い要素を嘴に集中させた鳥にたかられたベリオットは、例え全ての鳥を倒したとしても口元や肺にダメージを受けることになったのである。
だが所詮は一時凌ぎ。
ベリオットはゆっくりと立ち上がり、怒りに満ちた表情でグレコを睨んでくる。
「これぐらいのダメージ、苦にもならん。俺の【蓄積】の糧となるだけだ。」
ベリオットが【蓄積】の話をしたときは本気を出した時だ。
グレコ視点でも分かるほどに筋肉が増強され、体型が変化している。
間違いない、問答無用で殺す気だ。
「ここでくたばれグレコ!お前に復讐などさせてやる気は毛頭ない!」
重々しい槍が振われ、その一発一発を剣で受けるたびに腕が痺れる。
力も、技術も、戦闘の経験も。
知略の全てがねじ伏せられ、グレコの体は地面に叩きつけられる。
首筋に沿って当てられる槍。
グレコはゆっくりと目を閉じる。
「これで終いだ、グレコ。」




