↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
――貴方はわたくしの装飾品ですわ 彼女は確かにそう言った  作者: 星見蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/20

第4話 装飾品は所有者を知る

 アルヴァとエリアスの結婚証明書は、提出した一週間後には国王陛下からの『許可印』が押され受理された。

 

 だが、結婚式の予定は全く立っていない。


――わたくし、豪華な結婚式を挙げたいですわ


 そう微笑まれ、今は余裕がないと伝えると


――それなら結構ですわ


 と返されてしまった。


 結婚式を挙げるまでは寝室も別にすると彼女は言い、夫婦としての実態がないまま一か月が経過していた。



* * *



「今日は商会に顔を出すって言ってましたよ」 


 エリアスの執務室の窓から、アルヴァが侍女を伴い外に出て行くのが見えた。

 ミケルは彼女の行動をきちんと把握していて、毎日、報告してくる。

 最初は監視が目的だったのだが、今はとても楽しそうだ。


「そろそろ、デートぐらいしたらいかがです?」

「……お前たちは、なぜそこまで彼女を推す」


 ミケルをはじめとして、使用人たちは彼女を警戒していたはずだった。

 そして、彼女もどういうわけか、客室に侯爵家の使用人を入れようとしない。

 身の回りの世話も、部屋の掃除さえも、連れてきた侍女がひとりでしている。

 普通に考えれば、排他的な行動は歓迎されないはずなのだが、一か月も経った今、使用人たちは彼女に対して好意的である。


「なぜって、侯爵家のお金に手をつけないうえに、領地にいる。充分では?」


 前妻アストリッドを引き合いに出されては、返す言葉もない。

 

「まぁ、もちろんそれだけではないんですけどね」


 エリアスとしては『それだけではない』理由の方を知りたいのだが、ミケルは口を割らない。

 他の使用人たちも、誰一人として、彼女を推す理由を教えてくれない。


(……俺は信用されていないのか?)


 エリアスは当主としての自信を無くした。



* * *



「鉱山の視察をしたい?」


 商会から帰ってきた彼女が、エリアスの執務室に現れた。


「ええ。商会の仕事の一環で、どうしても鉱山の様子を知りたくて」

「鉱山となんの関係が?」


 エリアスが首を傾げると、彼女が一瞬だけ目を泳がせた。

 言いたくないのは何となく察したが、鉱山は侯爵家の重要な産業だ。

 結婚したとはいえ、そうやすやすと鉱山に入れる気はない。

 前妻のこともある。好き勝手にされて、これ以上、侯爵領に損害を与えるわけにはいかないのだ。


「……わたくしの商会は、モーネ・オ・ステルン商会です」

「え?」


 エリアスは驚いた。

 モーネ・オ・ステルン商会の名は、知っている。

 新鉱脈が発見された時に、銀の販路を広げようと、銀細工を扱っている商会の情報を調べた。

 モーネ・オ・ステルン商会も取引先の候補として挙がっていたが、設立から数年ということで最終候補から外したのだ。


「貴女が商会長なのですか?」

「ええ。今は」

「……今は?」

「設立時は未成年でしたから、別の者に商会長を任せていましたわ。本当は成人と同時に引き継ぐつもりでしたのに、父に反対されて」

「……ダールベリ子爵が?」

「ええ。過保護ですので。昨年ようやく商会長に」

「……」


 つまり、エリアスと婚約していた時には、既に商会を立ち上げていたということだ。


(……知らなかった)


 自分は彼女の何を見ていたのか?

 いや、見る気もなかった。

 彼女に言われるがまま、装飾品としての役割を果たしていただけだった。


 ただ、あの時のエリアスにそこまでの余裕がなかったのも事実。


「……分かりました」

「宜しいのですか?」

「ええ。ただし私も同行させていただきます」

「え?」


 彼女が目を丸くした。

 しばらく固まっていたが、やがてその視線が、壁際に控えていた侍女へと向く。

 エリアスの後ろでは、ミケルがふっと息を吐き出した音がした。


「なにか問題でも?」

「い……いえ、お忙しいエリアス様にご足労いただくのは……」

「鉱山の視察は、商会長としての仕事ですよね?」

「もちろん、そうですわ」

「では、その鉱山の採掘権は?」

「……エリアス様。いえ、ステルンヴィーク侯爵家にあります」

「ということは、私が同行した方が都合が良いはずですが?」

「そ……そうですわね」


 答える彼女の唇は何故かブルブルと震えていて、エリアスには不思議でしかなかった。



* * *



 鉱山視察の当日。

 侯爵邸の玄関でアルヴァを待っていたエリアスは、現れた彼女の姿に目を瞠った。


「……動きやすい格好ですわ」

 

 アルヴァはそれだけ言うと、スタスタと馬車まで歩いていき、エリアスの手も借りずに一人で馬車に乗ってしまった。


「エリアス様、情けないですよ」


 後ろでミケルが呆れたように呟いているが、まさか男装姿で現れるとは想像もしていなかったのだ。

 

 濃紺のジャケットとスラックス、靴は革のロングブーツ。

 栗色の長い髪はきっちりと一つに纏め、とても凛々しい姿だった。

 

(……なんだか、勝てる気がしない)


 なんの勝負もしていないのだが、エリアスはそう思った。



* * *



 馬車の中で、エリアスは銀鉱山について彼女に説明していた。

 

「新しい鉱脈については……現段階では、まだ設備が充分とは言えません」

「排水ポンプや巻き上げ機が足りませんの?」

「ええ、どちらも採掘をするには足りない状況です」

「排水ポンプは掘り進めるためには必要ですし……巻き上げ機も。掘っても運べなかったら意味がありませんもの。……困りましたわ」

  

 ミケルとカリンの双方から冷たい視線を感じる。

 色気がないと言われようと、他に会話の糸口はなかったのだから仕方がない。


 ただ、説明を受けている彼女は真剣そのものだ。

 しかも商会の運営をしているだけあって、銀についての知識が深いし、鉱山についても詳しい。

 採掘方法や鉱石の選別、精錬に至るまで、エリアスの説明を理解できている。


(……遊びではないということか)


 前妻とつい比べてしまったが、それ自体が失礼なのかもしれない。

 エリアスの向かいで、鉱山の資料を読み込む彼女をじっと見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。