第27話
第3章 決戦編
第27話
内々の論功行賞を終えてルカたちは今後の方針について話し合う。
サイトウ
「次はこのマローニャ市から街道を通じて隣接する3郡を攻略する必要がありますな。」
マローニャ市から東側に向かい3つの街道が延びている。
一つは北東方向に延び大陸北西郡の郡都に通じる。
一つは東に向かい大陸中央郡の郡都に通じる。
一つは南東方向に向かい大陸南西郡の郡都に通じる。
ルカ
「やはり今後も南方大陸の攻略に進むしかないのか。」
サイトウ
「はい。帝国本土から軍勢がやってくるまでにできるだけ多くの地を得なければなりません。特に大陸中央郡の郡都は防衛の要になります。最低でもここは押さえないといけません。このマローニャ市は防衛に向きませんゆえ。」
マローニャ市からは東に3つの街道が延びているわけで、この地に留まれば3方向から敵に囲まれる事を意味する。先の中部マロン平原での戦いも3つの街道が交わる地点で行ったが、あの場所とは状況が大きく異なる。中部マロン平原ではすぐ後背にズドン関があり、不利になればすぐにそこに逃げ込める状況だった。ゆえにリスクをとり平原に出て会戦を行った。しかしここマローニャ市の近くには防衛に適した場所がない。
マロン半島郡全域を得たが、もしこの地に敵が大軍で攻めてきたらズドン関まで引き返すしかなくなる。せっかく得た半島南部300万石を捨てることになる。
南方大陸の地図を広げてサイトウが説明する。
サイトウ
「南方大陸中央郡の郡都。ここに街道が集まります。大陸の西側から東側に行くにも、反対に東側から西側に行くにもこの地を通らなければなりません。交通の要というわけです。」
大陸中央郡・郡都ルナ・ヤマダ市。かつて存在した南方王国の都があった街である。旧名をルナ市という。この街の南北には断崖絶壁の岩山がそびえており天然の防壁となっている。街はその岩山に挟まれた場所に存在する。かつてはこの岩山をつなぐように街の東西に防壁が築かれていた。
防壁と岩山の存在によってこの街を包囲する事はできない。ゆえに難攻不落の城塞都市と謳われていたのだが、今から200年ほど前に東方帝国の名将ヤマダ元帥がこの街を攻略して南方大陸征服を完遂した。彼の主君たる東方大帝は元帥の功績を称えてこの街の名をルナ・ヤマダ市と改名し現在に至る。
現在のルナ・ヤマダ市に防壁はない。まったくの無防備である。しかし東から帝国軍が訪れる以上は必ずこの地を通る事になる。ゆえに、この地を押さえる事は今後の最重要課題となる。
サイトウは大まかにこの状況を説明したうえで言葉を続ける。
サイトウ
「各郡の太守を調略するか、それができなければ軍事占領するしかありません。」
ルカ
「各郡の兵力は?」
サイトウ
「南方帝国の各郡はすべて概ね石高500万石。通常であれば動員兵数の定員は5万なのですが、どこもこのマロン半島郡と同じで定員の半数程度しか動員はできないでしょう。」
ルカ
「つまり各郡2万5千か。」
ガスロー将軍
「マロン半島郡で2万5千の兵を集められるとして、王国本土から連れてきた1万5千を合わせて我が軍は総勢4万。ズドン関の兵3千は動かせないので動かせる兵は3万7千。敵が3郡合わせて7万5千となるとかなり厳しいですな。」
サイトウ
「そうですなあ。南方大陸の兵は弱いですが、今後はこちらも大半は南方大陸の兵となりますからなあ。」
スズキたち帝国からの寝返り組3人もうなずく。
ルカは前々から違和感を覚えていた。サイトウ達は南方大陸の兵を弱卒・役立たず・烏合の衆といって蔑み、その能力を極めて低くみている。しかし、中部マロン平原での戦いで彼らと戦ったルカの印象からいうと南方大陸の兵がさほどに弱いとは思われないのだ。個人個人の能力は王国軍の雑兵たちと大差ないように思える。あの戦いでは途中で士気が崩れて一気に敵軍は潰走したが、それまでは一進一退の戦いを行っていた。そもそも、兵士個人の体格や体力などにどの人間も大差があるはずもない。
