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魔法世界の名探偵  作者: 敷座武雄
第四章 第一王女誘拐事件
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第十四話 秘密

「マーサ・ハートと申します。王城付きのメイドとして、普段は城内の……あの、城内といっても外側の塔の掃除をしています」


 メイド長の次に現れたマーサ・ハートは小柄な身体をさらに小さくして、捜査室の椅子に座った。

 緊張しているのか、しきりに髪の毛を弄りながら仁を上目づかいで見つめている。

 先ほどまで尋問していた二人との差に戸惑いつつも、仁は質問を始めた。


「ハートさんは普段はどのような仕事をしていますか?」


 簡単な質問から入ったつもりだったが、彼女は椅子の上でびくっと跳ねた。


「あ、あのっ。私は城内の掃除をしていて。ですが、あの、事件の日は、体調が悪くてっ」

「お、落ち着いてください。そんなに焦らなくて大丈夫です。自分のペースで話してくださって大丈夫ですから」


 あまりの緊張ぶりをアリシアがなだめようとしたが、彼女もあまり経験がないようで二人であたふたしている。

 とりあえず、仁は二人が落ち着くのを待つことにした。


「それで、仕事は城内の掃除ということですが、担当場所はどこですか?」


 マーサ・ハートが落ち着いてきて、アリシアが再びメモを取る体勢に戻ったところで、仁は質問を再開した。


「は、はい。私は近衛騎士の皆様が住んでおられる塔の厨房や浴槽などの清掃を行なっております。普段はアナさんと一緒にお仕事をするんですが、事件の日、私は体調を崩してしまって、それで自分の部屋で休んでたんです」

「自分の部屋というのは、城内のメイド用の部屋ですか?」

「はい、そうです」


 彼女の答えに頷いて、仁は次の質問を発した。


「メイド用の部屋があるところは城内の回廊に面していますが、事件のあった午後3時ごろに人の行き来はありましたか?」

「人の行き来と言われましても……私の部屋から回廊は見えません。ただ、午前中は掃除の音などもしますが、午後は静かでした」


 あまりに素直な答えに、仁は思わず頭を掻きむしった。

 自分にアリバイがないからここに呼ばれているのに、自分が疑われているとは思っていないようだ。それとも惚けているのか。

 前者だとは思ったし、彼女を疑っているわけではなかったが、ある点ははっきりさせておきたかった。


「犯行時刻にメイドの部屋から誰にも見られずに『薔薇の庭』まで行くことは可能だと思いますか?」


 そう言われてようやく自分への疑いに気付いたのだろう、マーサ・ハートは目を見開き、ガタガタと震え始めた。


「ち、違います! 私は! 殿下にそのようなことなど!」

「いや、やったかどうかではなくて。ええと、できたかどうかなんですが」

「違います! 私ではありません!」

「捜査官!」


 アリシアが仁を一喝した。そのまま仁の間近に顔を寄せる。


「ハートさんが怯えています。質問の仕方を考えてください」

「わ、分かった。分かりました。はい」


 アリシアの迫力に、仁はタジタジになって返事をした。

 二人のあべこべな様子をマーサ・ハートがぽかんと見つめている。

 はあ、とため息をついて、仁は質問を変えた。


「犯行時刻に『薔薇の庭』から誰にも見られずにキャサリン殿下を連れ出すとしたら、どこまで遠くに連れて行けると思いますか?」

「どこまで、ですか?」

「はい。例えば、メイドの部屋までは行けるでしょうか? あるいは、反対側にある厨房付近には行けるでしょうか?」

「でも、厨房には奥様がいらしたと聞いておりますが」

「ああ、そのことは今は考えなくていいです」


 彼女は仁の質問に首を捻っていたが、やがて難しい顔をしながら話し始めた。


「私達の部屋までは……来れると思います。厨房はあの時間帯ですと、夕食の準備もあります。その手前までは行けると思いますが」


 彼女の答えに仁は満足そうに頷いた。


「分かりました。これで尋問は終わりです。ありがとうございました」


 仁がそう言うと、マーサ・ハートは再びぽかんとした表情を見せた。



「アナ・バリーと申します。王城付きのメイドで、普段はマーサと共に王城の外側の塔の清掃をしています」


 マーサ・ハートの次に現れたのは赤毛を短く刈った女性だった。大人びているが、どこか親しみやすい雰囲気がある。

 特に気負うこともなく椅子に座ったが、少し仁を睨むような目を見せた。


「……何か?」

「マーサに厳しいことは言いませんでしたか?」


 思わず仁は言葉に詰まった。


「……言ってませんよ?」

「言いましたよ」


 ごまかそうとした仁だが、アリシアにすぐに否定されて頭を抱えた。

 彼女への尋問が上手くいかなくなったらどうするんだ、とアリシアを睨むが、彼女に逆に睨み返される。

 アナ・バリーはそんな二人を変わらずに厳しい顔で見ていたが、軽く咳払いをした。


「マーサに言ったことは取りあえず置いておきましょう。捜査上必要だったことかもしれません。ですが、あの子はまだ新人ですし、気が弱いところがあります。次からは気を付けていただけますか?」

