聖人達はいずこへ
「こんな感じでどうだ?」
「うん、良いんじゃないかな」
冒険者を始め、様々な職を持つ人材を育成する学校『パズレインスクール』の掲示板にスザクとアメジスが掲示物を貼っていた。
『ホーリーセイバーズの情報求む。つきましてはミスティーユまで』
掲示板に貼られたポスターにはシンプルに文字と国のシルエットが描かれていた。内容はセインルーンの情報を知っていればミスティーユまで報せて欲しいと言う内容だった。
「それにしてもこんなことでシスターの言ってたセインルーンが見つかるのか」
「手掛かりが少ない以上はこうやって探すしかないよ」
同じポスターを両手に抱えたスザクは遠い目をし、アメジスは苦笑いをしながら廊下を歩いていく。
▷▷▷
「皆、スザクのことはもちろんだけど、それぞれ自分の向き不向きを見極めるためにも訓練だよ」
事の発端はこれまでの冒険で浮き彫りになった短所を一丸となって克服したり、逆に長所を伸ばしていく鍛錬をしていた時だった。
「くそ〜…あたしは魔法は得意じゃないんだよ」
「あたしも。格闘とかの方が得意なのに」
「得意を伸ばすのも良いけど、レイラとステラはもう少し戦略を会得する必要があるからね」
スザクほどではないにせよ、レイラとステラは力やゴッドプレシャスでゴリ押ししてしまうきらいがあるためメイナスから戦術や魔法に関する勉強を受けていた。
『ブワッブワワッ』
「ふうっ…うぐっ…♡」
そのスザクも共に勉強をしていたのだが、背中にはミックススライムのミックが貼り付いてジュウジュウと皮膚を焼いてダメージを与えていた。
「スザクはそのまま快感を耐えて勉強だよ」
これはすぐに絶頂するのを防ぎながら勉強をすると言う、スザクに取っては地獄のような鍛錬だった。これにはドMでどんな攻撃に対しても無敵なスザクでもかなり堪えているらしく、顔を赤らめながら甘い声を漏らして辛そうにしていた。
「はあ…はあ…疲れたね、アスレチック」
外ではアメジス達が膝に手を置いて呼吸を整えていた。こちらは逆に運動が苦手なメンバーが基礎鍛錬をしていた。
「用意と片付けの必要がないから楽ですね。それにただ走るよりもこっちの方が良いですね」
柵や荷車などを障害物に見立てて走ったり登ったりとさながらパルクールで訓練をしていたが、実戦向きだとニナが前向きなことを述べる。
「それにしても、この運動服は何かお尻を締め付けてくる上に変な気分にさせてくるね」
顔を赤らめるルアーネは目を下半身に履いた紺色の運動服にやるのだが布面積が極端に少なく、その形状はまるで女性用下着の形をしており、お尻のラインを浮き彫りにさせる上に太腿を大胆にさらけ出す構造になっていた。
「シスターさんには悪いですけど、これは本当に運動服なのでしょうか」
この運動服を持ってきたのはシスターリラだった。上半身はともかく、下半身の方はほとんど下着に近い形の露出に本当に彼女の私物かどうか目を疑った。
「賢者の書では間違いなく運動服だよ。ただ旧式の物らしいけど…」
少なくとも運動服であることは間違いなかった。間違いなかったが、それはルアーネ達も知る由もないが、どう見ても『ブルマ』であった。
「お姉ちゃん〜!もっと遊ぼうよー!」
「リュクウ達は元気だね。ボクは少し休みたいよ」
元気の塊である子供のリュクウ達はルアーネ達をグロッキーにさせたアスレチックに嬉々として挑んでいた。
「ユウキュウちゃんとミエナさんはどうしたんですか」
「ミエナちゃんはシスターリラの調べ物を手伝ってて、ユウキュウちゃんは手伝うと見せかけて訓練から逃げたよ」
体操着をくれたリラはミエナを見て何か思い出して共に調べ物をし、ユウキュウはそれに便乗して訓練から逃げたのだ。
「皆ー、ちょっと良い?」
噂すればなんとやら、調べ物をしていたミエナがルアーネ達を呼ぶ声が聞こえてくる。
「実はね、新しい領主様のことについて心当たりがあるんだって」
