↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/37

第10話

第10話


 ルカとマリーの話に戻ります。


 聖歴500年新春。


 ルカはこの年の3月に15歳になる。8月には幼年学校を卒業し、10月から士官学校に入学する。


 現在ルカは恋に狂っているが基本的に優秀な少年だ。学校の勉強は理系科目は概ね成績トップだ。文系科目は多少劣る。馬術と馬上槍術も上位で剣術の腕は「中の上」くらい。


 剣術は「中の上」くらいではあるのだが、もし剣での殺し合いになればルカは負けない自信がある。剣術が「中の上」くらいの腕前というのはこの国で一般的な王国剣術での話だ。学校ではこれしかやらない。この王国剣術の腕も決して悪くないのだが、ルカは別流派の剣術を個人的に収めている。


 ルカの腰には反りのある湾刀が吊られている。あと柄が長い。王国で一般的な片手剣ではなく両手使用を前提とした湾刀だ。東方刀という名で知られている。


 貴族の子弟は子供でも外出時には必ず腰に剣を帯びている。実用のためではなくて服装のマナーとしてだ。それでもイザとなれば護身のために使う事になるのだが、極めて稀だ。王都の治安は良い。


 しかし、ルカは怖い。自分は殺されるのではないかという危惧を幼い頃から常に持っている。ルカの祖母は一族から嫌われていたと聞く。祖母はルカが生まれるよりもずっと前に亡くなっているのだが、一族の者に殺されたのかもしれないと父が言っていた。


 父は幼年学校を卒業してすぐに伯爵の爵位と領地を与えられて分家された。父が一族の者に殺される事を祖父が恐れたためだと聞いた。


 そんな話を幼い頃から聞いていたので怖かったのだ。自分もいつか殺されるかもしれないと。


強くなりたい。生き延びるには強くならなければならない。


 幼年学校に入校するとその思いはさらに強くなった。幼年学校にはルカの従兄弟たちがたくさんいる。父には7人の兄がいる。その子供達には当然同世代の者が多い。


 その従兄弟たちはルカに会うと「娼婦の孫」「売女の孫」と言って侮辱してきた。そいつらから感じる嫌悪と嘲笑。ぶっ殺してやりたい。いや、違う。逆に気を付けないと僕はこいつらに殺されてしまうかもしれない。


 馬鹿は何をしでかすかわからない。父が分家された理由でもある。


 ある日、街で変わった刀剣を身に着けている男を見た。傭兵崩れといった感じの男。じっとそれを見ていると男に声を掛けられた。


男

「そんなに珍しいか? うん、まあちょっと珍しいよな。」


ルカ

「かわった剣だね。」


男

「これはな、東方刀ってやつだ。東方帝国でよく使われてる刀だ。」


ルカ

「それ強いの?」


男

「別に特別この刀が強いってこともないさ。でも、殺し合いでは結構有利なんだよ。」


ルカ

「なんで?」


男

「初見殺しってやつさ。剣での殺し合いになったとするだろ? 相手はまあ普通の剣を持ってて普通の剣術で襲ってくる。しかし俺の刀はこの国では珍しい。これを使う剣術も敵は知らない。俺には敵の出方がわかってて相手にはわからない。それだけで有利だ。」


ルカ

「おお!」


 少年の反応が良いので男は得意げに話し続ける。


男

「真剣での殺し合いは一瞬で決まる。そして、同じ相手と二度戦うことはない。だからこの刀は殺し合いに有利ってわけだ。反対に東方帝国に行ったらこの刀が普通だから王国剣術の方が有利なんだろうけどな。まあ、帝国のやつなんかと出会う事ないしな。」


 これだ!実に理に叶っている。幼いルカ少年にはそう思えた。当時10歳。


 早速刀剣店に同じ刀を買いに行った。種類は少ないが普通に売られていた。傭兵などからの需要がたまにあるので大抵の店に一振りくらいは置かれているらしい。


 意識して街の人たちの腰の剣を見てみると、確かに同じタイプの東方刀を吊った人はたまにに見かける。そこまで稀ではないようだ。しかし貴族では見ない。


 刀剣店でこの刀を購入。そしてこの刀を使う剣術を教えてくれる所も店で教わった。


 剣術学校だと思って訪れたそこはちょっと思っていたのとは違った。弟子らしき何名かが大声を上げて棒を振り回している。大声をあげながら生えている木をひたすら棒でなぐりつけているのだ。


