解決編
翌日、二人は昨日と同じくらいの時刻に同じ中央広場にいた。
とはいってもその目的は昨日とは全く異なる。
消えたスリの謎の解決と、そのスリの確保だ。
さすがにどのタイミングでスリが現れるかまでは分からないので、二人は昼食抜きで待機中である。
「そろそろ現れると思うんだが……」
「いつ例のスリが現れるかなんて分かるんですか?」
「いや、あまり昼食時から時間がはずれると人が減るからね。だからそろそろ出てこないとなると、今日は外れなんだけど……」
仁がそう呟いた瞬間、目の前を赤いマントが物凄いスピードで掠めた。次の瞬間、
「スリだあっ!」
という叫び声が上がる。
二人は真っ先に赤いマントと赤い帽子をかぶったスリを追いかける。
スリは昨日と同じ路地に飛び込んだ。近くにいる男が先頭に立ってスリを追いかける。
仁とアリシアも集団の中に混じってスリを追う。
昨日とまったく同じ追跡劇の再現だった。
スリは枝分かれには目もくれずに突き当たりを左に曲がる。
追跡する仁たちもそれを追う。
さらに次の曲がり角で左に折れる。
仁たちが曲がり角を折れると、赤い帽子と赤いマントが突き当たりを左に曲がるのがちらりと見えた。
「畜生! 追いつけねえっ! なんて脚の速さだ!」
そう言いながらも先頭の男は駆け続ける。
ところが仁は最初に現れた右の枝分かれに跳びこむなり、奥のゴミや木箱を漁り始めた。
「な、なにやってるんですか捜査か……んっ!」
思わず大声で制止しようとしたアリシアの口を、仁は持っていたハンカチで塞ぐ。
「静かに。ここはどうやら外れだったらしい」
「外れ? 一体どういう……?」
二人がそんな会話を交わしていると、追っていた男たちが「くそっ、また逃げられた」と口々に罵り合いながら、路地を戻っていく姿が目に入った。
仁は素早くアリシアを引き寄せ、男たちに見つからないように奥に潜む。
「ちょっと、捜査官、こんなところで何を……」
「だから静かに。もう少し待ってれば奴が顔を出す」
「えっ……」
男たちが路地を出ていったのを確認した仁は慎重に顔を出し、路地を確認する。
しばらくするとガサリ、という音と共に、枝分かれのどこかで誰かが動く気配がした。
「アリシア。取り押さえのために魔法の準備」
「は、はいっ」
緊迫した仁の表情に飲み込まれながらも、アリシアは固有魔法「氷弾」を装填し、相手が現れるのを待つ。
やがて右側の枝分かれの一番奥から、青い薄汚れたジャケットを着た茶髪の少年が顔を出した。
次の瞬間、仁が枝分かれから飛び出し、少年に突進する。
「なっ」
一瞬驚いた少年は、しかしすぐに路地に散らばってるゴミをいくつも浮遊させ、そのまま仁に叩きつける。
ゴミの中に何か固い物があったのか、仁が声にならない呻き声を上げてうずくまる。
しかし、仁はすぐにアリシアの方を振り向いて叫んだ。
「取り押さえろ、アリシア!」
その言葉にアリシアは、最大限の八発の氷弾を余すことなく少年に向けて叩きこむ。
仁に魔法を使った直後の少年にはそれを受け止める術がなかった。
全弾をまともに食らい路地の曲がり角に叩きつけられる。
今度は少年が呻き声を上げ、そのまま路地にずるりと崩れ落ちた。
「……いや、あそこまでやれとは言ってないんだが」
「すみません。でも私の魔法は攻撃特化ですし、捜査官が怪我をされたので、つい……」
少年に近づきながらそう言った仁に、アリシアは少し顔を赤らめ、俯いて口ごもった。
そんなアリシアを見ながら仁は真面目に考えた。あの魔法は「念動」だと思うが、当たり所や物が悪ければ大変なことになっていた。
これからもこんなことが頻繁に起こるようなら、自分も魔法使いとの戦闘で怪我をしないように何か鍛えた方がいいのかもしれない、と。
「……それにしても、この少年が例のスリなんですか? 大分服装が違いますが」
「あれは今は河原にゴミにまぎれて落ちているはずさ、そうだろう?」
「……えっ?」
「俺達が最後の曲がり角の所で見たのは赤い帽子とマントだけだ。実はあの二つはこいつの固有魔法『念動』によって操作されてたんだよ。こいつはずっとこの枝分かれに潜んで、赤帽子とマントを『念動』で動かし、俺たちの視界から消えたところで、そこの壁を越えさせて河原に落としたってわけだ」
