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永遠とは忘れないからこそ

「ところでさぁ…あたしはいつまでこうなの?誰か精杯を起こしてくれない?」


神妙な会話が続けられる中で不意に間の抜けた質問が倒れた願いの精杯の中から投げ掛けられた。


「あ?何で願いの精杯が転がってんだよ」


最初は戒めの鎖によって台座に固定されてビクともしなかったのに、いつの間に転がるほどに動いたのか気になり始める。


「何って、そこの大精霊様が嫉妬のデーモンスピリットを再封印したから代わりに弾き出されたのよ」


「戒めの鎖で封印出来るのは一つの神殿につき、一種類だけなんですよ。ですから私が一度封印を解き、『嫉妬』のデーモンスピリットを封じるようにしたのです」


不動を貫くように願いの精杯を長年封じ込めていた戒めの鎖でも二種類も封じるだけの力は持ち合わせていなかった。だからセレスティアは一度封印を解いてからアラクネとバンシーハープを封じたのだ。


「でも、何で私の髪留めで封印が解けたの?これってそんなにスゴい物なの?」


肩甲骨より下辺りまでに伸びた長い髪を撫でるミエナはその時のことを思い出し、自身の髪を留めていた金色のリングについて質問する。


「どうやら君のリング、光のエレメントが集約して出来ているみたいなんだ」


「強い光のエレメントは聖なる力を持っており、戒めの鎖を生み出す上では必須なのです。それは分解したり再構成したりする上でもです」


偶然にもミエナの髪留めはルアーネ曰く単なる髪を纏めるための代物ではないらしく、ちょうど戒めの鎖と同じ性質であったためセレスティアは触媒にして再封印の芸当を行ったのだ。


「しかし戒めの鎖と釣り合うほどとは思わなかったけど、それを一体何処で手に入れたんだい」


だが、同じ光のエレメントでも釣り合うほどの強度がなければ再封印は出来ない。例えるならば車のバッテリーに乾電池が使えないように、ある程度の規格が合わないのと同じである。


だからと言って戒めの鎖と釣り合う物をミエナが持っていたのはほんの偶然ではあるが、おいそれと簡単に入手出来るはずがないためルアーネは入手ルートを訊ねるも持ち主本人は少し困った顔をする。


「これは私が子供の頃から持ってる物だから何処で手に入れたと言っても…ねぇ?」


「子供の頃から?そんなスゴい物をプレゼントされたのかい?」


「と言っても私は寄宿学校で育つ前のことはよく覚えてなくて」


子供の頃から所持しているのならミエナの両親は何者かと聞こうとしたが、何やら話しにくい内容が見え隠れしていた。


「私はね…ちょうどリュクウちゃんぐらいの時からお父さんとお母さんのこととか、何処で生まれたとかも覚えてないのよ。気が付いたら私を育ててくれた寄宿学校の前で倒れてたらしいのよ」


「そうだったんだ…私と同じだったんだね」


どうやらミエナも場所などが違うが、アメジスと同じく拾われた身だったのだ。


「悪かったよ。嫌なことを思い出させて」


「ううん、私も話していなかったし、仕方ないよ」


詳しい話を聞こうにも本人は何も覚えていないらしく、内容が内容なため深入りするのは良くないと考えてルアーネも追求はしなかった。


「あのさぁ、いい加減に精杯を持ち上げてくれない?こっちはあんたらと違って中に閉じ込められて身動きが取れないんだから」


話を遮るように願いの精杯からウンザリした台詞が聞こえ、ニナが慌てて精杯を正位置に起こすのだった。


「君は自由になれたんじゃないの?」


「ずっと、ずっ〜〜……と、この神殿に封じ込められていたんだから、まだ本調子じゃないのよ」


戒めの鎖によって封じ込められていたのだから晴れて自由に身になったと思っていたが、本人は気が遠くなる…いや、もはや考えることも出来ないほど長い間、ここに封じ込められていたのだから色々とまだ実感が沸かないのだろう。


