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目指す場所は異変の原点

「メイナス兄さん…」


「メイナス…」


「アメジス、レイラ…」


長い付き合いであるメイナスが目の前から、それも余りにも突然に去ってしまったことに、アメジスもレイラも教会の面々も意気消沈としておりスザクもどうしたら良いか分からなかった。


「落ち込んでる暇はなかろう。奴はこの教会のために自ら犠牲になったのじゃ」


「っ…!そんなこと分かってるよ!でもだからってそんな簡単に割り切れるかよ!」


現実だが到底認められないだけにレイラは体格差もありながらドライな考え方をするユウキュウの胸倉を掴んで宙吊りにして反論する。


「奴も相当な切れ者じゃぞ。これで簡単に終わるような男ではなかろう」


普通の子供なら胸倉を掴まれ宙吊りにされたら怯えるところだがユウキュウは臆せず、メイナスのことを何処か信用しているような口振りをしていた。


「奴は最後の最後で何かを書き残していたじゃろう。もしかするとあれは…」


何か手紙のような物を書いていたことを指摘され、レイラ達は急いで手紙の内容を確認した。


『これを読んでいる皆へ、火急の用だから要件だけをここに書き記すよ。どうにもこの件は何か裏で動いている可能性がある、ひょっとするとリュドー様の件とも何か関係があるような気がする…だから敢えて奴らの懐に入って独自に調査をしてみるから、皆も今はニナのことお願いするよ』


展開が速過ぎた上に理不尽なことが起きたために気付かなかったが、今起きている現状は『昨日今日でミスティーユを統治する貴族が変わり、更にその貴族が教会の取り壊し撤回を引き換えにメイナスと結婚する』と言うことになっているが文章にしてみるとかなり無茶苦茶な話だった。


百歩譲っても貴族が変わるのは仕方ないことだ。だが、それならそれでリュドー本人か或いは病気で動けないほどなら彼の執事や従者が来て台頭すると宣言する義務はあるはずだ。


結婚の話だって取り壊し撤回を餌に半分脅す形で申し込むなんて、増税徴収をする性根の悪さから来る物だろうが裏でどんなきな臭いことをしているか分かったものではない。


だからこそメイナスはトードナ達が何か裏で企んでいて敢えて懐に飛び込んで内情を探るつもりらしく、その上で教会やレイラ達に実害が及ばないようにしニナの捜索に集中させるようにしたのだ。


「あいつ…無茶しやがって…」


「やはり転んでも(ただ)では起きなかったのう」


ユウキュウの言う通りメイナスの残した手紙には心配してくれるであろうレイラ達に宛てられたメッセージが書き記されていた。


「お主らの心配は分かるが取って食われる訳ではなかろう。しかしニナの場合はそうもいかん可能性がある。じゃから今は…」


理不尽ではあるがメイナスの場合は結婚するだけであるため命の心配はない。しかしニナの場合は妖精の姿でディアバトロスに攫われたとなれば捕食される危険性が充分にある。


「メイナス兄さんが私達のために頑張ってくれたのなら…それに応えて今はニナちゃんを探さないと」


「つまりあたし達はパズレインスクールに戻るんだな?」


メイナスのことは放って置けないが優先順位を前後させる訳にはいかないと本来の目的であるパズレインスクールに向かうことを決意する。


「それには…及ばないよ…」


ところが決意して早々、出鼻を(くじ)くようにパジャマ姿のルアーネが頭を抱え、壁を頼りに階段から降りてきたのだ。


「お主、まだ辛そうに見えるが大丈夫かのう」


「いつまでも寝てられないよ…それどころかどんどん酷くなってるような気がする」


「まさかそんなにシンフォニーフォレストが酷いことになってるの?」


「日に日に酷くなっていく…何者かは知らないけどシンフォニーフォレストが破壊されようとしている」


そもそものルアーネの異変はシンフォニーフォレストの森林破壊によるもので、彼女は数日間は寝込んでいたが治る気配はなく寧ろより酷くなっていることは一目瞭然だった。


「そんなんで動けるのかよ。それに言っちゃ悪いけどニナのことと何の関係があるんだ?」


目には(くま)を作り、髪の色も若草色から枯れ葉のような色へと変わっていて、しかも何日も食事をしていないような(やつ)れ具合でおまけに細身の身体がより細くなっているようにも見えた。


