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第18話

第18話


 聖歴502年秋


 国王が崩御し第一王子が新国王となった。名をガスパル王。幼少の頃より無能・愚鈍と噂のある人物である。母方の祖父は国内第一位の大貴族クロフォード公リチャード。彼の後ろ盾である。


 この日、国王と重臣が集まり会議を開いていた。


参加者


 国王ガスパル

 王国宰相クロフォード公爵リチャード

 財務大臣ラスター大公ジャン

 王国元帥リシュモン公爵ダン


ガスパル

「本日の会議の議題であるが、我が国は大陸三か国中最弱である。これを余の代において覆したい。」


 神聖王国9000万石

 東方帝国8000万石

 西方王国5000万石


 これがこの大陸における力関係である。必ずしも石高だけで国力を測れるものではないのだが国力を現わす指標としては役立つ。そして、三か国の国力の序列は概ねこれで正しい。


ガスパル

「すなわち、軍を起こして大征服活動を行う!」


 国王以外の三名は言葉を発しない。しかし内心は皆同じ。「王は一体何を言い出すのか」と。


 新国王の意図はよくわかる。要はわかりやすく功績をあげて名声を得たいのだ。そのために軍事行動を起こして新たな領土を征服したい。王は自分が無能と噂されている事を知っている。ゆえに功をあげて名声を得たい。


 実にわかりやすい。これこそが無能と評されるゆえんなのである。しかし、王の言う言葉には表立っては逆らえない。王国宰相以下の貴族達はあくまでも王の輔弼がその役割だ。王はこの国の支配者であり王の命令は絶対なのである。少なくとも名目的には。


リシュモン公爵

「つまり神聖王国に大規模侵攻を行うと?」


 神聖王国と西方王国は長年親善と紛争を繰り返している。王家同士は親善を深める。しかし、国境付近の領主の跡目争いなどに双方の王国が介入して宗主権を行使しようとする。そこで軍事衝突が起こる。その勝敗によって国境地帯の領主の帰属がどちらの王国側になるのかが決まる。ゆえに両国の国境線はよく変更される。


 反面、両国は相互依存の関係にもある。代表的なものが約20年前の東方帝国大侵攻の際である。帝国が大軍を率いて神聖王国に侵攻。神聖王国東部の諸地域を荒らしながら進撃し、神聖王国中央部にある聖都ペタンコブルク市近郊まで迫った。


 この時、西方王国内での意見は割れた。この混乱に乗じて神聖王国の西部地域を征服するべきか、神聖王国に援軍を送り東方帝国と戦うか。前国王は前者を支持したが、当時ともに40代であったクロフォード公爵とリシュモン公爵は後者を支持した。


 もし神聖王国が崩壊してその東半分が帝国に支配されればどうなるか? 仮に神聖王国の西半分を西方王国が占領できたとしても、両者の国力は西方王国9500万石に対して帝国1億2500万石。実際には帝国に先んじて西半分を占領する事も難しいだろう。


 つまり、神聖王国が滅びて西方王国と東方帝国が争えば国力において西方王国が生き残る事は難しい。ゆえに神聖王国の崩壊を阻止しなければならない。これがクロフォード公爵とリシュモン公爵の共通の意見であった。これに先代ラスター大公も同意。


 聖歴480年、リシュモン元帥が西方王国軍20万を率いて神聖王国軍と合流。決戦して帝国軍を撃破した。歴史上名高いペタンコブルクの戦いである。


 神聖王国側としては国力において東方帝国を上回っている。しかし、全軍をもって東方帝国へ侵攻するような事はできない。神聖王国内では諸侯の対立が激しく一枚岩ではないうえに、全軍を東に向ければ西方王国からの侵攻を受ける。反面、帝国からの侵攻を受ければ西方王国からの援軍を得られる。東西が逆転しても同様である。全力で西方王国へ侵攻すれば東方から襲われる。


 つまり、この三か国は三すくみの状態なのだ。ゆえに神聖王国から東西の両国が独立して以降、あまり大きく国境線は変化していない。ほとんどの戦争は国境紛争の域を出ない程度のものだ。20年前の帝国軍大侵攻などは極めて稀な例なのである。