「……なんで、気付いたんだよ」
絞り出すような声が、俯いたままの少年の口から零れ落ちた。
「そりゃあ、赤帽子と赤マントだな。普通スリなんて、逃げるために極力目立たないような服装をするもんだ。あんな目立つ服装をするのは、どこかで追いかける人間の目を欺くためと考えるのが自然だ。そう考えると、この枝分かれと曲がり角の多い路地は理想的な場所だからな。どこかの枝分かれに入って追いかける人間の目をくらませようとしたんだろうって考えたわけだ」
「なるほど。昨日捜査官が『目立つから見逃すし、見落とす』と言っていたのはそういう意味だったんですね」
「そう、一部があまりに目立つからそこだけしか見えなくなって、全体を見落としてしまうんだ」
そんな会話を交わしていると、目の前の少年が突然震えだした。
突然の変化に戸惑う仁に、突然少年は頭を仁の方を向き、地面に頭を擦り付けた。
「わ、悪い! 頼むから、今回は見逃してくれ! あんた、捜査官ってことは、警察かなんかの人間なんだろ! 無理だってのは分かってるんだけど、でも……頼む! 今回だけは!」
「いや、見逃してくれって言われても……」
何回もやっておいて見逃してくれ、と言う少年に戸惑う仁の横でアリシアが冷酷な宣告を下す。
「とても容認できません。本来、学生以下における魔法使用というのは、卒業し、成人となって以降の精神に著しく影響を与えるため、その使用が厳しく制限されています。各家庭における補助的な魔道具の使用や魔法学校における修練・実験等以外は特別な許可が必要です」
「……そうなの? 全然知らなかった……」
「私の魔法だって、学外実践演習の一環ということで特別に許可を与えられています。それについても、捜査官の護衛以外の部分では、捜査官の指定時以外では使ってはいけないことになっています」
そういえば襲われた時と俺が準備を指示した時、それと俺が頼んで見せてもらった時以外でアリシアが「氷弾」を使ったことはなかったな、と仁は気付く。
「あなた、魔法学校所属ですか? そうであれば退学は免れませんし、どちらにしても魔法使いの犯罪として魔法警察に引き渡さなければなりません」
「待って、待ってくれよ! 姉ちゃんが、姉ちゃんがいるんだ! 俺にはこれしかないんだ! 魔法学校に行く金なんか家にあるわけない! だから頼む! 見逃してくれよ!」
「いけません、そういうところに『黒薔薇騎士団』の手が伸びてくると、魔法警察でも警戒しているのです」
あくまで事務的にことを進めようとするアリシアに必死で泣きつく少年を見ていると、仁はだんだん可哀そうになってきた。
どうやら余程金に困っているようだし、なんらかの事情があるらしい。
「あー、アリシア? ここはとりあえず、この子の事情ってのをちょっと聞いてみた方がいいんじゃないか? あんまり事務的に進め過ぎても良くないぞ?」
「しかし……」
「捜査官命令」
「くっ!……分かりました」
「あ、ありがとう! おっさん、あんた、いい人だな!」
「お、おっさ……!」
おっさん呼ばわりに仁は絶句した。こいつ、今すぐ魔法警察のゲーリング警部あたりに引き渡してやろうか、とドス黒い感情が過ぎる。
仁は必死で心を落ち着け、優しく少年に声をかける。
「ま、まあとにかく、この狭い路地でもなんだ、どこかで事情の説明をしてほしいんだが……」
「……それなら、俺の家に来てくれないか。説明するなら、それが一番手っ取り早いから」
少年の家は、王都南東部の低収入層の家の中でも、さらに治安が良くないと言われるところだった。
「王都にもこんなところがあるんだな……」
「王都南東部は夢を見て破れた者が集う場所、と呼ばれています。実際、このあたりはスラムと紙一重です。気を付けてください」
特別捜査局の二人がそんな会話を交わしていると、少年が魔法鍵を取りだし、魔法錠を開ける。
「ただいま、姉ちゃん」
「おかえり、ティム。また無茶なこと、しなかったでしょうね?……そちらの方は? お客さん?」
「そんなことするわけないだろ。とにかく、姉ちゃんはゆっくり休んでなよ。この二人は……ええっと」
「ジン・オーツカといいます。こっちはアリシア・コール」
