凶敵の名はルナセナ〜前編〜
「……なるほどのう。じゃからお主は獣人と妖精の両方の姿を持っているのじゃな」
話を一部始終聞いていたユウキュウ達はニナが愛する人のために妖精と獣人の両方の種族の姿を獲得し、壮絶な悲恋を経験していたことに固唾を呑んでいた。
「……はい」
思い出しながら話していたニナは過去の心の傷が痛んだらしく、スカートの裾を握り締めながら少し涙目になっていた。
「でも、おかしくないか。その願いの妖精はニナを他の種族に変身させることは出来ないから猫に変えたんだろ?なのに何で今は獣人になってるんだ」
今は獣人の姿ではあるが、当時のニナは妖精から他の異種族にはなれないために猫に姿を変えたため話が矛盾しているとレイラが指摘する。
「恐らく中途半端な力で無理やり種族を捻じ曲げたせいだろうね。それに獣人の始まりは獣が特異的なマナミナを受けて進化した姿とも言われてるから不思議でもないんだよ」
獣人族の起源も然ることながら、不完全な願いの力でニナは姿だけ妖精から猫に変わったために長い年月と共に肉体が変容したのではとルアーネは考えていた。
「恋人のために猫になったのに…気持ちを打ち明けられずに生き別れ、その後で今の姿を獲得か。気の毒にな」
禁忌を犯してでもアスラと添い遂げようとしたのに、姿が変わり声を失ったことで自身の存在や恋は伝わらず、ようやく望むべき姿を獲得出来たのは愛する人を失った時だなんて皮肉としか言いようがなくステラは同情するのだった。
「……しょうがないですよ…それが私のしたことへの報いなのですから」
口ではそう言っているがニナは作り笑いをしながら悲しみの感情を押し殺していた。
「しかしルアーネよ、ニナと出会ったのは嵐の日で記憶を失っていたと言ってなかったかのう?」
雰囲気が暗くなりユウキュウは話題を変えようとニナとルアーネの馴れ初めが異なっていることを指摘した。
「それ?ニナを奴隷商人から助けた日はたまたまスゴい嵐で、アレキス先生は知らずに避難誘導を勧告しようとしたら頭を殴られて意識が混濁しているニナを見つけたんだ」
「じゃあ、その後でお前らは出会ったのか」
「そう。それと記憶がないと思ったのは多分、こんな話したくもなかったんだろうね」
つまり発見した時の話はアレキスの報告の受け売りで、記憶がないと思っていたのはニナに取っては失恋話どころか禁忌を犯した悲恋話だなんて、今の状態から見て分かる通り話すだけでも耐えられないため黙っていたのだろう。
「…ねぇ、ニナちゃんがそこの神殿って所に行く道を知ってるんだよね?」
まだ五歳のリュクウからすれば恋バナなんてまだ無縁であるため、会話を一切理解は出来ないものの目的地のことに付いてはニナが詳しいのかと確認する。それはリュクウでなくとも誰もが一番知りたい情報だった。
「それが…正直どうやって通ったかまでは覚えてなくて」
「一度通ったのにか?」
ところがニナ本人は通ってきたはずなのにどうしたら良いか分からないと言った有様だった。
「あの時は願いの妖精さんの願いの力で頭の中に何処をどう通れば良いとか、そこに罠があるとかも分かったので」
「罠?…ぎゃあっ!?」
罠と聞いた途端にレイラの足元がハエトリソウの花弁ように動いて彼女を閉じ込めたのだ。
「ぶはっ!何だこれは!?」
レイラはダガーで花弁を切り裂いて怒鳴り散らしながら外に出てくる。
「それが罠です。あ、そこに立つとトゲが飛んできます」
「おっと!?本当だ…」
今度はトラブルが起きる前にニナが警告してくれたことでルアーネは難を逃れる。
「あとは確か…」
「きゃははは!くすぐったい〜!」
「そうです、くすぐってくる蔦とか」
答える前に上から伸びてくる蔦にリュクウは絡め取られ、服の下に入り込んで身体をくすぐられるために笑い転げていた。
「罠が分かってるなら道も分かるんじゃねぇのか?」
