不死鳥少女らは追い求める
いつものように教会の子供達と水汲みをしていたシスターリラは明後日の方向から見慣れない獣と見覚えのあるドラゴンの背中にいる人物を目の当たりにしてバケツを落とす。
「皆、ただいま!」
「ご迷惑をお掛けました!」
「メイナス…ニナ…!」
「「「…!わああああん〜!?」」」
もう二度と会えないと思っていたメイナスとニナがスザク達と共に帰って来たことにシスターも子供達も涙を流しながら二人に抱き着いた。
「良かった…良かった…皆、無事で…」
「シスター…ごめんね。そうだ、紹介したい子がいるんだ」
教会の面々で再会の余韻に浸るものの、新しく仲間入りする子が疎外感から寂しがらないようメイナスが紹介するよう背後に視線を移す。
「ほら、自己紹介して」
「あ…あの…僕…アレックス。キマイラです…」
元から引っ込み思案な性格と自身の境遇も相まってアレックスは拒絶されないかと怯えた様子でメイナスの背中に隠れながら自己紹介をしてくる。
「わあっ!新しい子だ!」
「あたしニーナ!」
「遊ぼう…」
新しい子が来たことにニーナ達は喜んで駆け寄り、ボールやら本やらを手に遊びに誘う。
「え…僕はキマイラだよ…?」
それに対してアレックスは自分がキマイラであるのに怖くないのかと再確認するように聞くとニーナ達はキョトンとする。
「キマイラ?それって何なの?」
「あたしみたいなキメラのことだ」
「へぇー、ってことは君もステラお姉ちゃんみたいなこと出来るの?」
「え…そうだけど…」
トトからの質問にはステラが答え、その答えにヤトラがアレックスに質問すると、三人は恐怖するどころか目を輝かせながら見つめてくる。
「スゴいスゴい!どんなのになれるの!」
「変身してみなさいよ」
「空を飛べるんだったらスザクお姉ちゃんと一緒に飛ぼう!」
まるでヒーローショーのヒーローと対面したように興奮した様子で詰め寄る三人にアレックスはタジタジになるものの不思議と心が温かくなる。
「ほらね、大丈夫だったでしょ?」
「私達はあなたが何であれ受け入れるわよ。いらっしゃい、アレックス」
「……うん!」
メイナスに再び背中を押され、シスターリラから受け入れられアレックスは晴れて教会の子供達の仲間入りを果たすのだった。
「…さて、あたしらの問題は山積みだな」
アレックスとリュクウは子供達と外に遊びに行き、教会に残ったレイラ達はこれからどうすべきかと話し合う。
「この国には領主がおらんからのう。と言うかそっち方面はまだあのババアの配下なのに大丈夫なのかのう?」
一番の問題はやはりこの国の領主の問題だった。トードナのことはもはや心配ないだろうが、ミスティーユに領主がおらず宙ぶらりん状態になっていた。
おまけに新しい領主を迎えて引き継ぎをしようにも、行方不明とは言え腐っても前領主であるトードナの息がまだ掛かっているのなら円滑には進められないだろう。
「それは大丈夫でしょう。先程、トードナの不正や犯罪の証拠が幾つも見つかり失脚した報せが入りました」
紅茶を淹れながらシスターリラが吉報を話してくれたお陰でユウキュウの問題は杞憂に終わった。
「一番の決め手は…前領主であるリュドー様が暗殺された証拠です。それにより所有する屋敷や領地が調べられましたが今では消息が不明となり、蒸発してしまったのではと囁かれています」
この教会を建てて自分達に居場所をくれたはずのリュドーがトードナの手によって殺害されたことはシスターリラもよほど堪えていたのか涙を堪えていた。しかしその無念は果たされたと事の顛末を話すのだった。
「あれ、でもそのリュドーって人はシンフォニーフォレストのあの屋敷で殺されたんだろ?もう爆発して消し飛んだんじゃなかったっけ?」
「そう言えば変だよね」
紅茶を飲んでいたスザクが屋敷と共に吹き飛んだはずの証拠がどうして見つかったのかと不思議がり、クッキーを食べていたアメジスも眉をひそめる。
