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不死鳥少女は深淵を探られる

『はっ!勝つのは私に決まっている!所詮、貴様なぞ雑草と同じよ!』


言葉はもはや不要とトードナはスザクの炎を使って草木やウッドールを焼き尽くす。


「草木は焼かれてもすぐに蘇るよ。ウッドール!」


「闇魔法『シャドウ』・スピアー!」


「光魔法『シャイン』・ショット!」


その言葉通り再び木がエレメント・アスガルドとなったルアーネを象り、自立してそれぞれ魔法をアラクネメシスに向かって放つ。


『ぎゃはははは!無駄よ無駄無駄!』


「きうっ…♡また激しく…♡」


それぞれアラクネメシスの蜘蛛の足や腹部を貫くも、風穴が開いた側から再生して塞がっていく。


『邪魔をするんじゃないわよ!』


「まだだ!ウッドール!」


再生すると同時に炎を放射状に放って焼き払うも、こちらも地面はもちろん、炭化した側から新しいウッドールが出てきて攻撃を続ける。


『私は永遠の命と美貌を手に入れたけど、あんたらはその姿は何処まで持つかしら?』


「世界の終わりまでかな」


互いにスザクから再生能力を奪いながら最強の状態で戦い続けており、本当に終わりがなく永遠に続くようにも思えた。


「ぬう…凄まじいのう。儂(わし)らはとても介入出来そうにないぞ」


他の面々は邪魔どころか下手すれば巻き込まれて一貫の終わりと言う有様に蚊帳の外になっていた。


「本当にこのまま戦い続けて大丈夫なの」


「お互いに生命力はまず問題ないだろうね。ただ、戦(・)闘(・)能(・)力(・)は別問題だよ」


終わりなき戦いは本当に続くのかどうかミエナは疑問に思っているとメイナスは表情をしかめながら答えた。


「フェニックスの再生の炎は一般的には肉体を再生させるだけ。良くて体力は回復出来るだろうけど、攻撃力やそれ以外の能力まで回復するかは僕にも分からないよ」


思えばずっとスザクと共にいてフェニックスの桁違いの再生能力は目の当たりにしてきたが、何処まで再生させて何処まで回復するかと言う定義が曖昧だった。


例えば肉体は回復しても精神状態は回復するか分からない。現にスザクは絶頂状態が続いているが、そこから通常状態へ回復したと言うことは聞いたことがなかった。


「戦い続けて身体と技を出す体力は問題ないだろうけど、攻撃力に変換するための力…今のルアーネが扱っている全てのエレメントまで回復するかどうかは分からないよ」


「それって先輩とセレスティア様の持つエレメントが枯渇してしまうか、それともトードナの方が力尽きるか…と言うことですか」


考えたくはないがトードナは今のところノーリスクで戦い続けており、それに対してエレメント・アスガルドとなったルアーネはセレスティアが長年蓄え続けたエレメントを全て使い切れば勝利は絶望的だろう。


「ルアーネとセレスティア様だけに戦わせる訳にはいかない。僕らだって勝つのを諦めなければ、何かやれることはあるはずだ」


傍観者のままじゃ終われない。仲間だからこそ自分達もルアーネと共に戦って勝利を勝ち取るのだと言わんばかりにメイナスは鼓舞する。


『そりゃあ、あたしも同意だが攻撃してもすぐにスザクの力で再生するなら…なぁ?』


ステラも思わず聞き入るも敢えて全容は語らず、幾ら攻撃しても圧倒的な回復能力の前では無意味だと指摘すると同時に、諦めないにしても何か方法を考えなければならないと含みのある視線をスザクに向けていた。


回復能力さえ断てばまだルアーネにも勝機があるはずだ。しかしそのためにスザクを奪い返す必要があるのだが、そのためにはアラクネメシスを倒さねばならないと堂々巡りになってしまい一同は頭を悩ませてしまう。


「むぅ…スザクちゃん!いつまでそうしてるの!」


どうしたものかと考えているとアラクネメシスの背中で、トードナの血管とルアーネの植物による奪い合いで絶頂しているスザクを見ていたアメジスは何が気に食わなかったのか、余り聞いたことがないやうな怒鳴り声を張り上げる。


