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国立博物館非常勤学芸員ジョン・アシュリーはまだ見ぬ世界の展示に挑む ~200年前のお婆ちゃんは帝国皇女の親友って本当?  作者: 皆見アリー
ルビオン王国400年展

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2 200年前のフォートナムの娘

奇しくも中学校の歴史の授業がルビオン王国の海洋進出の話だった。

最終的には世界の3分の1をその支配下に治めたという話はルビオン生まれならだれでも知っていることだ。

生徒たちも少々つまらなそうな顔をして聞いている。

仕方がない、お昼を食べた後の授業だ。

「何か質問は?」

「せんせー」

授業の中盤に問いかければ珍しく1人の生徒が手をあげた。

「この前の連休に久々に会ったひい爺ちゃんが言っていたんですけど、せんせーのひいひいひい…お爺ちゃんって世界中と交易していた人なんですか?ひい爺ちゃんがボケてるだけかもだけど…」

他の生徒が授業もそっちのけに質問をした生徒にヤジを飛ばしている。

「あー…苗字を言った?」

「はい」

「フォートナム?デイビーズ?どっち?」

「…フォートナム…です」

生徒が少し申し訳なさそうに体を縮こまらせた。

「そうだね、フォートナム本家は侯爵でいくつもの爵位を保有していた。だが、僕はしがない一般市民だよ、しかも非常勤の」

肩をすくめておどければ、少し笑い声が立った。

「フォートナム側の200年くらい前の僕の祖先はルビオン王国と他の国をつなぐ貿易商だった。当時は…男爵だったか…それで、その娘がデイビーズという豪商の息子と結婚した。何度も言うけど、僕は一般市民だよ…」

そういってジョンは教室の壁にかかったプラスチックの時計を見た。

残りの時間を今日の授業内容に絡めて自分の家に伝わる話をしても問題ないだろう。

「僕の家に伝わる断片的な話でよければ、有名なところだと…デイビーズの息子と結婚したフォートナムの娘はなんと大順帝国の皇女様と大親友だったそうだ」

生徒たちは大笑いをした。

そんなことあるはずがない、絶対嘘だって…。

「まあまあ、しかもその皇女様はなんと君たちが1度は読んだことはあるだろうアヒルと一緒にイナゴと戦う女神さまの娘だって話だ」

半分くらいの生徒はやっぱり笑った。

半分くらいはその話をどうやら知らなかったようだ。

だが、なんとなく聞いたことあるだろう女神さまの話に、「あれね!」という声が教室でちらほら聞こえてくる。

「とにかく、フォートナムの娘は皇女様との交流を続けて、なんと皇女様とその夫の名前を子孫に代々受け継がせることにしたんだ」

「えー!!」

声がひときわ大きくなった。

それはそうだ、にわかには信じがたいし、ジョン自身もそんな話信じていない。

「とにかく、僕たちの一族は男なら『アシュリー』、女なら『リューカ』という名前が自動的に与えられるんだ」

「はーい!せんせー!その娘さんたちってどんなものをルビオンに持って帰ってきたんですか?」

1人の生徒が話題を変えた。

「そうだな…国立博物館に行くと大順帝国のものが見られるからぜひ行ってみるといい。陶磁器、絹織物、宝石類、様々な飾り物…そうそう、絹織物の中にはその女神さまが作ったって言う『水絹』という絹があるらしくてね…」

生徒たちは初めて聞く言葉に目を丸くした。

「聞いたことがないのも仕方がない。当時でも貴重品、輸出許可がとれなかったらしい。今でも一部の地域でしか作られていない珍しい織物だから。大順帝国が分裂した後、南側の土地でのみ作られ、いまだに輸出規制がかかっている幻の絹だからね」

「それって、せんせーの先祖も持って帰ってこれなかったんですか…?」

「皇女様って女神さまの娘なんでしょ?」

「せんせーのお婆ちゃんは皇女様の親友なんでしょ?」

何気ない無邪気な質問だ。

だが、ジョンの頭の中で何かと何かがバチっと音を立ててつながった。


「せんせー?」

生徒の一人が固まってしまったジョンに問いかけたとき、授業の終了を知らせるベルが鳴った。

ジョンはハッと気づいてパチンともろ手を打った。

「水絹って僕も見たことないんだよな…本家にもあるかどうか…」

「でも、せんせー、今ルビオン王国400年展の準備してるんでしょ?」

子どもたちはよく見ているものだ。

「そうだよ」

「見てみたいなー、水絹」

「大順帝国ってすっごい遠い国の昔の話だけど、なんか急に親近感湧いた」

「わかるー!」

さっきまで眠そうだった子どもたちの顔が生き生きしているのを見て、ジョンは笑った。

「じゃあ…学期の試験をしないで、国立博物館の見学のレポートで成績をつけようかな。レポート用紙10枚以上」

半分は歓声、半分は不満の声が上がった。

「ははは…今日はこれまで。また次の授業で」

「はーい、せんせー」

「またねー」

そう言って生徒たちは笑いながら教科書やノートを抱えて教室を後にしたのであった。


ジョンは職員室に戻り、荷物をわしづかみにすると他の先生への挨拶はそこそこに学校を出た。

ナップサックのポケットから携帯電話を取り出して、操作する時間も煩わしいといわんばかりに焦った様子でボタンを押した。

出てきた連絡先に電話をかけると2回の呼び出し音で相手が出た。

移動時間を考えて今から1時間後の予約を取り付けるとすぐに電車の駅へと走っていったのであった。


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