「そう言えばメイナスさん、あの時何か色々探しててアレックスくん達と一緒にいた人達に何か渡してたよね。もしかしてあれって…」
「そう、トードナが残した犯罪の証拠だよ。裏帳簿とか人身売買の領収書とかね。叩けばかなりの埃が出てきたよ」
屋敷をただ爆破するだけならどんなドジにでも出来るだろうが、メイナスは折角の証拠を見つけては拉致された人々に託して自分達の代わりに暴露するよう頼んでいたのだ。
「ふむ…お主が領主ならこの国も安泰するじゃろう」
相手の不正を暴いたり、形勢逆転の作戦を考案したり、幅広い知識と司令塔としての優秀さを見せるメイナスを称賛しユウキュウは彼を新しい領主として推し進める。
「止めてよ、僕はそんな柄じゃないし、冒険はまだ続けたいよ」
「まあまあ、メイナスはまだ若いですし、追っている夢だってあるのですから強要は出来ませんよ」
確かに優秀かもしれないがメイナスの意見や意思は尊重すべきだとシスターリラから諭され、ユウキュウは「勿体ないのう」と言いながら紅茶を啜りながら目尻を上げる。
「しかし領主を早いとこ…それも腕っぷしの強いと言う条件付きで決めんと、またきな臭い奴がここを乗っ取るかもしれんぞ」
的確な指摘に一同はぐうの音も言えなくなる。前領主は暗殺されたが、実力もある程度なければ再びトードナ以上の悪人にミスティーユを乗っ取られては元の木阿弥だった。
「シスターリラ、他に領主に向いてそうな腕っぷしの良い人って知ってる?」
「残念だけどルアーネ、さすがにそんな都合の良い人は知らないわ」
それにそんな適材適所を描いたような人間がいたら、とっくにミスティーユの人々が推薦しているはずだ。少なくとも人のツテを利用するのは難しそうだった。
「何だったらあたしに願えば、それぐらい余裕なんだけど?」
「お?そうなのか?」
「バカ、そいつを頼るなよ」
見つけてやれると聞いてスザクは思わず願いの妖精の口車に乗せられそうになり、それをレイラに呆れながら止められる。
「もう一つの問題はこいつを何処に封印し直すかだな」
テーブルの上にはセレスティアから封印を託された願いの精杯があった。シンフォニーフォレストは既に別のデーモンスピリットを封じているし、ミスティーユにも封じる訳にはいかなかった。
「セレスティア様の言っていた『ピラミッスル』はどうですか」
「一度封印が破られている場所にもう一度封じるのかのう?不安しかないがのう」
元々シンフォニーフォレストに封じたデーモンスピリットはピラミッスルに封じられていた。それをセレスティアから調べるよう頼まれたが、さすがにそこに願いの精杯を封じるのは暗証番号を知られた金庫に仕舞うぐらい危険だろう。
「それも願えば!…って、言いたいけど、あたし的にはすんごい困るんだけど」
「だろうな」
願いの妖精は再び願うよう提案してくるも、せっかく自由の身になれたのに自分で自分を封印する願いだなんて彼女からすれば正しく願い下げだろう。
「どっちも見過ごせない問題だけど、解決策は中々思いつかないね」
「こうなったら先にすぐ解決出来るような所から始めていこう」
八方塞がりだとルアーネが結論づける中でメイナスは出来ることからやっていくべきだと補足して一同の注目を集める。
「僕達はスザクのことについて知らなさ過ぎる。それにスザクもスザクでゴッドプレシャス以外にも他に何かあれば悪人にフェニックスの力を悪用されないはずだ」
これまでスザクと出会ってから色々な冒険をし、その度にフェニックスの力を目の当たりにしてきた。だが、回復可能範囲や逆に何が回復出来ないなど知らない所もたくさん見えてきた。
それに悪人にスザクのフェニックスの力を悪用されることも少なくなくなかった。何とか今日まで切り抜けられたがそう何度も上手くいくとは限らないし、何よりも今回のことでその事実を嫌と言うほど痛感した。
だからこそスザクには身を守る術やゴッドプレシャスに頼らない戦闘技術を身に着けて貰い、自分達はスザクのことについてもっと詳しくなるべきだとメイナスはハッキリ告げるのだった。