「アメジス…?」


これには快感に溺れ、顔を赤らめていたスザクもうっとりした目付きのままアメジスを見る。


「さっきからそんな可愛くひぃひぃ言うなんて…私の前ならともかくそんなオバさんの前で!許さないんだから!」


「待って、怒るとこそこ?」


アメジスに取って、姿は美人だが心が醜いトードナの手によってスザクが快感を覚えているのは、好きな人を嫌いな人に寝取られるぐらい許せない有様だった。そもそもこんな殺伐とした状況で快感に浸っていること自体が良いとは思えないが、そこは今更だろう。


「で…でもぉ…これぇ、堪らなく気持ち良くてぇ…」


突然怒られたことにさすがのスザクも受け答えするも言い訳にしか聞こえないため、アメジスは益々機嫌が悪くなっていく。


「だったら我慢して!」


「そんなぁ…」


いつものアメジスなら距離の近過ぎるスザクの色気に翻弄されてしまうところだが、今回ばかりは自分ではなく敵であるトードナに現(うつつ)を抜かして蕩けた顔を浮かべているのが気に食わず、逆に有無を言わせず圧倒していた。


「で…でもぉ…こんなスゴいの…はひぃ♡」


胸の谷間に張り付いた血管がドクンドクンと脈打つ度にマナミナが吸い上げられ、怒られているはずのスザクは我慢出来ずに甘い声を漏らしながら磔にされながらも身体をクネクネさせていた。


「またそのオバさん前で…」


『黙って聞いていればオバさん、オバさんと!私のこの美貌が目に入らないの!この小便臭い小娘が!』


より機嫌を損ねて多少なり口が悪くなるアメジスの『オバさん』呼ばわりにトードナは負けじとキーキー声で怒鳴り返す。


「だったら…我慢してくれたら私がもっと気持ち良くしてあげる!」


そんな耳障りな怒鳴り声を尻目に考え込んでいたアメジスは顎に人差し指をやり、ニンマリと小悪魔のような笑みを浮かべながらスザクに宣言した。


「それ…本当?」


「うん!我慢したら、想像出来ないぐらいの気持ち良いことを嫌ってぐらいして…あ・げ・る♡」


夢魔(サキュバス)としての血が流れているからか、服を脱いで胸元を現しにしてから色っぽく誘うようにウインクするアメジスにスザクは思わず生唾を呑み込む。


「ねぇ…何だかお胸がドキドキする」


「リュクウちゃんにはまだ早いよ!?あ…鼻血が…!?」


その色気に当てられて幼いリュクウも鼓動が速くなり、ミエナちゃんも見てて思わず鼻血が出てしまう。


「わ…分かった…やってみるよぉ…んんっ…!?」


それまで快感に顔が緩んでいたスザクは努めて表情を引き締めようとする。それと同時に停電したかのように気配が静まり返る。


「…氷魔法『アイス』・ブレイク!」


同じくアメジスの色気に魅了されてしまっていたルアーネもハッとなって氷の破片をトードナの腹部に向けて放った。


『ぎゃははは!幾らやっても無駄……っ!?』


痛みはあるがすぐさま再生されると高笑いをするトードナの口から、勢いよく血が吹き出ると同時に終わるはずの苦痛がずっと続いていた。


『ぎゃあああ!?い…痛い!?痛いよぉ!?』


身体に刺さった氷の破片は体温で溶けて水となり、ドクドクと脈打つように出てくる血と共にトードナの腹を伝って地面に流れ落ちていく。


「んっ…くっ…気持ち…良い…けど…!?」


身体の異常をすぐさま回復させようと血管が体内を貪るように暴れるために、スザクは思わず快感に頬が緩んで喘ぎ声を出しそうになるも、大量の汗を流しながら身体を捩(よじ)り快感に抗おうとしていた。