「本調子になる必要はありません。あなたは別の場所に封じます」


「げっ、何よそれ…」


僅かに自由になれたと希望を抱けたが、セレスティアの残酷とも言える決断に願いの妖精は嫌悪感を露わにしていた。


「別の場所って、そんな所があるんですか」


「とにかくここで話はなんですし、我々の集落に戻りましょう」


ここには既に嫉妬のデーモンスピリットを封じ込めているため、願いの精杯は別の場所に移すことになった。その場所の詳細については妖精族の集落に戻ってセレスティアから直々に話すようだ。


「ん、あいつは?」


快感の余韻から立ち直りつつあったスザクはセレスティアと共に現れた複合的な特徴を持つモンスターが座り込んで、何処か期待するような目線を送っていることに気が付いた。


「そう言えばあのモンスターは一体…」


「メイナス。あなたを追ってきたようですよ」


思い出したように共に現れたセレスティアから言われるものの、メイナス本人は差し当たって思い当たる記憶がなかった。


すると様々な特徴を持つモンスターの身体が徐々に中性的な人間の姿へと変わっていき、メイナスとミエナはその正体にあっとなる。


「ぼ…僕だよ…屋敷でトードナに仕えていた…」


「君はあの時の!」


その正体はトードナの屋敷にて踊り子か召使いのように扱われ、虐待されそうになったのをメイナスに助けられた中性的な少年だった。


「僕はアレックス。僕の血には元々…『キマイラ』の血が流れているんです」


「キマイラ…そうか、あの複合的な姿はキマイラ特有の物だったからか」


キマイラとは先天的に複数の生物やモンスターの特徴を持つモンスターのことであり、ステラのような『キメラ』の起源とも言われているのだ。


このモンスターの特徴はステラのように後(・)天(・)的(・)にモンスターの特徴を植え付けられたのではなく、生まれつき異種間の垣根を越えてモンスターの特性を細胞単位で取り込めることだった。


「あたしも聞いたことがあるぞ。キマイラはその生態故に決まった血統を持たない。誰かの血液の中に潜んで覚醒するのを待っているってな。アルノの野郎はそれを人工的に呼び覚ます実験としてディアマナミナを持つあたしを利用したんだ」


ライガーやレオポンなど異種間交配して誕生した生物は固有の遺伝子を持たないために種を残すことが出来ない。


キマイラも様々なモンスターの遺伝子を取り込むために子孫を残すことは出来ないが、それまでに取り込んだ遺伝子を血液内に内包し、異種間との世代交代を重ねたり昆虫媒介で血液を運んだりし、やがて時が来ればその血が何処かで覚醒して新たなるキマイラとなり子孫を残すと言う仕組みだ。