「スザクが強くなる方法はシンプルだろうけどよ、こいつのことを知るったってどうやってだよ?」
強くなるには身体を鍛えたり技を磨くなど方法は簡単に思いつくが、分析する方法は皆目検討が付かなかった。
「ボクとメイナスとで今分かっている情報を共有し、そこから更に掘り下げていくのさ」
「まあ、つまりは情報を整理していくのさ」
メイナスとルアーネは今持ち合わせている情報を擦り合わせつつ、そこを詳しく調べていけば何か発見があると考えた。すると外で誰かが泣き喚く声が聞こえてくる。
「うわ〜ん!?痛いよぉ〜!?」
「わっ、どうしたのトト」
驚くも無理もなかった。トトが髪の毛に枝やら葉っぱやらを絡ませ、あちこち擦り傷を作った状態で泣きながら教会に入って来たのだ。
「枝にボールが引っ掛かちゃって、ボールをトトちゃんが取ろうとしたら…」
「足が引っ掛かってそのまま枝の中に突っ込んじゃったんだよ」
泣き喚くトトの代わりにヤトラとニーナが何があったか説明する。
「ちょっと待ってろ。見せてみなよ」
指先に火を灯したスザクは泣いているトトと視線を合わせると傷口に火をそっと近付ける。
「わあっ…やっぱり温かい」
「スゴい、傷口が消えていく」
火などで炙って火傷を負わせて傷口を塞ぐ応急処置が存在するが、スザクの火はトトの傷口に当たっても火傷するどころか何事もなかったように治癒していくのだ。
「ほら、ここも。ここもケガしてるな」
「ありがとう、スザクお姉ちゃん。もう大丈夫だよ」
それから傷口に火を当てられてたトトはすっかりケガを完治した上に、ダメージによる疲労も回復したのか元気になるのだった。
「ほほう、調整すれば指先の火だけでも治癒効果があるのか」
「だったら何も森全体を燃やすほどの炎を出さなくても良かったんじゃないのか」
あんな小さな炎でも充分効果が得られるのならば、効率が悪いのではとステラが指摘すると、スザクは難しい顔を浮かべた。
「あたしは炎の放出を抑えてるだけだから…その…気持ち良くなると…うっかりボワッと全身から漏れちゃう時があるんだよなぁ…♡」
これでも意識してコントロールしているため、時と場合によっては思わず身体から炎が出てしまうと、少し顔を赤らめながらモジモジと答えるスザク。
「なんかエッチぃよ。まあ、あの時は森が復活したから結果オーライなんじゃないの」
「まあ、元の目的であったシンフォニーフォレストの蘇生も果たさせれたからね」
「けれども、それは森が破壊されていたから良かったんだよ」
結果的には丸く収まったと呟くミエナとルアーネだったが、メイナスはとある懸念を挙げた。
「考えてもご覧よ。森が蘇ったのは既にトードナに破壊されて木々が死に絶えていたからだよ」
「それで良かったのに何が不満なのじゃ」
「それは逆に生きている者には単なる炎でしかない…もしも森林破壊がされずに木々が生きていたら?スザクの炎でシンフォニーフォレストが火の海になるところだったよ」
フェニックスの炎は再生の炎。つまり死んでいる、負傷したりしている生命を癒したり蘇らせたりする力があることを意味する。
しかしその逆に生きている者には働かないことになり、再生の炎は単なる業火として生きている相手の命を蘇らせるどころか奪ってしまうだろう。
「でもそれならトードナや私達のことはどうなるの?スザクちゃんの炎には当たってたのに何ともないよ」
しかし疑問があった。もしメイナスの仮説を鵜呑みにするなら、シンフォニーフォレストやこれまでの冒険で何度もスザクの炎を浴びていた自分達には何の影響もないのは不自然だった。
「それにスザクちゃんの服とかも炎で再生出来たけんだけど…」
「そう言えばそんなことしたな。服が窮屈でさぁ」
スザクとパンドラの森で出会った後で、産まれたままの姿で出歩かせる訳にもいかないためにアメジスは服を着させた。しかし窮屈さによる締め付けがスザクを絶頂させ、それによる炎の放出によって消し炭にしてしまったことがある。