「ぷはっ…!?た…耐えたぞ、アメジス…これで…」


「ん〜…まだまだだよ♪もっと耐えて♪」


これで約束通り更なる快感を与えてくれると思ったが、アメジスはニマニマしながら要求してくるためにスザクは唖然となる。


「で、でもぉ…耐えたぞぉ…」


「まだ早いよぉ。こう言うのは長く耐えることに意味があるんだよ♪」


話が違うと抗議するも、アメジスはいつもと違ってお預けを食らった子犬のようにシュンとするスザクに興奮を覚えていた。


「…爆炎魔法『ブラスト』!」


『うぎゃあああ!?熱い!?熱いよぉ!?』


再び見入ってしまっていたルアーネは今度は爆炎をトードナの顔にぶつけて左半分を焼け爛(ただ)れさせる。


『私の顔がぁ…美しい顔がぁ…!?おのれぇ!?』


せっかく手に入れた美人顔を台無しにされたことに激怒したトードナはキーキー声を挙げながら、スザクから再生能力を強引に奪い顔を元に戻そうと勢いよく血管を躍動させる。


『な…何でよ!何で再生しないのよぉ!?私の美貌は!?』


ところがいつまで経っても顔は焼け爛れたままで何も変わらないことにトードナはヒステリックを起こして髪を搔きむしる。


「ひっ…!?くっ…これ…頭…おかしくなるぅ…」


肉を内側から吸い出さん勢いで血管が暴れるため、常人ならショック死してもおかしくない苦痛が死ぬほどの快感になって身体を突き抜けるも、再び絶頂しないように耐えるためにスザクは我慢の余りに脳が弾けそうになる。


「アメジス…長く耐えるってどれぐらい…」


「耐えて」


『長く耐える』とザックリした形で言われたため、具体的にどれぐらい耐えれば良いのか訊ねるもあっさりと返されてしまう。


「いや…耐えるって…」


「耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて…耐え続けて…ね♡」


問答無用と言わんばかりに『耐えて』とひたすら呪詛のように呟くアメジスは微笑んではいるものの、その瞳はブラックホールのように底の見えない闇色に染まっていたことにスザクは思わず快感を与えられた時のゾクッとした感覚が背筋を通り抜けた。


「はあ…スザクちゃんってば、これぐらいも我慢出来ない悪い子だったのぉ?それともそれぐらいイジメて欲しいエッチな子だったのかなぁ?このまま耐えてくれたらぁ…私無しじゃ満足出来ないってぐらいの気持ち良いことをしちゃおうかなぁ…♡」


しかし背筋がゾクゾクしていたのはスザクだけではなかった。いつもは翻弄されているのに今では逆に圧倒して、ドMな性癖をこれでもかと刺激されたことで期待と恐怖と興奮が入り混じった表情をしたスザクを目の当たりにしたアメジスは嗜虐心が最高潮になっていた。


『ええい!何をしているフェニックス!?貴様の役目は私を常に回復させることだろうが!!』


「ぐうっ…ううん…♡」


いつまで経っても回復されないことに苛立ちを覚えたトードナは背中にいるスザクの身体を人形でも扱うかのように乱暴に掴む。


『さあ、回復させろ!させろってんだよ!?』


アラクネメシスの脚でスザクの脇腹や胸など柔らかそうな部分を集中的に引っ掻く。


「がっ…くうん…♡あたしの…身体…切り裂いてくる…♡」


しかしスザクはビクッビクッと気持ち良いのを耐えるように身体を震わせるだけだった。


『これじゃダメってのか!?ならこれはどうだ!?』


手緩いと考えたトードナはアラクネメシスの牙をスザクの腹部に噛み付かせると同時に毒液を流して内臓を溶かし、ジュクジュクと吸い上げると同時に脚を突き刺してコーヒーのマドラーのように掻き回す。


「がはっ!?あたしの…お腹…めちゃくちゃにされてるぅ…♡」


生きているのも嫌になるほどの苦痛はスザクには天に昇るほどの快楽であるものの、アメジスとの約束を固く守るように耐え続けると同時に損傷した部分は絶頂に至らないよう小規模の再生の炎でジワジワと煙を出しながら適宜回復させていく。