 しかし、新国王ガスパルは軍を起こして大征服活動をするのだと言う。かつての帝国軍大侵攻のようなことを西側から神聖王国に仕掛けるというのだろうか。


ガスパル国王

「ふむ、普通はそう思うであろうな。しかし違うぞ。」


 ガスパル王はニヤりと笑みを浮かべて話す。


ガスパル王

「船に兵を乗せて南方大陸へ渡る。南方大陸を征服するのだ!」


・・・・・


 南方大陸。かつて南方王国という統一国家が存在した。しかし東方帝国に占領されてその植民地となった。大陸の大きさは三か国が存在する神聖大陸よりもやや小さい程度。しかし荒地と岩山が多く面積の割に石高が少ない。南方大陸全土で約4000万石といわれている。神聖大陸の石高が1億8千万石であるのとくらべれば、いかに耕地が少ないかがわかる。ただし鉱山が多く鉱物資源を豊富に産出する。東方帝国はこの地を征服した事により一躍大国となった。


 南方大陸は東方帝国の南東部において細い地峡を通じて地続きである。そのほかのルートとしては西方王国の南西にあるクロン半島南端のクロン市から船で行く事ができる。通常2日で対岸のマロン市に到着する。


 この世界においては海運が発達していない。海上航路はこのクロン市と対岸の南方大陸マロン市との間にしか存在しない。他に海上交易は行われておらず、兵を船に乗せて戦争に利用するという事も行われていない。航海技術も低い。


 余談であるが、船で西に進み数十日の航海の果てに別の大陸が存在する事が知られている。西方王国側では「西夷大陸」と呼称している。航海技術の関係でこちらから行く事はできない。だが、稀に向こう側から船がやってくる。百年に数度という程度の頻度である。

 西夷大陸には強大な王国が存在する。そして稀にこちら側に船を出すのだが3隻に1隻しか帰りつく事ができないのだとか。さらに航海に成功しても船員の半分は「航海病」という謎の病に侵されて死んでしまうのだという。

 西夷大陸から来た船には毎回西方王国側の使者を乗せて送っているのだが、過去に2度こちら側に戻って来られた者がいる。その者の証言によりこの西夷大陸の実在やその王国の実在が信じられている。


 東方帝国側にも似たような話がある。東方帝国の東岸から船で数十日航海すると「東夷大陸」が存在するのだとか。そして西夷大陸と東夷大陸は実は同じ大陸で、この世界は筒状の形をしているのではないかと言うものもいるのだが、今のところそれを確認する手段はない。


・・・・・


 ガスパル王は船に兵を乗せて遠征軍を送り南方大陸を征服するのだと言う。歴史上、今まで誰も成し得なかった事である。それを思いついた王は得意げな笑みを浮かべている。


 王以外の三人は言葉が出ない。感心したのではない。あきれているのだ。船に兵を乗せて南方大陸に遠征する。歴史上例のない事だ。つまり、それが不可能だったからだ。


 南方大陸へ移動できる大型船は王国に10隻存在する。世界に10隻しか存在しないとも言える。全てクロフォード公爵家の所有船である。この10隻でクロン市と南方大陸のマロン市を往復させて交易物資を運んでいる。


 船に兵を乗せるとして、乗せられるのは最大で500人程度だろう。これをマロン市側に送るとして、一度に送れる兵士が最大で5000名。しかし10隻すべて同時に着岸させて兵を上陸させる事はできない。大型船をつけられる岸壁および桟橋の数はマロン市側もクロン市側も5つだ。同時に送り込める兵の数は最大で2500名。兵士をマロン市に上陸させれば当然ながら帝国側の兵士に囲まれる。2500名の兵士でマロン市を掌握する事ができるか? 奇襲であれば可能かもしれない。

しかし、この時点で既にかなりリスキーである。船を5隻同時に着岸させて兵を降ろせるのか。警戒されて1隻ずつしか着岸できないかもしれない。敵が勘づけば火矢を放たれて着岸できない。さらにマロン市を占領しても帝国軍が集結して襲ってくるだろう。数はおそらく数万。それに対抗できる兵力を帝国軍が集結して襲い掛かってくるまでにマロン市側に送れるのか? 