だが、すぐその後で再びその炎によって、消し炭になってしまった服は元通りになったことがあるのだ。本来ならば生き物を蘇らせるはずなのに、無生物であるはずの衣服を元通りにしたことにメイナス達は目を丸くさせる。
「そんなことがあるのか…物質にまで働くなんて」
「もしそうなら物流業界や生産業が混乱しちゃうよ」
そんなことが本当に出来たら壊れた武器や防具なども何度も修復することが可能となり、需要と供給のバランスが崩れてしまうだろう。
「けど、アルノさんの研究所はそうではなかったですけど、その差は一体何でしょうね」
「それは恐らく壊れてる・壊れてないが関係しているだろうね」
とにかく再生の炎は生物だろうと無生物だろうと作用し、その時の状態によって効果は正反対になることが分かった。
「けど、それならトードナとアラクネが分離したのはどう言うことなのでしょうか。あの時は私達も炎に包まれたのに…」
スザクの炎によって傷が治癒し死から再生するのは分かっている。だが、トードナとアラクネが無傷で分離したことと、傷を負っていたとは言え生者である自分達が炎に焼かれず無事だったことがまだ分かっていなかった。
「確かに今までとは何か違ったような気がする。ルアーネ、あの時何か変わったことはなかったかい」
「あの時は…トードナにスザクちゃんの回復能力を与えないよう、根を張り巡らせて奪っていたんだ」
今回の炎の規模は付き合いが長いメイナスでも見たことがなかった。だからこそ直前までスザクの再生能力を吸収していたルアーネは順を追うように記憶を辿る。
「そう言えばあの時、最後の最後でスザクちゃんの何処かに妙に熱くてマナミナに溢れた場所に根っこが入り込んだような…そしたら身体の芯からマナミナと生命力が溢れてきて、生まれ変わったような快感が突き抜けたような…」
何が起きたかはルアーネにも理解出来なかったが、経緯を説明し続けている内に不思議と身体が火照る上に顔が赤くなっていく。
「やぁん、何を言わせるんだい!?」
「何でそんな照れてんだよ」
一体何が恥ずかしいのか、もうこれ以上は話せないと真っ赤な顔を両手で隠してそっぽ向く。
「スザクちゃんは…って、どうしたの?茹で蛸みたいになってるよ」
「べ…別に…」
アメジスは当事者であるスザクを訊ねるも、彼女もそっぽ向いていた。しかしルアーネ以上に顔を真っ赤にし滝のような汗を流していたことに唖然となる。
「トードナのことはボクなりに考えてみたけど、多分アラクネメシスになる前に戻ったんじゃないのかなって思うんだ」
「それは僕も同じ事を考えたよ。あの時の炎は単に回復させるだけじゃない。あるべき姿…もっと言えばある程度の通常状態に戻したようにも思えるんだ」
話を逸らすようにルアーネが仮説を述べるも、あの炎がどうやって発生したかは不明のままだが、自分達とトードナの身に起こったことを考えれば辻褄が合う。
「だからシンフォニーフォレストの木々もセレスティア様も、そして僕達もある程度の通常状態に戻されたんだ」
「あ、もしかしてセレスティア様が消滅せずに妖精の姿になったのも、あの炎のお陰だったってことですか」
単なる再生の炎とは異なる炎のお陰で自分達は焼かれることもなく、トードナやセレスティアもあるべき姿へと戻ったのではと考えたがルアーネはまだ腑に落ちてない様子だった。
「寧ろこれは生まれ変わったと言うべきかな?それとも時を戻した?とにかくあの炎はそう錯覚するほどに生命力が満ち溢れていたのだろうね」
時を巻き戻した、元の姿に戻した、生まれ変わったなど様々な解釈は出来るほどにあの炎は特別の炎だったのだろうとルアーネが結論づける。
「生まれ変わった…あたしらは以前にもこんなのを目にしたような」
その考察を聞いていたレイラは紅茶を飲みながら既視感を覚えていた。