「これはあくまでも侵入者を追い返すための罠なんです。本当に恐ろしい罠はこの先にもっとあるんですよ」
これらの罠は戒めの神殿に近付く者を足止めしたり、近付く意思を削ぐために精神的に追い込むために用意されており、ここから先は命をも奪うような危険な罠やそれこそ辿り着くのが困難とされているのだ。
「…それってどんな罠なんだい」
「一番危険なのが浸かると骨まで焼け溶ける毒沼とか、マナミナを感知すると身体を貫くように生える竹林とかですね」
興味本位でかルアーネはどんな罠があるか訊ねると、ニナはその中でも取り分け危険な罠の存在を二つ明かすが、確かに下手に踏み込めば確実に命を落とすことは間違いなかった。
「そうか。何かに使えるかも…ん?あの煙は?」
その罠を利用出来ないかと考え込むルアーネは明後日の方向で不自然な煙が立ち込めていることに気が付いた。
「ここは人が住んでいないのにどうして煙が…」
「今は違法伐採をされておるから人が大勢いるじゃろ。そいつらが焚き火でもしたのではないのかのう?」
火のないところに煙は立たないとあるように、人が住まうはずがない手付かずの自然が広がるシンフォニーフォレストで煙が立ち込めるなんて不自然だとレイラは首を傾げるも、ユウキュウはここは違法伐採で人が大勢入っているのだから不思議ではないと返す。
「それもだけど、あの煙の形…あれは狼煙だよ」
だが立ち込めていたのはただの煙ではなかった。遠くの人間に煙の形を変えて合図や伝令をする狼煙だった。煙の形には火元を指す矢印、丸の中に『ま』、カーブして火元を指す矢印の三種類だった。
「風魔法で形を変えているね。意味は…『ここ』、『仲間』、『いる』…『ここに仲間がいる』だね」
合図や伝令は仲間以外に知られないよう前持って決めておくが、風魔法を使えばある程度の精密な形に変えることは可能なため、即興で仲間がある程度分かる形に変えれば伝わると言う仕組みだ。
今回の場合は矢印二つの最初は『狼煙のある所』と最後は『来て欲しい』と解釈し、『丸』は『了承』とも取れるが仲間内や身内などの『輪』や『仲』とも取れるため『ま』の字を入れれば『仲間』と読み取れるのだ。
「仲間って…もしかしてミエナかアメジスか?」
「いや、ミエナちゃんにしてはここまで細かい芸当は出来ないだろうし、何よりもボクらに分かるように形を変えていると言うことは…」
考えられるのはこの場にいないミエナかアメジスなのだろうが、他者に悟られず自分達に分かるよう配慮したこのやり方は二人には出来ない。もし出来るなら…
「そうか…メイナスの奴か!」
敢えてその先は言わなかったがそれだけで一体誰が狼煙を上げたかすぐに分かった。自分達の司令塔であるメイナスならば自分達だけに分かる狼煙を上げるなんて彼にしか出来ないだろう。
「確かにあいつにしか出来ない事だろうけど、まさかここにいるとはな!」
離れ離れになってしまうも暫定ながら思いがけない場所でメイナスと再会し、しかも彼らしい演出を目の当たりにしてレイラは泣き笑いしていた。
「あそこに何かがあるんだ。行ってみよう」
何はともあれメイナスが狼煙の立っている場所に何かあって、そこへ来て欲しいと言う意思があった。
▷▷▷
「あははは!こりゃ最高だぁ〜!」
「うへへへ…お嬢ちゃん、触らしてくれよぉ〜!」
「俺もこれで大金持ちだぁ〜!」
所変わって森の中腹辺りではツルハシや斧などを手にしたボロボロのみすぼらしい服を着た奴隷達が祭事や催し物がある訳でもないのに、目のハイライトが消えた状態で明後日の方向を見ながらどんちゃん騒ぎをしていた。
「トードナ様、やはり奴隷達ではこの森を抜けさせるのは不可能のようですね」
「それは分かっておるわ。そのためにあれを大量に取り寄せたのだからな」
