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目を覚ますたび、世界が過去へ巻き戻っていた。14日目、僕は「地球誕生」の秘密を知った。  作者: 久遠寺大安|不可思議ラボ


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9/14

第9話 巨大な虫たちが支配する森

『私ね

本当は全部知ってるんだ』

さくらの声が

頭の中に響いた。

その瞬間

巨大な顎が

僕の体を締めつけた。

硬い外殻が軋む。

右の翅が裂けた。

『さくら!

逃げろ!』

だが彼女は

逃げなかった。

小さな体で

巨大な節足動物へ

向かっていった。

『何してる!』

さくらは

僕の目の前で

翅を広げた。

その背中に

七本の青い線が

浮かび上がった。

次の瞬間

強烈な光が走った。

巨大な節足動物が

悲鳴のような音を立てた。

僕を挟んでいた顎が

ゆっくり開いていく。

『今だよ!』

僕は残った翅を動かし

必死に飛び上がった。

さくらも

後ろからついてきた。

僕たちは

巨大な葉の裏側へ

逃げ込んだ。

節足動物は

しばらく暴れていたが

やがて森の奥へ

消えていった。

僕は葉の上に

体を横たえた。

翅が痛む。

六本の脚も

うまく動かなかった。

『大丈夫?』

さくらが

近づいてきた。

『何とか……』

僕は彼女を見た。

『さっきの光は

何だったんだ』

さくらは

答えなかった。

『それより

全部知ってるって

どういう意味だ』

彼女の触角が

小さく揺れた。

『私ね

思い出したの』

『何を?』

『お父さんのこと』

僕は動けなくなった。

『お父さん?』

『うん』

さくらは

静かに続けた。

『白い病院に

いたことも』

僕の頭に

あの映像が浮かんだ。

白いベッド。

心電図。

泣いている僕。

そして

動かなくなった少女。

『あれは

本当なのか』

さくらは

少しだけ黙った。

『本当だよ』

僕の胸が

締めつけられた。

『じゃあ

君は……』

『私は

一度死んだの』

森の音が

遠くなった気がした。

『でもね』

さくらは続けた。

『今の私は

ちゃんと生きてる』

僕は彼女を見た。

『どういうこと?』

『お父さんが

もう一度

作ってくれたから』

その言葉に

僕は息をのんだ。

『記憶から?』

『最初はそうだった』

さくらは答えた。

『でも

今は違うの』

『何が違う?』

『私には

お父さんが知らない

思い出がある』

僕は黙っていた。

『江戸のお母さん。

おじいちゃん。

あの小さな恐竜』

さくらは

一つずつ話した。

『全部

私が経験したことだよ』

確かにそうだった。

僕が知らない時間を

彼女は生きていた。

誰かの記憶を

写しただけなら

そんな経験は

生まれないはずだ。

『じゃあ

君は本物なのか』

さくらは

少し怒ったように

答えた。

『私は私だよ』

僕は

言葉を失った。

その答えは

あまりにも

当たり前だった。

『そうだな』

僕はうなずいた。

『ごめん』

さくらは

僕のそばに寄った。

『でも

一つだけ

怖いことがあるの』

『何だ?』

『私が生きていると

世界が壊れるって』

僕は首を振った。

『そんなことはない』

『あの女の人が

言ってた』

僕は

時間を止めた

女性型の機械を思い出した。

『あいつが?』

『うん。

私は本当なら

存在しない人間だから

世界が私を

消そうとするって』

僕は

さくらを見つめた。

江戸でも

恐竜時代でも

彼女が何かを変えるたび

世界に異常が起きた。

偶然では

なかったのか。

『だからね』

さくらは言った。

『私がいなくなれば

全部元に戻るって』

僕は即座に

答えた。

『そんなこと

させない』

『でも……』

『君が生きていることを

間違いにはしない』

さくらは

何も言わなかった。

その代わり

僕の体に

そっと触れた。

小さな翅が

震えていた。

そのとき

頭の中に

機械の声が響いた。

『第三地点

観測進行率 六十二%』

『環境適応構造に

損傷を確認』

『復元可能性

低下中』

僕は裂けた翅を見た。

『このままだと

人間に戻れないのか』