お茶菓子を用意していたミエナは視線を紅茶を淹れているシスターリラに移して話を振る。
「牧師様がかつて所属していた組織を訊ねてみてはどうでしょうか?」
教会の中でも一番高い位に当たるのが牧師だ。リラはかつて師事を受けた牧師が所属していた組織の人間を候補に挙げてきた。
「牧師ってことはあんたの先生か?」
「ええ、その牧師様は数年前に亡くなられましたが、彼が所属していた聖騎士団や司教団を中心に『聖人』で組織された『ホーリーセイバーズ』は存続しているはずです。彼らは『誠実』や『純粋』、そして何よりも『清楚』と『平和』をモットーに戒律を組んでいたので適任かと思います」
確かに聖人と呼ばれているのならば、決して悪に屈しない精神を持つため、新しいミスティーユの領主には適任と考えられた。
「内面は立派なようじゃが、トードナのような輩に太刀打ち出来る実力はあるのかのう?」
しかし内面だけ言えば前領主だって負けていない。問題は悪しき存在を打ち負かすだけの実力があるかどうかだった。
「ホーリーセイバーズの方々はよくレイスが出現する場所へと向かい、人々を守るため司教団や聖騎士団として活動していたはずです」
「レイス?」
「肉体を持たない魂だけの存在のモンスターだよ。元が何の魂かは知らないけど、人間やモンスターと言った幾つもの魂が悪意や怨念、或いは未練などが混ざり合って誕生するのがレイスと呼ばれているんだ」
所謂、悪霊やゴーストの類であり、その牧師が所属していたホーリーセイバーズはそんなレイスを退治することを生業とする悪霊払いのような組織だった。
「レイスもそれなりに厄介なモンスターで基本的にはAランクに属するんだ。それを倒せるとなると実力は確かなはずだね」
悪霊の類であるため物理攻撃や武器は全て無効化され、他のモンスターと異なりすり抜ける体質を利用して障害物の中に隠れ潜んで身を守るなど狡猾な一面がある。
更に質が悪いのは精神が弱った人間に取り憑くことだった。取り憑けば人間の身体を隠れ蓑にしたり、そのまま宿主としてエネルギーを搾取し場合によっては人質にしたりと悪行の限りを尽くせるのだ。
おまけに取り憑けば日中でも活動可能になり、宿主となった人間が死んでもレイスは既に霊体であるため死ぬことはない。
目に見えないし、すり抜けるられるから触れもしないため何処から来るか予想も出来ない。反面レイスは一方的に人間に取り憑いてやりたい放題し、宿主となった人間は気付けば知らない間に幾つもの罪を犯したことで濡れ衣を着せられ人生を狂わされてしまう。
このためレイスは一種の厄災や疫病ように扱われ人々から恐れられ、そして嘲笑うように罪を全て擦り付けて消えるために忌み嫌われていた。
このような被害が増えないよう、レイスへの対策手段として光のエレメントを極めたことにより『聖』の力に覚醒した人間や多種族によって組織されたのが『ホーリーセイバーズ』だった。
「そのホーリーセイバーズって何処にいるんだ」
「それが分からないのよ。なにせホーリーセイバーズが活躍していたのは牧師様が若い頃だったから…」
「若い頃…お主、何歳おわあっ!?」
活躍した年代が今よりも若い時と聞いたユウキュウは師事を受けていたリラの年齢を疑った瞬間、彼女の手元にカップソーサーが突き刺さった。
「何を誤解したのかしら〜?私が教え子になったのは牧師様がホーリーセイバーズから脱退してからなのよ〜?」
「そ…そうか済まなかったのう…」
同じ女性として年齢のことは禁句だったらしく、例え誤解でも怒らずにはいられないリラにユウキュウは迂闊だったと謝罪した。
「しかしそんな立派な組織なのに、何で今じゃ何処にいるのか分からなくなるんだよ」
ステラの核心を突いた発言に誰もがあっとなる。聞く限りでは厄災に数えられるレイス達から人々を守っているのなら、例え清廉潔白なイメージ通り謙虚だったとしても良い意味で人々の注目を集めているはずだ。
