↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目を覚ますたび、世界が過去へ巻き戻っていた。14日目、僕は「地球誕生」の秘密を知った。  作者: 不可思議ラボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/5

第2話 歴史に存在しない江戸の町

江戸城の上空に

もう一人の僕がいた。

巨大な青い輪の中心に

立っている。

足元には何もない。

それなのに

落ちる気配すらなかった。

「どうして……」

僕は窓に近づいた。

あの男の顔は

間違いなく僕だった。

髪型も体格も

着ている服まで同じだ。

ただ一つ

違うところがあった。

右手がなかった。

肩から先が

消えていたのだ。

「見るな!」

老人が叫んだ。

次の瞬間

青い輪が収縮した。

もう一人の僕も

一瞬で姿を消した。

町には再び

夕暮れの静けさが戻った。

「今のは何ですか」

老人は答えなかった。

代わりに

長屋の戸を閉め

内側から閂を掛けた。

「おぬしは

あれに見つかった」

「僕自身に?」

「同じ顔でも

同じ人間とは限らぬ」

老人は床に座った。

その手が

わずかに震えていた。

「三十年前にも

同じことがあった」

僕は息をのんだ。

「スマートフォンを

持っていた男ですか」

老人はうなずいた。

「その男も

空に自分を見た」

「それから?」

「三日後に死んだ」

背筋が冷たくなった。

「何があったんですか」

「分からぬ。

ただ死ぬ前に

妙なことを言っておった」

老人は僕を見た。

「この江戸は

本物ではない、と」

僕は窓の隙間から

町を見つめた。

人々が行き交い

商人が声を張り上げる。

どこから見ても

江戸時代の風景だった。

「何が偽物なんですか」

「それを知りたければ

明日の朝

日本橋へ行け」

「明日の朝?」

老人は黙り込んだ。

その表情には

明らかな恐怖があった。

「ただし

眠ってはならぬ」

僕は木箱の中の

スマートフォンを見た。

画面にはまだ

『残り13回』

と表示されていた。

その夜

僕は眠らなかった。

老人が用意した

薄い布団に座り

夜明けを待った。

不思議なことに

眠気はまったく

襲ってこなかった。

代わりに

午前零時を過ぎた頃

町の様子が変わった。

最初に消えたのは

虫の声だった。

次に風が止まった。

そして

遠くの犬の鳴き声も

聞こえなくなった。

世界から

音が抜き取られていく。

僕は立ち上がった。

「何かおかしい」

老人は目を閉じたまま

答えた。

「始まったか」

「何がですか」

「町の作り直しじゃ」

その瞬間

窓の外で

奇妙な音が響いた。

木が軋むような

低い音だった。

僕は戸を少し開けた。

そして

言葉を失った。

向かいの長屋が

ゆっくりと形を変えていた。

屋根が伸び

壁が移動し

窓の位置が変わっていく。

まるで

見えない誰かが

建物を組み立て直している。

「そんな……」

さらに奥の道が

突然二つに分かれた。

昨日までなかった

石橋が現れる。

その先には

巨大な門が立っていた。

門の上には

見慣れない紋章がある。

円の中に

七本の線。

僕はその模様を

知っていた。

前の旅で見た

次元の境界に

刻まれていたものだ。

「なぜ

ここにも……」

老人が背後に立った。

「この町は

毎晩変わる」

「毎晩?」

「道も家も

人の記憶さえもな」

僕は老人を振り向いた。

「記憶まで?」

「昨日まで

ここに住んでいた者が

翌朝には

最初から存在しなかった

ことになる」

老人は続けた。

「だが

わしだけは覚えておる」

「どうしてですか」

「三十年前

あの男から

これを渡された」

老人は懐から

小さな金属片を取り出した。

銀色の表面に

七本の線が刻まれている。

僕が触れようとすると

金属片が青く光った。

同時に

僕のポケットの中で

スマートフォンが震えた。

画面に文字が現れる。

『観測対象を確認』

『記憶保持者 二名』

僕は老人を見た。

「記憶保持者……」

老人も画面を見つめた。

「やはり

おぬしも同じか」

「同じって?」

老人は金属片を握った。

「町が変わっても

自分を忘れぬ者じゃ」

そのとき

外から足音がした。

一人ではない。

何十人もの足音だった。

老人は灯りを消した。

戸の隙間から

僕は外をのぞいた。

着物姿の人々が

列を作って歩いている。

全員が無言だった。

顔には表情がない。

そして

誰もが同じ方向を

見つめていた。

新しく現れた門だ。

「どこへ行くんですか」

僕が小声で尋ねると

老人は答えた。

「新しい江戸へ」

「新しい江戸?」

「古い町の者は

あの門をくぐる。

そうすれば

昨日までの記憶を失う」

僕は再び

人々を見つめた。

列の最後尾に

小さな女の子がいた。

まだ六歳くらいだろう。

女の子は

母親らしい女性の手を

握っていた。

だが突然

立ち止まった。

そして

こちらを向いた。

僕と目が合った。

女の子の口が

ゆっくり動いた。

声は聞こえない。

それでも

何を言ったのか

はっきり分かった。

『助けて』

僕は戸に手を掛けた。

老人が腕をつかんだ。

「行くな」

「でも

あの子が……」

「門に近づけば

おぬしも消される」

僕は老人の手を振りほどいた。

「見捨てられません」

外へ飛び出すと

冷たい空気が

頬を刺した。

女の子は

列から離れて

僕の方へ走ってきた。

「お願い!

お母さんが

私を忘れちゃう!」

僕は膝をついた。

「大丈夫。

ここにいればいい」

女の子の手を握った。

その瞬間

町全体が震えた。

空に青い文字が

浮かび上がる。

『異常行動を検出』

『歴史修正を開始』

列の人々が

一斉にこちらを向いた。

誰も動かない。

ただ僕を見つめている。

老人が叫んだ。

「戻れ!」

僕は女の子を抱き上げ

長屋へ走った。

背後で

地面が裂ける音がした。

振り返ると

さっきまで歩いていた

人々の姿が

一人ずつ消えていた。

まるで

最初から存在しなかった

かのように。

長屋へ飛び込むと

老人が戸を閉めた。

女の子は

僕の腕の中で

泣いていた。

「お母さんは?」

僕は答えられなかった。

そのとき

木箱のスマートフォンが

激しく震えた。

画面には

新しい文字が

表示されていた。

『歴史改変を確認』

『移動者による干渉』

『第一地点の崩壊まで

残り六時間』

僕は息を止めた。

「崩壊……?」

老人は静かに言った。

「おぬしが

あの子を助けたことで

この世界の歴史が

変わってしまった」

僕は女の子を見た。

彼女は涙を拭い

僕を見上げた。

そして

信じられないことを

口にした。

「お兄ちゃん」

「どうしたの?」

「さっき空にいた人」

僕の心臓が跳ねた。

「見たのか?」

女の子はうなずいた。

「あの人ね

私に言ったの」

「何を?」

女の子は

僕の右手を指さした。

「次に眠ったら

その手がなくなるって」

僕は右手を見つめた。

確かに

まだそこにある。

だが次の瞬間

指先が

青白く透け始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。