「それって、僕の目が見えるようになったり、トトの腕やニーナの耳が元通りになったり、シスターの腕が良くなったりした時のこと?」
「ヤトラ、言われてみると確かに…」
「あの時はスザクちゃんの炎を浴びなかったはずだけど、効能的には大差ないね」
話を聞いていたヤトラがその既視感の正体を述べたことにレイラだけでなく、メイナスもアメジスも思い返して頷くのだった。
「けど、そんなの分かってどうすんだよ。邪な連中がより狙ってくるんじゃねぇのか」
ダークエルフであるために実験材料にされたステラからすれば、そんなの逆に解明しない方が厄介事が起きないのではと不貞腐れながら呟く。
「確かにね。けど、ミスティーユを磐石にするためなら解明は必要なはずだよ」
メイナスは言っていることは正しいが、ミスティーユを良くするためならそうとも言い切れないと返すためにステラは首を傾げる。
「かつてミスティーユは温泉に満ち溢れた地…そこまで聞くと観光地として有名だと思うじゃないか?」
「それはあたしやアメジスも知ってるよ。パンドラの森に住んでいたフェニックスの炎で地下水が温められて、それが温泉となって出てきたってやつだろ」
「でも今はフェニックスがいない…と言うよりも今はスザクちゃんがフェニックスではあるけど、それとこれとが何の関係があるの」
自分達の住んでいる場所のことぐらいある程度の理解はあった。今では信じられないが、この国は本来フェニックスの恩恵を温泉と言う形で受けていたが、今や完全に温泉は枯れ果ててしまち、国は寂れてかつての賑わいは見る影も失くなっていた。
「僕も暫くはこの国の歴史について調べてたんだ。そしたらかなり古ぼけて完全には読み取れなかったけど、このミスティーユが観光地として有名になったのは『エリクサー』が関係しているんだ」
温泉が枯れ果てた歴史のことはメイナスだってよく分かっているはずだ。それなのにそんなことをわざわざ話すのにも理由があると思っていた。
そんな中でメイナスはミスティーユが以前は賑わい、発展していた理由として『エリクサー』の存在を告げる。
「エリクサー…どっかで聞いたような」
「それって確か、スザクちゃんがミックに呑み込まれた時に偶然出来たあれのこと?」
『ブワッ』
聞き覚えのある単語にスザクが思い出そうとする前にアメジスが思い出し、名乗りを挙げるようにミックススライムのミックが鳴き声を発した。
「まだフェニックスがパンドラの森にいた頃、ミスティーユには何百年単位にエリクサーの源泉が湧くことがあったらしいんだ」
「まさかお前はそれがフェニックスと何か関係があるって言いたいのか」
そこから先は何が言いたいか理解したステラが結論づけるも、幾ら不老不死の象徴であるフェニックスが生命の根源たるエリクサーと由来してるなんて眉唾物だろうと頬杖を突きながらボヤく。
「でも偶然にしては出来過ぎてるよ。それにフェニックスの恩恵が温泉だけとは考えにくい」
それまで温泉のことは歴史に刻まれて人々の意識に織り込まれていたが、メイナスはフェニックスの恩恵がそれだけでなくエリクサーもなのではと考えていた。
「それがエリクサーだってのか?そう言えるだけの証拠はあるのかよ」
しかしやはりエリクサーとフェニックスを結び付ける理由がハッキリしないのなら予想の範疇でしかないとステラは証拠を求める。
「僕らが証拠さ。シスターもトトもニーナもヤトラも…皆それぞれ疾病を患っていたけど、その翌日にはシスターはそれまで長年患っていた氷鱗病を完治し、ニーナ達は欠損した耳や腕や目やらを再生していた…こんなのエリクサーにしか出来ないよ」
「…それって、スザクの炎を浴びたからじゃないのか」
もはや奇跡としか言いようがない出来事にステラも一瞬押し黙るも、スザクの炎があれば難しい話ではないのかと返すもメイナスは首を横に振った。
「いいや、あの時はスザクの炎を誰一人も浴びていなかった。それにスザクの炎は肉体の再生や回復、生命の蘇生などは出来ても病気や疾病にどの程度効くのか、ある程度の時間が経過した肉体欠損にもどれくらい通用するのか…」
