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第2話


第二話


ルカ

「あなたを私の妻に迎えたい。僕と結婚して頂けませんか?」


マリー

「・・・」


 身の程知らずにも僕は7歳年上のその美しい人に僕は求婚した。勇気を振り絞って。鼓動が早い。顔が熱い。緊張で倒れそうだ。


・・・・・


 ルカ・クロラントは現在15歳。位は男爵。貴族としては最下級。500石取りの身。しかし彼は普通の下級貴族とは少し毛色が違う。彼の祖父は王国一の大貴族クロフォード公爵その人なのだ。


 クロフォード公爵家の所領は石高300万石。国内随一の大貴族だ。国王家に次ぐ所領を持つ家である。現当主の名はリチャード・クロフォード。普段は領地にはおらず王都で王国宰相を務めている。


 その大貴族の孫にしてはルカの身分は低い。公爵の孫となれば通常は最低でも1000石取り以上の子爵だ。理由がある。まず当主リチャードには息子が多い。8人いる。ルカの父はその末子。しかも愛人の子供。正直なところ本当にリチャードの子供なのかどうかかなり怪しいと言われている。それでもリチャードから自分の子であると認知され1万石の領地を与えられた。これがルカの父親のヘス・クロラント伯爵である。


 大貴族であっても子供に1万石の領地を分封する事は珍しい。通常は知行相当の俸給のみを与えて子爵とする。領地は与えない。

 しかし、ヘス・クロラントは1万石の領地を与えられて分家された。その領地と引き換えに他のすべての公爵家財産の相続を放棄させられた。クロフォードの姓も捨てさせられた。また将来的にも彼の子孫の血筋がクロフォード公爵家とつながらないよう確約させられた。大貴族に愛人がいる事は普通のことなのだがルカの祖母はクロフォード家の人達から相当に嫌われていた。あまりに身分が卑しく身持ちも怪しいと。理由はそれに起因する。


 そしてそのヘス・クロラント伯爵の3男がこのルカ・クロラント。所領1万石の家の末子となればせいぜい知行500石というのは妥当なところだ。ルカはクロフォード公爵家の人間ではなく、1万石の小領主の息子として扱われている。


 伯爵以上の貴族の子弟は王都にある幼年学校で教育を受ける義務がある。男女ともにだ。その期間は6歳から15歳までの9年に及ぶ。教育は主に一般的な初等教育や帝王学・領地経営の基礎や貴族としてのマナーなど多岐にわたる。


 この学校のもともとの存在理由は教育ではない。人質をまとめて管理するための施設だ。国王が貴族の子供達を全員人質にとるための口実として全寮制の幼年学校がはじまった。もう100年以上前にはじまった制度なのだがいまだにそれが続いている。幼年学校の生徒は王都の城壁の外に出る事を許されない。


 元々は人質を管理するための口実としてはじまった幼年学校なのだが、領主の子弟に初頭教育を受けさせた結果として想定外の効果を生んだ。王国の生産力が大きく増大したのだ。幼年学校がはじまる前、その頃の王国全体の生産力は2500万石ほどであった。それが学校教育をはじめて数十年で二倍になった。


 それ以前は家庭教師をつける以外に教育を受けさせる方法がなかった。だから、せいぜい大貴族が嫡男に家庭教師をつけて教育する程度だった。それが幼年学校のはじまりにより領主階級の子弟が全員等しく教育を受けられるようになったのだ。五男でも六男でも愛人の子でも。領主の子で当主になれなかった者は家臣として領地内で行政に携わることが多い。それら行政官が等しく共通の初頭教育を受けている。これが生産力の向上に大きく役立った。


 そのような結果から、元は伯爵以上の領主の子弟が集められていたのだが現在では騎士身分以上の家の子供は学校教育を受けられるようになった。伯爵以上の家の子供は義務だが、それ以下の爵位のものは任意である。


 幼年学校を卒業した後は領地の親元に帰る者が多い。女子の場合はそのタイミングで結婚する者も多い。


 しかし他の道もある。高等学校への進学である。王国全体の官僚となるための道だ。軍の士官となるための士官学校、教師になるための教育学校、行政官になるための法律学校など。領主として家を継げないものや下級貴族の家に生まれた者にとっての数少ない出世コースである。上手く役職にありついて成果を上げれば知行を増やしたり領地を得たりして爵位を上げる事ができる。その役職を世襲することもできる。


