1 プロローグ
新しい物語を始めます。
どうぞよろしくお願いします!
再来年で建国400年を迎える記念式典のために、ルビオン王国の国立博物館では特別な催しが企画されていた。
400年という長い歴史の中で、ルビオン王国は今からおよそ200年ほど前には、この世界のおよそ3分の1を王国の支配下にいれていた。
そのため、常昼の国と呼ばれていた。
いくつかの大きな戦争を経て、支配下の国が次々と独立し、今の国の形となったのはおよそ60年前だ。
世界の3分の1を支配下にいれていたときと比べて、現在の国としての面積は10分の1にも満たない。
だが、この世界には言語面や制度面などで、世界中でルビオン王国の影響を未だに見ることができる。
そんなかつての栄華を誇った自分たちの歴史を大々的に見せびらかすのではなく、上品かつ皮肉たっぷり、時には自嘲を含めての展覧会が企画されている。
「はああああ…・」
ルビオン王国国立博物館の倉庫で展覧会の目玉となる展示品を探して、1人の若い学芸員が大きなため息をついた。
彼の名はジョン・アシュリー・フォートナム・デイビーズ。
一昨年大学院を卒業してようやく今年、非常勤で国立博物館の学芸員の一人になったばかりだ。
非常勤の学芸員では食うこともままならない。
だから、中学校や高校、大学で文化史の教師もしている、こちらも非常勤だ。
専門は、およそ100年ほど前に一人の独裁者が誕生したことで分裂した大順帝国を含む周辺国の歴史や文化史だ。
大順帝国と聞くと大昔のしかも地理的に遠く離れた神秘の国という印象をもつ人がこのルビオン王国には多い。
なぜなら、その当時交易で入ってきた多くの物語や物品がルビオン王国や周辺国にはないものばかりだったからだ。
なぜか女神の物語が多く、実在した皇帝の寵姫がモデルになった話だと伝わっている。
この国立博物館での勤務を希望したのはその当時の物品や書物が多く収められていると聞いたからだ。
彼にとっては宝の山であるはずだった。
常設展でも大順帝国から持ち帰った展示物には広いスペースが割り当てられている。
陶器、磁器、絹織物、玉の飾り物、かんざしや首飾りにはじまり、当時の生活がわかる道具類や食器類、文房具類。
その当時の記録や出版された書籍や告知など。
文化的に豊かな時代だったとわかるのは、当時ルビオンでは上流階級でしか扱えなかった紙がふんだんに使われ、それらが残っているからだ。
そういった宝物を前に目をキラキラさせていた幼いころ、ジョンは知らなかった。
博物館の倉庫には日の目を見られない遥かにたくさんの物品が眠っているなんて…
この宝の山を目の前に心が躍ったにもかかわらず、だんだんと気持ちが落ちていったのは、これだけの宝がこの先も倉庫にただ眠り続けるという運命が見えてしまったからだ。
「400年展の印象に残るような目玉の展示か…」
倉庫の大量の物品と分厚い目録の前でジョンは1ページずつ確認する気にもならなかった。
常設展で展示されている物品が厳選に厳選を重ねられたルビオン王国とその歴史を代表するものなのだ。
今更、それらをしのぐものが見つかるだろうか…
そんな気さえしてくるのだ。




