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目を覚ますたび、世界が過去へ巻き戻っていた。14日目、僕は「地球誕生」の秘密を知った。  作者: 不可思議ラボ


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8/14

第8話 恐竜が生まれる前の世界

『生存するには

人間であることを

やめてください』

スマートフォンに

表示された文字を

僕は見つめた。

「どういう意味だ……」

隣では

さくらが咳き込んでいた。

「お兄ちゃん……

苦しい……」

僕は彼女を抱き寄せた。

「大丈夫。

必ず何とかする」

だが

自分の呼吸も

おかしくなっていた。

胸が重い。

頭が痛い。

周囲の空気は

現代の地球とは

明らかに違っていた。

画面には

新しい表示が現れた。

『生命維持機能

残り二十一分』

『環境適応処理を

実行しますか?』

その下に

二つの選択肢があった。

『実行する』

『実行しない』

僕は指を止めた。

「環境適応って

何をするんだ」

画面に

説明が表示された。

『現在の肉体を

一時的な適応構造へ

変換します』

『人間の外見は

維持されません』

僕は息をのんだ。

「姿が変わるのか?」

『はい』

『第三地点の

環境に適した

生命構造へ変換します』

さくらが

僕の手を握った。

「お兄ちゃん……

怖いよ」

僕は彼女を見た。

「僕も怖い」

正直に答えた。

「でも

ここで死ぬより

ずっといい」

僕は画面を押した。

『環境適応処理を開始』

青い光が

僕たちを包んだ。

最初に

指先がしびれた。

次に

腕の感覚が消えた。

皮膚の表面に

細かな模様が浮かぶ。

僕は目を見開いた。

手の甲が

硬くなっていく。

まるで

昆虫の殻のようだった。

「何だよ

これ……」

さくらの体も

青く光っていた。

彼女の背中から

薄い膜のようなものが

広がっていく。

「お兄ちゃん!」

僕は手を伸ばした。

だが

その手には

もう五本の指がなかった。

代わりに

細長い節のある

黒い脚が伸びていた。

僕は叫ぼうとした。

しかし

声が出なかった。

視界が突然

何十にも分かれた。

森のあらゆる方向が

同時に見える。

音が

振動として伝わってくる。

僕は

人間ではなくなっていた。

*

どれほど

時間が経ったのか。

僕は巨大な葉の上に

立っていた。

いや

立っているという

感覚ではなかった。

六本の脚で

葉の表面に

しがみついていた。

目の前には

透明な翅があった。

それが

自分の背中から

伸びていると気づいた瞬間

全身が震えた。

僕は

巨大な昆虫に

変わっていた。

体長は

一メートルほど。

硬い外殻。

長い触角。

そして

透明な四枚の翅。

「さくら!」

声を出そうとした。

だが

口から出たのは

かすかな振動音だった。

そのとき

頭の中に

声が響いた。

『お兄ちゃん』

僕は振り向いた。

隣の葉に

小さな昆虫がいた。

僕と似た姿だが

体は半分ほどだった。

『さくら?』

『うん』

声は

頭の中に直接

届いていた。

『怖いよ……』

僕は近づいた。

『大丈夫。

僕がそばにいる』

彼女の触角が

小さく揺れた。

その瞬間

スマートフォンの声が

頭の中に響いた。

『適応処理完了』

『生命維持機能を

再設定しました』

『第三地点の

観測を開始します』

僕は周囲を見た。

巨大な森が

果てしなく広がっている。

だが

さっきまでとは

見え方が違った。

葉の表面にある

小さな傷。

遠くを飛ぶ

昆虫の羽ばたき。

地面を歩く

巨大な節足動物。

すべてが

鮮明に見えた。

『この時代の

生命として

行動してください』

僕は頭の中で

問いかけた。

『どうすれば

人間に戻れる?』

『第三地点の

観測終了後

復元されます』

少しだけ

安心した。

だが

次の表示を見て

その気持ちは消えた。

『警告』

『適応構造で

死亡した場合

復元は不可能です』

僕は

さくらを見た。

『絶対に

離れないで』

『うん』

そのとき

森の奥から

巨大な羽音が

響いてきた。

ブゥゥゥン。

空が暗くなった。

見上げると

巨大なトンボのような

生物が飛んでいた。

翅を広げた長さは

