第3話 みなさん、お久しぶりです!
本日より、第二章スタートしております。
スタート記念ということで、今日は三話まで公開します!
私たちが向かう先に、長い廊下の窓から差し込む月明かりの中に人影がひとつ。
腕を組み、背を壁に預けて立つ長身の男。
きっちりと黒い執事服を着こなし、スラリと洗練された立ち姿が、執事長である彼らしい。
ゆるくウェーブ掛かった黒い髪に、弦の細い銀縁の眼鏡。
「タリアンさん!」
私の元上司。執事長のタリアンさんは壁から身体を起こし、ゆるりとこちらを見る。静かな紫色の瞳。何もかもが洗練された動き。
私は再会が嬉しくて、思わず彼に駆け寄る。
「また来たんだな、ミツキ」
静かで艶のある低音ボイスに、私の背筋も自然と伸びる。
「はい」
「お前も物好きだな」
呆れたというように言った割には、口元にふっと笑みが浮かんでいる。
私の心の中もあたたかくなる。
「はい、またよろしくお願いします」
「ああ」
そういうとタリアンさんは、口元に僅かに笑みを浮かべた。
そして、スッと目を伏せると、静かに私の横を通り過ぎ行ってしまった。
もしかして、私のこと待っていてくれたのかな。
振り返って、執事長のスッと伸ばされた背中を見送る。彼は月明かりの中、静かな長い廊下をまっすぐに歩いていく。
私が彼の下でメイドをしていたときも、彼はほとんど笑ったとこは見たことがない。所作は優雅で無駄がなく、執事長の仕事もすばやく完璧にこなす。
そんな彼は、冷たく厳しい上司にも見えるけど、本当は優しくて、部下思いの温かい人だ。
……と思う、たぶん。
義弟のルーセルに対しては、いろいろあるみたいだけど。
私は小さく「ありがとうございます」と呟いた。
私たちは少し進んだところで、装飾の施された重厚な木製の扉の前で足を止めた。
「ミツキ……ほんとにいいのか」
レイが、あらたまって気遣うように小声で問う。
私がレイのほうを見上げると、じっとこちらを見るコバルトブルーの瞳と目が合った。静かな深い蒼が気遣うように揺らめいている。
「うん。少しでも、みんなの役に立てるなら。そう思ってここに来たから」
私はそう言って、笑みを浮かべた。
「……わかった」
レイは短くそう言って、僅かに目を細めた。
「あんたは、俺が守る」
……その言葉。
以前この世界へ来てしまったときにも、そう言ってくれた。そして、本当に彼は、たくさん私のことを守ってくれたんだ。
彼が扉を二回ノックし、名前を告げる。
「入れ」
中から若いけれど、威厳のある凛とした、懐かしい人の声がした。
私は決意を新たに、重厚な扉をまっすぐ見つめる。
重々しく音をたてて、扉が開かれた。
月明かりが差し込む窓を背景に、執務机の向こうに立ち上がる人影と、その横に並び立つスラリとした人物。
「ミツキ!……久しぶりだな」
「また会えたね」
ああ、二人とも変わらない。
私の好きな乙女ゲームアプリの最推しキャラ、金髪碧眼の騎士様と瓜二つなくらい顔がそっくりな黒王子と、薄紫の長いサラサラの髪とアメジストのようにキラキラした瞳を持つすごい美人(=男)で女難が多いという腹黒宰相。顔は二人ともいいのに、中身がちょっと残念なイケメン。
「アレク様!ルーセル!お久しぶりです」
もう会えないのかな……って寂しく思っていたから、会いたかった二人との再会に、嬉しくて声が弾んだ。
最後に見たとき、ルーセルは北の大魔法使いとの戦いで腕を怪我して、首から包帯で腕を吊っていたけれど、今はすっかり治ったようだ。アレク様も元気そうでよかった。
その後、私たちは部屋の真ん中に置かれたソファに座って再会を喜んでいると、ルーセルが飄々と言った。
「それはそうと、レイの隊服の金釦。なぜ一つ外れて、着乱れているのかな?いつもキチッと着ているのに珍しい」
「ああ。これはミツキの髪が引っ掛かったから、千切ったんだよ」
「……は?」
一瞬の間のあと、アレク様のテンションが急降下したように感じた。
「髪が引っかかったって、お前ら何してたんだ?」
アレク様が眉間に皺を寄せて、とても怪訝な顔をしている。
「はい?」
今度は私が慌てて聞き直すほうだ。
「べつに何もしてない!」
レイも慌てて否定する。
「ちがう!これはここへ来るときに、彼女を抱いてたから……あ、」
って、レイ!そこで止めないで?
アレク様が綺麗な片方の眉を跳ね上げる。
「はあ?抱いてただと!?どういうことだ!?」
「いや、そうじゃない。だから、これは……」
レイが手で制しながら、あたふたとする。いやいや、顔を赤くしてないで、状況説明はちゃんとしてぇ~~~っ
レイがなんとか説明をすると、アレク様がソファにふんぞり返って言った。
「ふん、紛らわしい」
いやあ、アレク様が、紛らわしくしたんだと思います。
横でルーセルが、面白いのを見たと言わんばかりに、くすくす笑っている。
あの~、もしかして、わざと聞きました!?
ルーセルなら、やりかねないと思ってしまった。
その後、タリアンさんが紅茶を煎れて来てくれた。相変わらず繊細で、綺麗な琥珀色をしている。
タリアンさんの淹れる紅茶は、ほんと美味しい。
ルーセルとタリアンさんは異母兄弟だけど、性格はほんと正反対の二人だと思う。
私たちは美味しい紅茶をいただきながら、今後の動きについて話を始めた