これまでのスザクとの付き合いの中で再生能力はたくさん見てきた。しかしただ単に再生・治癒すると言っても細かい部分が曖昧な部分がある。
例えば骨折を再生する場合なのだが、一般の骨折治療は折れた骨の断面をある程度元の状態にし、自然にくっつくのを待つだけだ。しかし不用意に再生能力を付与させると折れたままの状態で、或いは折れた骨の断面から骨が再生して奇形になってしまう恐れがあるのだ。
病気や疾病に関してだが、こちらは細菌やウイルスが関与しており、再生能力を付与させると活性化して重症化する恐れがある。
「え〜…あたしそこまで考えてやってなかったけど」
「そこが不思議なんだよ。本来ならば再生能力を付与する前にある程度の処置が必要なはずなのに、スザクのフェニックスの炎はそれを省いているんだ。さっきのトトのケガを治した時みたいにね」
再生と治癒をするのにそこまで手間がかかるとは知らなかったスザクは勉強の時のように理解出来ずに頭を抱えていたが、そもそもフェニックスの再生の炎自体が特殊であるお陰だとメイナスは考えていた。
「不透明で不確かな部分が多いけど、スザクと出会ってから僕らの全てが一変したのは間違いないよ。きっとエリクサーとも大きく関係しているはずだよ」
「状況証拠でしかないけど、逆にこれを完全否定するにはそれ相応の別の証拠が必要になるね」
ルアーネからの後押しもあって、ステラも他の誰かも否定することはなかった。
「しかしそれがこの国を磐石にするのとどう関係するのじゃ」
「それは行く行くはってことさ。今僕らがすべきなのはミスティーユを再び発展させるためにも新しい領主を迎える必要があるのさ」
長くはなったがメイナスはエリクサーとスザクとの関係を明らかにしたいのは長期的な考えがあってのことだが、その前に新しい領主をミスティーユに招かなくては話が始まらないと語るのだった。
「けど問題はどうやってその領主様を探すの」
ミエナの言う通り、結局のところ新しい領主が決まらない問題に辿り着くだけで問題解決には至らなかった。
「そうじゃ、どうせならこのフォーチュロットカードを使ってみるかのう?」
ふと思い出したユウキュウはシンフォニーフォレストから去る際にセレスティアから渡されたフォーチュロットカードを取り出した。
「占いで領主を決めるのかよ?」
「まあ、何かのヒントになれば良いじゃろ?『フォーチュン』!」
そんなあやふやな占いで今後のミスティーユの指針を決めるのかと考えるとレイラは不安になるも、解決の糸口になるなら、ダメで元々だとユウキュウは占いスキルを使い一枚のカードを手にした。
「ふむ…『審判の天秤』の逆位置か」
手にしたカードには片方の皿にハートマークのある壺、もう片方の皿に真っ白な羽根が載った天秤が描かれていた。そしてユウキュウが手にしたカードの位置は逆さま、つまり逆位置となっていた。
「それはどう言う意味なんですか」
「正位置ならば『報われる』や『望んだ結果』、或いは『復活』などあるが…逆位置だと『混乱』や『後悔』、『未練』などがある」
この中で易学に詳しいのはユウキュウだけであるため、引いたカードの意味を聞くも良い結果とは思えなかった。
「しかし文面通りに捉えることはない。なにせ儂らの未来を案じするとは限らんからじゃ」
「あたしらの未来を占ったんじゃないのかよ」
占った本人が占いの結果を否定するなんてあべこべな話だ。でなければ何を占ったのかとステラでなくとも聞きたくなる。
「占ったのは儂らが新しい領主を見つける手掛かりじゃ」
「なるほど、つまりボクらが探している領主は占いの結果と何か関係があるってことだね。けど、それだとその領主にどんな未練や後悔があるんだろうね」
占いの内容がこれから先どう繋がるのか、そしてその新しい領主にどんな過去があるのか、まだ見ぬ相手に謎が深まるばかりだった。