『何でよ!?何で回復しないのよぉ!?』


「ふふふっ、まさかアメジスちゃんのスザクちゃんへの想いがこんな結果に繋がるなんて、ボクの賢者の書でも知り得なかったよ」


これは意図して行った訳ではないがアメジスが抱いていた愛と劣情がスザクの再生能力を抑えつけ、結果的にトードナを回復させるだけの余力を与えなかったのだ。


『ふざけないでよ!私だったらすぐさま…そうだわ!』


許せないと怒り狂い、再びヒステリックを起こしそうになるが自身の言葉に解決の糸口を見出したトードナ。


『私も不死鳥と同じ再生能力があれば良いのに!』


フェニックスの再生能力を羨みながら、デーモンスピリットの『バンシーハープ(嘆きの竪琴)』の弦を弾いて音を奏でると火傷や傷が何事もなかったように回復していく。


『ぎゃははは!最初からこうすれば良かったわぁ!残念だったわねぇ!あんたらにはどう頑張ったって無駄よ無駄無駄〜!残念だったわねぇ、バーカ!!』


傷を負っても劣等感を刺激されると同時にバンシーハープの力を持ってすれば、不死鳥と同じ再生能力を有して治癒することが可能であり、再び優位に立てたことにトードナはルアーネ達を稚拙な有様で嘲笑う。


「そう…でも結局は戦い続けることには変わらないよ。ボクは最後の最後まで戦うよ」


対するルアーネはどれだけ不利な形成であろうと絶望的であろうとも決して戦うことを諦めないと微笑みながら宣言する。不思議とその微笑みを見ていると、木漏れ日が見える穏やかな森林の中に包まれているようだった。


『血迷ったの……っ!?』


言い返そうとするがアラクネメシスがルアーネに気圧された訳でもないのに、金縛りでもあったかのように動きを止めたことにトードナは目を疑う。


「くうっ…ううっ…♡まだ…なのかぁ…♡」


(……何だろう…回復出来るかどうか分からないのに、不思議とスザクちゃんの何処かに根が進んでいく)


理論や理論では片付けられないことが多々ある。必死に絶頂を耐えているスザクに根を伸ばしても回復する見込みがないはずなのに、ルアーネは何処か一点に向けて根を伸ばし続けていた。


ルアーネの伸ばした根はスザクの足の小指と薬指の間をくすぐるように抜け、朝顔の蔓(つる)のように足首から右巻きになりながら腿(もも)まで這い上がる。やがて根は両足の間まで来ると目的地を一瞬見失うも、すぐに何処に伸びるか本能的に察知し一直線に向かう。


「あっ……♡」


「………くうっ…!?♡」


根が向かった先は穴だったらしく、『チュプッ』と言う湿った音と共に入り込む。その中は源泉のように熱くて甘みのある液体で満たされており、根から吸収した途端にルアーネは本能的に興奮し顔が真っ赤になり、スザクは理性の糸がプツンッと切れて快感と絶頂が噴火するかの如く襲って来る。


「あ……もう……もう…もう…ダメぇ………ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?♡気持ち良いいいいいい!?♡気持ち良いいいいいいよおおおおおぉぉぉぉぉぉああああああああああああぁぁぁぁ…!?♡」


もはや形容しがたい断末魔のような叫び声で快感を露わにし、身体から再生の炎が噴火の如く溢れ出て狂ったように悶えながら絶頂するスザク。


『ケエエエエエエエェェェェン!』


その再生の炎は猛禽類の立派な翼と、美しい尾羽根を持つクジャクの身体を形成し、スザクは不老不死の火の鳥であるフェニックス(不死鳥)へと姿を変える。そして力強く羽ばたくと同時に周囲を包み込むカーテン状の炎を爆発するかのように放つのだった。


『ぎゃああああああ!?』


『ギエエエエエ!?』


近くにいたアラクネメシスとトードナを包み込むだけでなく、側で戦っていたエレメント・アスガルド形態のルアーネ、そして炎のカーテンを前に唖然としていたアメジス達すらをも巻き込んだ。


それに留まらず戒めの神殿と荒れ果てたシンフォニーフォレストすらも炎に呑み込まれていき、やなて火の海のようになるのだった。


しかしその炎は身を焦がし命をも焼き尽くさんほどに熱いのだが、生命特有の温もりを感じると同時にまるで揺り籠の中のような穏やかな気持ちになり、焼け爛れながらも自らの生命を感じながら生まれ変わると言う矛盾した不思議な感覚に包み込まれるのだった。


