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第24話

第24話


 南方大陸は面積に対して耕地が少ない。特に岩山が多く、その岩山の間を縫うように街道が通っている。ズドン関はその街道の両側に岩山がそびえている。関のその幅は20メートルほどしかない。もしここに防壁を作ってしまえば敵はここを通る事ができない。そして防壁上に弓兵を廃して射撃させれば難攻不落の要塞になるはずだ。


 しかし、今ここには何もない。古代の遺跡らしきものが岩山の上にあるだけだ。おそらくその岩山の上の遺跡は望楼で、街道の監視と弓兵の配置に利用されていたのだろう。しかし今は半分崩れた遺跡にすぎない。


 岩山は一部登りやすくなっている。おそらく人為的に岩山が削れられている。これもかつてズドン関に要塞を作った古代人が削ったのだろう。年月の経過により一部岩が変形して登りにくくなっているので、ハシゴを用意して登れるようにしておく。戦になれば弓兵を登らせて上から射撃させる。岩山の上にある遺跡の望楼が半分崩れていて危険だが、その横から射撃はできる。


 さらに街道に空堀を掘る。掘った土をその後方に盛り上げて土塁を築く。土塁に身を隠せばこちら側の兵は半身を隠した状態でクロスボウを射撃できる。


 さらに後方にやや高い土塁を作る。前方の土塁を見下ろす形になる。ここからも身を隠して射撃ができるようにする。さらに後方にもう一段高い土塁を築く。三段構えの土塁を築き防御を固める。味方が通れるよう一部に幅1メートル半くらいの通り道をつけておく。人と馬は通れるが馬車は通れないだろう。


 両脇を岩山ではさまれた狭い街道である。三段構えの土塁により高低差をつけて立体的に射撃が可能になるため、敵の三倍の矢を放つ事ができる。敵はどんなに大軍を集めても横には兵を展開できないため、こちらの三分の一しか正面に兵を配置できなくなるわけだ。


 大量の矢が必要になりそうなので、占領地から矢をかき集めておく。そして占領地の工房にもフル回転で矢を作るよう指示しておく。今から作らせても戦闘開始には間に合わないかもしれないが、長期持久戦の予定なので補給可能な体制を作っておきたい。


 工事を始めて3日後、予定通りガスロー将軍の部隊が到着。翌日には士官に率いられて第四陣の兵も到着。これで王国軍は合計1万の軍勢となった。この第三陣・第四陣の兵は雑兵たちである。彼らには状況に応じて長槍かクロスボウを持たせる。このズドン関の防衛は彼らのクロスボウによる射撃戦が主体となるだろう。


 第四陣が到着した時には防御陣地はほぼ完成していた。関の幅が狭いので工事に日にちがかからなかった。


 ちなみに、このズドン関からやや南東に進むと少し広い平原がある。中部マロン平原。そこから街道が細くなり三つに分岐する。マローニャ市に直行するマロン街道の本街道。北側をいき半島の北海岸を進む北側道。南側をいき半島の南海岸を通る南側道。三本の道は最終的にはまた合流してマローニャ市に至る。そして、それぞれの街道沿いに14の県がある。これにマローニャ市特別県を合わせて合計石高300万石になる。


 ルカたちは以下のように敵軍の動きを予想している。


 まずマローニャ市において郡太守が兵を集結させる。半島南部300万石の兵3万と半島北部から脱出した兵数千。それらを集結させた後、三つの街道から兵を進め中部マロン平原で合流。その後にズドン関にいたる。


 軍議においてこの話を聞いたサイトウとカトウは顔を見合わせる。


サイトウ少将

「あの、よろしいですか? まずマローニャ市に集結できる兵の数ですが、3万なんてとても集まりませんよ。1万5千も集まれば上出来ってところですかね。これに北部から脱出した兵を加えても最大で1万8千てところだと思います。」


ルカ

「そうなのか? 普通は石高1万石あたりの動員可能兵数は100だろ?」


サイトウ少将

「確かに建て前ではそうなっております。でもこの南方大陸では東方大帝の征服以来、戦なんて起こったことがありません。よってそれほどの兵を集められる体制を整えていないのです。人数は集められても武具はすぐに用意できませんから3万は無理でしょう。むろん、これが今から1年後とかの話であれば今から武器を作りはじめれば動員可能になるとは思いますが。」


ルカ

「そうなのか。まあ、例えそうであっても我らはズドン関の守りを固めるだけだ。方針に変わりはない。」


カトウ少将

「おそれながら閣下。むしろこちらから討って出る事を私はお勧めいたします。王国軍を見るところ、なかなか士気も高いようです。これに対して南方大陸の兵はまるで役に立ちません。例え敵が3倍の兵であっても王国軍が負けるとは思えません。」