「当時は確かにレイスが大量発生して多くの人々を不幸にしてきたんだ。だからホーリーセイバーズがほぼ絶滅するまで討伐し、今じゃあまり見られなくなったことでホーリーセイバーズも自然消滅した可能性があるんだ」
賢者の書によるルアーネの調べだと、当時はレイスの被害が大き過ぎるため聖人の存在は有難かったが、そのレイスがほぼ居なくなったことで時代の流れと共に尊重の意思は廃れていき、やがて必要が失くなったホーリーセイバーズは自ら表舞台から姿を消したと言う線が濃厚だと告げた。
「そんな大昔に居なくなった正しくゴーストみたいな組織をどうやって探すのじゃ。それに今も生きているか保証がないぞ」
最後に活動していた大まかな時期がシスターリラの先生である牧師の若い時だったため、今では存命しているかどうかすら分からないのに、探し出して新しい領主に任命しようだなんて雲を掴むような話であった。
「ここは学校で情報を探ってみよう。ひょっとすると何かしらの情報が分かるかもしれないね」
「それには賛成じゃが、お主の賢者の書ではどうにかならんのか」
「もちろん賢者の書でも探すよ。ただ、手掛かりが少ない上で膨大な情報や記憶を探る必要があるから時間と集中力が必要不可欠だね」
全知全能の肩書きを持つゴッドプレシャス『賢者の書』ならばホーリーセイバーズの足取りを探るのは簡単そうにも思えるが、そもそもの情報量が多いため必要な情報を手に入れるには長時間集中する必要があった。
「その間にも何か手掛かりを見つけてよ。あればそれを元に時間を短縮出来るかもよ」
「シスターが知っているのなら「どう言うことかしら?」……まあ、まだ人の記憶に残っているのなら、学校で探せば手掛かりは一つや二つぐらいあるだろ」
思わず失言し危うくティーポットの紅茶を文字通り浴びるように飲みそうになったステラはルアーネの言葉に賛成した。
「必要な情報や手掛かりを人伝いに探すのも冒険者には必要なテクニックだからね。良い機会じゃないかな」
「リュクウも手伝う〜!」
メイナスもアイディアに太鼓判を押し、リュクウ達にも分からないことがあれば人に聞いたりするコミュニケーション能力を養わせるチャンスと考えて手伝わせることにする。
「でも一人一人に聞いてたら結局時間が掛かるかもな」
基本的に頭は弱いスザクだが竹を割ったような性分であるためか、核心を突いた台詞を呟くために誰もが面食らう。
「何も聞くことだけが全てじゃないさ。掲示物を利用したり、本で調べたりとかね」
「だったら私はポスターを作るよ。絵とか得意だよ」
「じゃあ、あたしも手伝おうか?」
スザクの申し出にアメジスは喜んでポスター作りの手伝いをさせる。これこそが二人がポスターを作って掲示板に貼るに至った経緯だ。
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『スピナビットの捕獲、または駆除してくれる人はいませんか』
『ズッシンナイトの納品求む。報酬は防御力抜群の防具。詳しくはドシンズ工房まで』
『雷獣の討伐依頼――必要条件:Aランク推奨』
「よく見ると掲示板には色々貼ってあるな」
「クエストはもちろんだけど、ちょっとした困り事とか素材納品の相談とかも貼り出してあるね」
貼っていて気が付いたが掲示板には学校で受けるようなクエストはもちろん、外部から持ち込まれたであろう納品や駆除の依頼書が貼られていた。
『魔法研究部の部員求む』
『モンスターはお好きですか?モンスター愛好会!』
『格闘家ならファイトクラブで己を磨こう』
『新しい味の探求をしてみませんか?料理研究部で新しいメニューを作ろう』
「何だこれ。依頼や相談にしては何か変だな」
ところがたくさんある依頼書に混じって、何かしらの勧誘を促す掲示物も幾つか見受けられた。
「それはクラブ活動…簡単に言うと学校の授業以外で魔法のことを研究したり、剣術や武術とかで身体を鍛えることだよ」
