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目を覚ますたび、世界が過去へ巻き戻っていた。14日目、僕は「地球誕生」の秘密を知った。  作者: 不可思議ラボ


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3/4

第3話 この時代にあるはずのないもの

僕の右手が

透け始めていた。

指先の向こうに

畳の模様が見える。

「何だよ……これ」

手を握ろうとした。

だが指が動かない。

まるで

自分の体では

なくなったようだった。

老人が僕の手を見た。

「始まってしまったか」

「何がですか!」

「存在の修正じゃ」

老人は床板を外し

あの金属片を取り出した。

七本の線が

青白く光っている。

「この町は

決められた歴史を

繰り返しておる」

老人は言った。

「そこへおぬしが

割り込んだ」

僕は女の子を見た。

彼女は部屋の隅で

膝を抱えていた。

「この子を助けたから?」

老人はうなずいた。

「本来なら

あの門をくぐるはずだった」

「だからって

助けちゃいけないんですか」

老人は答えなかった。

代わりに

金属片を僕の右手へ

押し当てた。

冷たい感触が走る。

次の瞬間

透けていた指が

元に戻り始めた。

「戻った……」

「一時的にな」

老人の額には

汗が浮かんでいた。

「六時間後

この町は消える」

僕は木箱の

スマートフォンを見た。

画面には

残り時間が表示されていた。

『05:42:18』

数字は

一秒ずつ減っている。

「止める方法は?」

「ある」

老人は即答した。

「だが

わしにはできぬ」

「どうして?」

老人は僕を見つめた。

「この町を作った者に

会わねばならぬからじゃ」

僕は息をのんだ。

「作った者?」

「江戸城の地下におる」

そのとき

女の子が顔を上げた。

「そこ

知ってる」

僕たちは

一斉に彼女を見た。

「お母さんと

行ったことがある」

「江戸城の地下へ?」

女の子はうなずいた。

「大きな扉があったの」

老人の顔色が変わった。

「どんな扉じゃ」

「青く光ってた。

それから

変な声が聞こえた」

「何て言ってた?」

女の子は少し考えた。

そして

はっきりと言った。

「次の地球を

準備してください」

部屋が静まり返った。

次の地球。

その言葉は

僕の胸に引っ掛かった。

この町だけではない。

地球そのものが

何かの仕組みで

作り直されているのか。

僕は立ち上がった。

「江戸城へ行きます」

老人は首を振った。

「侍たちが

町を見張っておる」

「でも

ここにいても消える」

僕は右手を握った。

まだ少し

感覚が鈍かった。

「だったら

行くしかない」

老人はしばらく

僕を見つめていた。

やがて

壁に掛けてあった

古い地図を外した。

「裏道がある」

地図には

江戸の町が描かれていた。

だが僕の知る地図とは

明らかに違っていた。

日本橋の先に

巨大な円形の建物がある。

その周囲には

七本の道が伸びていた。

「これ……」

僕は地図を指さした。

「いつ描かれたんですか」

「三十年前じゃ」

老人は答えた。

「あの男が残した」

僕は目を疑った。

円形の建物の中央に

小さな文字がある。

『第一観測地点』

そしてその下には

見覚えのある数字。

『14』

老人は地図を折り畳んだ。

「急ぐぞ」

僕たちは

夜明け前の町へ出た。

空はまだ暗い。

だが奇妙なことに

星が一つもなかった。

月も見えない。

まるで空全体が

黒い幕で覆われている。

女の子は

僕の上着を握っていた。

「お兄ちゃん」

「どうした?」

「あの人がいる」

彼女が指さした先には

橋があった。

橋の中央に

一人の男が立っている。

僕だった。

右手のない

もう一人の僕。

「来たか」

男が口を開いた。

声まで同じだった。

僕は足を止めた。

「お前は誰だ」

男は笑わなかった。

「その質問は

前にも聞いた」

「どういう意味だ」

「僕は

十三回目の君だ」

心臓が跳ねた。

「十三回目?」

男は左手を上げた。

その手には

あの金属片と

同じ模様が刻まれていた。

「この旅は

一度目じゃない」

僕は言葉を失った。

「君は何度も

地球の過去へ向かった」

「そんな記憶はない」

「当然だ」

男は静かに言った。

「失敗するたびに

記憶が消される」

老人が一歩前へ出た。

「おぬしが

三十年前の男か」

もう一人の僕は

首を横に振った。

「違う」

そして

老人を指さした。

「その男こそ

最初の移動者だ」

僕は老人を振り向いた。

「え……?」

老人は黙っていた。

「三十年前に

死んだ男がいたという話は

嘘だったのか」

老人は

ゆっくりと目を閉じた。

「すまぬ」

僕の頭が混乱した。

「じゃあ

あのスマートフォンは?」

「わしのものじゃ」

老人は懐から

もう一枚の金属片を出した。

「わしも昔

別の時代から来た」

その瞬間

地面が震えた。

橋の向こうに

巨大な青い壁が現れた。

町の建物が

次々に消えていく。

もう一人の僕が叫んだ。

「時間がない!」

僕は男を見た。

「何をすればいい!」

「江戸城の地下へ行け」

「そこに何がある?」

男は少しだけ

表情を変えた。

「地球の歴史を

作っている装置だ」

僕は息をのんだ。

「そんなものが……」

「そして

君が今いる江戸は

本当の江戸じゃない」

男は続けた。

「これは

地球の過去を再現した

一つの世界だ」

頭上の空に

亀裂が走った。

黒い空の向こうから

青い光が漏れてくる。

男の体が

薄くなり始めた。

「待て!

まだ聞きたいことがある!」

男は僕を見た。

「なら

最後に一つだけ」

その声は

妙に悲しそうだった。

「地球が誕生したのは

偶然じゃない」

「どういうことだ!」

「君が

誕生させたんだ」

次の瞬間

男は消えた。

僕は動けなかった。

地球を誕生させた?

僕が?

意味が分からない。

だが

考えている時間はなかった。

町の向こうで

巨大な建物が崩れ落ちた。

老人が僕の腕を引いた。

「走れ!」

僕たちは

江戸城へ向かった。

女の子も

必死についてくる。

城の門は

すでに開いていた。

誰も守っていない。

僕たちは

石段を駆け下りた。

地下へ続く通路が

どこまでも伸びている。

その先に

青い扉があった。

女の子が叫んだ。

「あれ!」

扉の中央には

七本の線が刻まれていた。

僕が近づくと

扉が音もなく開いた。

中にあったのは

江戸時代には

存在するはずのないもの。

巨大な機械だった。

透明な壁の向こうに

無数の地球が浮かんでいる。

恐竜のいる地球。

氷に覆われた地球。

海しかない地球。

そして

真っ赤に燃える地球。

機械の中央に

文字が表示された。

『歴史再現装置』

『第一地点 終了』

『第二地点へ移行』

僕は叫んだ。

「待ってくれ!

この町の人たちは!」

機械は答えなかった。

代わりに

新しい文字が現れた。

『保存対象を選択してください』

その下に

三つの名前が並んでいた。

老人。

女の子。

そして僕。

『保存可能人数 一名』

僕は息を止めた。

三人のうち

一人しか

次の世界へ行けない。

その瞬間

女の子が

僕の手を握った。

「お兄ちゃん」

小さな声だった。

「私を置いていかないで」

僕は画面を見つめた。

残り時間は

あと三分だった。

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