 大声をあげながら走っていき、棒で木を殴る。これが基本練習だそうだ。相手の出方など見なくてよいのでとにかく敵より早く剣を振り下ろす。それが基本にして奥義だとのこと。


・・・・・


 東方剣術を習いはじめてもうじき5年たつ。一人で練習するのに向いているのが助かった。ルカはこの5年間毎日打ち込み練習を欠かさなかった。もちろん子供が5年修練しても達人の域には到底達しない。しかし道場で師匠に見てもらい合格をもらっている。ルカにはそれで十分だった。


 ルカは別に剣の道を極めようというのではない。初見殺しで良いのだ。それには十分な技量に達しているといえる。神速での打ち込みが基本にして奥義。今ではその言葉がルカにも腑に落ちる。


 ちなみに、今では稀なのだが貴族の間でも一時期この東方刀を吊るのが少し流行った時期がある。


 今から約20年前、帝国軍の大侵攻という大事件が発生した。帝国軍40万が隣の神聖王国に侵入しその王都の手前まで迫った。迎え撃つ神聖王国軍は20万。これに西方王国から王国元帥リシュモン公爵率いる20万の軍勢が合流。大決戦のすえ帝国軍を撃退した。


 王国に帰還したリシュモン公爵の腰には敵将から分捕ったという東方刀が吊られていた。これを機に公爵の真似をして帝国刀を吊る貴族が何人も現れた。


 しかしそれは一過性の流行で終わった。もう20年も前の流行だ。それでも今も東方刀を身に着けている貴族が稀にいる。戦場でリシュモン公爵とともに戦ったとか、リシュモン公爵を尊敬しているとかいう人たちだ。それらは稀だし、いても中年以上の年齢の人であってルカのような若者にはいない。


 ただ、そのような経緯があるためにマナーにうるさい貴族社会で正装時に東方刀を身に着けていても、それについてとやかく言われる事はない。ちなみに、リシュモン公爵は今でもその時の刀を腰にしている。


・・・・・


 少し話が脇道にそれたが、ルカ少年は優秀なのだ。学問も成績トップクラス。剣術は実戦的な意味では相当強い。どの方面においてもストイックでのめり込み過ぎる傾向がある。それが良い方向に作用してきた。これまでは。


 幼年学校卒業後は士官学校に入校し王国軍の士官を目指す。王国では有事の際には諸侯に軍役が課される。諸侯は石高に応じて兵を供出する。それらの兵士を指揮するのが王国軍の士官である。軍役中は例え諸侯家当主であっても王国軍の士官に従う義務がある。


 例えルカの身分が男爵であっても王国軍士官であれば、その軍役中は伯爵だろうが侯爵だろうがルカに従う義務があるのだ。そして職務において功績を上げれば領地を得て爵位を上げることもできる。稀なことではあるのだが。


 8月に幼年学校を卒業。10月に士官学校入校。マリーへの求婚はこの間にと決めている。しかし、それまでにもう少し親しくなっておきたい。できれば貴族のパーティやラスター大公のサロンではないところで、個人的にマリーに会いたい。何か手はないのか。


 そんな事を去年の末頃からずっと考えていたのだが、その機会は向こうから訪れた。


 手紙が届いたのだ。マリーから。中身を読んでみる。


 今年は多くの家庭で聖歴500年の祝いを行うらしい。しかしマリーの身としては招くことのできる相手がいない。個人的に親しくしている者もいない。もしどこの家庭でも行われるという聖歴500年の祝いを我が家でだけ行えないのだとしたら、それでは娘のサラがあまりに不憫である。もしよろしければ一緒に祝いの席をともにしてもらえないか?


 概ね内容はこんな感じだ。


 今年は聖歴500年の祝いをする家庭が多いというのは聞いた事がある。そんなに皆がやるものとは思っていなかったのだけど。


 まあ、そんな事はどうでも良い。ルカはマリーに個人的な誘いを受けた。重要なのはこの一点だ。これはマリーも僕に好意を持ってくれているという事に他ならないだろう。他にも参加者がいるのかもしれないが、まあそれでも良い。答えは決まっているのだ。


 ルカはマリーの招待を受ける旨を手紙にしたためてそれを送った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。