第4話 新たな使命
「ある程度はレイから聞いてくれているかな」
宰相であり、ここでは一番年長であるルーセルが話を進める。
「はい、北方にあるニブルへイム辺境伯領で、何かが起こっていて、この国が危険な状態だと」
「そうなんだ。ニブルヘイム辺境伯領は、古くから白銀の者が治めている地だ。わが王国の北の守りの要となっている」
ここへ来る前に、レイが教えてくれたことを思い出す。
「今は、白銀の姫が治めているんだよね」
「そうだ。白銀の力というのは特殊でね、さらに北方の魔族から、この国を守る大きな盾となっているんだ。けれどここ最近、北の国境のほうでゆらぎがあり、凶暴な魔獣が増え続けている。もしかして、何者かが結界を破ろうとしているのかもしれない、というのが俺達の見解だ」
「もし……、結界が破られたら、どうなるの?」
「いずれ魔族が攻め込んでくる」
「え……」
魔族……。
確かにこの世界は、私が生きてきた現実世界の人間が、過去に創り出した想像の世界が、そのまま現実となったもう一つの世界だけど……。
ここには魔法や魔獣のほかに、魔族なんてのも存在するの!?
もうっ、ほんとにアニメや漫画の世界と同じじゃない!
魔族が攻め込んでくる……そう考えただけでも、恐ろしい。
「まだ俺達の憶測にしかすぎないけれど、何かが起こっていることは確かだと思う。このまま放っておくわけにはいかない。だから白銀の姫に会い、ニブルヘイム辺境伯領で何が起こっているのか、探ってきて欲しいんだ」
「だから、白銀の姫と縁がある、かもしれない、私が呼ばれたっていう訳ですね」
「そうだよ。ミツキは、少なくとも白銀の姫の加護を受けていて、白銀の弓を操る力がある。それが何故なのかわからないけれど、白銀の姫に会えれば、何かわかるかも知れない。頼めるかな」
ルーセルの紫色の瞳が、私をまっすぐ見つめる。
魔族が関わるかも知れない……私に、出来るのかな。
思わず、俯いてしまう。
以前、ドラゴンや北の大魔法使いと対峙したときのことが頭の中を過ぎる。
正直、怖い……
……でも。
この世界のことも、出会ったみんなも好き。
そんなの、断れないよ。
くっと顔を上げて、まっすぐにルーセルを見る。
「わかりました。私に出来ることであれば」
「ありがとう。君にしか頼めない。アレクと僕はこの城を留守にするわけにはいかない。護衛にレイと一緒に向かって欲しいんだ」
「レイと……」
それまで黙って聞いていたアレク様が、手にしていた紅茶の入ったカップを、カチャリとソーサーに置く。そして、私の顔をその綺麗な瞳で、まっすぐ見つめてくる。
「ミツキ、……ほんとに、いいのか?」
アレク様の空色の瞳が揺らめく。心配してくれてるの……?
「はい、もう決めましたから」
「そうか……」
「大丈夫です、レイもいてくれるから」
チラリと、隣に座るレイに視線を向けると、彼も「ああ」と静かに頷いてくれた。
「ミツキ……、巻き込んでしまってすまない」
そう言って、アレク様は頭を僅かに下げた。
え?ええっ?
いま、す、す…、すまないって言いました!?
アレク様が申し訳なさそうにしてるっ!?!?
私は驚きのあまりに瞬きも忘れて、アレク様を見る。
どうしたんですか!?
アレク様って、いつも俺様で、笑って他人をコキ使うことはあっても、謝るなんてしないでしょう!?
テーブルに戻された琥珀色の紅茶が、灯りを映して揺らめいている。
「ニブルヘイムまで長い旅になるが……」
「……え?旅?」
あ、そっか……。そこは、うっかり失念していた。
確かにそうよね、飛行機や新幹線があるわけでないものね。
「旅って、どのくらいですか?」
アレク様は指を二本立てた。
なんだ、思ったより短いし良かった。
「二日間ですか」
「二週間だ」
……え?
思わず動きが止まる。
に、二週間っ!?
え?え?二週間、レイと二人っきりで旅ですって!?
それって片道二週間ですよねっ!?
「少しでも時間が勿体ない。お前たちには今夜休んだら、明日の朝にでもすぐに立って欲しい。行けるか?」
「ああ」
レイはあっさりと返事をした。
私は目を剥いて、冷静に話を続ける二人を見る。
二週間、二人っきりってのも驚くし、まして、明日の朝には二週間の旅に出発!?
ええーっ!
やっぱりアレク様は人使いが荒かった!!
なんで、レイはそんな普通に聞き入れてるのかな!?
旅の二週間もの間、ずーっと一緒ですよ!?
朝から晩まで、ですよ!?
……もしや寝てる間も?
顔面偏差値高スペックなレイと一緒……!
いやいやいや、これは、国の危機から守るための大切な任務だし、そんな浮ついた気持ちは駄目よね。
そう、旅行じゃないし。
不謹慎よねっ。
私の邪な思いよ、ええーいっ、消えろ!
焦る私を置いたまま、アレク様とレイの間で話が進んでいく。
「レイ、大丈夫か?」
「ああ。もちろんだ」
「ミツキを守れよ」
「わかっている」
「お前からもなっ」
アレク様は横目にレイを見て、鼻を鳴らす。
もはやアレク様の言っている意味がわかりませんっ!
「……うるさいな。わかってるよ」
レイは横を向いて、ボソっと呟いた。
私はこのときはまだ、想像もできない程に恐ろしいことが、旅の末に待っているなど、思いもしなかった。