 クロン市とマロン市は船で二日。兵士と物資を乗せるのに1日、移動に2日、降ろすのに1日、戻るのに2日。一往復するのに最短で6日かかる。もし海が荒れれば船を出せなくもなる。


 マロン市以外の海岸に上陸させるという方法はどうか。船からボートをおろして10人ずつ兵士をのせてどこかの海岸に上陸させるしかない。一体どれだけ時間がかかるか。それに兵糧をどうやって運ぶのか。


 船に兵士を乗せて遠征軍を送る。諸々の現実的な問題からこれまで行われなかった。これは裏を返せば南方大陸側からこちらに軍を送る事ができない理由でもある。


 ガスパル王は得意満面だ。


ガスパル王

「みな驚いて言葉が出ないようだな。」


リシュモン公爵

「兵の数はどの程度を想定しておりますか?」


ガスパル王

「うむ、そうだな。卿がかつて帝国軍大侵攻の撃退の際に率いた数と同じ20万を考えている。」


 不可能だ・・・ 他の3人は顔を見合わせる。西方王国の動員可能兵力は約50万。20万はその4割。かつての帝国軍大侵攻は自国の興亡にかかわる事態であったためにそれだけの大軍を動かした。しかし、今回は違う。そんな大軍が本国から消えれば神聖王国への備えはどうなるのか。そもそも20万の大軍を10隻の船で南方大陸に送るとなればそれだけで一体何日かかるか。


 しかし、三人とも不可能とは言えない。自分が弱気な事・後ろ向きな事を言えば他の二人に責められて責任を押し付けられる。


 クロフォード公爵は考える。クロン市の領主にして船の持ち主。つまり遠征が実現すれば軍の海運の責任者となる。あまりに非現実的な話に頭が痛くなる。王にして自分の孫。無能である事は知っていたのだが、こんな事を言い出すとは。


 ラスター大公は考える。財務大臣である彼はこの軍事行動にかかる費用について考える。本当に20万の大軍を編成するとなれば一体いくらかかるか。諸侯の負担は大変なものになる。王家の負担も、そしてラスター家の負担も。冗談じゃない。なんとか上手く言いくるめてこんな馬鹿な事を止めさせられないものか。


 リシュモン公爵は考える。軍の責任者として「できません」とは言えない。言いたくない。しかし軍事の専門家として考えればあまりに無謀。20万の大軍を船で南方に送るとなれば兵糧の輸送はどうするのか。それに、もし劣勢になれば引き上げる事も困難ではないか。


ラスター大公

「20万の軍勢を動かすとなると、相当な費用がかかりますな。諸侯の負担も随分大きくなりますが、よろしいのでしょうか?」


ガスパル王

「臣下が王のために働くのは当然のことではないか。」


 建て前としては正論ではある。しかし、臣下側としては負担は少ない方がよい。それはここに並ぶ三大貴族とて同じ事。


ラスター大公

「諸侯のみならず、王家の財政負担も大きくなりますが。」


ガスパル王

(ふーむ、自分の金はあまり使いたくない。全部諸侯の負担でなんとかならぬものか。しかし、それでは余の名声を高める事にはならんか。)


「ではもう少し兵の数を減らせば実現可能か?」


ラスター大公

「1万から2万くらいなら無理な負担にはならぬかと。」


ガスパル王

「2万の軍勢で南方大陸の征服など可能なのか?」


 王はリシュモン公爵の方を見て尋ねる。

 しばしの間返事をせずに思案するリシュモン公爵


リシュモン公爵

「むろん2万の兵で南方大陸全土を征服する事は不可能です。しかしながらその一隅を占拠する事は不可能ではないかもしれません。例えその一部であっても我が国から南方に兵を出して占拠するとなれば歴史上前例のない快挙となるかと存じます。」


リシュモン公爵

「クロフォード公、マロン市に兵を上陸させるとして一度に上陸させられる兵の数は?」


クロフォード公爵

「マロン市の港に同時に接岸できるのは5隻。1隻に500の兵を乗せて、同時に上陸可能なのは2500といったところでしょう。」


 2500の兵ではどうにもなるまいと思いながらクロフォード公はこたえる。


リシュモン公爵

「2500か・・・」


クロフォード公爵

「船は10隻ありますゆえ、洋上に残りの五隻を浮かべておけば翌日にはもう2500を上陸させる事も可能でしょう。もちろん、それまでに港を押さえていなければ第二陣は接岸できませぬが。」


