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目を覚ますたび、世界が過去へ巻き戻っていた。14日目、僕は「地球誕生」の秘密を知った。  作者: 久遠寺大安|不可思議ラボ


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10/14

第10話 すべての時代に残された痕跡

『お父さんが

もう一度

作ってくれたから』

さくらの言葉に

僕は動けなくなった。

巨大な葉の上で

二匹の昆虫が

向かい合っている。

その片方が

僕の娘だという。

しかも

一度死んだ娘を

僕が作り直した。

『どうやって?』

僕は尋ねた。

さくらは

触角を伏せた。

『全部は

覚えてないの』

『覚えていることを

教えてくれ』

彼女は

ゆっくり話し始めた。

『暗いところに

いたんだ』

『暗いところ?』

『何も見えなくて

誰の声も

聞こえなかった』

僕は黙って聞いた。

『でもある日

お父さんの声が

聞こえたの』

『何て言ってた?』

『もう一度

会いたいって』

その瞬間

頭の奥に

鋭い痛みが走った。

白い病室。

小さな手。

そして

誰かを呼ぶ

僕自身の声。

映像はすぐに消えた。

『それから?』

『目を開けたら

江戸の町にいた』

僕は息をのんだ。

『おじいちゃんがいて

お母さんがいて

普通に暮らしてた』

『じゃあ

あの老人は……』

『私を育ててくれた人』

さくらは答えた。

『本当のお父さんとは

違うって

あとから知ったの』

僕は

江戸の老人を思い出した。

最後まで

町に残ることを選んだ

あの老人。

彼は

すべてを知っていたのか。

『誰が教えた?』

『銀色の人』

さくらは続けた。

『でもね

あの人は

大事なことを

隠してるよ』

『何を?』

『私が生まれた理由』

僕は言葉を失った。

そのとき

頭の中に

警告音が響いた。

『適応構造に損傷』

『飛行機能低下』

僕は

裂けた翅を見た。

もう

まともには飛べない。

『移動してください』

スマートフォンの声が

頭に響いた。

『第三観測地点の

中枢施設まで

残り二キロ』

『そこに行けば

人間に戻れるのか?』

『観測終了後

復元可能です』

僕は

さくらを見た。

『行こう』

『うん』

僕たちは

巨大な葉から

地面へ降りた。

*

森の地面には

無数の生き物がいた。

手のひらほどの

小さな虫。

腕より長い

節のある生物。

倒木の下を

這い回る

巨大な節足動物。

僕たちは

根の隙間を

慎重に進んだ。

その途中

奇妙なものを見つけた。

黒い岩だった。

だが

自然の岩ではない。

表面が

完全に平らだった。

そこには

七本の線が

刻まれていた。

『またこれだ』

僕は近づいた。

江戸の老人が

持っていた金属片。

恐竜時代の地下施設。

そして

この三億年前の森。

すべてに

同じ模様があった。

『触ってみて』

さくらが言った。

僕は

一本の脚を伸ばした。

岩に触れた瞬間

青い光が走った。

地面が震え

岩の表面が

透明になった。

中には

小さな装置があった。

『第一観測者の

接近を確認』

文字が浮かんだ。

『記録を再生します』

次の瞬間

僕たちの前に

人間の映像が現れた。

白い服を着た

若い男だった。

顔は

僕と同じだった。

だが

右手がなかった。

『あいつ……』

江戸の町で見た

もう一人の僕だ。

映像の男が

口を開いた。

「この記録を

見ているなら

まだ間に合う」

僕は息を止めた。

「僕は十三回目の

移動者だ」

男は続けた。

「君はこれまで

何度も

同じ旅をしている」

僕は

画面を見つめた。

「だが

毎回失敗した」

男の表情は

ひどく疲れていた。

「失敗するたびに

記憶を消され

最初から

やり直している」

僕は頭の中で

問いかけた。

『誰に?』

当然

映像は答えない。

だが

男はまるで

質問を予想していたように

続けた。

「敵は

銀色の機械じゃない」

僕は

さくらを見た。

「機械は

命令を実行しているだけだ」

男は

右腕のない肩を

見下ろした。

「本当に恐ろしいのは

僕たち自身が

作った仕組みだ」

映像が切り替わった。

巨大な宇宙空間。

無数の地球が

浮かんでいた。

「僕たちは

さくらを救うために

地球の可能性を

増やし続けた」

「だが

どの世界でも

彼女は死んだ」

僕は

さくらを見た。

彼女は

何も言わなかった。

「だから

次の世界を作った」

「また死んだ」