「ん…何が起きたの」


不思議な炎のカーテンによって穏やかな気持ちになり、そのまま気を失っていたアメジスはフラフラしながら立ち上がる。


「あれ…シンフォニーフォレストが…」


周りを見ると神殿の中にいた全員が同じように倒れていたが、アメジスが目を覚ましてすぐ気になったのは神殿の中からでも見えるほどに青々とした森林だった。


「おいおい、何だよこれ。あのババアと負ったはざの傷が失くなってるぞ」


「リュクウも鼻血、もう出てない」


「それどころか何かものすごく元気になった気がする!」


「…そうかのう?」


ステラ達も準々に目を覚ますと、それまでに負っていた傷やダメージが綺麗さっぱりに失くなった上に、まるで生まれ変わったかのように身体に元気が満ち溢れるのだった。ユウキュウだけは何か不満があるのか疑問符を浮かべていたが…。


「おい、まさかさっきの炎に包まれたせいか」


「うん、スザクの再生の炎だよ。まさか僕らも体験するとは思わなかったよ」


思い返せばメイナス達はスザクが絶頂して再生の炎を放ち、包まれた者達が回復するのは何度か見ていたが、その身を持って体験することは滅多になかった。


「再生したのは私達だけじゃないみたい。外を見てよ」


アメジスの言葉で外を見てみると、焼け野原になったはずのシンフォニーフォレストは炎のカーテンが通り過ぎたはずなのに、元の鬱蒼(うっそう)とした樹海に戻っていたのが神殿の中からでも分かった。


「この見違えるようなエレメントの感覚…もしかしてシンフォニーフォレスト全体が蘇ったのですか」


身体が生まれ変わっただけではない。ずっと失われていたはずのエレメントが身体の中から溢れ出てくるほどに感じられたのだ。使用不能の原因であるシンフォニーフォレストが先程の炎のカーテンによって蘇ったのならば有り得ない話ではなかった。


「はあ…はあ…アメジスぅ、ごめん…い…逝ちゃったよぉ…♡」


生まれ変わった感覚に戸惑っているニナ達を尻目に、スザクは緩んだ頬から涎(よだれ)を垂らした幸せそうだがだらしない顔で、汗と火種でより背徳的になった豊満の身体を生まれたままの姿で曝け出しながらビクッ…ビクッ…と痙攣(けいれん)させていた。


「はぁ…スザクちゃんってば、私との約束を破るなんて。我慢出来ずに気持ち良くなるなんてガッカリ…本当にイケないね…♡」


「はうん!?♡」


何があったかは知らないが約束を破られたことに不機嫌になりながら言葉責めをし、更に耳元で囁いてスザクの背筋をゾクゾクさせるアメジス。


「動けないぐらいに気持ち良いことをしたんなら私のこと欲しくないのぉ?でも、いつの日か…「もう、やめて」って言わせて…あ・げ・る♡」


「きゅうん!?♡」


敢えてスザクにしか聞こえないように囁くその言葉はまるで『逃げられない』と刻み込んでいるようで、実質快感の余韻で身動きが取れないスザクは物理とは異なる攻撃である言葉責めになす術なく、目がハートになり動かせない身体をエビ反らせながら絶頂し続ける。


「スザクお姉ちゃん、エビみたい」


「リュクウは見るな!?お前らもさすがにそれは子供の前でやるなよ!?」


「って言うかそれどころじゃないでしょ!トードナとアラクネメシスは!?」


立場が逆転してスザクを言葉で一方的に責めているアメジスに思わず顔を赤くして見てしまっていたが、スザクがエビ反れるほどに自由になっているのならば取り込んでいたはずのアラクネメシスはどうなったのかと辺りを見渡す。