 ただし、それは狭き門だ。大貴族や王族とコネのある者は高等学校を出なくても要職につく事ができる。高等学校を出て役職にありついて成り上がろうという者は彼らの手足として役立って引き立ててもらう他ないのが実情だ。ゆえに高等学校を出ても出世が叶う者はとても少ない。


・・・・・


 ルカ・クロラントはつい先日幼年学校を卒業した。貴族の子弟はこの幼年学校卒業の年齢をもって成人と認められるようになる。ルカは男爵として父親から500石の知行を与えられた。


 所得があるという事は家庭をもつ事ができるということだ。結婚ができる。ルカはずっと決めていた。幼年学校を卒業したらプロポーズしようと。


 ルカは来月から士官学校に進学する事が決まっている。しかし知行があれば生活には困らないので関係ない。このタイミングでプロポーズをしない事は考えられない。これ以上先延ばしにして他の男にあの人をとられてしまってからでは手遅れなのだ。


 15歳というのは貴族にとって婚約は早すぎる年齢ではない。結婚は男性の場合は20歳を過ぎてからの方が一般的ではあるが15歳で結婚する事もさほど珍しくはない。婚約だけなら5歳の子供でもありふれている。もちろんそれは親同士が決めるからなのだけど。


・・・・・


 時は少し遡る。


 ルカとマリーの出会いは一年前、どこかの貴族の家でのパーティの時だった。貴族はパーティをよく開く。それが仕事だからだ。 


 侯爵以上の貴族は王都に邸宅を構えている。そして主に王都で暮らす事を常としている。領地は代官に任せている事が多い。そしてルカの祖父のように王国の役職を持っている者も多い。よくパーティなどを開き貴族同士の交流や情報交換を行っている。これが領主家の当主にとって最も重要な仕事だからだ。


 パーティの場で王国政府に役職を持つ貴族同士が談合してそこで政治の意思決定がなされる事も珍しくない。大貴族に他の貴族が取り入ろうとしたり、役職を得るために根回しをしたり、交遊して親密になって派閥を作ったりと、とにかくそのような「政治」を行うのが貴族家当主の一番重要な仕事となっている。


 貴族のパーティがあれば一応ルカは出席しなければならない。祖父がクロフォード公爵だからだ。クロフォード公爵の孫が王都にいるのにパーティに招かないなんて貴族はいない。例えルカが分家の息子であってもだ。それくらい彼の祖父に睨まれるのは皆怖いのだ。


・・・・・


(ルカの視点から)


 クロフォード公爵家一族の中で我がクロラント家の人間が嫌われている理由。それはルカの祖母の身分がとても卑しいからだ。具体的にいうと娼婦だった。パーティに招く貴族たちも皆それを知っている。貴族は血統を重視する。ゆえに皆ルカを見下している。でも祖父リチャード・クロフォードの手前招かざるを得ない。そして、僕の立場でいうと招かれれば行かざるを得ない。「娼婦の孫を招いてやったのに断られた」なんてことになると招いた側からの印象が悪くなる。貴族間の付き合いで嫌われるというのは百害あって一利なしだ。


 そんなパーティの一つで僕はマリーに出会った。いわゆる一目惚れだ。マリーのあまりの美しさに体に電気が走った。思わずじっと見ていると目が合ってしまった。まずい。不審者だと思われる。ちゃんと優雅にとりつくろわなければ。


 心を落ち着かせながら僕から近づき軽く挨拶をした。彼女はマリー・ハルウィと名乗った。緊張しつつも彼女と軽く会話をするフリをしながらできるだけ彼女の情報を得ようと努めた。聞きだした内容をまとめると、先代のハルウィ伯爵の妻で夫とは死別。現在は独身であり王都で暮らしているということだった。


 未亡人であったことには少し驚いたが独身であると聞いてなぜか少しホっとした。年齢的には結婚している方が普通だからだ。おそらくもう20歳を過ぎているだろう。僕よりもかなり年上ではある。14歳の僕など子供にしか見えないかもしれない。それにかつて伯爵の妻であったという事であればそれなりの身分の家柄である可能性が高い。


 そんな事まで先回りして色々考えてしまった。自分でもおかしいと思う。自覚がある。自分は彼女に恋をしているのだと。一度会って少し話しただけの女性。そんな彼女の事が頭から離れない。


 マリーは最後に一言気になる事を言っていた。「現在はラスター大公にお世話になっています」と。これはどういう意味なのだろうか。



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