第28話
第28話
聖歴504年1月、マリーの元に手紙が届いた。ルカからだった。無事で生きている事を知りホッとする。
書状の内容は簡潔だった。マロン半島全域を支配して自分はいま郡都マローニャ市にいる。今すぐ会いたい。こちらでの生活の心配はいらないので来て欲しい。できればサラも一緒に。もし南方大陸に到着したならマロン市の責任者サイトウを訪ねて欲しい。その後の事は彼が取り計らう。聖歴503年11月1日。
とりあえず手紙の日付にある2か月ほど前にはルカが無事である事がわかった。そして自分の事を忘れていない事に安堵した。
すぐに行きたい。早くいかないと彼に忘れられてしまう。自分の手の届かない所に行ってしまう。他の女にとられてしまうかもしれない。マリーはそう不安に思わずにはいられなかった。
とりあえずサラの事である。サラはラスター大公の人質にとられているような状態だ。幼年学校の寮に住んでいる。寮といってもサラの住まいは大きい。邸宅といって良いだろう。もちろん大公が用意した。その寮にマリーも一緒に住んでいる、他に侍女アンとラスター家が用意した複数の使用人。むろん彼らにはマリーたちを監視するという役目も帯びている。
とりあえずラスター大公に相談しよう。あらかじめ決めていた事だ。このような事態になったら素直に大公に相談しようと。
手紙が届いた翌日、マリーは大公を訪ねた。ラスター大公家を訪れるのは久しぶりである。
ラスター大公
「久しぶりだね、マリー。今日はどういった用件かな?」
マリー
「はい。実はルカから手紙が届きまして、南方大陸を占領したので私に来てほしいと。できればサラと一緒に。」
ラスター大公
「南方大陸の件は聞いているよ。数日前に国王陛下にも手紙が届いてね。その件で昨日は陛下と会議をしていたからね。」
マリー
「サラを一緒に連れて行きたいのです。」
ラスター大公
「かまわないよ。連れて行くと良い。旅費も出してあげよう。」
マリー
「よろしいのですか? その、サラは人質だと以前大公が言われておりましたので。」
ラスター大公
「あの時とはかなり状況が変わったからね。まさかこんな事態になるなんて思いもしなかったよ。人生先の事はわからないね。」
マリー
「はい。まさか自分が南方大陸へ行くことになるなんて考えてもみませんでした。」
ラスター大公は昨日の会議で南方大陸遠征軍の状況を詳しく伝えられていた。
ラスター大公
(おそらくマリーは詳細までは知らないのだろう。)
ラスター大公
「そのかわりと言っては何なんだけど、一つ私のお願いも聞いてもらえないかな?」
マリー
「お願いですか?」
ラスター大公
「私の甥っ子のホセなんだけど、サラとすごく仲が良いんだよ。知ってる?」
マリー
「はい、存じております。サラがよく懐いているようで。」
ホセはラスター大公の甥である。ホセの兄はラスター大公の養子となっている。彼は去年幼年学校を卒業して15歳になった。大公はとりあえず彼に知行1000石を与えて子爵にした。
学年は違えどしばらくサラと一緒に幼年学校に通っていた。時折サラの寮を訪ねてきたので共に住むマリーもよく知っている。サラと仲が良い。
大公の指示でたまにマリーやサラと接触させていたのだ。マリーも概ねそういう理由で訪ねてきているのだろうと察していた。
サラはおそらくそこまで察してはいない。無邪気に「ホセのお嫁さんになる」と言っている。ホセは喜ぶ。サラに後で聞くと「社交辞令だ」という。サラはそのように言えば相手が喜ぶ事を知っている。しかし、嫌いな相手には嘘でも言わない。もっというと好きな男性にしか言わない。
ラスター大公
「ホセを一緒に連れて行って欲しいんだ。そしてルカに仕えさせたいんだ。君からルカに頼んでもらえないかな?」
マリー
「わかりました。私からルカにお願いしてみます。ホセならルカも嫌とは言わないでしょう。」
ラスター大公
「マリー、君はルカの現状についてどれくらい知っているのかな?」
マリー
「え? 南方大陸のマロン半島という所を征服したのでしょう? 今はその都のマローニャ市にいるとか。」
ラスター大公
「そう、そして250万石の大領主になっているそうだよ。すごいね。当家と同じ石高だよ。」
マリー
「え・・・」
マリーは絶句した。そんな事は手紙に書いていなかったから。ルカがラスター大公に匹敵する大貴族になっているということ?