メイナスがいない今はルアーネも司令塔としては申し分ないだろうが、とても元気に動けるようには見えないし何よりもニナのこととは余り関係がないようにも思えた。


「ボクだって寝込んでいる間に色々と調べてたんだ。ディアバトロスの生息地は密林だった、だから重点的にシンフォニーフォレストを調べてみたんだ」


「…待って、そう言えばシンフォニーフォレストも密林で今は誰かに環境破壊されてるんだよね」


与えられた情報からミエナは異変が起きている場所はディアバトロスが生息するような密林であり、しかも今は違法伐採されていることからあることが推察出来た。


「もしかしてあのディアバトロスはシンフォニーフォレストが違法伐採されたからここへ来たの?」


住処を違法伐採されたことで生息地を追いやられたディアバトロスは遥々(はるばる)ミスティーユまで飛んできたのかと言う推察にルアーネはもう一つ付け加えた。


「それにシンフォニーフォレストは妖精達の住処でもあるんだ。ニナを妖精族と見抜いて元に戻し、しかま捕食せずに連れ去ったと言うことは…偶然にしては出来過ぎてるよね?」


しかもシンフォニーフォレストにはディアバトロスだけでなく妖精族も住んでいる。どちらも違法伐採に同じように苦しめらている者同士だし、ニナを妖精に戻して連れ去ったことから点と点が繋がったようにも見えた。


「一連の騒動にはシンフォニーフォレストの異常が関係している可能性が高い。ひょっとするとニナを攫ったのは捕食以外の別の意味があったのかもしれない」


エレメントの異常から始まり、次いでニナの誘拐事件と関連性がないと思われたが全てはシンフォニーフォレストの異変が原点となっていた。


「でもニナを攫う他の意味って何なんだ?」


「ボクの賢者の書はある程度のことは予測出来る。けど、人の心を見透かす訳じゃない」


スザクだけでなく誰もが思うであろう疑問にルアーネは断言出来ないが予測の範囲で自分の意見を口にする。


「妖精族は精霊としての歴史があるために人の目に触れないよう森の奥で生活している。ただ、ニナの場合は何かしらの禁忌を犯して一族を追放されたのかもしれない」


妖精は身体は手のひらサイズで捕まえようと思えばほぼ虫採り感覚で捕まえられるほどに非力な種族だが、精霊魔法やエレメントに由来する強大な力を持っていたために人間に狙われ続けた歴史がある。


「だったらそのニナちゃんを連れ去る理由は何なの?」


「確かにのう。どんな事情があってどちらが悪いにせよ、追放しておいて今更一族の問題に手を貸せなんて虫が良過ぎるぞ」


その妖精族の中でニナは一族を追放され、そのお陰と言っては何だが自分達と出会ったのだ。それなのに追放して良くも悪くも部外者になったニナを自分達のゴタゴタのために連れ戻すなんて自分勝手過ぎる話だ。


「向こうだってそこまで勝手なことはしないはずさ。ただ、追放したニナを恥を(しの)んで連れ戻したってことはニナにしかないもの…多分追放された理由が鍵かもしれない」


自分勝手だの虫が良過ぎるだの批判されようが妖精族は自分達の故郷を救うため、ニナが追放されることとなった理由に関する何かを利用するためにディアバトロスを仕向けて攫ったのではと考えていた。


