3. フォートナム財団
ジョンが息を切らせてやってきたのはフォートナム家の財産を管理する財団であった。
一般市民とは言え、フォートナムの苗字を持つジョンにも当然の権利として財団への連絡先を与えられた。
連絡することなどないと思っていたし、財団側もフォートナムの名字だけを持つ傍流のさらに先から連絡が来ることないと思っていただろう。
連絡が来るとすれば、食い詰める前か、軽犯罪後の身元引受か…。
そんなことを思ったが、ジョンは切り替えるように頭を振った。
授業で気づいたのだ。
もしかしたら、ここに手掛かりがあるかもしれない、と。
「お待ちしておりました」
出迎えた職員はアイロンのきいたシャツと皺のないスーツをピッタリと着こなしていた。
足元の革靴までピカピカに磨かれている。
一方のジョンは色あせたジーンズと首周りが少しよれたTシャツとネイビーのパーカーだ。
足元のスニーカーは新品だけど、近所の量販店で元値の半額になっていたものだ。
あまりの恰好の違いにジョンは気後れしてしまったが、職員は特に気にする様子もないようだった。
「約200年前に大順帝国に行かれた当時の男爵が書き残した記録をご覧になりたいと伺っております」
「はい…!」
職員は颯爽とジョンを先導するように併設された書庫へと案内した。
温度と湿度が絶妙に管理された静かな空間に耳の奥がキーンと音を立てた。
年代別に分けられた書棚の前に立ち、目的の記録がありそうな棚に手を伸ばしたのであった。
記録に触れる前にジョンの手は職員によって妨げられた。
ついつい不満そうな顔を職員に向けると、職員はスッと白い手袋を差し出してきたのであった。
「貴重な記録ですので」
「すいません…」
気がはやってしまったジョンは白い手袋を受け取った。
男爵が大順帝国にいた時期の記録は数十冊に及んでいた。
娘と皇女様が友人だったと言うなら、娘も大順帝国にいたころの記録を読めばいい。
あたりをつけて何冊かの記録を抜き取った。
1冊2冊と目を通していくと、3冊目の途中から娘の記録が出てくるようになった。
この記録から先の記録は見える範囲でざっと数えても10冊以上はある。
このどこかに手掛かりになる記録があるはずだ。
そう思えば体が震えてきた。
「あの…じっくり読みたいのですが」
「閲覧でしたらあちらのテーブルをお使いくださいませ」
職員が示した先には座り心地のよさそうなゆったりしたソファとあめ色に輝くテーブルが置かれている。
「何時までいてもいいですか?」
「平日は午後5時まで、休日は午前10時から午後4時までのご予約をいただいた時間に限りご案内できます」
「持ち出しは…」
「お受けできません」
「…ですよね…」
ジョンはがっくりと肩を落とした。
10冊以上を仕事の合間に財団によって読むのは時間がかかりそうだ。
だが、夏休みに入れば学校は…いや、その分博物館の学生向けの案内やイベントが増えるはずだ…。
ここは地道に読んでいくしかない。
200年前の現代とは文法もつづりも違う文章を読んでいく苦行であってもだ。