マリー
「ではルカは公爵になるのですか?」
ラスター大公
「うーん、どうなんだろう。それがちょっとややこしくて先が見えないんだ。でも、当家としては多少でもルカと繋がりを持っておきたいんだよ。だから私の血縁者をルカの近くに置いておきたいと、そう思うわけだ。」
マリー
「そういうことでしたら、私に出来る限りの事はさせて頂きますわ。」
ラスター大公
「本当かい? じゃあホセとサラを婚約させたいんだけど、それで良いかな?」
マリー
「え? ホセは大公のご嫡男の弟君でしょう? そんな大事な人とサラを結婚させるというのですか?」
ラスター大公
「当家にとって大事な人間だからサラと結婚させたいんだよ。構わないよね?」
マリー
「はい、無論です。これほど幸せな事はありません。サラも喜びましょう。」
ラスター大公
「それは良かった。ではホセをサラの婚約者として南方に連れて行って欲しい。そして、サラが成人したらホセと結婚させておくれ。」
マリー
「わかりました。二人の結婚式にはきっとお越しください。」
ラスター大公
「場所が場所だからねえ。簡単には行けないんじゃないかな?」
マリー
「え?落ち着いたらルカは王都に戻ってくるのではないのですか? 侯爵以上の領主はみな王都に住んでおりますのに。」
ラスター大公
「うーん、それもどうなるのかちょっとわからないんだよ。だからこそホセを君に託すんだ。きっとサラと結婚させておくれよ。」
マリー
「はあ、そうなのですか。わかりました。」
いまいち状況を飲み込めないマリー。
ラスター大公
「出発は早い方が良いと思う。数日中に旅の準備を整えて連絡して欲しい。ホセにも準備をさせておくから。」
マリー
「わかりました。お願いいたします。」
マリー
(状況がよくわからないのだけど、とりあえずサラを連れて行く許可はもらえた。これですぐにでもルカの所に行ける。)
・・・・・
マリーがラスター大公を訪ねた日の前日の話。
王命により王城に三大貴族が集められた。
クロフォード公リチャード
ラスター大公ジャン
リシュモン公ダン
ガスパル王
「皆よく集まってくれた。他でもないことだが、南方遠征軍総司令官のルカから書状が届いた。みな読め。」
手紙は長い。渡海から手紙が書かれた日にちまでの経過が細かく書かれている。そしてルカからの現状報告と要望。
要約すると以下の通り。
1:マロン半島全域500万石を占領した。
2:副将ガスローと傭兵隊長ダンケルに100万石を与えたのでそれに見合う爵位を与えて欲しい。
3:帝国から寝返った県令4人に領地を与えたのでそれに見合う爵位を与えて欲しい。
4:現在、南方大陸の3郡を調略中である。成功したら寝返った者たちに領地を与えるので石高に応じて爵位を与えて欲しい。
ガスパル王
「皆、どう思うか?」
三名の貴族は言葉が出ない。この手紙に書いてある事が事実であれば、渡海から3か月でマロン半島全域500万石を征服した事となる。そして、書状とともに送られてきた郡太守はじめ帝国の捕虜たち。彼らの存在が書状の正しさを証明している。
ラスター大公
「これは凄いですな。わずか3か月でマロン半島全域を征服して、さらにこれから三郡を落とそうとしておるのですな。もしそれも成功したら合計2000万石。」
ガスパル王
「そういう事ではない! 余がルカに切り取り自由としたのはマロン半島北半分の200万石だけではないか! それなのに勝手に半島全部を奪い、それを勝手に我が物のように扱い、勝手に手下に与えているというではないか!」
三大貴族は考える。確かに行き過ぎであると言えなくもない。しかし切り取り自由の範囲を半島の北半分と定めたかどうかはかなりあやふやだ。そもそも、それ以上先には進めないと考えたからこその「半島北半分を占領して防衛に努めよ」という指示だ。さらに勝ち進んだという事であれば、これを悪くいうのは難しいのではないか?
それに、正直な所3人とも半島北半分の占領も難しいのではないかと考えていた。それを予想を超える規模で成功させた彼を悪く言っても良いものか・・・
ガスパル王
「しかもだ。300石取りの騎士と平民の傭兵隊長に100万石ずつ与えたというのだぞ? 寝返った帝国の小役人にも10万石ずつ与えたとか。無茶苦茶ではないか!」
リシュモン公爵
「おそれながら、ルカ・クロラントに切り取り自由の権利を与えられました以上、それは彼の裁量の範囲のことかと。そうせねば勝てなかったのでしょう。」
ガスパル王
「だから、それは半島の北半分のことだ!」
ラスター大公
「では、どういたしますか?」
ガスパル王
「半島南部300万石は王家の直轄領といたす。半島の北半分の範囲内であればルカの好きなようにして良いと、そう伝えよ!」
ラスター大公
「彼はいま南方大陸の三郡を調略中との事ですが、これについてはどういたしますか?」
ガスパル王
「調略は進めさせよ。南方大陸すべてを征服しても良い。しかし、領地の割り振りは余がいたす。勝手なことをするなと伝えよ。よいな!」
王は怒って立ち上がり会議室を出て行ってしまった。三人の大貴族が部屋に残される。
ラスター大公
「どうしたものですかな?」
クロフォード公爵
「王の命令である以上、そのように伝えるしかあるまい。」
ラスター大公
「従いますかな?」
リシュモン公爵
「従わぬ、というか従えぬだろう。もう配下に領地を約束してしまっておるのだろう? 反故にすれば味方に裏切られかねん。死ねというのと同じだ。」
ラスター大公
「しかし、王命に従わぬということであれば討伐軍を送らねばなりませぬが。」
リシュモン公爵
「討伐軍などどうやって送るのだ? 相手は海の向こうにいるというのに。船での渡海作戦は奇襲だったから可能だったのだ。敵が警戒しておれば不可能だ。」
三人の中で一番軍事に明るいリシュモン公爵の言葉にはいつもながら説得力がある。
ラスター大公
「もし彼が南方大陸三郡の調略にも成功したら大変ですなあ。合計2000万石ですぞ。これはもう諸侯の枠にはおさまりませんぞ。」
リシュモン公爵
「王だな・・・」
クロフォード公爵
「帝国に寝返るという可能性もあるかもしれない。」
リシュモン公爵
「ないだろう。自分が帝国側の立場なら生かしておけぬし、ルカの立場であれば帝国を信用できぬ。最終的にルカたちは帝国に負けて全滅するのではないかと私は思うが。」
ラスター大公
「最終的にどうなるかはわからぬとしても、この世界に三か国に次ぐ4番目の勢力ができるかもしれませんぞ。」
ラスター大公
(先の事はどうなるかわからないけど、何とかルカと繋がりをもっておけないものかな・・・)
ラスター大公はいつもの癖で、また未来の可能性を考え過ぎるのだった。