「また作った」

「それを

何度も繰り返した」

映像の男は

顔を上げた。

「そして

ついに

死なないさくらを

作り出した」

僕は

胸が苦しくなった。

「だが

その代償として

地球の数が

増えすぎた」

画面には

無数の赤い点が

現れていた。

「世界同士が

干渉し始めたんだ」

僕は

恐竜時代の

二つの地球を思い出した。

「このままでは

すべての地球が

崩壊する」

男は

僕をまっすぐ見た。

「君には

最後の選択を

してもらう」

その瞬間

映像が乱れた。

ザーッ。

男の声が

途切れ始めた。

「さくらを

救うのか」

「それとも……」

映像が消えた。

僕は

装置を叩いた。

『続きを見せろ!』

だが

反応はなかった。

さくらが

静かに言った。

『お兄ちゃん』

『どうした?』

『私

知ってるよ』

僕は彼女を見た。

『何を?』

『あの人が

最後に言おうとしたこと』

僕は

息を止めた。

さくらは

ゆっくり答えた。

『私を消せば

全部の地球が

助かるんだって』

僕は

言葉を失った。

『でもね』

さくらは続けた。

『私は

消えたくない』

その声は

震えていた。

『生きていたい』

僕は

彼女のそばへ

近づいた。

『当たり前だ』

僕は言った。

『誰にも

君を消させない』

さくらは

小さくうなずいた。

そのとき

装置の奥から

別の音が聞こえた。

カチッ。

地面の一部が

ゆっくり開いた。

地下へ続く

階段が現れた。

『第三観測地点

中枢施設への

入口を開放』

僕たちは

階段を下りた。

地下には

巨大な空間があった。

中央には

透明な球体が

浮かんでいた。

その中に

一つの地球がある。

だが

その地球には

大陸がなかった。

青い海だけが

広がっていた。

『これは……』

僕は

球体を見つめた。

すると

周囲の壁に

無数の映像が現れた。

江戸の町。

恐竜の森。

三億年前の巨大昆虫。

そして

見知らぬ地球。

すべての映像に

同じ模様があった。

七本の線。

僕は

ようやく気づいた。

『これは

観測地点の印じゃない』

さくらが

僕を見た。

『じゃあ何?』

『世界を

つなぐための

接続装置だ』

その瞬間

施設全体が震えた。

『第一観測者による

構造解析を確認』

『記憶照合率

八%から十五%へ上昇』

僕の頭に

大量の映像が流れ込んだ。

七本の線が

無数の地球を

つないでいる。

その中心には

巨大な装置があった。

そして

その装置の中に

小さな少女が

眠っていた。

さくらだった。

『まさか……』

僕は

震える声で言った。

『すべての地球が

さくらにつながっている?』

機械の声が

響いた。

『正解です』

『さくらは

全分岐世界の

中心に存在します』

僕は

頭の中が真っ白になった。

『彼女を消去すると

接続が解除され

世界間の干渉は

停止します』

さくらが

僕の後ろに隠れた。

僕は叫んだ。

『ほかの方法を探す!』

そのとき

透明な球体に

新しい映像が現れた。

白い病室。

ベッドに横たわる

小さな少女。

そして

その横に立つ

もう一人の僕。

男は

少女の手を握り

静かに言った。

「ごめんな

さくら」

次の瞬間

男は

ベッドの横にある

装置のボタンを押した。

画面に

赤い文字が浮かんだ。

『第一観測者による

生命維持装置の

停止を確認』

僕は

息をのんだ。

「僕が……

止めたのか?」

さらに

記録が続いた。

『停止理由』

『患者本人の

事前意思を確認』

僕は

画面を見つめた。

その下には

さくら自身の声が

記録されていた。

「お父さん」

「もう

苦しいのは嫌だよ」

「だから

お願い」

「私を

眠らせて」

僕は

動けなくなった。

自分が

娘の命を

終わらせた。

そして

その事実を

受け入れられず

無数の地球を

作り始めた。

そのとき

頭の中に

機械の声が響いた。

『第三地点

観測終了』

『第四地点への

移行を開始します』

『次の地点では

生命そのものが

まだ存在しません』

僕は

さくらを見た。

彼女は

何も言わなかった。

ただ

小さな声で

こう言った。

『お兄ちゃん』

『私が生まれる前の

地球に行けば』

『私が死ななかった

世界を作れるの?』

僕は

答えられなかった。

その瞬間

青い光が

僕たちを包んだ。

そして

意識が

暗闇に沈んでいった。

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