『ギ…ギシャア…!?』


「いた。こいつも回復していたのか?」


「あのババアは何処だ」


瓦礫の山を押し退けて元の巨大な蜘蛛の状態のアラクネが出てくる。頭部にはトードナの姿は見当たらず、再び辺りを見渡していると耳障りなキーキー声が聞こえた。


「嘘よ!?嘘だと言ってえよおおぉぉ!?私の…私の美貌がああああぁぁぁぁ!?きいええええぇぇぇ!?」


スザクとアラクネが分離したのならばトードナも例外ではないらしく、しかもその影響でか元の脂ぎった中年女性の姿…いや、分離した影響かギトギトした脂と脂肪が増えてブクブクとした体型になり、しかもニキビやシワなどが出て以前よりも酷くなっていた。


「おのれぇ!?バンシーハープ!アラクネ!私にもう一度美貌を与えないよおおおぉぉぉ!?」


必死に取り戻そうと手にしていたバンシーハープの弦を力任せに弾いて不協和音を奏でるトードナ。


『ギシャア…!?』


「あいつ…性懲りも無くまた化け物になる気だぞ」


再びアラクネメシスになるらしく、アラクネも身体が引っ張られそうになっていた。


「ミエナちゃん!君の髪留めで戒めの鎖に触れて!」


「え、ルアーネちゃん!?何で?」


「良いから早く!」


不意に切羽詰まったルアーネの声を耳にしたミエナは驚いて辺りを探すも、催促されるがままにサイドテールを留めている金色のリングを外して、願いの精杯を封じている戒めの鎖に押し当てる。


「戒めは善では非(あら)ず、されども悪でも非ず。全ては心を奪われ、囚われぬための訓(おし)えである」


今度はセレスティアが何かしらの教訓のような言葉を呟き、その後で聞いたことがない呪文を念仏のようにブツブツと唱える。


「守護者の長セレスティアの名に置いて、戒めの鎖を紡ぎ直す!」


最後に自らの権限を駆使して戒めの鎖に自分の意思をトレースしたかのように動かす。


『ギシャアアアア!?』


「ちょ…何よ、この鎖は!?」


戒めの鎖はアラクネの脚と身体に巻き付き、再び一つになろうとしていたトードナも纏めて引きずる。


「こんなの…自由の身であるあんたらが妬ましいと思えば…!」


劣等感を露わにバンシーハープを奏でれば、戒めの鎖を振り解くのは訳ないと考えた。しかし鎖は解けるどころか、より拘束力が増してアラクネを締め上げてくる。


「な…何でよ!?何で振り解けないのよ!?」


焦っている間に鎖はアラクネだけでなく遂にトードナのでっぷりした下半身にも巻き付いてきた。


「あいつらは自由の身なのにどうしてなのよ!?ふざけんなよ!?きいいいいぃぃぃ!?」


振り解けず徐々に不自由になっていくことに劣等感を抱きながらバンシーハープを奏でているのに、不動を意味するかのようにガチガチに縛り上げられトードナはキーキー声でヒステリックを起こす。


「無駄です。戒めの鎖は元々デーモンスピリットを封じるために作られた封印具。『嫉妬』のデーモンスピリットを持つあなたに相応しいとも言えるでしょう」


幾ら劣等感を抱きながら奏でても意味がないはずだ。そもそもが同じデーモンスピリットを封じていたのだから振り解くこと自体が不可能なのだ。


「ふざけないでよぉ!?ならデーモンスピリットだけ封じられれば良いじゃないのよぉ!?」


「あなたは既に罪を犯し過ぎたからです」


デーモンスピリットを長年封じていたのなら自分は関係ないとヒステリックを起こし続けるが、それに対してセレスティアの声は底冷えするほどに冷淡であった。


「森を切り開いたかと思えば、手当たり次第に爆破して妖精族を苦しめるだけでは飽き足らず、多くの罪のない人々を虐げ搾取した悪行の数々…デーモンスピリットの所持者としては相応しいほどの悪の心を持つために、戒めの鎖はバンシーハープをあなたとアラクネと共に封じるようですね。永久的に」