アリシアの機先を制して仁は自己紹介を行なった。特別捜査局の名を出すのはまずい、と直感的に思ったのだ。
「あらあら、すみません。こんな汚い所で……コホッ、ケホッ」
「だから! 姉ちゃんは寝てろって!」
「はいはい。分かりました」
そう言うと、彼女はベッドの上に横になった。
「じゃあ俺、昼飯作るからさ。二人とも、ちょっと手伝ってくれないか?」
「分かった」
戸惑うアリシアをよそに仁は頷いた。姉には聞かせたくない、ということなのだろう。
しばらく、手際良く昼食のサラダとパンを作るティムを、二人はただ眺めているだけだった。
「姉ちゃんさ、元々身体が弱いんだ。空気のきれいな所でしっかり養生させればすぐに良くなるって医者は言ってたけど、そんな金どこにもないしさ」
「そんなこと言っても、こんな汚い場所じゃますます身体が悪くなるでしょう。どこかに引っ越さないの?」
「魔法学校に入学する金もないのに、そんな金どこから出すんだよ」
ティムの答えに、アリシアは唇を噛む。代わりに仁がアリシアに質問した。
「奨学金制度みたいなのはないのか? 優秀な生徒には入学料や授業料が免除される制度」
「あるにはあります。が、そういう制度を受けるほど才能に恵まれているのは大抵大貴族で……」
「それに俺が魔法学校に奨学金付きで通えたとして、姉ちゃんはどうするんだよ。金もないし、一人でこの汚くて危なっかしい場所に置いておけるわけないだろ」
「だからって今みたいなその日暮らし以下のスリ生活でどうにかなると思ってるわけでもないだろ?」
「分かってるよ、そんなのは分かってる。分かってるんだ……」
仁の問いかけに、ティムは俯きながらそう絞り出すように答えるだけだった。
「はじめまして。レイチェル・ブライルと申します。こんな格好で失礼します」
昼食の準備がもう少しで終わるというところで、二人は姉の方とも話をしてみることにした。
ティムと同じ茶色い髪は非常に綺麗で茶色の瞳は優しい色をたたえている。整った顔立ちをしているが、肌は病的に青白く、あまり日光に当たってないように見える。
「ティムのお友達としては随分年上に見えますが……あの、ティムとはどういう関係で?」
「え!? それは、えーと……」
まさか犯罪者とそれを捕まえた捜査官です、と言うわけにもいかず、仁とアリシアは二人して目を泳がせる。
そんな二人をしばらく微笑んで見ていたレイチェルは、やがてゆっくりと頭を下げた。
「ティムのこと、よろしくお願いします」
「え! お願いって、あの、その……」
突然の言葉に慌てるアリシアに構わず、レイチェルは話を続ける。
「あの子は私にああ言ってますけど、きっと良くない方法でお金を稼いでるに違いありません。あの子が私……いえ、家族に責任を感じているのは分かるのですが、そのために人の道を外れてしまっては……」
「責任、というのはどういうことですか? 私は彼から詳しい話を聞いてないのですが」
仁の質問にレイチェルはうなずくと、ケホ、と小さくせき込んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「私たちの母親はあの子を産んですぐに亡くなりました。ティム自身は丈夫で、その上『タレント』という幸運にも恵まれましたが、それが父にはまるで、母の生命を奪ったもののように見えたのでしょう。ことあるごとにお前のせいであいつが死んだ、とティムに当たり散らし、ついには身体の弱い私の面倒やティムから逃れるように女を作り、王都を飛び出し……」
「……そんな、理不尽にも程があります。もし『タレント』で生命力が奪われるなら、子だくさんの貴族などはとっくに衰弱死しています」
怒りを堪えるようにアリシアが吐き捨てるが、その怒りすら包むようにレイチェルは柔らかく笑った。どこか諦めたような表情だった。
「一般人に対する魔法使いの認識というのはその程度なのです。父親にそう言われ続けたせいか、ティムは私の看病は自分がしなければならない、自分が側にいなければならない、と思い続けているようです。そして悪いことに、そうするより他に私たちが生活する方法はない、というのが現状なのです……」