リシュモン公爵

「その次の兵を送れるのは?」


クロフォード公爵

「船をクロン市に戻すのに2日、兵と物資の積み込みに1日、クロン市からマロン市まで2日、揚陸に1日。つまり6日かかる計算になりますな。もちろん接岸して作業が可能なのは五隻ずつです。」


リシュモン公爵

「つまり、二往復目の船で次の兵5000を送るには第一陣の上陸から最低でも6日はかかるということか。」


クロフォード公爵

「左様。クロン市側から2万の兵を送るなら最低一か月はかかるでしょう。馬・矢・兵糧も送らねばなりませぬゆえ。これらの日数も海が荒れなければ、です。」


ガスパル王

「2万を渡海させるのに1か月もかかるのか。それでは20万だと10か月か。そんなにかかるのか。」


クロフォード公爵

「恐れながら、20万の軍勢の渡海となれば10か月では済まぬでしょう。渡海にかかる期間が長くなればその間ずっと海が平穏とはいきませぬゆえ。それに兵糧も多く運ばなければなりませぬ。最低でも1年かかるでしょう。」


ガスパル王

「船をもっと作れば良いではないか。」


クロフォード公爵

「船は大量の木材を使用するうえに、船大工の数は少なく多く作る事は困難です。大型船を一隻増やすのに1年はかかるでしょう。それに、船を増やしてもマロン市に接岸できる船の数は五隻です。ここは変えられませぬ。」


ガスパル王

「ぐぬぬ・・・」


クロフォード公爵

(ゆえに歴史上前例がないのだ。一度に上陸可能な兵が2500。最初に送った兵2500が港を押さえられなければそれ以降の船は港につけられない。仮に港を占領して1か月で兵2万を送ったとしても帝国のマロン半島郡太守が軍勢を率いてやってくるだろう。マロン半島の石高は500万石。つまり兵5万がやってくる。2万では勝ち目はない。我が軍は撤退もできずに海に追いやられて全滅だ。)


ガスパル王

「王国元帥リシュモン公爵。なんとかならぬのか?」


 王は敢えてリシュモン公爵の官職名を被せて名を呼んだ。軍のトップなのだからなんとかしろという意味をこめている。


リシュモン公爵

「兵2500で奇襲をかけマロン市を占拠する事は不可能ではないと考えます。敵は油断をしている事でしょう。なにぶん歴史上前例のない事ですゆえ。」


 クロフォード公爵はギョっとした。一体なにを言い出すのかと。


 リシュモン公爵は従卒を呼び南方大陸の地図を持ってこさせた。そして目の前のテーブルにそれを広げて説明をはじめる。


リシュモン公爵

「まず兵2500で奇襲をかけてマロン市を占拠。翌日に第二陣2500が上陸。兵5000を持ってマロン半島北部の各県を攻めます。各県はそれぞれ概ね20万石程度。動員可能な兵数は2000。しかし兵を動員するには時間がかかります。それが集結する前に各個に撃破します。」


ガスパル王

「ふむふむ。なんだ、前向きな事も言えるではないか。」


リシュモン公爵

「半島の北半分200万石を征服し、街道に砦を築きます。マロン半島から大陸中央に延びる街道は途中までは一本道です。ここに砦を築き我が軍の兵2万で防衛いたします。順調に半島北半分を押さえる事に成功すればマロン半島郡太守が動員可能なのは南部300万石の兵3万程度。砦に籠り防御に徹すれば3倍の敵を防ぐ事も可能であります。」


ガスパル王

「ふむ。それから?」


リシュモン公爵

「それだけでございます。防衛に徹してマロン半島北部の領有化を確定させまする。兵2万なら兵糧・矢・替えの馬も現地調達可能でしょう。兵が足りなくなれば現地で徴兵する事もできましょう。繰り返しますが、船で軍を渡海させ南方大陸の一部でも占拠したとなれば歴史的快挙。陛下の名声は大陸全土に広がる事でしょう。」