森に入ったレイラ達と同じく幻覚を見せられている奴隷達を離れた位置からトードナ一派は見ており、このままでは自分達も二の舞を演じることに衛兵達は不安がるも当のトードナにはある切り札があった。
「ところで賞金稼ぎのサスライよ。メイナスの元仲間達がここへ来ているのは確かなのか?」
「ああ、間違いねぇよ。近くの街で奴らを見かけたから間違いないぜ」
アンロスの街で色々暗躍していた賞金稼ぎのサスライが近くの木に寄りかかっており、トードナの質問に編笠を深く被りながら素っ気なく自身が得られた情報を答えるのだった。
「明確な目的は不明だけど、メイナスを奪い返すたにわざわざ来たのねぇ。サスライ、あんたも報酬分は働いて貰うわよん?」
色っぽく接しているつもりなのだろうが寄ってくるのは雄のヒキガエルぐらいの有様でサスライは見るに耐えられずに視線を逸らしていた。
「俺が出るまでもねぇよ」
「何を言っているのよ!奴らはあれで侮れないのよ?ここまで追ってこれたのだから尚更警戒するのは当然でしょ!それと私が話している時はこっちを見なさい!タダで私の御姿を見られるのだからありがたく思いなさい!」
本来なら見るだけでも料金をふんだくる自身の美貌に目を逸らしただけでも気に食わないのに、サスライの応じるどころか横柄な態度を取ったことに彼女は唾を撒き散らしながらヒステリックを起こす。
「アルノって奴がとっくに追っ手を仕向けてんだとよ。だから俺が出るまでもねぇんだよ」
トードナの言う自身の美貌だなんて鏡を見てから言えと思いつつもサスライは自分が出陣する必要はないと報告する。
「何よ、それならば安心ね。金次第でコロコロ態度を変えるゴマすり賞金稼ぎよりは信頼出来るわ」
「……そうだ、報告ついでにもう一つあるんだが」
言っていることは間違っていないが好き放題に吐き捨てるトードナに顔をしかめるサスライはもう一つあることを報告する。
「ここから先は命の危険が伴うから…ここで不老不死になってみないかだそうだ」
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「おーおー、これまた立派な屋敷だな。内装はかなり趣味悪いけど」
「何か気持ち悪い〜…」
レイラ達は狼煙を頼りに、そして知らず知らずにミエナの足取りを追うかのようにトードナの屋敷に辿り着き、見張りもいないこともあっていとも容易く侵入していた。そして金をこれでもかとあしらった派手な装飾の中にトードナの裸婦像や自画像が陳列していることにリュクウも気分が悪くなっており、ある種の危険な罠ではないかと錯覚してしまう。
「変だな、見張りが一人もいないなんて」
「…いや、人はいないこともないらしいな」
こんなにも大きな屋敷なのに見張りはおろか使用人の一人もいないことにルアーネは不思議に思うも、ステラは『熱感知』で人がいるのを察知していた。
「ただ皆まとめて縛られているようだけどな」
ところが存在だけでなく全員が拘束されていると言う穏やかではない状態も察知した。
「縛られているって、何でだよ?」
「盗賊か或いは…」
屋敷内で人が縛られるだなんて考えられるのはマニアックな趣味を持っているか、悪意ある者の仕業だがステラには不思議とそうには思えなかった。
「…もしかして拘束してるのって」
そもそもここへ来れた頼りの狼煙や簡単に屋敷に入れるよう見張りがいなくなっているなど自分達に取って都合の良いことばかり起きていたが、とある人物がここまでお膳立てしているようにしか思えなかった。
「皆!やっぱり来てくれたんだ!」
「「「メイナス!」」」
「お兄ちゃん!」
そんなの一人しかいなかった。ミスティーユでトードナの手によって離れ離れになってしまったメイナスがいたことに全員がギュッと抱き合う。
「まさかお前がここにいるとは思わなかったぜ!」
「会いたかったですよ〜!」
「ううっ…わああぁぁ〜ん!?」
