第23話
第23話
ルカとサイトウは軍を率いて隣接するマロン郡第二県へ急ぐ。軍勢はサイトウの兵200を加えて2500。
同日夜半に第二県に到着。強行軍である。
第二県でも第一県と状況は似ていた。まず早馬による伝令により事態を告げられ、次いで訪れたマロンからの避難民によりその報告が事実であることを裏付けられた。
第二県の県令カズマ・カトウは兵を集めた。総数300。第一県と似たり寄ったりですぐに用意できる兵の数は少ない。
カトウには第一県のサイトウよりも考えるための時間的猶予があった。ゆえに混乱から立ち直り正常な思考ができるようになった。
とてもこの兵の数では戦えない。しかし単身逃げれば帝国に処断される。どうすれば助かるか。県令カトウは一つの結論に達した。手勢を率いて郡都マローニャ市に向かう。ここで郡太守と合流する。
きわめて無難かつ当然の結論。少し考える時間があればきっと第一県のサイトウもこの結論に達し、行動に移したことだろう。しかしサイトウにその時間はなかった。
カトウにはこれに気づくための時間的猶予があった。しかし行動に移すための時間的猶予まではなかった。出発する前に敵軍が現れてしまった。
ルカ
「斥候の報告によると県庁舎に約300の軍が集結しているそうだ。昼間の時と同じようにこれから使者を送ろうと思う。決裂すれば戦闘になるからその用意をしておくように。」
ルカはサイトウに話しかける。
サイトウは考えた。ここでルカの役に立っておくべきではないかと。自分が役に立つ人間だとアピールしておくべきだろうと。上に媚びて出世してきたサイトウはこういう嗅覚に敏感だ。
サイトウ
「恐れながら、その使者の役目を私にお任せください。」
ルカ
「ん? 行ってくれるのか?」
こう聞きはしたが、ルカははじめからサイトウに行かせるつもりだった。降伏した同僚が行けば相手も降伏しやすいだろうとはじめから考えていた。
・・・・・
カトウ
「驚きました。サイトウさんが来るとは思いもしなかった。これは一体どういう状況なんですか?」
年下の同僚カトウは敵軍の使者として訪れたサイトウに尋ねる。カトウはまだ敵がどこの軍勢なのかがわからない。そして、なぜその敵軍の使者として同僚のサイトウがやってきたのかもわからない。
サイトウ
「ああ、事情が色々あってな。」
サイトウはカトウに状況を説明した。敵軍が西方王国軍である事、自分は今日の昼間に降伏していま敵方についているという事。降伏すれば命も助かるし領地までくれるという事。
カトウ
「信じられない事ばかりだ。敵は船で海の向こうからやってきたというのですか?」
サイトウ
「ああ、そういう事だ。ということでカトウ君。君も降伏したまえ。この通り降伏しても殺されはしないから。」
そう言って持ってきた箱を見せてフタをあける。中身はマロン市特別県県令のヒデト・ヤマシタの生首。
カトウ
「ヤマシタさん・・・」
サイトウ
「君もこうはなりたくないだろ? とりあえず目の前の軍勢だけでも2500いるから戦っても勝ち目はないよ。君、この街に家族だっているだろ?」
カトウに限らず県令はほとんどの場合家族を連れて任地に赴任している。当然サイトウの家族もだ。カトウは家族を一緒にマローニャ市に避難させるつもりだったが間に合わなかった。
カトウ
「そうですね。降伏するしかないですね。しかし、命は助かってももう故郷には帰れませんね。」
サイトウ
「はぁ、本当だよ。老後は帝都に帰ってのんびり生活するのが僕の夢だったのに。」
カトウ
「王国は我々に10万石の領地をくれるって話ですが、それ本当なんですか?」
サイトウ
「知らないよ。一応そういう約束だけどさ。まあ命があれば当面それで良しとするしかないんじゃないかな? 死んだらそこでお終いなんだから。」
