4 200年前の記録
時間のやりくり、特に休日は時間をめいいっぱい使い、さらには前後1時間ずつの延長を粘りに粘って認めてもらって、早10日が過ぎようとしていた。
博物館には展示物のきっかけになるかもしれないという理由を納得してもらい、財団の書庫での調査をしぶしぶ了承してもらった。
生徒たちには学期の成績は国立博物館でのレポート提出でつけることを通知したが、今度は生徒の人数分のレポートを読まなければいけなくなってしまった。
博物館の展示に対し「面白かった」「変だと思った」「かわいい」という意見の中、興味深かったのが、ほぼ全員が400年展を期待しているということだ。
これには200年前の記録と向き合うジョンも励まされた。
大順帝国で海を股にかけた大商会フォートナム商会の支店長を務めたフォートナム男爵はやり手の実業家だったことが記録からも分かる。
子どもは男の子と女の子の2人。
妻とは相思相愛だけでなく、信頼し合える関係で、当時では珍しく働く女性であったことがうかがえる。
所作の美しさで高位貴族の令嬢たちの家庭教師をしていたようだが、それでも手を焼いたのが娘のマリー・アンだった。
そのマリー・アンがあろうことか帝国の港町で迷子になった。
助けてくれた女性がフォートナム家に出入りしていた家政婦と帝国の若い役人の妻であるシュリ。
言葉が通じない中、マリー・アンがシュリに懐いたことをきっかけに帝国役人でありシュリの夫リュウにも許可を取り、シュリに言葉を教え、ルビオン式の所作を教えた。
「シュリとリューか…」
ポツリと呟いて、何かが引っかかったがジョンは先に読み進めることにした。
シュリはフォートナム商会で働くことになった。
フォートナム商会で帝国の役所や取引先との繋ぎをする役目を請け負った。
ジョンはシュリという女性が、妻であり、家政を支える主婦であった。
フォートナム商会での臨時職員でありながらもルビオン式の教えを受けることにいくつもの仕事に従事する自分と重ね合わせた。
忙しいだろうなあ…
そんなことをポツリと思った。
マリー・アンも男爵の妻もエネルギーの塊のような存在だ。
帝国でできた友人シュリとの交流が嬉しくて、しょっちゅう一緒にいる様子がうかがえる。
男爵もリュウという若き帝国の役人に気を許していたのかしょっちゅう記述が出てくる。
ルビオン王国の歴史を考えると非常に珍しいことだと思う。
この世界の3分の1を支配下にいれたということは、そのほとんどに戦争が絡むということだ。
侵略戦争もあれば、だまし討ちもあっただろうし、現地の抵抗軍との戦いもあっただろう。
それでも、それらをねじ伏せて現地人の上に立つ形でルビオン王国は支配を強化したのだ。
にもかかわらず、フォートナム男爵とその家族は現地人の若い夫婦と友人づきあいをしているのだ。
すごく興味深い。




