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第6話 ニブルヘイム辺境伯領と、彼の隣

王都を出てから、いくつかの街道沿いの村を抜け、なだらかな平原を進んだ。やがて地形は起伏を増し、風は冷たさを帯び、空も次第に灰色の日が増え始める。

険しい山々を越えると、視界は一気に開けた。

冷たい風が、遮るものなく音を立てて吹き抜ける荒涼とした大地へ、私達は出た。


「ミツキ、この街道の先にある街が、ニブルヘイム辺境伯領の入口の街になる」

「あ……」


灰色の空の下、広大な大地を貫くように真っすぐ伸びる街道の先に、石造りの城壁が見えている。


いよいよなんだ。


あらためて、気持ちが、きゅっ、と引き締まる。

ここまで来る途中で、出会った旅人や行商人から耳にした話を思い出す。


ニブルヘイム辺境伯領では、魔獣が凶暴化して、村や人が襲われるということが増えているそうだ。行商に向かう者も危険を恐れて、随分と減ったという。私たちが向かうと言ったら、何人にも反対された。


私が不安な表情(かお)をしてしまっていたのだろう。

「大丈夫だ、あんたは俺が守る」

レイがちらりと私のほうを見て、言った。

「レイ……」


彼の深いコバルトブルーの瞳が、静かに強くこちらを見ている。冷たく見えてしまうこの瞳が、今では本当は強くて、あたたかくて優しいんだって、私は知っている。


「ありがとう、レイ。心強いよ」

私は、微笑んで言った。


それから間もなくして、私たちは石造りの城門へと着いた。

城門からぐるりと延びた石の城壁は、平原にそびえるように立ち、外界と隔てているかのように見えた。


とうとう私たちは、ニブルヘイム辺境伯領の玄関口、アイゼンフォルまでやって来た。

冷たさを思わせる灰色の城壁は、まるで私達を拒絶しているような、威圧感があった。


緊張しながら、城門で検問を受ける。金属製の鎧をつけた兵士たちが立っている。今までの都市と違い、重々しい雰囲気だ。


「なんか今までの街と違うね。厳しい雰囲気……」

小声でそっと耳打ちする。

「それだけ、このあたりの状況が緊迫しているってことだろう」

レイも険しい表情をして、門のほうを見ている。古い石の壁が、この街の長い歴史を思わせる。


心配したけれど、とくに何もなく、検問を通り抜けることができた。

私が構えすぎて、緊張しすぎちゃったのかも知れないな……なんて思ってしまった。あとで自分の甘さを知ることになるのだけれど……。


私たちは城門をくぐり情報収集も兼ねて、街へ買い物に出ることにした。


この先、雪が多い地域になるということで、小さな雑貨屋で防寒着を買うことにした。

私は、温かいローブにマフラーと手袋に決めた。防寒対策は完璧だ。

ローブとマフラーは落ち着いた赤色で、あったかいうえに可愛い。なんだか鏡に映った姿は、少し着膨れして見えて、もこもことしたまるい輪郭が、どこか子供っぽくも見えるけれど。


「おや、お兄さん。かっこいいじゃないか」

店主の恰幅のよいオバサンの声に振り向く。ちょうどレイが防寒のため、外套(マント)の中に着る黒い上着を羽織っているところだった。


確かに!

広い肩幅に締まった細いウエストが際立って、めちゃくちゃかっこいいじゃないですかっ。


思わず彼の姿に、釘付けにならずにはいられない。

レイって、なんでもスッと着こなしちゃうよね。やっぱりスタイルがいいから、似合っちゃうね。

これは一度、結婚式場の新郎の貸衣裳を色々試着させて、楽しんでみたいわ。


「そんなに綺麗な顔しているのに、フードで隠しちゃうなんて勿体ないねぇ」

なんて、店主に覗き込まれて、レイは「いや、あの、」ってフードの端をもって、目深に被り恥ずかしそうにしている。


あ、私……


あんなかっこいい人の横に立って、旅しているんだ。


今ごろになって、気づいた。

ふと、鏡に映る自分の姿を見る。


154センチちょっとしかない私は、ローブとマフラーに埋もれて立っている。その姿は、まるでころころとした子どもみたいだ。


胸がなんだか少し、キュッとする。


似合わないな、私……。


彼の隣に似合う女性には、自分では程遠い気がした。鏡に映る自分の姿が、彼には釣り合わなくて、ひどく恥ずかしく思える。

今までレイとずっと一緒で、彼の隣にいられて、ただ嬉しかったのだけれど……。


店主の女性に覗き込まれて、恥ずかしそうに笑っている彼が、とても眩しく見えた。


「行こっか」

支払いを済ませた彼が戻ってくる。

「ん、どうした?」

怪訝そうに、私の顔を覗き込んだ。

「ううん、なんでもないよ」

私は笑みを作ってみせるけど、ちょっと引きつってしまったように思う。


彼にそれ以上怪しまれないように、私は慌ててカランカランと盛大にドアベルを鳴らしつつ、彼より先に店の外へと出た。


ところが、よそ見しながら勢いよく外へ出てしまった私は、道を走って来た男の子とぶつかってしまった。

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