第36話
終章
第36話
聖歴505年8月。ルナ・ヤマダ市近郊会戦から7か月が経過していた。会戦における戦勝により南方大陸でのミリタリーバランスはルカ達に傾く事となった。会戦で逃げ延びた敵兵力は10万。これに元々戦場に投入されていなかった兵力2万を加えて帝国側が現在動員可能な兵力は推定12万。これに対して我が方は戦闘で2万の兵を失ったがカツラギ軍の寝返りにより現有兵力は14万を超える。若干ではあるが数的優位に立った。お互いに失われた兵は時間をかけて回復するが、すぐには難しい。当面の間はこのバランスが維持されるだろう。
ルカ達は会戦の勝利後に改めて軍を再編して隣接する諸郡に兵を送ろうとした。しかし帝国側が街道の各所に防御陣地を構築していたために諦めた。調略の使者も送ったが成功はしなかった。
ルナ・ヤマダ市の東側に建設中の防壁が一部完成しつつある。計画では三重の防壁を築く予定なので完成にはまだ数年かかるだろうが、現状でも防御に徹すれば2倍程度の敵であれば十分に防ぎきれるだろう。今後は敵軍が攻めてきてもあのような決戦をしなくても済む。最終的には街の西側にも同様の防壁を築く予定だ。ルナ・ヤマダ市は鉄壁の城塞都市になるだろう。
ルカ達は聖歴503年8月にマロン市に上陸した。ちょうど2年たつ事になる。とにもかくにも南方大陸の半分を2年で征服した。快挙である。
今、ルカの制した南方大陸各地から要人たちが続々とこのルナ・ヤマダ市に集まってきている。各郡の太守や県令、領主たち。領主クラスだけで100人以上、その護衛や従者などを含めれば1000人を超えるだろう。領内ではこの街から最も遠いマロン市で任に当たらせているダンケルやサイトウ達もいる。
このルナ・ヤマダ市において間もなく行われる重要な式典に参加するためである。
・・・・・
翌9月1日、ルカは群臣をルナ・ヤマダ市郡庁舎の謁見の間に集めた。今まであまり使った事のない大広間。数百人は入れるホールに玉座のようなイスが置かれている。帝国の郡庁舎には大抵同じような部屋があるのだという。
これよりここで重要な式典が行われる。この国の建国宣言だ。
ルカ
「皆よく集まってくれた。礼を言う。」
この式典のはじまりを告げるルカ。
ルカ
「皆に集まってもらったのは他でもない。私は西方王国国王の名代としてこの地の征服を任された。そして私が得た地はすべて自由にして良いと。ゆえに今ここに集う功臣たちに領地を与えた。しかるに、西方王国国王ガスパルはその約束を反故にし、領地をすべてよこせと言ってきた。私は悩んだ。苦労を共にし、多大なる功績ある諸君らとの約束を違える事など私には到底できぬ。よって、私は西方王国と袂を分かつ決断をした。私はこの地の王となる。皆、私を支持してくれるか?」
「おおー!!」
会場から歓声が上がる。言うまでもない事だが、西方王国からの独立や諸々の事情はここに並ぶ参列者はすでに全員よく知っている。あくまでもセレモニーである。しかし国家として大事な儀式だ。
ルカ
「皆ありがとう。それではこれより諸君らの功績を称えて爵位と領地を与える。」
ルカがそう告げると対象者の名前と与えられる領地・爵位が読み上げる。領地は既に皆に与えられている。そして領主たちはすでに自分の領地経営に当っている。これもあくまでもセレモニー。しかし爵位は王から臣下に与えられるものなのでこれが正式な叙爵となる。
全員の叙爵が終わる。
ルカ
「最後に・・・マリー。こちらへ。」
ルカは群臣たちの脇に並ぶマリーを呼ぶ。呼ばれてマリーはルカの前にでる。マリーはこのような予定は聞かされていない。
ルカ
「5年前、私はあなたに求婚しました。そしてあなたは言った。もし5年経っても気持ちが変わらなければもう一度同じ言葉を聞かせて欲しいと。」
マリーは予感していた。確かに、もし気持ちが変わらなければ5年後にもう一度求婚しろと自分は言った。今年はその5年目だ。だからもしルカの気持ちが変わっていなければ今年のうちにルカが改めて自分に求婚するかもしれないと内心思っていた。しかし状況が変わった。ルカは王になった。もうその約束は果たされないのだろうかと不安に思ってもいた。
ルカ
「あの時、僕は一介の男爵に過ぎなかった。確か僕はこう言ったと思う。士官になって手柄を立ててきっと大領を得ると。あなたにふさわしい男になると。マリー、今の僕は君に釣り合う男になれただろうか?」
マリー
「釣り合うだなんて。あまりに偉大ですわ。」
素直にそうこたえる。一代で広大な南方大陸の半分を征服した若き王。その彼とマリー。釣り合いが取れるのか。取れるはずがない。
ルカ
「あなたを愛しています。あなたを私の妻に迎えたい。僕と結婚して頂けませんか?」
一瞬の間を置いてマリーはこたえる。
マリー
「私は反逆罪で処刑された者の娘ですのよ?」
敢えて、あの日と同じ言葉を口にする。
ルカ
「知っています。」
マリー
「私、未亡人で子供がいますのよ?」
ルカ
「知っています。」
マリー
「私、大公の愛人でしたのよ?」
ルカ
「知っています。」
マリー
「私、あなたより7つも年上ですのよ?」
ルカ
「知っています。」
マリー
「私は・・・」
あの日と同じ言葉を続けるマリー。
ルカ
「あなたの過去も現在も、その全て受け止めます。僕はあなたを愛しています。僕と結婚してください。」
マリー
「謹んで、あなたの求婚をお受けいたします。」
マリーは涙を流しながら小さくそうつぶやいた。ルカは彼女を抱き寄せて口づけをする。
長い口づけ。そしてルカ王はマリーを離して群臣たちの方に向かい宣言する。
ルカ
「この国は僕の全てだ。この地と、今日ここに集ってくれた者たち。この国に住まう者たち。これが僕の全てだ。それらすべてをマリーに捧げたい。この国は我が妻マリーのものである。よって国名をマリーの国、マリージア王国と名付ける!」
群臣がどよめく。
「王妃殿下万歳! 王妃マリー万歳! マリージア王国万歳!」
参列の群臣たちが叫ぶ。もらい泣きをしている者もいる。かつて見た演劇でさえこれほど感動したものはない。そう思う者も多かった。余談であるがこの日の出来事は後世演劇の演目として長く演じられる事となるのであった。




