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悪いことは連鎖して起きる

「ごめん!虱潰(しらみつぶ)しに探したけど、ニナは見つからなかった!?」


「そもそもディアバトロスは何処にもおらんかったぞ」


街へ帰還するとマンゾアスの密林を捜索していたレイラ達から結果は空振りに終わってしまったと謝られてしまう。


「そんな…マンゾアスの密林にもいなかったなんて」


「その様子じゃクリムゾングルにも居なかったんだね」


アメジス達が落胆するのを見てクリムゾングルも空振りに終わったことにミエナ達も肩を落とすのだった。


「…どうするよ?」


「これ以上は僕らだけの力じゃ到底及ばないよ。残念だけど一旦教会に戻って体勢を立て直そう」


このまま引き下がるのは悔しいしニナの安否が気掛かりだが、自分達の力ではこれ以上の捜索は難しいため一度教会へと戻ることにする。


▷▷▷


「はあ…骨折り損だったか」


「ふわぁ…夜通し探したから眠いよぉ」


夜を通してニナの捜索と救出に向かっていたが空振りに終わったのに対し、ミスティーユに到着した頃には爽やかな朝日が射し込んでいたがレイラ達の気持ちは晴れやかにはならなかった。


「ん、何か街中が騒がしくないか」


「そうだよね。どうしたんだろう」


しかし爽やかではないのは自分達だけではなかった。ギルドや教会を中心に人が集まっていて、何やら言い合いやせめぎ合いが起きて騒がしくなっていた。その中には身に覚えのある修道女が心配な様子で騒ぎの中心を見ていた。


「シスター、どうしたんですか」


「メイナス…それが…」


やはりシスターでありメイナスは話しかけるも彼女は浮かない顔をしていた。


「下々の者共よ、静まれ!大貴族のトルキシク・トードナ様のお見えだぞ!」


温泉と霧の小国には似つかわしくないプレートアーマーの衛兵が集まった人々を下に見るような発言をしながら、トードナと言う五十代ぐらいの中年女性貴族を人々の注目が集まる中央の壇上へと通すのだった。


「お初にお目に掛かるぞ。私こそが大貴族のトルキシク・トードナぞ」


高い鼻に誰が見ても分かるような厚化粧、そして隠しきれないような深いシワが刻まれた顔は御伽噺(おとぎばなし)で見るような悪い魔女を彷彿(ほうふつ)とさせるトードナは上から目線な様子で話し始める。


「突然のことで戸惑っているであろうぞ。しかし敢えて単刀直入に言わせて貰おうぞ」


夜の間に何が起きたかはメイナス達には分からなかったが、周りの人々の動揺する様子を見る限りはあまり良くないことが起きたことは確かだが、そこは改めてトードナから話されるのだった。


「このミスティーユはこれから、私が統治することとなったぞ。つまりこれからお前達は私に税を支払うこととなるのだぞ」


話された内容に静まれと言われていた人々は再びザワザワと騒ぎ立てる。


「待ってください、ここは既に別の貴族の領地に入ります。それなのにあなた様が統治するとは一体…」


騒ぎ立てるのも当然だった。ミスティーユには既に別の統治者である貴族がいるため、そこに別の貴族が統治者として名乗りを挙げて良いのかと疑問を挙げる。言ってみれば自宅の家主が一夜にして赤の他人に変わったのと同じであった。


「それは簡単な話だ。と言うのも前任者の病気が酷くなり管理が行き届かなくなるようになったからだぞ」


今日までミスティーユを管理していた貴族は温泉が枯れても役職を投げ出さずに役目を全うしていたが、前々から病気になっておりここ最近では視察などで姿を見せることが少なくなっていた。


「そのお陰で本来の生息地から溢れ出たモンスターや果ては白い死神リッチが現れたと言う報告を聞いておるのでな、そんな不甲斐ない貴族に変わって私がここを管理しようと言うのだぞ」


その結果ミスティーユにはベロベロッグやマンタイトなどの本来はいないはずのモンスターの侵入を許したり、痕跡だけではあるがリッチが出現した問題を解決するために後釜としてトードナが台頭したと言うのだ。


「さて、お前達も私に税を払いたくて仕方ないだろうから前振りはこれぐらいで良かろう」


「さあ、今すぐに税を納めるのだ!」


締め括りの言葉を聞いた衛兵長らしき人物が大きな袋を手に前に出て税金を取り立てようとする。しかしその直後に一斉にブーイングが起きた。


「俺達はもうとっくに税を払ったぞ!」


「しかも何だこの価格は!冬を越せなくなるぞ!」


「その上で精魂込めて育てた作物も大半寄越せって、飢え死にしろってのか!」


いつもならば税金を払っても冬を越せるだけの最低限の金額は手元に残り、後は仕事やクエストなどの出稼ぎなどで(まかな)えるのだが、提示された金額は正に搾り取るような金額であるため冒険者であろうと農民であろうと文句や野次が飛び交う。