「じゃあ、やっぱりシンフォニーフォレストへ向かうんだな」


「その通りだね。それよりもずっと寝込んでいてよく分からないけどメイナスはどうしたの?」


寝込むと同時に調査を続けていたルアーネだが、そのためにメイナスがいないことやミスティーユで起こっている騒動には全く気付いてなかったようだ。


「…と言う訳でメイナス兄さんはトードナって言う貴族のお婿さんに」


「トードナ…ミスティーユだけでなく、別の場所でも良い噂を聞かない貴族だね」


何が起きているか聞いたルアーネはトードナの噂は周知していたらしく嫌そうな顔をする。


「そう言えば最近、彼女が保有する商店やギルドの羽振りが良いらしいけど」


「それがどうかしたのかよ?どうせ値段をバカ高くしてんだろ」


増税徴収だけでは飽き足らず、経営する商店やギルドで手に入る素材の値段まで跳ね上げて私腹を肥やしているのかとレイラは嫌気が差していた。


「何でも特殊な魔道具を製造しては売り捌いてるって噂だよ」


「高くて買えないんじゃない?」


ただでさえ通常の培の税金を支払わされたのに、『特殊』と名が付く魔道具となればその値段は『安い』では済まないだろう。


「それが変なんだよ、高くても買いたいって客が多くて製造が追いつかないほどなんだって」


ところが意外にも売れ行きは好調らしく、需要と供給で言うならば供給が間に合わないほどだった。


「とにかくボクらがこれから目指すのはシンフォニーフォレストだ。そこにニナがいる可能性が一番高い」


「けどシンフォニーフォレストがあるのは山をたくさん越えた先だよ。馬車でも二週間は掛かるよ」


目的地がハッキリするも地図で調べていたミエナは行く先がかなり遠くであることにゲンナリしていた。人目に付かないように樹海や密林に隠れ潜む妖精族だけあって、人がおいそれと近寄れないような場所に住んでいるようだった。


「でもそれを言ったらシンフォニーフォレストから来て、ニナを攫って戻ってるディアバトロスだって同じなはずなのにどうしてあたしらは見つけられなかったんだ」


馬車を利用する訳でもないディアバトロスはここからシンフォニーフォレストまで往復することになるのに、何故すぐに捜索しても追いつけなかったのかと疑問に思うスザク。


「相手は障害物のない空を飛ぶのだぞ。確かに遠いのは間違いないが歩くのと比べれば断然速いぞ」


しかしながらスザクの疑問は空を飛ぶディアバトロスからすれば追いつけなかったのも納得の話だった。。


「グリーに乗ってシンフォニーフォレストに行けない?」


その話を聞いたリュクウはふと何か思い付いたような顔をし、彼女が手懐けているドラゴンのグリーに乗って行けないかと提案してくる。


「確かに良いアイディアだろうけど、君まで危険に巻き込む訳にはいかない。それにこれから行く場所は海じゃなく森の中なんだよ」


悪くない方法だが、それにはリュクウを連れて行く必要がある。まだ彼女は幼いし人魚族でもあるため海とは正反対である山の中でもしものことがあれば大変なことになるのは間違いなかった。


「リュクウだって…ニナお姉ちゃんを助けたいんだもん!皆の役に立ちたいの!」


「気持ちは分かるがお前は」


「確かにリュクウは皆とは違うし、本当のパパとママだって()()のに…メイナスお兄ちゃんや皆はリュクウのワガママを聞いて一緒に側にいてくれたんだよ…」


躍起になるリュクウを宥めようとするが彼女はレイラの台詞を遮るように続けて自身の家族事情や、そんな自分を受け入れてくれたメイナス達のことを話し始めたために誰もが静かに聞き入る。


「お兄ちゃんやニナお姉ちゃんが()()()()()()()()()()()行っちゃって…スゴく悲しかったの」


父親はドラゴンのセイリュウ、母親は人魚族と複雑な血縁関係だがリュクウに取っては愛する両親であったが、生まれて間もなく誘拐され生きている間に一目会うことも叶わず死に別れてしまった過去があった。


孤独と永遠の別れの両方を味わい悲しみに暮れるリュクウを家族として受け入れたメイナスとニナの二人が彼女の目の前からいなくなったことで今回はその辛い過去の記憶を呼び覚まさてしまったようだ。


「二人もだけど、皆はリュクウの家族なのに何も出来なくて…もしリュクウに何か出来ることがあるのなら…今ここで何かやらなきゃ絶対に今よりも悲しくなると思うの!」


そんな過去を背負うからこそ、受け入れてくれた家族を守りたいからこそリュクウは後悔しないためにも自身が出来ることがあるのならジッとなんかしてられないと気持ちを伝えてくる。


「…まあ、かく言うボクだってこんな体調不良なのにシンフォニーフォレストに向かおうとしてるからどっこいどっこいかな?」


「ってことは…!」


「君はボクが守る。正直ボクも戦力にはならないけど、リュクウは絶対にボクが守るよ」


子供だから不安は多く留守番をさせようと思っていたが、自分も戦力になるか分からないしどちらかと言えば守られる側であるためせめて同じ側であるリュクウのことは守ると宣言し遠回しに同伴を了承するのだった。


「じゃあ、すぐに出発するか」


「ドラゴンの飛行力でも五日は掛かるからね。準備は入念していこう」


同じ空を飛ぶ生物とは言え飛行能力に差があるものの歩いて二週間を空だと五日で短縮出来るようだが、それでも長丁場になるため比例して必需品は多くなるため一同はすぐさま準備に取り掛かるのだった。目指す場所はシンフォニーフォレストだ。

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