ガスパル王

「ふむ。まあよかろう。卿がそうしたいというならその作戦でやってみるがよい。」


 自分の発案による南方遠征であるというのに、まるでそれがリシュモン公爵の希望であるかのように言い捨てる国王。


 この話の流れにラスター大公は安堵した。まずはじめの兵2500による奇襲が失敗すればその時点でこの計画は終了だ。その可能性が最も高い。

仮にそれが成功して2万の軍勢を送る事になっても最大で2万。王が20万の大軍を動員すると言い出した時には眩暈がしたが、まあ最大で2万なら良いだろう。それでも無駄な出費だとは思うが、南方大陸と戦争となればクロフォード家は交易ができなくなるので悪くない。力をそげる。何隻か船が沈めばさらに良い。


 クロフォード公爵は胃が痛くなる。兵20万を動員という無茶な計画に比べると随分現実的な計画になった。しかし、無茶ではないために反対できない。実際に船を出すクロフォード家としてはやりたくない。一隻でも船が沈めば大損害だ。それに交易も中断される事となる。いつ再開できるかわからない。この損失は大きい。反面、本当に20万の大軍を出す事にならなくて良かったとも思える。なにより、ガスパル王は自分の孫であり自分はその後ろ盾だ。無能と評版のこの王に何か功績を立てて名声を得させる必要は感じてはいた。成功すれば功にはなるだろう。しかし、どうにも成功するように思えないのだが勝算はあるのだろうか。


ラスター大公

「軍勢を率いるのはリシュモン元帥ですかな?」


 気楽に問うラスター大公。しかしわずか2万の軍勢の総大将を王国元帥リシュモン公爵自身が率いるはずもない。しかも、かなり成功確率の低そうな作戦に思える。自分が率いる気ならこんな作戦を提案したりしないだろう。そんな貧乏くじをリシュモン公爵は引かない。リシュモン公爵は優れた軍人ではあるが、大貴族としての保身を疎かにする人物ではない。


ガスパル王

「いや、この作戦の総大将は余の血縁者にやらせたい。」


 なるほど。自分の功績にはしたい。しかし自分がやるとは言わない。


ラスター大公

「では、カイエン殿下に?」


 王弟カイエン。前王の第二王子でありかつてガスパル王と王位継承を争った人物。その能力は兄とは比較にならぬほど優秀であると噂されていた。カイエンの母はラスター大公の姉。つまりラスター大公の甥にあたる。


ガスパル王

「いや、あやつはダメだ。」


 なぜダメなのかは言わない。他の三人も理由など聞かない。聞かなくてもわかっている。カイエンよりも劣っているという評判が気に食わないから名声を得るためにこんな遠征を思いついたのだから。


ラスター大公

「となると、クロフォード公の御子息の誰かという事になりますかな?」


 クロフォード公はガスパル王の母方の祖父であるから、その息子は王の叔父にあたる。血縁者だ。クロフォード公リチャードには8人の息子がいる。


ガスパル王

「うむ。それが良い。孫でも構わんぞ。いや孫の方が良かろう。余も公爵の孫であるゆえな。」


クロフォード公爵

「承りました。一度持ち帰り親族と協議いたします。」


リシュモン公爵

「・・・」


 リシュモン公爵は先日の決闘で勝利したルカを思い出していた。クロフォード公爵の息子や孫という事であれば彼が一番マシに思える。しかし口には出さない。いずれにせよ、誰が総大将になっても副将として実務経験のある優秀な士官をつける。総大将などは名目的なものなので誰でも良いのだ。しかし、大貴族のボンボンなどを総大将にすると副将のいう事を聞かない者もいる。そういう人物はできれば避けてもらいたいのだが、他家のことゆえ口出しはしない。


 そもそも、仮に負けても知った事ではない。自分が基本的な作戦の骨子を提案したが、それだけの事だ。勝てば上々、負けても知ったことではない。


 最終的な責任は現場指揮官たる総大将とそれを任命した国王が負う。そういうものなのだ。この遠征が失敗してもリシュモン公爵家としてもダン・リシュモン個人としても何も困る事はない。王国軍元帥の立場としては、できれば南方大陸の一隅でも手に入れて「勝利」という形で終わらせて面目を保ちたいという気持ちはあるのだが。



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