レイチェルの話が終わり、部屋を沈黙が包む。ケホッ、コホッ、というレイチェルの咳の音に、アリシアはいたたまれないような気持ちになって俯いた。
しかし、一方で仁は鋭い目付きをし、宙の一点を睨んでいた。
そんな中、昼食を作り終えたティムが部屋にやってきた。
「はい姉ちゃん、昼飯。それからあんたたちも、昼食ってないんだろ。少し食ってけよ、味は保証するから」
「ティム。年上の人に、そんな言い方しないの」
「……どうぞ、食べていってください。量は十分ありますし、味も悪くないと思います」
姉にたしなめられたティムは、渋々ながらもそう言い直して二人に昼食をすすめた。
昼食はシンプルなサンドイッチだったが、確かにおいしかった。
「それでは、失礼します。おもてなし、ありがとうございました」
仁がそう言うと、レイチェルは微笑んで頷き、ティムは痛みを堪えるような顔をしてドアを閉めた。
アリシアは複雑な思いを抱えながら歩き始めた。
魔法使いの犯罪者は見付け次第、魔法警察に引き渡す。それが鉄則だ。そうでなければ「黒薔薇騎士団」を取り逃しかねないし、未来の「黒薔薇」の芽を未然に摘むという側面もある。
しかし、あの二人の生活を見てしまったアリシアは、その鉄則に従っていいのか、分からなくなってしまった。
といって彼を見逃したとしてどうなるだろう。
早晩カラクリを暴かれて魔法警察に捕まるか、「黒薔薇騎士団」の手の者に勧誘されるか。どちらにしても暗い未来しか想像できない。
「さて、アリシア。この事件を解決するためには何が必要だ?」
「えっ?」
ぐるぐるとそんな思いに沈み込んでいたアリシアは、仁の突然の言葉にびっくりして飛び上がった。
そんな彼女を不思議そうに見ていた仁が、再度問いかける。
「もう一回言うぞ。この事件を解決するのに必要なことは何だ?」
「あの少年を魔法警察に引き渡すこと……では、ないんですよね」
「もちろん。それじゃ不幸な女性が一人増えるだけだ」
アリシアにもそれは分かる。だからこそ、彼の解決が聞きたかった。
「では、捜査官はどうすればいいと?」
「解決しないといけないことは二つだ。一つ目は、あのティムって少年を、できれば奨学金付きで魔法学校に入学させること。アリシアから見て、彼の魔法の実力はどうだ?」
「……かなり高い、と思います。おそらく実戦の繰り返しで精度を高めたのでしょうが、元々の『タレント』が相当のものでなければ、あれだけの物体を同時に精密に操ることはできません。きちんとした訓練を受ければ、さらに伸びる余地は大いにあります」
「……奨学金を受けるだけの潜在能力は?」
「十分あると思います」
「よし、ならそっちはシーダー卿にでも頼みこめばいい。時期外れだから多少のゴリ押しは必要かもしれないが、実力が足りてるなら、後は本人の問題だ」
アリシアは彼の言葉に頷き、しかしすぐに首を振った。
「でも、それではレイチェルさんの方は?」
「そう、それがもう一つの解決しないといけないこと。ところでさ、普通警察の寮ってどこにあるの?」
「……普通警察の寮ですか? 王都の南西部の西通りに近い所にあったと思います。治安はもちろんよいですし、市民の模範となるようにと環境にも気を遣っていて、この一帯とは雲泥の差といっていいくらい……って、まさか……」
「じゃあさ、普通警察の寮って独身専用? それとも家族で住める?」
「……独身専用の寮と、家族用の寮があります」
「よし、じゃあこっちも解決。あとはイケニ……旦那候補を見つければいいだけだな」
「捜査官、今、生贄って言いかけましたよね。絶対、言いかけましたよね!」
「なんのことやら。さあ、シーダー卿に報告に行くよ。奨学金付きで魔法学校に入れたい少年のこと、それから、その姉の面倒を見られる人募集、ってね!」
一週間後のある夜、二人は普通警察の家族寮の一室をノックした。
「はーい」
どこかのんびりとした声と共にドアを開けたのは、密室殺人事件でハミルトンの護衛を務めていた、カーター・デクスターだった。
「ああ、君たちか。ちょうどいい時に来た。ちょうど晩御飯ができたところだよ」
「すみません、お邪魔した上に、食事までご馳走になるなんて」
「いやいや、大歓迎だよ!」
「お邪魔します」と言って家に上がりながら、仁はカーターの顔をちらりと見た。
