第12話 装飾品は所有者を渡したくない
エリアスは非常に苛ついていた。
その原因は、アルヴァに注がれる男たちの視線。
彼女は艶やかな深紅のドレスを着ていた。
大変美しいのだが、男たちが見ているのはただ一点。
彼女の胸元だ。
ケープで肌の露出を減らしたつもりではいた。
実際、肩はきちんと覆われ鎖骨も隠されている。
それでも、ケープの隙間から白い肌と胸の谷間が見えてしまっているのだ。
(やりすぎだ!!)
ドレスに関しては本人に任せていて、密かに侯爵家の女性使用人一同が、あーでもない、こーでもないと話していたのも知っている。
(なぜ、誰も止めなかった)
馬車の中で吸い寄せられそうになる視線を必死に剥がし、今だって隣に居ながら、なるべく彼女を見ないようにしている。
それなのに、その他大勢が彼女を見る。
下心を隠そうともしない。
最初は普通のエスコートをしていたが、牽制の意味を込めて、彼女の腰に手を添えた。
だが、効果はない。
男たちはこちらへと近づき、挨拶を交わしながら、ちらちらと胸元を盗み見る。
彼女は気づいていないのか、いつもの『高慢』さで会話をしている。
エリアスはイラつきながら、ぐっと抱き寄せた。
彼女の体がビクリと震えた。
掌から伝わる、確かな熱。
それとなく隣の彼女を見れば、耳がうっすらと赤い。
扇子で口元を覆い、表情を隠していても、エリアスの距離からはバレバレだ。
すこしだけ体をひねって、彼女のうなじへと視線を落とす。
赤い。
(……というか、変態だ。俺は何をしている……)
下心のある男たちを威嚇しながら、自分は彼女の染まった肌を確認しようとした。
(最低だ)
そうは思うものの、離す気はない。
他の男などに。
(……渡す気は……ない?)
そこまで思考が進んで、止まる。
唐突に現れた感情にエリアスは動揺した。
どういうことなのか、と夜会の最中だというのに必死に考える。
隣ではアルヴァが貴族たちと話をしている。
彼女に向けられているのは、下心のある無遠慮なものだけではない。
『成り上がり令嬢』と、蔑みの視線を受けても、彼女は胸を張り堂々としている。
(……そうだ。誰にも渡したくない)
エリアスは、彼女の腰に回した手にさらに力を入れた。
* * *
「飲み物を変えるか?」
「……ええ」
彼女が手に持っているグラスの赤ワインは、先ほどから減っていない。
一口も飲んでいないことにエリアスは気づいていた。
気まずそうに頷く彼女に、緩みそうになる口元を引き締める。
腰に置いた手はそのままに、共に飲み物を取りに行こうとした、その時。
会場の空気がざわついた。
誰もが入り口の方を見ている。
エリアスもそちらへと視線を向けた。
思わず眉間に力が入る。
「……どうして?」
隣で彼女が呟いた。
エリアスも同じ気持ちだった。
王都から離れることを嫌うあの女が、どうして地方の夜会に参加しているのか。
淡い青のドレスにアイボリーのレース。
とても清純な雰囲気で美しいそれは、よく似合っているようで、まったく似合っていない。
しかもエリアスを苛つかせるのは、その胸元を飾る大粒のエメラルド。
「よく恥ずかしげもなく……」
思わず口をついて出た。
侯爵家の金で勝手に買ったエメラルドを、エリアスがいるであろう夜会でつける気になれるのか。
神経を疑う。
エリアスの前妻アストリッドの登場に夜会会場は、妙な熱気に包まれていた。