「話を聞いていなかったのか?私はお前達の新たなる統治者であるぞ!その統治者の私が税を納めろと言っているのだぞ!逆らうのならば牢獄へ直行だぞ!」


しかしそれを上回る怒号を挙げて人々を黙らせると同時に彼女を守る衛兵達が剣や槍を構えて睨みを利かせてくる。


「何だその反抗的な顔は?トードナ様に逆らうのか?それは我らに逆らうのも同然だぞ!」


この瞬間に誰もがトードナに嫌悪感を表しており、それを見た衛兵達はより剣気になって威嚇してくる。


「貴族の衛兵だからって威張り散らしやがって…!」


「あの貴族も貴族だ。俺達から搾るだけ搾り取る気か」


「それにあいつらはリュドー様みたいにキチンとミスティーユを管理してくれるのか怪しいしな」


結局嫌な顔をしても逆らうことは出来ず、初回と言うこともあって半分の値段…それでも例年の倍近くの税金を支払うことになってしまい、人々は集会が終わった後でもギルドや酒場などで愚痴を溢し続けていた。


「…リュドー様って人も貴族なのか?」


「リュドー様はとても優しくて皆から親しまれている貴族だったんだよ」


ギルド内で話を聞いていたスザクからの質問に面識があるアメジスが答えてくれる。


「今のあたしがあるのもリュドー様のお陰でもあるんだ」


「どう言うことだ?」


「リュドー様はミスティーユだけでなく、近隣の諸国にも赴いて皆が暮らしやすい国を作ってくれたんだ」


話によるとリュドー…本名リュドーラス・コルクニスと言う貴族は自身の財産を切り崩しても人々が笑顔に過ごせる国造りを目指していた。


その中でもこの土地に湧く温泉を労働に明け暮れる平民や危険と隣り合わせになっている冒険者達のために(いこ)いの場所として確立する功績を上げていた。


「それだけでなく現地に赴いては孤児や奴隷を保護して、自立出来るように孤児院や僕らの住む教会とかも建ててくれたんだよ。僕も他国の戦争で孤児になってた所を救われたんだ」


「奴隷にされてたあたしも助けてくれたりしてたんだ」


「私達が住んでる教会を建てたのもリュドー様なんだよ」


国だけでなく彼の手によって救われた生き証人が少なくとも目の前にいた。教会に住むメイナス達は皆、リュドーがいたからこそ今を生きていられるのだ。


「へぇ〜、この国の人達が貴族であるリュドー様を慕うのも納得かも」


「寧ろあんな奴と比べるなんておこがましいな」


貴族の全部が全部悪人と言う訳ではないが、ミスティーユだけでなくメイナス達に取ってはリュドーと言う貴族は聖人君子か或いは神様にも等しい存在なのは間違いなかった。


「お主らがあのいけ好かない貴族に腹を立てるのは分かったが、ニナのことはどうするのじゃ」


間が悪いとは言え、今はミスティーユの行く末を心配するよりもニナの救出が最優先であるとユウキュウから釘を刺されメイナスは考え込む。


「学校に相談しよう。学校ならば情報が多く入るだろうからね」


考えてみるも当初の考えは変わらなかった。自分達で探すには限りがあるし、学校ならば詳しい情報を手に入れられるかもしれないからだ。


「それにあなた達は夜通しニナさんを探してて疲れたでしょう。助けるにしても探すにしても一度休んだ方が良いわ」


「…ありがとう、シスター」


今でもニナのことが心配ではあるが勢いで探しに出たため皆体力が限界に近く、一旦休まなければ自分達が倒れて元も子もなくなるとシスターからアドバイスされたことで後腐れなく休めることにメイナスは感謝の言葉を掛けるのだった。


▷▷▷


「この教会を…取り壊すですって!?」


ところが一休みして学校に情報提供を求めようと一夜明かすのだが、その日も爽やかな日差しが射し込んでいるのに対し穏やかではない騒ぎが起きていた。


「それはどう言うことなんだよ!」


「ここを壊すだなんて…」


「「「絶対反対ー!」」」


その騒ぎに起きてきたレイラとアメジス、そしてリュクウを始めとする教会の子供達は自分達の家である教会が壊されることに猛反論する。


「反対も何も貴族であるトードナ様のご命令だ。ここは取り壊す事となった!これが命令書だ!」


またあの貴族かとシスターでも思っているらしく、付き人である衛兵が突き出した取り壊し命令書に刻まれた貴族だけが持つことを許された『絶対』を意味する刻印を苦々しく睨みつける。