七十センチほど。

その複眼が

僕たちを捉えた。

『逃げろ!』

僕は翅を広げた。

だが

飛び方が分からない。

体が葉から

滑り落ちた。

必死に翅を動かす。

突然

体が浮いた。

僕は

空を飛んでいた。

『さくら!』

彼女も

後ろから飛んできた。

巨大なトンボが

追いかけてくる。

速い。

僕たちとは

比べものにならない。

僕は木々の間へ

飛び込んだ。

枝を避け

葉の隙間を抜ける。

背後で

鋭い羽音が迫った。

『お兄ちゃん!』

さくらの声が

頭に響いた。

僕は振り返った。

巨大なトンボが

彼女に迫っていた。

『下へ!』

僕が叫ぶと

さくらは急降下した。

トンボは

そのまま枝に激突した。

大きな音が響く。

僕たちは

地面近くの

暗い穴へ逃げ込んだ。

そこは

倒木の内部だった。

ようやく

羽音が遠ざかった。

『助かった……』

僕は

さくらのそばに

身を寄せた。

だが

倒木の奥から

別の音が聞こえた。

カサカサ。

カサカサ。

僕は触角を動かした。

暗闇の中に

無数の赤い点が

浮かんでいた。

目だった。

何十もの目が

こちらを見ている。

『さくら

動くな』

僕は

ゆっくり後ずさった。

そのとき

奥から

巨大な影が現れた。

何十本もの脚。

長く伸びた体。

硬い外殻。

体長は

二メートルを超えていた。

巨大なムカデに似た

節足動物だった。

『逃げろ!』

僕たちは

倒木から飛び出した。

背後で

巨大な体が

木を突き破った。

森の地面が

激しく揺れた。

僕は

必死に飛んだ。

だが

さくらの翅が

枝に引っ掛かった。

『お兄ちゃん!』

僕は急旋回した。

彼女のもとへ戻る。

その瞬間

巨大な節足動物が

口を開けた。

鋭い顎が

さくらへ迫る。

僕は

体当たりした。

彼女の体が

枝から外れた。

だが

今度は僕の翅が

顎に挟まれた。

激痛が走った。

『逃げろ!』

僕は叫んだ。

さくらは

その場を離れなかった。

『いやだ!』

巨大な顎が

僕の体を

引き寄せていく。

そのとき

突然

森全体が光った。

青い光だった。

巨大な節足動物が

動きを止めた。

僕の体も

宙に浮いたまま

動かなくなった。

時間が

止まっていた。

頭の中に

声が響いた。

『第三地点

緊急観測を開始』

僕は

目の前の光を見た。

そこには

人間の形をした

銀色の機械がいた。

だが

今回は

僕の顔ではなかった。

見知らぬ女性の顔だった。

『あなたは

また同じ選択をしました』

僕は

頭の中で叫んだ。

『何のことだ!』

機械は

さくらを見た。

『自分の命より

娘を優先する』

僕は息をのんだ。

『やっぱり

さくらは僕の娘なのか』

機械は答えなかった。

代わりに

僕の前に

一枚の映像を映した。

そこには

病室があった。

白いベッド。

心電図の音。

そして

横たわる

小さな女の子。

さくらだった。

『これは……』

僕は

映像を見つめた。

ベッドの横には

一人の男がいた。

僕だった。

男は

泣いていた。

その手には

小さな写真があった。

母親と

赤ん坊の写真。

『あなたは

娘を救うために

すべてを始めました』

機械が言った。

『しかし

その結果

無数の地球が

生まれました』

僕は

何も言えなかった。

『そして

あなたは

ある事実を

忘れています』

映像が切り替わった。

病室のベッドに

横たわる少女。

その胸は

動いていなかった。

心電図には

一本の線が

表示されていた。

『あなたの娘は

すでに

亡くなっています』

僕は

頭の中が真っ白になった。

『そんな……』

機械は

静かに続けた。

『あなたが

今守っている少女は

本物の娘ではありません』

僕は

さくらを見た。

彼女は

僕を見つめていた。

何も知らない顔で。

機械の声が

さらに響いた。

『彼女は

あなたの記憶から

作られた存在です』

僕は

言葉を失った。

その瞬間

止まっていた時間が

再び動き始めた。

巨大な顎が

僕の体を

強く挟み込んだ。

そして

耳元で

さくらの声が響いた。

『お兄ちゃん』

『私ね』

『本当は

全部知ってるんだ』

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