ステラもまた実験材料にされた時に大まかな内容は知っていたらしく、自身の身体にもアレックスと同じキマイラの血が流れているのだと実感する。


「僕はこの力が怖くてずっと使えなかったけど…お兄さん達が頑張ってるのを見たら…何とかしなきゃって…そしたらセレスティア様の声が聞こえてきて」


「彼にはメイナスの匂いを辿って貰い、ここへ来るよう頼んだのです」


その時はトードナに森を爆破されて地形が変わっていた上に急がなければ手遅れになりそうだったため、セレスティアはアレックスの力を借りたのだ。


「よく勇気を出してくれましたねアレックス。あなたがあそこで立ち上がらなければ、きっと恩人であるメイナス達は…」


「そうだね。君がいなければ僕らも危なかったよ」


「良かったぁ…」


セレスティアからの激励とメイナス達から感謝されたことで、アレックスも助けれたことに涙ぐむのだった。


「そう言えば君と一緒にいた子達や屋敷で拘束した人達はどうしたの?確か最初は安全な場所に避難するように言ったはずだけど」


「皆はそこにいるよ。けど、どうしてわざわざ屋敷から離れた場所に行くように言ったの?」


あの屋敷にはアレックスと同じ境遇の子供や、トードナの召使いなどが大勢いたが屋敷の外に避難していた。その理由は…


▷▷▷


「はぁ…はぁ…あいつら…よぐもぉ…!?」


腕一本だけとなったトードナは指や腕を懸命に動かして自身のでっぷりした身体を引きずって、正しく這う這う体で屋敷の近くまで来ていた。


「どいづもごいづもぉ…!?目玉を抉り出しで…内臓をグヂャグヂャにしでやる…!?」


せっかく手に入れた目も眩むような美貌も魔神の力の片鱗であるデーモンスピリットが封印されなし崩しになり、巻き添えで腕一本と両足まで苦痛を伴いながら奪われて不自由な未来を強要されたことに憎悪を募らせる。


苦痛により涙と鼻水に加え、色々な液体でぐちゃぐちゃになったトードナの顔面はもはやお世辞にも厚化粧したヒキガエルとも比べられないほどに酷い有様になっていた。


「メイナスもメイナスよぉ…何で私を見捨てだのよぉ…!?」


こんな目に遭わせた連中の中には仮にも自分の婚約者として認識していたメイナスもいた。


「許ぜない…許ぜない…!?いづが絶対にあいづらを…ぶぢ殺じてやるぅ!?」


身体を引きずりながら憎悪に満ち溢れた言葉を呪詛のように呟き、いつかメイナス達に復讐を果たすと誓うトードナの目の前には自分が帰るべき屋敷があった。


「皆の者!早く私を治療しぎゃあああ!?」


ここまで来れば聞こえるだろうと自慢のキーキー声を発しようとした矢先、彼女の声量すらをも上回る爆音によって声が掻き消され、屋敷とでっぷりした身体は嵐のような爆風によって吹き飛ばされてしまう。


「わ…私の…私の屋敷がぁ…木っ端微塵にぃ…!?」


衝撃で頭がグワングワンするも自慢の屋敷が爆風によって大半が原型を留めずに燃えているのを目の当たりにしてそれどころではなくなる。


「何で…何でこんなことにぃ…はっ!?」


拠り所がめちゃくちゃになったことに唖然としていると絶望を掻き立てる慟哭(どうこく)が聞こえてくる。


「トードナ!貴様にはミスティーユの領主殺害の容疑が掛けられている!」


「他にも脱税や誘拐罪!そしてデーモンスピリットを他国から盗み出し、更に別の他国にて使用して別のデーモンスピリットを強奪しようとした容疑もある!」


「これは多国間の友好関係や互いの力関係に亀裂を入れる大罪だ!」


慟哭を放っていたのは何処かの国の衛兵や騎士団がトードナが犯した罪を読み上げるように叫ぶ声だった。


ミスティーユを手に入れるために領主を謀殺したことも大罪だが、封じられたデーモンスピリットを強奪して更に別のデーモンスピリットを強奪するために使用したことは他国間の核兵器を強奪するために核兵器を使用したのと同じことだ。


下手をすれば国家間のパワーバランスを大きく崩すことになるため『大罪』と言う単語では済ませられないほどの悪行なのは確かだ。


「私の子供を返してよぉ!?」


「高い税を絞るだけ絞りやがって!?お陰で俺達は飢え死にじゃねぇか!?」


「その癖してお前はブクブク太って贅沢三昧か!?ふざけやがって!?」


慟哭を挙げていたのは衛兵や騎士団だけではない。それまでトードナが食い物にしてきた農民や国民達も含まれていた。誰も彼もがトードナ以上の絶望と憎悪によって表情が歪み、搾取され続けて飢えていると言わんばかりにガリガリに痩せていた。