ルカ

「内情を知る諸君らがそう言うのであれば正しいのだろうけど、そこまで敵を過少評価するのは私としては怖いな。」


サイトウ少将

「そうは申されましても、できるだけ早く南方大陸を獲れるところまでとっておかないと、帝国本土から精鋭部隊がやってきますよ。帝国本土の兵は南方大陸の兵と違ってメチャクチャ強いですよ。」


ルカ

「いや、我らには南方大陸全土を支配しようなどという計画はない。マロン半島北半分を占領してこのズドン関で防衛に徹する予定なんだ。帝国本土の兵が強いというのは有名だしもちろんよく知っている。でも、それまでにこの関を改修して本格的な城塞に作り直せば例え精強な帝国本土の軍勢といえども簡単には落とせないのでは?」


サイトウ

「そうですなあ。確かにここに城塞をたてて籠れば10万の兵でも落とせないでしょうな。狭い場所ですゆえどんなに大軍を集めても展開できませんから。しかし、万一ここを抜かれればもう逃げ道はないでしょう? ならば、ここを最後の防衛線と定めたうえで緩衝地帯を大きくとっておく方がよろしいのでは?」


ルカ

「それはまあそうだが・・・」


 ここでガスロー将軍が口をはさむ。


ガスロー将軍。

「確かにここに籠って戦えば負けはしませんが、勝つ事もできません。我らの想定よりも敵軍の数が少ないという事であれば、兵3000をこのズドン関に残して残りを中部マロン平原に布陣してはいかがでしょうか? 平原で会戦をおこない敵軍を打ち破りましょう。最悪会戦で敗れたとしても、ズドン関に逃げ込めば敵の追撃はそこで止められます。ズドン関は狭いですから今の状態だと兵の数はどのみち3000程度しか配置できませんし。」


ルカ

「もうじき第5陣と第6陣の兵がここに到着するな。これで我が軍は1万5千。ズドン関に兵3千を残して残り1万2千を平原に配置。敵は1.5倍の1万8千か。」


 少し思案するルカ。


ルカ

「こういう策はどうだろう? ここから先の道は狭いようだし敵は3つの街道を三手に分かれて進軍してくる可能性が高い。まず我が全軍を持って敵の一隊を叩く。しかる後にまた別の一隊を叩く。」


 時間差による各個撃破戦術を提案するルカ。


ガスロー将軍

「なりません。兵法の原則に反します。いずれかの街道を進み敵の一隊と接敵して戦って勝利して平原まで引き返す前に別の街道を進む敵軍が平原に到達してしまえば我々は後方を遮断されます。敵地に孤立して補給も受けられなくなります。討って出る以上は平原で会戦をするべきだと愚考いたします。」


ルカ

「うーん、しかし我が方の数が少ない兵で正面から敵とぶつかるのも兵法の原則に反するのでは?」


 ガスロー将軍はここで用意していた腹案を語る。


ガスロー将軍

「これまでは調略が上手くいったご様子。今回も調略をしかけてみてはいかがでしょう?」


 ガスロー将軍はカトウとサイトウの顔を見て言う。


ルカ

「具体的な策は?」


ガスロー将軍

「三つの街道から来る敵に使者を送ります。郡太守が率いる本体以外の二つの軍に。本体がどの道を通るかはまだわかりませんが、仮に北側道と南側道を敵の分隊が進むと仮定しましょう。それぞれの敵軍に使者を送り寝返りを促します。一方の分隊はすでにこちらに内応しているのでこのまま平原に到達しても勝ち目はないぞと伝えるわけです。」


ルカ

「信じるだろうか?」


ガスロー将軍

「信じなくても良いのです。疑心暗鬼になれば敵の士気は落ちましょう。それに、調略に失敗してもズドン関まで兵を引けば良いだけです。もし一隊でも調略に成功すれば我らは数的優位に立てます。平原で決戦して郡太守を討ち取り、そのままマローニャ市まで攻め入りましょう。」


ルカ

「しかし、そもそも本国からの命令は半島北半分を占領してズドン関で防御を固めろというものだ。その命を逸脱しても良いものか。」


ガスロー将軍

「閣下、戦争は生き物です。現場でしかわからぬ事は多いのです。リシュモン元帥ももちろん良くそれを承知されています。多少の独断は許されますし、むしろ責めを恐れてそれを為さずに戦に負けるような事があればそれこそ問題となります。」


 少し思案してルカはこたえる。


ルカ

「うん、そうだね。それが軍事の基本だ。よし、討って出よう。最後の騎士隊が到着次第、兵3千をズドン関に残して残りの軍勢1万2千を中部マロン平原に布陣する。」


 聖歴503年9月30日、本国からの第六陣となる騎士部隊が到着。同日のうちに兵1万2千を中部マロン平原に布陣。この遠征ではじめての本格的な戦闘がついに始まろうとしている。


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