「幾ら貴族でも住んでいる民の家をいきなり取り壊すことは出来ないはずだよ」


メンバーの生き字引であるメイナスも自身の知識を駆使して反論に加わる。


「その通りだ。だからこれは仮の命令書で撤回も可能だ」


「ふむぅ…どう言うことじゃ」


目の前の取り壊し命令書はあくまでも上辺だけで、実行はするものの撤回も可能と言う、分かったような分からないような言い回しに誰もが混乱する。


「トードナ様のお言葉でそこにいる男よ」


「…僕のことかい?」


恐らくトードナが取り壊し命令を撤回する条件として衛兵はメイナスのことを指名した。


「貴様がトードナ様に嫁げば、この取り壊し命令は保留にすると言うことだ!」


「「「っ!?」」」


教会の取り壊しを取り消す条件として、メイナスをあの性悪女貴族と結婚させろと言う余りにも突飛な内容だったことに誰もが唖然とする。


「ちょっと待て!どうしてそうなるんだよ!」


「なんでメイナス兄さんが結婚することに…!?」


到底理解出来ない内容なだけに反応も反論も遅れるものの、教会を守るためとは言えメイナスをトードナと結婚させるなんて承認出来る内容ではなかった。


「なんでももどうしてもない。お前達には取り壊し命令を受け入れるか、そこの男を嫁がせるかの二択しかないのだ」


どちらもお断りと言いたいところだが衛兵達は冷淡に二つの選択肢と命令書を突き付け続けて判断を強要してくる。


「でも、こんなの絶対に間違ってるよ!」


「間違いだと?のぼせ上がるな小娘が!」


教会を守るためにメイナスを犠牲にするか、メイナスを守るために教会を犠牲にするかと言う残酷な二択にアメジスも反論するが衛兵達はなおも理不尽を具現化するかのようにまくし立ててくる。


「仮とは言え、撤回されない限りは今すぐにでもここを壊せるんだぞ」


合図すると一人の衛兵がボウガンで教会の窓に矢を放って破壊する。


「きゃあ!?何するのよ!あたし達の教会に!?」


「命令書にある通りに壊してんだよ!」


教会を壊されたことにニーナは泣きながら声を荒げるも、別の衛兵は怒鳴りながら斧で教会の扉を叩き割ってしまう。


「こいつら…やりたい放題しやがって…!」


「アメジス…こいつらを見てると…無性に何か…身体が熱くなる…!」


命令書を前に手出しが出来ないレイラは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべており、スザクも快感や絶頂とは異なる感情によって身体が熱くなっていた。


「止めなさ」


「止めるんだ!」


泣いている子供達の前で無情にも教会で破壊行為を重ねる衛兵にシスターも我慢ならずに声を挙げようとするが、メイナスがそれよりも大きな声を振り絞ってその場を静かにさせる。


「…僕は嫁ぐよ。トードナ様の旦那としてね」


「メイナス兄さん!?」


『誰かがケガをしたら真っ先に手当てをしてあげる』そんな誰よりも優しいメイナスだからこそ、教会もアメジス達も助けられる方法として自らが犠牲になることを選んだのだった。


「メイナス、教会は所詮(しょせん)単なる建物なんです。あなたが身を捧げる必要はないのですよ」


教会とは神との対話を可能にする聖なる場所であると同時に孤児や迷える子羊を守る皆の家とも言える場所だ。しかしその気になれば建て直しが利く建物とは異なメイナスと言う人間は世界に一人しかいない。だからこそ彼がそこまで身を投じることはないとシスターは告げてくる。


「シスター、シスターリラ。僕…いや、僕らに取ってここは単なる建物じゃないんですよ。ここは生き場を失った僕ら皆の大切な思い出が詰まった教会だから…家族である皆の帰れる場所だから…守りたいんですよ」


だが、メイナスに取っては家族である小さな子供達やシスター達が路頭に迷う所なんて見たくもなかったし、大切な家族と過ごした教会だからこそおいそれと理不尽に壊されたくないのも事実だと敢えてシスターの名前を交えて強調するように語り掛ける。


「だから僕はトードナ様に嫁ぐよ。長い間、お世話になったね」


「メイ…ナス…!?こんなの…あんまりです…!?」


この教会で最初に預かったのはメイナスだった。そのメイナスもいずれ先に巣立って行くとは覚悟していたが、こんな望まない形で別れが訪れたことに泣き崩れてしまう。


「メイナス…良いのか?」


良くも悪くも裏表がないスザクだからこそ、メイナスが望まぬ形で何処かへ行こうとしているのは分かるらしくそんな質問を投げかける。


「スザク…君にも分かる時が来るさ。人には何かを守るために何かを犠牲にする時が来るんだ…ちょっと待っててくれないか」


スザクの質問にも応対したメイナスは最後に何か手紙のような物を書き始める。


「アメジス…レイラ…スザク…皆も。後のことは任せたよ」


手紙を書き終えたメイナスは悲しげながら笑顔で後のことを託して別れを告げる。


「「「メイナスお兄ちゃん!?」」」


「メイナス兄さん!?」


「メイナス!?」


シスターに続いて子供達はもちろんレイラやアメジスも泣き出しており、衛兵に連れられて教会から去って行くメイナスに必死に呼び掛けるも、彼は振り返らずそのまま地平線へと姿を消してしまうのだった。

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