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――貴方はわたくしの装飾品ですわ 彼女は確かにそう言った  作者: 星見蒼


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第14話 装飾品は所有者を離したくない

 夜会になど、彼女を連れてくるんじゃなかったと後悔した。

 侯爵家の体面もエリアスの体面もどうでもいい。

 彼女が傷つけられる、いや、自ら傷つきに行こうとすることの方が耐え難いことだった。


 彼女から預かった扇子を片手に前へと進み、ひとり戦う彼女を腕の中に閉じ込めた。


「いい加減、私の妻を侮辱するのはやめてくれないか」


 彼女とは正反対の、青い瞳を見据える。

 清らかさの裏に隠れた汚さを、エリアスは知っている。


「ところで、君は何をしに?」

「夜会を楽しみにきたのですけれど?」


 笑顔は変わらない。

 アルヴァ同様、演技が上手だ。


(いや……アルヴァは少し下手か)


 よく見ればアルヴァの演技には穴がある。

 見ていれば気づけたのだ。


「そうか。では存分に楽しまれるといい。私たちはこれで失礼する」


 エリアスはアルヴァを抱えたまま、くるりと向きを変える。

 アルヴァはぎこちなくエリアスの動きに合わせている。


「お待ちになって」

「……待つ必要などないと思うが?」


 足だけは止め、振り返りはしない。


「お金の好きなご令嬢に飼われたままで、よろしいのです?」

「……妻を侮辱するなと言ったはずだが?」

「まぁ? 本当のことでしょう?」


 エリアスはアルヴァを強く抱きしめる。

 そして、顔だけをアストリッドへと向ける。


「妻が好きなのは、ブルーベリージャムととうもろこしのスープだ」

「……」


 そこで初めてアストリッドの眉がピクリと動いた。


「君とは違う。悪いが一緒にしないでくれ」


 それだけ告げ、アルヴァを抱えていた腕を離し、隣へと並んだ。

 彼女の動きがまだどこか硬いので、その手を取り、ゆっくりと歩を進める。


 周囲が自然と道を空けた。

 好奇な視線に晒されても、エリアスにはどうでもよかった。


 アルヴァを守れれば、それで。


(まぁ……守れているとは言い難いが)



* * *



 ホールから離れて、人の少ないバルコニーへと出た。

 夜風が体に当たって心地よい。


 ふと隣を歩く彼女を見れば、寒そうに体を震わせた。

 エリアスは着ていたテールコートを脱ぎ、彼女の肩へと掛けた。


「……エリアス様」

「すまない。夜会など来るべきではなかった」


 テールコートで包むだけでは足りず、そのまま抱き締めた。

 

「……あの!?」


 コートの中から、混乱している彼女の声がする。

 愛おしさが押し寄せて、腕に力を入れる。


 彼女は少し身じろぎをした後、エリアスの胸を遠慮がちにトントンと叩く。

 そんなことをされても可愛いだけで、離したくなくなる。


 だが、いつまでもこのままというわけにもいかない。

 もう一度だけ、ぎゅっと力を込め、彼女の白いうなじの辺りで、エリアスは鼻から大きく息を吸った。


(……甘い)


 ビクリと震えられると余計に堪らないのだが、理性を総動員して彼女を離した。

 そして、その顔を覗き込んだ。


 離してすぐだというのに、腕の中に閉じ込めたくなってしまう。


 このバルコニーは、会場から遠く少し暗い。

 ほのかな灯りが彼女を照らすだけ。

 それでも、彼女の頬も耳も首筋も染まっているのが分かる。

 吊り上がった栗色の瞳が、少しだけ熱を帯びているように見えてしまう。


「せ……」

「せ?」


 彼女の口から小さく声が漏れた。

 深紅の唇に触れて、その赤味を落としてしまいたい。


「扇子を返してください」


 ぷるぷると震えながら言われた台詞の可愛さに、エリアスは天を仰いだ。

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