ヒデト・ヤマシタの生首を見ながらしみじみそう語るサイトウ。
カトウ
「出世頭のヤマシタさんがこんな風になるなんて、先の事はわからんものですね。」
サイトウ
「本当にそう思うよ。彼が次の郡太守だと思ってたのにね。」
カトウ
「王国軍、勝てるんですかね。」
サイトウ
「王国軍がどれだけの兵を用意しているのかが僕にはまだよくわからないんだよ。船で続々と後続がやってくるって話だけど。まあ、南方大陸の兵士なんて何万人集めても戦争の役には立たないし、太守がマローニャで兵を集めて攻めてきても王国側が勝つとは思うけど。」
カトウ
「そうですね。南方大陸の兵は本当に役に立ちませんからね。しかしいずれ本国から精鋭が来るでしょう?」
サイトウ
「そりゃまあ、いずれは来るよね。本土の帝国軍は強いからねえ。逆に王国軍が南方大陸を全部平定して徴兵して数を集めても、帝国軍には勝てないよね。きっと。」
カトウ
「その時はどうするんです?」
サイトウ
「その時はまたその時だよ。帝国本土から軍勢がやってくるのなんてどんなに早くても2年は先だろ? そんな先の事より今だよ。ここで死んだらお終いなんだから。とりあえず降伏で良いよね?」
カトウ
「はい、もちろん降伏します。殺されないようにちゃんと取り計らってくださいよ。」
サイトウ
「まかせたまえ。そのかわり渋る君を私が説得して降伏させた事にするから、そういう事にしておいてくれよ。」
カトウ
「わかりました。しっかりサイトウさんの手柄にしてください。」
・・・・・
サイトウ
「閣下、第二県県令カズマ・カトウを降伏させて参りました。」
ルカ
「うん、ご苦労だったサイトウ少将。」
カトウ
「マロン郡第二県県令カズマ・カトウでございます。同僚サイトウの言を受け閣下の降伏勧告をお受けいたします。」
ルカ
「うん、よく決断してくれた。サイトウ少将同様に君も王国軍少将に任命する。また伝えたように10万石の領地を君に与える。その他もろもろサイトウ少将から聞いているか?」
カトウ
「聞き及んでおります。」
ルカ
「よろしい。では今夜はここに一泊し、明日早朝に出発する。君は手勢を連れて私と同行するように。」
カトウ
「は! では今晩は私どもの市庁舎を宿営にお使いください。」
ルカ
「うむ、そうさせてもらおう。」
・・・・・
翌朝出立し、その翌日に第三県に到着。そこに県令の姿はなかった。聞けば県令は手勢数百を率いてマローニャ市に向かったとの事。第四県、第五県も同様だった。
8月20日、マロン市を出立して約半月でズドン関に到着した。ほぼ移動にかかった時間のみだ。想定よりかなり早い。まさか全く戦闘を交えず街道北側5県をすべて制圧できるとは思わなかった。
翌日、ダンケル隊長率いる部隊も到着した。街道南側の第六県から第十県まですべて制圧。ただし、すべての県において県令は手勢を引き連れて逃亡済みであったとの事。その軍勢がマローニャ市にて郡太守と合流する事を思うと少し痛い。しかし、無血でマロン半島北半分を制圧できた事は望外の成果だ。それもわずか半月で、である。
本来であればガスロー将軍が第三陣の兵を引き連れてズドン関に直行し、そこで砦を築かせる予定だった。しかし、それよりも早くルカとダンケルが到着した。おそらく航海が順調でもガスロー将軍の軍勢がこのズドン関に到着するのは早くてもあと数日かかるだろう。
ルカ
「我々でここに防御陣地を作るか。」
ダンケル
「そうですな。予定より随分早く到着してしまいましたしな。でも、一日兵を休ませましょう。さすがに兵が疲れています。」
ルカ
「ああ、そうか。そうしよう。」
翌日一日兵を休ませ、その後ここに防御陣地を築く事とした。