「トードナを殺せ!八つ裂きにしろ!?」


「首を斬り落とせ!晒し者にしろ!」


「そのブヨブヨの身体を生きたままバラバラにしろ!そしてモンスターの餌にしてやれ!」


鍬(くわ)やシャベルと言った農具やノコギリや金槌などの大工道具、そして剣や槍と言った武器を構えてトードナにアリのように群がってくる。


「く…来るなぁ!?来るでない!?私は貴族のトードナだぞ!?ちょっとでも触れば拷問の上に極刑…ぎゃああああ!?」


ヒステリックを起こしながら怒鳴り散らすも虚勢でしかなく、その台詞に反するように鍬がトードナの腹を抉るように突き刺さる。


「「「トードナを殺せ!トードナを殺せ!トードナを殺せ!」」」


「ひ…ひいいああああっ!?来るなぁ!?来るなああぁ!?」


苦痛を前に虚勢を張るどころでは失くなり、トードナは再び指と腕の力だけで這ってでも逃げようとする。


しかしおかしいのはここは人里離れた場所なのに衛兵や騎士団、引いては搾取した人間達がここにいるかだ。しかも彼らは逃げても逃げてもトードナの後を呪いのように追い続け、致命傷を受けても何故か死なずに苦痛を受け続けていることだった。


やがてトードナは追われるがままに蘇ったシンフォニーフォレストの森の奥地へと姿を消してしまい、その後消息を絶って誰もその姿を見た者はいなかった。


▷▷▷


「あのババアの屋敷に爆弾を仕掛けただって?」


「正確には置いてあった爆薬を森に燃え移らないよう配置して、時間が来れば爆発するように仕掛けたんだ」


「いや、もはやそれは同じことであろう」


キマイラに変身したアレックスの背に乗り、妖精の集落を目指す中でトードナの屋敷に置き土産をしたことを話すメイナス。


『そうか、だから僕らに避難しろって言ったんだね。爆発に巻き込まれないように…』


「森を破壊する爆薬を利用したんだ。これであいつらも懲りると良いんだけどね」


「それは無理じゃろう。あいつは身も心も腐りきった奴じゃからな。きっと報復に来るかもしれんぞ」


反省の色を見なくとも、懲りるどころか逆恨みをしているのが目に見えているユウキュウは警告するように呟く。


「それは大丈夫です。シンフォニーフォレストの木々達も彼女は許せないらしく、相当な苦痛を伴う幻覚を見せながら森の奥に誘導しています」


「それってあたし達が見せられた本物じゃない景色のことか?」


「はい。トードナは森を破壊したり奴隷の方々を身代わりにすることで幻覚を避けていましたが、今度こそ逃れることは出来ないでしょう。このまま力尽きるまで走らせ、行く行くは自身で破壊した森の肥やしになって貰いましょう」


実はトードナが見た騎士団や被害者はシンフォニーフォレストが発する特殊な音によって見せられる幻だったのだ。そうとは知らずにトードナは森の奥へと苦痛を受けながら自ら死へと進んで行ったのだ。