判決を言い渡すように毅然(きぜん)とした態度で最悪の未来を告げるセレスティアの声にトードナは蛇を見たヒキガエルのように顔が青ざめていく。


『ギエエエエエ!?』


既にアラクネは表面が鎖に覆われてしまい、身動きを取ることが出来ない状態でほぼ封印されたと言って良いだろう。


「イヤだ!?イヤだイヤだイヤだイヤだぁ!?きいいいいいいいいぃぃぃ!?こんなとこに永久に縛られるなんて…絶対にイヤだあああぁぁぁぁ!?」


トードナにも下半身とバンシーハープを持つ左腕に鎖がギチギチと巻き付き、脂肪を絞り出すかのようにこれでもかと締め付けていく。


「終わったな。あいつ」


「そうだね。でも、どうして髪留めで鎖が…」


封印も時間の問題だと雑談しながら見ていたが「ぎいやあああああ!?」と言うキーキーした悲鳴にハッとなる。


「ぐああああぁぁぁぁ…!?私の足がぁ…腕がぁ…!?」


封じられまいと戒めの鎖と綱引きするように踏ん張っていたトードナだが、その結果とし両足と左腕の肉と骨が潰れてベーコンのように平べったくなっていたのだ。


『ギエエエエエェェェ…!?』


一方アラクネはバンシーハープと共に願いの精杯があった台座まで引きずられていくと、戒めの鎖が幾重にも重なっていき、アラクネは前脚にバンシーハープを手にした状態で戒めのガチガチに固められて像のようになる。


「アメジス…これって死んだのか」


「どうなんだろう」


「封印されたのさ。セレスティア様の手によってね」


ようやく姿を見せたルアーネは元のボーイッシュな雰囲気に戻っていた。しかしよく見ると彼女の頭の上には見慣れない妖精が一人いた。


「はい、皆さんのお陰で無事にシンフォニーフォレストの脅威を退けることに成功しました。心より感謝致します」


「その声…まさかセレスティア様ですか!」


頭の上にいる妖精がセレスティアの声で話したかと思えば、サイズはまるで異なるもののれっきとしたセレスティア本人であったことに、ニナでなくともほぼ全員が驚くのだった。


「その御姿は一体…自らの命を投げ売ってでも勝とうとしていたために、もしやと思いましたが…」


生きていて欲しいと思っていたが、死を覚悟するような言い方をしていたために最悪の結末を予測していたが、良い意味で予想を裏切ってくれたことに喜んで良いのやら驚いて良いのやら分からなかった。


「確かに死を覚悟しました。けれどもスザクさんのあの炎によってルアーネさんから分離した時に…私の中の全てのエレメントがシンフォニーフォレストが蘇る触媒として還元され、私自身も本来の姿へと蘇らせてくれたようです」


エレメント・アスガルドはセレスティアの命と彼女の持つ全てのエレメントをも燃やし尽くすかと思われたが、先にスザクの再生の炎によって焼き尽くされたことで本来の妖精の姿とシンフォニーフォレスト復活の礎とで分離し助かったようだ。


「永遠に生きることは苦痛だと思いました…けれども自らの使命を果たし、こうして本来の妖精の姿になり生き延びたことは決して苦痛だとは思いません。寧ろ生まれ変わったようで何処か清々しいですね」


妖精族と己の使命のために死を選んだものの、結果的には生きることは決して苦痛ではないし自由であると実感して涙していた。


「私はこれからは普通の妖精として、妖精族の長を続けます。いつの日か、この生命に終わりが来るまで…」


「セレスティア様…」


『生きる』ことを諦めないでくれたセレスティアにニナも感涙し、他の妖精族の仲間にも聞かせてあげたいと強く思うのだった。


「ん…おい、あのババアは何処だ!」


水を差したくはなかったが、ステラはトードナの姿が石の床に長く伸びた血痕を残して消えていたことに声を張り上げた。


「まさかあの身体で逃げたのか」


「なんと言うしぶとさじゃ。トドメを刺しに行くか」


まさかあの身体で逃げるとは思わなかったものの、諸悪の根源は元から断たんと言わんばかりに躍起になる一同。


「いや、もうあいつは終わりだよ。あの大ケガだし、それに今頃屋敷の方は…」


だが、逃げ延びたとしてもトードナには最悪の結末が待ち受けているとメイナスは断言し引き止めるのだった。

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