ルカも後に知る事となるのだが、帝国役人の南方人兵への蔑視は彼らのエリート意識からきている。彼らは科挙試験に合格して役人になっている。ほぼ例外なく賄賂を渡して合格しているのだが、それでも優秀な者の方が受かりやすい。
科挙試験においては武芸の実技もある。剣術・馬術・弓術・徒手格闘術。彼らは若い頃にこれらの研鑽をつんで試験に合格している。試験合格後は全員10人隊長からキャリアがはじまる。ここでも軍人であるために武芸は欠かせない。南方大陸では戦争に出る事は皆無だが、帝国本土は慢性的に隣接する神聖王国と国境紛争を続けている。戦場に出る事も多い。県令クラスまで出世している人間で戦場に出たことがない者はいない。
出世して村長や町長になれば、動員をかけられた際には住民を徴兵して自身はその隊の隊長として軍役につかなければならない。県令や郡太守も同じである。帝国の役人はみな軍人としての側面を持っているのだ。
帝国の腐敗役人の見本のようなサイトウであっても、そこらの一般兵など簡単に打ち負かせるだけの武芸の能力を持っている。むろん学問的知識も一般人とは比較にならない。
彼らのそのエリート意識が南方人への蔑視となっている。さらに南方人は重税をかけられている。様々な複合的要因から南方人は帝国を憎んでいる。ゆえに帝国への帰属意識が極めて低い。士気が崩れれば兵は皆逃げるし、もちろんその士気は上がりにくく崩れやすい。
ルカ
「思うに、南方兵の弱さは帝国人が嫌われているからなのではないか?」
ハッキリとルカはそう尋ねてみた。
サイトウ
「そりゃまあ、嫌われているでしょう。」
ルカ
「なぜ嫌われている?」
サイトウ
「税をたくさん取るからでしょうか。」
ルカ
「税率は?」
ちょっと答えにくそうに、でも嘘をついてもいずれバレるので正直にサイトウは答えた。
サイトウ
「7割くらいでしょうか・・・」
ルカ・ガスロー・ダンケルの3名は驚いた。税率が高過ぎる。
ルカ
「7割だと? 王国では4割が基本なのだが。」
サイトウ
「帝国の税率も建て前としては4割が基本です。2割を県の運営に、1割を郡太守に、1割を帝都に納める決まりです。しかし南方大陸では特にそれが守られていません。守れない理由があるのです。」
ルカ
「理由とは?」
サイトウ
「県令が郡太守に個人的に金を渡さなければならないのです。立場上断れません。ゆえにその分多く税を取らなければならないのです。」
サイトウの言葉は事実である。しかし事実を全て語ってはいない。多く徴収した税の何割かは自分の懐に入れているし、県令は配下の村長や町長から賄賂をもらってもいる。賄賂を渡さないような部下は出世させない。
自分は郡太守になったことがないので、郡太守がすべて悪い事にしておくサイトウ。役人的な小ズルさだ。
サイトウはスズキ、アベ、アンドウの3人を見る。3人もうなづきサイトウの言葉に同意する。
ルカ
「そんな重税をとって民が従うはずもない。税率は今後すべて4割とするように。ただし、その4割はすべて県の運営に充てて良い。あまればその分は領主の所得として良い。」
とれる税が減ると聞いてサイトウはじめスズキたち3人もやや残念に思う。しかし、異を唱えられる雰囲気ではない。
サイトウ
「まずは隣接する3郡に使者を送り寝返りを促すことです。スズキ・アンドウ・アベの三名がよろしいでしょう。ちょうど三名いることですし、私はマロン市に戻り街の復興にあたらねばなりませんから。」
機先を制してサイトウが話す。話の持って行き方が上手い。つまり自分が調略の使者になりたくないのだ。先の戦ではカトウが殺されている。使者として調略に向かえば自分も殺されるかもしれない。領地も得たしこれ以上危険など冒したくない。よってスズキたち3名にやらせたい。
サイトウの意図が読めるスズキたち3人。うらめしそうにサイトウの顔を見るが、これまでさしたる手柄を立てていない3名は何も言えない。
すかさずスズキが発言する。
スズキ
「それがよろしいでしょう。では、北から順にスズキ、アンドウ、アベの3名でいかがでしょうか?」