多くの人々を搾取し続け、シンフォニーフォレストを破壊した貴族の末路だと冷淡に告げるセレスティアに何人かが震えるのだった。


「それにしても何であたしはその幻を振り払えなかったんだろうな?まあ…気持ち良かったけど…」


高い再生・蘇生能力を持つスザクだが、シンフォニーフォレストの幻覚を跳ね除けられなかったことを不思議に思うと同時に、その時の快感を思い出して少し顔を赤らめる。


「あくまでも君のは肉体的な損傷を癒やす効果はあるけど、肉体に直接ダメージがいかない精神的な攻撃や状態異常には通用しにくいのかもね」


「でも呪いは跳ね除けられるんだろ」


「確かにそうだけど、今回のことを鑑みるに肉体的な負荷やダメージがないと不死鳥の力は使えないんじゃないのかな」


これまでずっとスザクのことを見ていたメイナスは総合的にスザクの不死鳥の力は何かしらの制約があるのではと考えた。


「僕達も君に頼り切る訳にはいかないし、スザクのことをよく知らないとダメなのかも」


今回だけでなくこれまでにもスザクの力を利用されて苦戦することが多かった。自分達の力量を上げ、スザクのことをもっとよく知るべきだと考えるメイナス。


「それにスザクもスザクで強くなる必要があるのかもね」


「そうだよぉ〜…少しは気持ち良いのを我慢出来ないとねぇ〜…♡」


「はうああぁぁ〜…!?♡」


もっと言えばスザクが何度か捕まらないよう、スザク本人にも力量を上げて貰う必要があり、アメジスは耳元で艶めかしく囁いてスザクにゾワゾワとした感触を味わわせる。


「わ…分かったよ…でも、具体的にはどうするんだ?」


「それは帰ってからにしようよ。シンフォニーフォレストの異変が失くなって元通りになったお陰で皆のエレメントも戻ったはずだよ!ボクも、もう大丈夫!」


思い返せば破壊された森が元通りになったことで失われていたはずのエレメントが戻ったと、同じく復活したルアーネから言われ全員が意識を集中させると杖や手の平に氷や風が集まってくる。


「本当です!使えます!」


「嬉しいね!」


「どれ、祝砲といくかのう。爆炎魔法『ボム』!」


これまでずっと使用不能になっていたエレメントが戻って来たことに気を良くした一同を代表するように、ユウキュウが爆弾を空中に放り投げると一斉に空を彩るように破裂して花火のように輝くのだった。


「何よりもニナが戻って来て良かったな!」


「スザクちゃん…皆さんも…ありがとうございます!」


スザクの純粋な言葉に誰もがニナに微笑み、ニナ本人も花火にも負けないほどに光る涙を流しながら笑顔で感謝を述べるのだった。


「セレスティア様ー!」


「お帰りなさいませ!」


「よくご無事で!」


妖精の集落に辿り着くと妖精族の誰もが最初はセレスティアの姿に驚くも無事に帰ってきたことに涙を流しながら集まってくる。


「此度(こたび)の活躍はかつて我々が追放したニナと勇敢な仲間達により、この森は救われたのです。皆の者、彼らに最大の感謝を!」


「「「ありがとうー!!」」」


セレスティアから一部始終を聞いた妖精族は一斉に感謝の言葉を述べながら、何人かは飛び回って喜びと感謝の意を表したり頬擦りをして甘えてくる。


「何か…別の意味でドキドキするな」


「…お前ほどじゃねぇけど、確かにな」


「こう言う時は照れるのではなく堂々とするのじゃ」


それにスザク達はほぼ全員が照れくさそうにしていた。そんな中で奥にいる妖精族達は忙しく準備をしていた。


「森の英雄達にせめてのもてなしを致します。こちらへどうぞ」


奥には見たことはないが美味しそうなキノコや山菜、魚などが葉っぱの皿に盛り付けられていたのだ。


「わあっ、この魚とっても美味しい!」


「リュクウは山菜、初めて食べたけど…美味しい♪」


「へぇ、このキノコは薬膳料理にも使われる奴だね。調理や薬剤が難しいのにどうやったんだい?」


どれもこれも美味しい上に疲労回復の効果があるのか噛むだけでも元気になってくる。


「生憎、我々は世俗には疎いためにあなた達が喜ぶような金銭や財宝は少しですが…」


「お?あるのか?」


やっぱり冒険には金銀財宝が欠かせないため、貰える下りからレイラはタケノコのような物を頬張りながら期待の眼差しを送る。


「先日、盗賊の窃盗に遭って渡せる物が無くて…」


と思ったら窃盗されて一文無しであり、肩透かしを受けてレイラはズッコケる。


「まあ、残されたのはこれぐらいですが…」


「何だこれ。何か絵が描いてあるけど」


セレスティアがそう言うと一人の妖精が様々な絵が描いてあるカードの束を持ってくる。


「ほう、珍しいのう。それは『フォーチュロット・カード』ではないかのう」


皆が首を傾げる中でユウキュウだけはそのカードの価値や正体を知っているらしく、物珍しそうにしていた。


「これはカードの絵柄と配列、配置によってその先の未来や運勢を占うことが出来る物じゃ」


「要するに占いグッズだろ。そんなの宛になるのか」


占いや風水と言った易学は昔から親しまれているが、根拠のない迷信や意味のない開運グッズの悪徳商法などの悪いイメージと共に歴史に刻まれている。ユウキュウが物珍しいと言うのも大袈裟か、悪く言えば胡散臭いと思ってしまう。