「レイラ、僕も会いたかったよ…!ニナもここにいたんだね!リュクウも心配掛けたね…」
何人かは泣いてたり涙目になっており、いつもは冷静であるメイナスも思わず釣られて涙目になってしまう。
「ミエナ、姿が見えんと思ったらここにいたのじゃな」
「皆と離れ離れになってたらたまたまここにね」
ただでさえ姿を消せるミエナのことだから離れ離れになってしまった後で無事かどうか怪しかったが、こうやって屋敷の中でメイナスと共に五体満足の姿を確認出来たことにホッとする。
「妙な所で再会したのは良かったが、ここの連中を縛り上げたのはお前らだったのか」
「まあね、睡眠薬を透明になったミエナに撒いて貰ったから楽だったよ。後はミエナから皆が来ているのを知ってたから、暖炉の煙を狼煙代わりに使ったんだけどね」
「皆なら来てくれると思ってたよ!」
やはり都合が良いとは思っていたが全てはメイナスとミエナが裏で動いていたようだ。
「…ところでスザクちゃんとアメジスちゃんはどうしたの?」
「え?ルアーネちゃんは見てないの?」
「僕はこの屋敷にずっといたけど、皆が来るまではミエナとしか会ってないよ」
しかしまだ再会を喜ぶには早かった。ここにはまだスザクとアメジスがおらず、誰もその所在地を知る者はいなかった。
「エレメントの不調から始まってシンフォニーフォレストまで来たが、来てみれば妖精族の守っている戒めの神殿に向かう羽目になるし、メイナスとあたしらを引き離したあのクソ貴族もいやがる…結局ここで何が起こってる」
分からないことが立て続けに起きていてステラはいい加減に現状を把握したいとこれまで起こった経緯を口にした。
「…結論から言えば全ての原因はトードナだよ。あいつは君の言うように最悪な貴族だよ」
基本的に相手のことを悪く言わないはずのメイナスだが、今回ばかりはステラの暴言に賛同するかのように悔しげに呟く。
「あいつは…あいつはリュドー様を殺したんだ?!」
それもそのはずだった。と言うのもトードナは何処かきな臭い貴族とは思っていたが、メイナスだけでなく教会の面々からすれば恩人でありミスティーユに住む人々からも尊敬されていた領主の貴族リュドーを殺したのだと言うのだ。
「そ…それ本当かよ!?リュドー様を殺したのかよ!?」
「奴らの素性を調べていく内に、この屋敷の地下室に辿り着いたんだ…そこには拷問部屋があって、酷い傷を負ったリュドー様がいたんだ」
リュドーのことをよく知るレイラが血相を変えてメイナスの胸ぐらを掴んで問い詰めるも、掴まれたメイナスは真実だと何があったか押し殺すように呟く。と言うのも指や腕を切り落とされたり、身体中にトゲを刺されたりと口にするのも恐ろしい有様だったからだ。
「治療しようとしたけど…既に息を引き取っていた」
「そんな…あのクソ貴族は何でそんなことをしたんだよ!」
残酷な現実を耳にして胸ぐらから手を離したレイラはヘナヘナと崩れるように座り込むが、領主になるのならわざわざ拷問する必要があるのかと質問を投げ掛ける。
「確かに領主になるだけならわざわざ拷問せずに不慮の事故と思わせて殺せば良いだけだからね」
拷問と聞けば死に直結するギリギリの苦痛を与えるイメージがあるが、本来は口の硬い相手から情報を聞き出すための方法であるため、拷問をしたトードナはリュドーから何かしらの情報を聞き出そうとしていたのではとルアーネも同調する。
「拷問官もいたから自白剤を使って口を割らせたけど、リュドー様から肝心な情報は得られなかったみたい」
「何を知りたかったんだ?」
「……言いにくいけど、どうやらフェニックスやその周辺で起こっていることを聞きたかったみたい」
ただでさえドラグングニル帝国がフェニックスことスザクのことを狙っているのにトードナと言う貴族までもが領主であるリュドーを拷問し狙っていたことに言葉を失う。