おそらく一番危険なのは大陸中央郡だ。この大陸の要地だからだ。もし自分がここの太守であれば、寝返るよりも隣接する大陸東部の各郡に援軍を要請するだろう。大陸中央郡と大陸東部3郡、あわせて10万の軍勢でルナ・ヤマダ市の前面に布陣する。自分ならそう考えるだろう。
だから大陸中央郡には行きたくない。そこへ行くのを避けるために機先を制して最年長のスズキはそう発言したのだ。
そして、最も危険と思われる大陸中央郡への使者として名指しされたアンドウ。何か言いたいが何もいえない。言葉が出ない。自分が大陸中央郡に行かずに済むそれらしい理由がとっさに思い浮かばない。
サイトウ
「それがよろしいでしょう。いかがでしょうか、閣下?」
自分が調略に行かずに済む流れだ。これで話をまとめてしまいたいサイトウが畳みかける。
ルカ
「うん、内情をよく知る君たちがそういうのであればそれが最良なのだろう。では、そのようにしよう。もし調略に成功すればこの功績は大きい。恩賞ははずむから励んでほしい。」
スズキ・アンドウ・アベ
「は!」
スズキ
「調略の条件はどういたしますか? 我らの時と同じく一県の石高の半分の10万石を領地を子々孫々に与えるという事でよろしいのでしょうか?」
ルカ
「うーん、そうすると郡太守はどうしようか・・・」
ダンケル隊長
「残りの半分やっちまったらどうです?」
ガスロー将軍
「では全ての領地を与えてしまうのですか? 我らの手には何も入らぬと?」
ダンケル隊長
「良いじゃねぇか。どのみち俺たちのものじゃないんだし。それに早く味方につけないとヤバいんだろ? じゃあ良い条件出してやらねぇと。」
ルカ
「うーん・・・」
思案するルカ。ここにサイトウが口を挟む。
サイトウ
「では、こういうのはどうでしょう? 帝国では税率4割のうち2割が県、1割が郡、1割が帝都。こういう取り分です。もし王国に寝返ったら税率はこのままで県に2割、郡に1割、閣下に1割を納めさせるというのはどうでしょう? そうすれば一郡500万石が寝返れば閣下は労せずしてその25%、つまり125万石相当の税を受け取れるというわけです。」
ルカ
「なるほど。面白い。それで行こう。」
スズキ
「先ほど閣下は税率は4割にせよと申されましたが、この条件を調略先に伝えるのは避けたいと考えます。よろしいでしょうか?」
ルカ
「ダメか?」
スズキ
「はい、それは調略が成功してある程度落ち着いてからにした方が良いと思われます。悪い条件を敢えて調略の際に示す必要はないかと。」
ルカ
「うん、わかった。ではそうしよう。次に、サイトウ少将。」
サイトウ
「はい。」
ルカ
「ズドン関に本格的な要塞を作りたい。貴官はマロン市にもどり必要な資材と技術者を用意してズドン関に送るように。マロン市には立派な建物がたくさんあったから建築に必要な技術者や職人は十分にいるだろう。あと、マロン市とクロン市の交易を再開して欲しい。」
サイトウ
「承りました。すぐにマロン市に向かいます。」
ルカ
「ガスロー将軍、ズドン関の堀と土塁の一部を破却して構わないので馬車一台が通れるようにして欲しい。早く我らの支配地と王国との交易を再開したいから。あと、ズドン関に本格的な城塞を築くように士官たちに指示しておいてほしい。」
ガスロー将軍
「御意。」
ルカ
「他に必要なことはあるかな?」
ガスロー将軍
「王国本国に現状報告のための書状を送らなければなりますまい。今まで時間に追われていたために全く報告ができておりません。」
ルカ
「ああ、そうだった。君たちへの叙爵の話も通しておかないとね。エンドウ太守たち捕虜と一緒に書状を送ろう。」
ガスロー将軍
「ありがたき幸せ。」
ルカ
(王都に手紙を送る。マリーたちにも手紙を書いてこちらに呼ぼう。帝国軍が攻めてきても馬車でマリーたちだけマロン市まで逃がすことができる。そこから船で王国側に送ることもできる。とりあえず安全だろう。でも、来てくれるだろうか・・・)