「確かに大抵はそうじゃろうが、こいつはばかりは本当にバカに出来ないほどの確率で当たるそうじゃ」


「我々が精霊族と呼ばれていた時代、多少なり風水にも精通していました。これはその時の物ですが、あなた達に授けましょう」


眉唾物かもしれないがセレスティア達がそんな昔の時代に扱っていた代物だとするのなら、あながちバカに出来ないかもしれない。


「それは儂(わし)が貰おう。この中では儂だけが易学に詳しいからのう」


フォーチュロット・カードは価値を見出したユウキュウが貰い受けることになった。


「それで願いの精杯はどうするんですか」


「そのことについてですが、嫉妬のデーモンスピリットを封印していた戒めの神殿のことが気になります。調べると同時にそこに再封印をしてください」


願いの精杯は本来バンシーハープを封印していたであろう場所に再封印することとなった。


「その場所はデザードライキャニオンの奥地にある遺跡『ピラミッスル』の中にあるのです」


向かう場所は以前行ったことのあるデザードライキャニオンの奥地だった。あの時はケンタウロス族との確執やスザク達がアルノの手に落ちたこともあって、奥地まで調査に行くことが出来ていなかった。


「まさかまたあそこに行くとはね…でも僕らはまだしなきゃいけないことがあるよ」


「構いません。全てはあなた達に任せるしかありませんからね」


すぐさま行くことは出来ないと告げるがセレスティアは嫌な顔をせずに頷き、全てをメイナス達に一任させてくれるのだった。


「そう言えば君はどうするんだい。さっきの子達と一緒に故郷へ帰るのかい」


「あの…僕はそもそも見せ物の奴隷として扱われてきて…パパとママのことは覚えてなくて…」


こき使われていた子達はそれぞれ帰る場所があるらしいが、アレックスだけは帰る場所も待ってくれる両親もいないらしく寂しそうな顔をしていた。


「…だったらリュクウ達の家族になろうよ!」


「えっ…良いの?」


「リュクウもパパとママがいないけど…皆がいるから寂しくないよ!アレックスも家族になれば寂しくないよね?ね?」


戸惑うアレックスを余所にリュクウは家族になるよう催促すると同時にメイナス達に同意を求めるように見つめる。


「アレックスが良ければね。どうかな」


「僕は良いけど…そもそもキマイラだし…」


様々なモンスターの特徴を持つキマイラであるアレックスはこれまでにも色々と酷い目に遭ったこともあり、誰かと共に過ごすこと自体を恐れているように思えた。しかしそんな彼の頭を叩く者がいた。