「それまでのミスティーユは温泉が枯れてから誰からも見向きもされていなかった。良くも悪くもね」
以前は観光地としても親しまれていたミスティーユも名所である温泉がなければ見向きされることはない。それはつまり観光客や癒やしを求める冒険者、或いは回復力のある温泉を独占しようとする征服者からもだ。そのため国として潤うこともなければ、逆に他の国からの侵略を受けることもなく平和だったのだ。
「スザクがフェニックスであることは僕ら以外には知られていない…けど、ドラグングニル帝国がパンドラの森で色々騒いだり、『ミスティーユを中心にフェニックスらしき存在がいる』と噂したり、それこそ僕ら…特にゴッドプレシャスを持つ仲間達がスザクと共に色々なことをしてきたためにミスティーユが怪しいと踏んでトードナはこんなことをしたんだろうね」
「そうなればトードナはフェニックスとゴッドプレシャスの力を得る事になる…帝国も下手に手出しが出来なくなり、やがて逆に支配してしまう程にね」
全ては疑いや噂の段階でしかないが、確かにそれらの情報を統合すればミスティーユにはフェニックスらしき存在はもちろん希少な存在のはずのゴッドプレシャスの存在が集まっているため、それを狙ってリュドーに成り代わって領主になることでフェニックスとゴッドプレシャスをその手にし、帝国をも上回る力を得てゆくゆくは牛耳ろうとしているのだろう。
「しかしそのリュドー…様とやらからは情報を得られなかったのであろう。残念じゃがスザクのことを知らなかったお陰で最悪の事態は免れたのであろう?」
「それはそうだけど…トードナ達は『デーモンスピリット』を所持しているんだよ」
前向きに考えたいところだが、セレスティアから聞いていた森を破壊している者達が『デーモンスピリット』を一つ所持している…それはつまり破壊者はトードナであり、彼女がゴッドプレシャスにも匹敵する『デーモンスピリット』を持っていることになるのだ。
「このまま奴らは無視出来ない。いずれミスティーユだけでなく世界に対して脅威的な存在になるはずだ」
例え今はフェニックスもゴッドプレシャスも手に入らなくとも、セレスティアやメイナスの言う通りトードナを野放しにしていたら悠長なことを言っている場合じゃないだろう。
「そう言えばここはトードナの屋敷なんでしょ?奴らは今何処に行ったの?」
ルアーネ達は戒めの神殿へ向かっていたが、トードナの目的地も同じであるため彼女らの動向をよく知っているであろうと考えてメイナスに追加で訊ねる。
「森の不思議な力や天然の罠に中々進展がなかったけど、奴らは思い切った方法で突破する気なんだ。戒めの神殿までシンフォニーフォレストを爆破する気なんだ」
音を奏でる木々で最初は自分達も幻覚を見ていたこともありトードナ達もかなり足止めされていたようだが、業を煮やして森を爆破と言うトンデモない手段を取ることにしたようだ。
「そんなことをしたら私達の故郷がめちゃくちゃになって妖精族は全滅しちゃいますよ!?」
「本当にそんなことをする気なのか?」
違法伐採だけでも許せないのに森そのものを爆破しようだなんて人間のやることとは思えず、特にシンフォニーフォレストが故郷である妖精族のニナからすれば一族が壊滅するような事態に直結するため猛反発していた。
「家探しをしていたら地下倉庫の中に樽いっぱいの爆薬をたくさん見つけたんだ。数からして森の木々の大半を吹っ飛ばすには充分…いや、地図が描き変わるかもしれないね」
購入した際のリストと在庫とを照らし合わせても爆薬入りの樽が三分の二ほど失くなっていたのだ。それもこれほど大きな屋敷の地下倉庫となれば在庫数も膨大であるため、失くなった分量であればシンフォニーフォレストと妖精族を壊滅させ周辺にも甚大な悪影響を及ぼすほどの破壊力があった。
「つまりは急いで奴らを追い掛けて止めねぇといけねぇんだな?」