パズレインスクールは冒険者を育成する学校だ。そのため本格的な冒険を始める前にクラブ活動を通して実際に自分の実力がどれだけ通用するのか見極めるために盛んに行われているのだ。
「へぇー、でもこんなに掲示物があったら、あたしらのポスターを見てくれる人なんて少ないんじゃないのか」
「う〜ん…それもそうだよね…」
せっかく作ったとは言え、たくさんの掲示物が貼ってあっては大海に一石を投じるようにすぐに埋もれてしまうだろう。
「「何してるの」」
「あれ、お前らは…」
聞き覚えのある声が2人分ハモるように言い放たれたと思ったら、スザクとアメジスの前には双子の女子が立っていた。
「えっと…誰だっけ」
「なっ、あたしはククノ!」
「スロン…忘れないで」
彼女らは学園長の正体を探っていた時に自分達に話しかけてきた双子だった。
「ねぇ、ホーリーセイバーズのことを知りたいんだけど、知らないかな」
「ホーリーセイバーズ…何処かで聞いたような」
編み込んだ後ろ髪を弄りながらスロンは垂れ目を細めながら考え込む。
「確か半世紀ほど前にセインルーンと呼ばれる場所に向かったのを最後に音沙汰が失くなったとか」
渡りに船と言うべきかスロンはホーリーセイバーズの最後の足取りを知っていた。
「そのセインルーンは何処なんだ」
「分からないわよ。何でもそこは聖人達の隠れ里とか言われてるから」
その質問に対してスロンではなくククノが詳細を答えた。
「とにかくそのセインルーンのことをルアーネに聞けば分かるかもな」
「そうだね、ありがとう!スロンちゃんにククノちゃん!」
少し首を傾げたものの新しい手掛かりを手に入れ、図書館にいるルアーネに教えようとスザクとアメジスは仲良く手を振る双子と別れるのだった。
「あの子達はセインルーンに行くのかなスロン」
「行くかもね。でもあそこは悲しい場所だからねククノ」
「うん。けど、ひょっとすると明るい未来を指し示すかもね」
「そしたら少しは面白い時間になるかもね」
去って行ったのを確認したククノとスロンは行く末を見守るかのようにお互いに呟くのだった。
「どうですか先輩」
「これも違うな。今のところ見つかっているのはホーリーセイバーズの功績や歴史ばかり。最近の足取りについては触れられていないな」
ルアーネは図書館でニナと共にホーリーセイバーズの本を片っ端から調べていたが目ぼしい結果は得られなかった。
「『流星』の正位置…案ずるでない、儂らの願いは成就されるようじゃ」
「それは新しい領主が見つかるってことか?それともホーリーセイバーズのことが分かるってことか?それで色々変わるだろ」
フォーチュロットカードで占いの結果を述べるユウキュウだが、傍らでそれを聞いていたステラは怪訝な顔で返す。
「ルアーネちゃん、いる?」
「ホーリーセイバーズが最後に行った場所が分かったぞ」
図書館に双子から聞いた情報を持ち帰ってきたアメジスとスザクが入って来る。
「最後に行った場所か…これは有力な情報だね」
中途半端な経緯よりも最後に立ち寄った場所ならば、そこに定住している可能性も高いため期待は出来そうだった。
「それって何処なんだい」
「それがセインルーンって場所なんだ。何処か分かる『ドサドサッ!』ん?ミエナ?」
静かな場所の代表格である図書館なだけに本がたくさん床に落ちる音が響いて、スザクだけでなく誰もが本を落とした本人であるミエナに注目する。
「セイン…ルーン…」
「え、どうしたの」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしたミエナは信じられないと言わんばかりに一歩二歩と後退りをしていく。
「うっ!?あ…頭が…痛い…!?」
「ミエナちゃん!どうしたの!?」
シンフォニーフォレストの一件ではルアーネが頭痛に襲われたが、今回はミエナが頭が割れんばかりの痛みに苦しむことになった。