「バカ言ってんじゃねぇよ。あたしなんかダークエルフでキメラなんだぞ。お前がそれぐらいでウジウジしてんじゃねぇよ…あたしがいるだろうが」


「ここにいる連中は皆そんなんだぜ?キマイラだろうが気まぐれだろうが関係ねぇって!」


同じキマイラの血を受け継ぐキメラのステラが照れくさそうに答え、レイラも不敵な笑みを浮かべながら励ます。


「それでも来ないのかい?」


「…!こんな僕でも良ければ!」


口ではそう言ってても家族の愛に飢えていたアレックスに取って、これ以上言われたら断る理由なんてなく涙を流しながら喜んで申し出を受けるのだった。


「森の英雄達にまだ感謝し足りないのですが…もう差し出す物は何もないですし」


「ボクらはもうこれで充分だよ…あれ、ニナ?どうしたの?」


感謝の気持ちは充分に伝わったために断ろうとするが、ニナはモジモジとしていて何かを伝えたい様子だったが、途端に決心したように一歩前に出た。


「あの!私は追放された身の上に、皆さんの感謝の気持ちにつけ込むようで悪いのですけど…最後に願いの精杯に願い事を宜しいですか!?」


突然の申し出に妖精族は一斉にザワめき出す。自分達の救世主とは言え、厚かましくも願いの精杯を使おうだなんて良い顔をしないのは当然だった。


「良いでしょう。最後に一つだけなら」


しかしそれを許したのは意外にも守護者として君臨していたセレスティアだった。


「え…宜しいのですか?」


自ら提言したニナも思わぬ人物の思わぬ返答に唖然となりながら聞き返してしまう。


「あなた達にはそれぐらいのお返しをしなければならない偉業を果たしてくれました。それに願いの精杯は既に私達の管理下ではなく、あなた達の手(・)の(・)中(・)に(・)あ(・)る(・)のですからね」


シンフォニーフォレストに封じられているのなら守護者として引き止める所だが、既に嫉妬のデーモンスピリットを代わりに封じているし、それがお礼になるのならと承諾してくれた。


「ありがとうございます!願いの妖精さん、一つだけお願いを聞いて貰っても良いですか」


「待って。そう言えばニナちゃんは既に叶えられる願いを三つ言ったんだから叶えられないんじゃ…」


ミエナが願いの制約について思い出し、ニナは既に上限に達したのではと疑問に思いながら精杯を見つめる。


「それは戒めの鎖で封じられた時の制約よ。実際のところ本調子ではないけど…あんたとは何かしら縁があるようだし、可能な限り叶えてあげるわ」


なんだかんだ言ってニナとは付き合いが長いためか、願いの妖精は願い事を承諾してくれるのだった。


「ありがとうございます…私の願いは…アスラさんともう一度会えますように…!」


「やっぱりね…そんじゃ、ウィッシュ・ボーン(願いよ、生まれよ)!」


長い付き合いだからこそニナが何を願っているのか察していた願いの妖精は、願い事を聞いて自身が出来る限りの形で願いを叶えようとする。


「…ここは?」


「アスラさん!」


ニナの前に爽やかそうな青年の姿が半透明な姿で現れる。彼女の反応を見る限り、彼こそがニナの想い人であるアスラのようだ。


「何で身体がミエナみたいに透けてるんだ?」


「あたしの力だと霊魂を呼び出すぐらいが限界よ。それに長くは現世に留められないからね」


今の願いの力だと霊魂を呼ぶぐらいが精々らしく、時間制限があるため悔いがないようにしなければならない。


「アスラさん…」


「君は…何処かで僕と会ったことがあるのかい?初めて会った気がしないんだ」


想いを告げられずに死に別れてしまった想い人との再会にニナはしどろもどろしてしまい、アスラも目の前の猫獣人の少女に既視感を覚えていた。


「私は…あの時シンフォニーフォレストで猫から助けて貰い!そして…あなたの側にずっと居たいと思い猫になった妖精のニナです!?」


最初は妖精としての姿を見せ、更にアスラが死ぬ時まで側にいた猫の姿になり、最後に元の獣人少女の姿になって自身の正体を明かすニナ。


「そうか、何処かで見覚えがあると思ってたけど…あの時の妖精の子だったのか。でもどうして僕なんかの側に猫になって…」


突然の告白とニナの姿が瞬時に変わったのを見て戸惑う意外に肝が据わっているのかアスラはすぐに状況を理解する。しかし分からないのは何故に妖精が猫になって自分の側に居たのかだった。


「私は…あなたに添い遂げたい一心で猫になったんです。でも…そのせいでアスラさんは誰とも結ばれずに独り身になっちゃって…気持ち悪いですよね…妖精なのに人間に恋して、禁忌を犯して猫になって…あなたが死ぬその時まで側にいるなんて…呪いみたいですよね…」


経緯として自身の想いと愛により獲得した今の姿の正体を赤裸々に明かす必要があった。そんなことを話せば愛されるどころか、忌避されることを充分承知しているらしく涙ながらに話し続けるニナ。


