第16話 装飾品は結婚を報告する
「どうしたのですか? 予定より二週間も早いですけど」
エリアスの目の前にいるのは、アルヴァの父ダールベリ子爵。
彼はいつものように人好きのする笑顔を浮かべていた。
アルヴァと夜会に出席した一週間後。
エリアスは王都のダールベリ子爵邸にいた。
子爵本人とは融資の関係で、二か月に一回顔を合わせることになっていた。
エリアスが王都に行く形で。
「今回は融資の話ではなく」
「他に話などありましたか?」
ダールベリ子爵はアルヴァとは正反対だ。
弱そうにみせかけて、強い。
だが今日だけは、負けるわけにはいかない。
いや、勝ち負けでもない。
「ええ。結婚の報告を」
「いまさら?」
成人しているということもあって、ダールベリ子爵に報告はしなかった。
一応礼儀として報告すべきだと彼女に言ったのだが、『要らない』と言われた。
あの時は『融資をしてもらう』ための結婚でしかなかったので、彼女の意見を尊重したのだが。
「あなたは彼女の父君ですので」
できれば認めてほしい。
認められなかったとしても、もう実家に帰す気はない。
「……ほう? ようやくアルヴァの可愛さに気づいたということか?」
柔和な目が細められた。
「ええ。大変可愛らしいです。あと、己の愚かさも自覚しています。貴方に罵られても仕方がないと思っています」
ふたりの間にしばしの沈黙が落ちる。
「ふ……」
噴き出すような音が向かいからした。
その後は大笑いだ。
「君は本当に面白い」
「……?」
「正直アルヴァがいくら君がいいと言ってもね、僕だって嫌なものは嫌なんだよ。可愛い娘の婚約者が、愚かな男では」
「……申し訳ありません」
頭を下げたエリアスの前に、紅茶が置かれた。
ふわりと薫るそれは、エリアスの好きな銘柄のものだった。
「あの子は君が大好きでね」
「……」
「君が困っていると知ると僕に融資しろ、婚約を条件にしろ、きちんと卒業させろとうるさかった」
(……卒業!!)
ようやくエリアスはそこに思い至る。
あれは嫌がらせでもなんでもなく、ただ、卒業させたかっただけなのか。
「そんなの一蹴したかったが、君は愚かだがそこまで嫌な男ではなかった」
「……そうでしょうか?」
婚約した娘を放置し、領地のことだけに専念した男のどこが。
「アルヴァの心には向き合わなかったが、領民には常にまっすぐだった」
「当たり前では?」
「違う貴族など、山ほどみている」
エリアスは沈黙した。
「成り上がりと蔑まれることなど慣れていたしね」
「……申し訳ありません」
「君が貴族を代表して謝る必要は無い。君からその手の感情を感じることはなかった。どちらかというといつも感謝してくれていたしね」
「それこそ、当然では?」
融資を受けながら蔑むなど、どうかしている。
だが彼は皮肉な笑みを浮かべた。
「意外といるものだよ」
器の大きさが違うのだと、エリアスは感じた。
だからこそ、エリアスの愚かさを許容してくれていたのだ。
「……今度こそ、彼女と向き合います」
「ああ、頼むよ」
ダールベリ子爵は静かにそう言った。
* * *
(好き……か)
ダールベリ子爵はアルヴァのエリアスへの気持ちをそう言った。
エリアスとて、そう感じないことはない。
というか、他に考えようがなくなっているのだ。
だが、彼女はそれをひた隠す。
全くもって隠しきれていないのだが、とにかくエリアスに悟られまいとしている。
それをどう暴くべきなのか。
暴いていいのか。
エリアスは悩んでいた。
「で、何を買われるのですか?」
アルヴァにお土産を買って帰ろうと思い、王都の街をぶらついていた。
ミケルが後ろから声を掛けてきた。
狙っていたのか、ちょうど宝飾品屋の前だ。
「……お前のお勧めはこれなのか?」
「ええ。お菓子なんて好意がなくても買いますよ。それこそ単なるお土産じゃないですか?」
「……なるほど」
実に仕事のできる男だ。
エリアスは店内へと足を踏み入れた。