前の事件でも思ったが、どうもこの刑事は刑事らしくない性格と顔つきである。まだ若いそうだから、これから年月が経つと一流の刑事の顔になったりするのだろうか。
もっともそれのおかげで彼女がこの家に安らぎを感じてくれているのなら、この事件の解決としては決して悪いことではあるまい。
「あら、ジンさんにアリシアさん。いらっしゃい」
「レイチェルさん! 立ち上がってて大丈夫なんですか?」
部屋で夕食の盛り付けをしていたのはレイチェルだった。一週間前はベッドに寝たきりだったのに、驚くべき回復速度である。
「こっちに越してきてから体調も凄く良くなったから。だから起きていられるあいだはなるべく起きているようにしているの。その方が身体にも良いでしょう?」
「それはそうだけどさ。姉ちゃん、盛りつけは俺がやるから、座っててよ! そんなこと言って倒れられたら困るんだから!」
そう言って彼女からボウルを取り上げたのはティム。
彼らは四日前からこの部屋に一緒に住んでいるのだった。
シーダー卿に報告した翌日の朝に彼女の念写図を取り、昼前にもろもろの情報と共に普通警察の掲示板に載せた所、意外なことに生贄、もとい旦那候補に名乗り出る人間はその日の内に十人を越えてしまった。
まさに入れ喰いである。
「なあに、まともな独身男が薄幸の美女に勝てるわけないんだよ」
呆れるアリシアに仁はそう答えながら、二人で彼らの念写図と年齢、周囲から聞きこんだ性格等を書いた紙をレイチェルの所へ持って行った。
もはや完全にお見合いの仕事である。
彼らの中から「優しそうな目をしている」という理由でレイチェルが選んだのがカーター・デクスターだった。
見事に薄幸の美女を射止めたカーターは、周囲の嫉妬に晒されながらも、善は急げとばかりに大急ぎで寮移動の手続きを進め、次の日にはこの家へのカーター、レイチェル、ティムの三人の引っ越しを完了させてしまった。
「てか、なんか晩飯の量が多いと思ったら、あんたたちも一緒に食うのかよ」
「なんだティム? 誰のおかげで魔法学校に入学できて、普通警察内で雑用やらせてもらえてると思ってるんだ?」
「うっ……そりゃ、感謝してるけどよ……」
「もしかしてあれか。姉ちゃんを男に取られちゃったのがショックか」
「ちげーよ! 俺をシスコンみたいに言うんじゃねえっ!」
そしてティムは無事に魔法学校に奨学金付きで入学した。同時に普通警察内で雑用をして自分のための小遣いも貯めているようだ。
入学が中途半端な時期だったのでしばらくは勉強等に苦労するだろうが、「タレント」に関しては魔法学校の教師陣を驚かせるほどだったということで、きっと上手くやっていけるだろう。
「こら、ティム。この人たちには凄くお世話になったんだから、そんな言い方しないの」
「あー、いいですよレイチェルさん。なんかこの生意気な方が素のティムらしくてこっちも気楽なんで」
「はあ、ジンさんがそう仰られるのであれば、かまいませんが……」
レイチェルがそう言っている間にティムは素早く盛り付けを終え、五人は席につく。
「しかし、ジン君たちには感謝しかないな。この間の事件といい、今回といい、さすがシーダー卿直轄の特別捜査局の捜査官だ」
「……今回は半分くらいはお見合いの仕事だった気がしますがね」
「でもびっくりしました。まさかジンさんとアリシアさんが、王都を騒がせたホテル『星の泉』連続殺人事件を解決された方だったなんて」
「俺もびっくりだよ。捜査官っていうからそれなりの人なのかと思ってたけど、まさかシーダー卿と直接話しちまう人だったなんて」
「特別捜査局、といっても私と捜査官しかいない零細組織です。すぐにシーダー卿と話せるのは確かですが」
口々にそんなことを言う五人。そこでパン、とカーターが手を鳴らした。
「何はともあれ、この件が無事に解決したことを祝して!」
そう言ってカーターはジュースの入ったグラスを掲げる。全員が酒に弱い、勤務がある等の理由で今日は酒はなしだ。
『乾杯!』
普通警察の家族寮の一室に、賑やかな歓声が響いた。
解決編は短くなりすぎるかなと思って書いてみたら、まさかの解決編の方が長い事態に。
ともあれこれにて閑話一は終了。詳細は活動報告で。