「ごめんなさい…でも…私はアスラさんのことが…大好きでした…」


何よりも辛いのが死に別れてから自身の思いを想い人に告げられるとは余りにも皮肉な話であり、『悲しい』と言う単語では言い表わせないほどにニナは胸が締め付けられ涙を零し続ける。


けれども猫になっていた時には告げられなかった想いをまたここで口を噤(つぐ)めば再び後悔すると思い、ニナは忌避されようとも思いの丈を全て告白するのだった。


「そうか…そうだったんだ…だからあの時の猫は…」


腑に落ちたようにアスラは頷き、涙を流し続けるニナを見つめる。


「正直戸惑ってるよ。まさかあの猫が君だったんなんて」


「やっぱり…気持ち悪いですよね」


思っていた通り気味悪がられたかと思い、押し殺すように呟くニナだったがアスラは首を横に振った。


「まさかあの時の妖精が猫になってまで僕のことを想ってくれたことに驚いたんだよ。人間でもそんな風に一途に想ってくれる人なんて早々いないよ」


その言葉はニナを忌避していると言うよりも、誰か一人を愛し続ける健気さを称賛しているようだった。


「それに僕は君のせいで独り身になったんじゃないよ。本当に好きな人がいなかったからなんだ。君と過ごした日々が忘れられなくて…」


その言葉にニナは涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を上げる。楽しい日々のことを常日頃に思っていたのは自分だけではなかったと言うことに。


「君と出会って過ごした日々は一度たりとも忘れなかったよ」


「でも…猫になった私と出会って、アスラさんの家族はあなたから離れたんじゃ…」


自分のことを想ってくれたことにニナは内心は喜ぶものの、猫になった自分と一緒になったアスラを気味悪がって親族が離れ離れになったことを思い出して悲しげに答える。


「それは辛かったけど、君の面影が重なったようにも思えて次第に悪くないと思ったんだ。けれども君に取ってはそれが僕を不幸にしてしまったと責任を感じさせてしまったんだね…済まなかった」


「いえ…そんな…」


謝っているのはこちらなのにまさか逆に謝罪されるとは思わずニナは慌ててしまう。


「でも、そう言うことなら僕も伝えたいことがある。ニナ、君と過ごした日々は宝石のように今でも僕の胸の中で輝いている。猫であっても妖精であっても君のことを想い続けた…僕も君のことが大好きだよ、ニナ」


謝罪にも慌ててしまったが、それと同時にアスラから愛の告白をされてニナは言葉すら失ってしまう。


「僕はまだ霊魂だけど…きっと近い内に生まれ変わって君の元に行くよ。そしたら一緒に添い遂げよう。それまで待っててくれないかい」


「アスラさん…身体が…」


別れを告げるかのような台詞を言い終えると半透明な身体が徐々に爪先から完全に見えなくなっていく。


「…時間だね」


どうやら今の願いの力だとここまでらしく、時間切れとなってアスラの霊魂は消えそうになっていた。


「アスラさん!私…大好きです!だから…待ってます!あなたともう一度会えるまで!」


「僕も…ニナのことが大好きだよ。今度生まれ変わったら…妖精か獣人になって…君のとこに必ず会いに行くよ。それまで…さようなら!」


二人は己の想いを確かに告げると、アスラの霊魂は涙を流しながら蛍の光のように消滅し不思議な静けさが支配するのだった。


「スザクちゃん、ひょっとして泣いてる?」


「あれ…本当だ。どうしてだろ?って言うかアメジスもだろ?」


気が付くとほぼ全員が涙しており、セレスティアも涙ぐみながらも悔いがないと言わんばかりにニナに微笑んでいた。


「永遠は確かに辛いものです。が、想い人との約束は同じ永遠でも決して苦ではないのでしょうね」


「はい、アスラさん…待ってますよ」


ニナはセレスティアの言葉に同意するように綺麗な青空の彼方に消えていったアスラの霊魂に想いを馳せるように呟くのだった。

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