「幾ら幻覚を見せると言っても爆破なんかされたら太刀打ち出来ないよ」
「森も壊されて、戒めの神殿まで辿り着かれたら…」
今考えられる最悪の事態を把握した一同は今すぐにでもトードナの後を追い掛ける必要があった。
「その前にこれを持って行こう。トードナの地下倉庫に武器も幾つかあった」
「エレメントが不安定だからここで装備を固めていこう!」
だが、失敗が許されないからこそ入念な準備が必要であり、腐っても貴族であるためトードナの地下倉庫に中々使えそうなアイテムや武器が幾つかあるためそれらを失敬することにした。
「あの…良いんでしょうか。悪い人とは言え、これって窃盗では?」
「確かにそうじゃな。しかし盗賊のジョブである場合は悪人からの盗みは義賊法と言う法で免除されるのじゃ」
義賊法とは基本的に御法度とされる盗みの中に悪行を働いて得られた金銭や、密猟や密輸などで不正に得たアイテムなどを盗んで犯人逮捕や成敗のために使用することは合法的に認められると言う内容だ。盗賊のジョブが今だに残っているのはその法のお陰であるため、今の場合も多少は許されるとユウキュウが説明した。
「こんなの付け焼き刃でしかないけど、今は無いよりもマシと思ってくれ」
「確かに今は戦力が乏しいのが問題だしな」
エレメントが使えないとなると残るはサイマジックかスキル、そしてそれらに頼らない己の戦闘能力のみだった。せめて武器や装備ぐらいは整えて置きたいところだった。
「ここでの仕掛けは終わった…後は上手く行くことを祈って追いかけるしかない」
仕掛けとは何か聞こうと思ったが今は一分一秒を争うため、一同はトードナの後を追いかけようと屋敷の外に出るが行く手を遮るように目の前に赤い針が数本突き刺さる。
「血気盛んな気配を辿れば、まさかここにいるとは」
針が飛んできた方向にはコウモリの翼を背に生やし、不気味な笑みを浮かべた仮面とその側面から捻れるように伸びた角が特徴的な女性が樹上で待ち構えていたのだ。
「この押し負けそうなマナミナ…いや、これはディアマナミナか?まさか…魔族!?何でここに…!?」
角と翼と言った悪魔のような見た目もだが、その身体から放たれるディアマナミナは紛うことなく魔族であることを意味していた。
「怪しい者がいれば討ち取れと言う命を受け馳せ参上した」
「あのクソ貴族の差し金か。魔族まで従えていたのか」
「腐り切った貴族だとは思ってたけど、やっぱりただ者ではないようだね」
突如として魔族が登場するなんて有り得ないことだが、『デーモンスピリット』を所有しているトードナが仕向けたと考えれば説明が付く。
「どうする?やるか?」
「一刻を争うんだ。ここは一気に駆け抜けよう。リュクウは僕の背中に載って」
好戦的なステラでも今は急ぐべきなのは分かっているため、リュクウを背負って紐で結んでいるメイナスの提言には静かに頷くのだった。
「皆、散り散りになるんだ!後で落ち合おう!」
一斉に四方八方に散らばって木々の中に隠れ潜むように駆け出す。しかし仮面の魔族はそれを見抜いたかのように枝の上で身を翻すと同時に赤い針を飛ばしてくる。
「にゃわ!?」
「ぬう!?針じゃから攻撃を出すのが速いぞ!?」
「リュクウ、無事かい!?」
針はリュクウを背負ったメイナスの行く先の地面と、ニナのスカートとユウキュウの裾を木の幹に巻き込む形で刺さったのだ。
「お前ら!」
「お前達を始末するまでこのルナセナは逃がしはせん」
攻撃が当たりそうになり注意が逸れたレイラの目の前に仮面の魔族のルナセナが赤い剣を抜いて身構えていた。
「ざけんな!倒されるのはお前の方だ!」
「あたしらを敵に回したんだ…覚悟しやがれ!」
文字通り戦いは避けられないらしく、レイラは屋敷で新しく手に入れた双剣を手にし、腕をサイケデリックワームの鎌に変えたステラと共にルナセナに向かって駆け出す。