『損傷が進行した場合

復元に失敗する

可能性があります』

『修復方法は?』

『第三地点の

中枢施設へ

移動してください』

僕は周囲を見回した。

『どこにある』

すると

視界の端に

青い線が現れた。

森の奥へ

伸びている。

『案内を開始します』

僕は

ゆっくり体を起こした。

『さくら

行こう』

『飛べる?』

『少しなら』

僕たちは

青い線を追って

森を進んだ。

*

しばらくすると

木々の様子が

変わり始めた。

巨大なシダの間に

不自然な形の

柱が立っていた。

表面は銀色。

七本の線が

刻まれている。

『またあの模様だ』

僕は柱へ近づいた。

すると

地面が震えた。

柱の周囲に

青い光が広がり

土の下から

巨大な円形の建物が

姿を現した。

恐竜時代にもあった

あの施設と

よく似ていた。

だが

今回は違った。

建物の外壁に

巨大な昆虫が

何十匹も

張りついていた。

どの昆虫も

動かなかった。

まるで

何かを守っている。

『あれは……』

さくらが

小さくつぶやいた。

『どうした?』

『みんな

同じ模様がある』

僕は目を凝らした。

確かに

昆虫たちの背中には

七本の線が

刻まれていた。

『あいつらも

観測者なのか?』

機械の声が

答えた。

『観測補助個体です』

『生き物じゃないのか』

『生物を基盤に

構築されています』

僕は

建物を見上げた。

巨大な昆虫たちは

僕たちが近づくと

一斉に動き始めた。

何十もの複眼が

こちらを向いた。

『さくら

離れるな』

僕は

彼女を背中にかばった。

だが

昆虫たちは

襲ってこなかった。

ゆっくりと

左右へ分かれ

建物の入口を

開けたのだ。

『通してくれる?』

さくらが尋ねた。

『みたいだな』

僕たちは

中へ入った。

そこには

巨大な空間が

広がっていた。

壁一面に

無数の地球が

映し出されている。

赤い地球。

青い地球。

氷に覆われた地球。

生命のいない地球。

そして

その中央に

一つだけ

真っ黒な地球があった。

『あれは何だ』

僕が尋ねると

機械の声が答えた。

『未完成の地球です』

『未完成?』

『生命の進化が

停止しています』

僕は

黒い地球を見つめた。

その表面には

七本の線が

浮かんでいた。

『どうして

止まったんだ』

『第一観測者が

完成を拒否したためです』

僕は息をのんだ。

『僕が?』

『はい』

『なぜ?』

機械は

答えなかった。

代わりに

中央の画面が

切り替わった。

そこには

一人の男がいた。

白衣を着た

僕だった。

男は

巨大な装置の前に

立っていた。

その腕には

小さな赤ん坊がいた。

さくらだった。

『これが

最初の記録です』

映像の中の僕が

口を開いた。

「もう一度だけ

やり直させてくれ」

誰かに

頼んでいるようだった。

「今度こそ

この子が生きられる

世界を作る」

次の瞬間

画面が暗くなった。

僕は

何も言えなかった。

『お兄ちゃん……』

さくらの声が

頭に響いた。

僕は

彼女を見た。

『大丈夫だ』

そう答えた。

だが

自分でも

何が大丈夫なのか

分からなかった。

そのとき

施設全体が

激しく揺れた。

『警告』

『第三地点に

外部干渉を検出』

壁の地球が

次々に赤く染まった。

『観測補助個体

制御不能』

入口にいた

巨大昆虫たちが

一斉に暴れ始めた。

僕は

さくらを抱き寄せた。

『何が起きてる!』

機械の声が

初めて

乱れた。

『第一観測者とは

異なる権限を検出』

『第三地点の

管理権限が

奪われています』

僕は

中央の画面を見た。

そこに

新しい映像が

現れていた。

白衣を着た男。

顔は

僕と同じだった。

だが

その右腕は

肩から先がなかった。

江戸の空にいた

もう一人の僕だった。

男は

こちらを見つめていた。

そして

静かに言った。

「やっと見つけた」

僕は

息をのんだ。

「お前が

この世界を

壊しているんだ」

男は続けた。

「娘を救いたいなら

今すぐ

その子を殺せ」

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