「分かりました」


 彼女の言葉に素直に頷いて、仁は尋問を始めた。


「マーサさんは普段、あなたと共に近衛騎士団の住む塔の清掃を行なっていたということですが、二人だけで全部の清掃を行なっているのですか?」

「いえ、私たちの他にも八人のメイドが近衛騎士団の塔の清掃を担当しています。ただ、それぞれの担当場所の清掃を二人一組で行なっています」

「事件当日はマーサさんが休んでいましたが、一人で清掃をしていたんですか?」


 仁の確認に、彼女は小さく頷いた。


「時間は多少かかりますが、一人でもできないほど広い場所を清掃するわけではありませんから」


 その答えに仁は頭を掻きながら考えをまとめる。横目でアリシアのメモが終わるのを待って、仁は次の質問を放った。


「もしあなたが仕事場所から抜け出すとしたら、他のメイドに見つからずに塔から出ることはできますか?」


 その質問にアナ・バリーはしばし目を丸くしていたが、やがてため息を吐いた。


「マーサにもその質問を?」

「……ええ、しました」


 一瞬躊躇したが、仁は正直に答える。

 その答えに彼女は再びため息を吐いた。


「そんなことを言われたら、あの子が怖がってしまいますよ……私については、同僚に見つからずに塔を出ることはできるでしょう。ただ、塔のすぐ外で近衛騎士団が野外訓練をしています。もちろん一人で訓練できる場所もありますが、対人訓練をしている騎士団には見つかってしまうでしょう」

「近衛騎士団の野外訓練は、ほぼ毎日ですか?」

「はい。雨の日などに行なっていることもあります」


 淀みない答えに仁は唸った。もし証言通りだとしたら、アリバイがないとはいえアナ・バリーが犯行現場に行くことはほぼ不可能だと考えていい。

 もっとも、彼女がまったく違う場所、「薔薇の庭」の近くにいた可能性もある。

 最後に、仁はマーサ・ハートにもした質問をぶつけてみた。


「犯行時刻に『薔薇の庭』から誰にも見られずにキャサリン殿下を連れ出すとしたら、どこまで遠くに連れて行けると思いますか?」

「時計回りに東に向かえばメイドの部屋があるところ、反対に西に行けば厨房までかと。回廊を下りて外に出てしまうと、警備兵に見つかると思いますから、大回りすることは難しいでしょう」

「裏門に行くことも難しいですか?」

「間違いなく途中で警備兵に見つかります」


 彼女の答えは、マーサ・ハートの答えを補強するものだったが、やはり城外に連れ出すのは難しいという回答だった。

 アリシアが仁にどうしますか、という視線を送っているのを見て、仁はアナ・バリーに告げた。


「これで尋問は終わりです。ありがとうございました」



「アリシア、ちょっといいかな?」


 最後のアルバート・ヒーリーを呼ぶ前に、仁はアリシアと話をすることにした。


「なんでしょう?」

「もしかしたら、アルバート・ヒーリーの尋問の中である秘密が明かされるかもしれない」

「ある秘密……というと、捜査官が黙っていたことと、関係があるんですか?」

「うん。最悪、陛下に口封じされるかもしれないから、気をつけておいて」


 仁の言葉にアリシアは絶句した。何をすれば国王陛下が自分達を害するのだろう。

 立ち尽くすアリシアをよそに、仁は軽い調子で続けた。


「まあ、たぶん大丈夫だと思うんだけど、一応ね」



「アルバート・ヒーリー。近衛騎士団に所属しています」


 最後に二人の前に現れたアルバート・ヒーリーは金髪で長身の男だった。

 整った顔立ちだがまだ幼さが残っており、背の高さがなければ少年のような印象を与える。

 仁の隣では、アリシアが緊張した面持ちでメモを取っている。

 先ほどのことを考えているのだろうか、と思いながら仁は質問を始めた。


「アルバートさんは近衛騎士とのことですが、普段は誰の護衛をしているんですか?」

「主にローレンス殿下の警護に当たっております。ただ、他の近衛騎士に穴が空いた場合は代わりに入ることもあります」


 少しの緊張を見せながらもハキハキと答えるアルバートに仁は次の質問をぶつける。


「殿下の護衛は毎日というわけではありませんよね? 非番の日は何を?」

「はい。非番の日には野外や屋内での訓練、時には休暇をいただいて街に出ることもあります」


 その答えに仁は軽く頷いて、事件当日の質問に入る。


「事件当日、あなたは屋内の訓練所に一人でいたということですが、訓練所から抜け出して誰にも見つからずに『薔薇の庭』まで行くことはできますか?」


 仁の質問に、アルバートの顔がこわばった。


「俺は……いえ、私はそんなことはしていません」

「ええ。ですが、やろうとすればできるかどうか、を聞きたいのです」


 仁が食い下がると、アルバートは少し考える様子を見せたが、やがてわずかに笑みを浮かべて答えた。


「訓練所は近衛騎士団の塔にあります。休んでいる誰かに見つかるでしょうし、そこをやりすごしても屋外で訓練をしている先輩たちの目をごまかすのは難しいでしょう」


 彼の答えは、アナ・バリーのものとほとんど変わらなかった。

 仁は、さらに質問を重ねる。


「犯行時刻に誰にも見られずに『薔薇の庭』からキャサリン殿下を表門か裏門に連れて行くことはできますか?」


 その質問に、アリシアは少し違和感を抱いた。

 メイドの二人には「どこまで行けるか」という問いだったのに、アルバートに対しては王城から出る方法を聞いているように思えたのだ。

 しかし、アルバートは何かを警戒するように、表情を固くした。


「不可能です。表門、裏門のどちらに行くにしても、回廊の外を巡回する警備兵に見つかってしまいます」


 そう言うと、それきりアルバートは沈黙した。何かが漏れ出すことを恐れているように口をきつく結んでいる。

 仁はそんな彼を何も言わずに見つめていた。その視線に気圧されたようにアルバートが身じろぎする。

 次の瞬間、仁がアルバートに決定的な一撃を放った。


「では、表門も裏門も使わずに・・・・キャサリン殿下を城外に連れ出す方法を答えてください」


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